東京2020特集

「常に挑戦し続ける気持ちを大切に」重本沙絵選手インタビュー

2018年08月24日

写真:大会中の重本選手

2018年7月1日、第23回関東パラ陸上競技大会が、東京・町田市立陸上競技場で開催されました。女子400m(T47※1)に出場した重本(旧姓:辻)沙絵選手は、59秒28のタイムで自身の持つ日本記録を更新。東京2020パラリンピックへの期待がさらに高まりました。大会を終えた重本選手に、陸上との出会い、そしてこれからの挑戦について話を聞きました。今回は、その模様をスポーツカメラマン・鳥飼祥惠氏の写真とともにお届けします。

※1:パラ陸上におけるクラス。片前腕切断(片手関節離断含む)。または100m走から400m走と跳躍競技に参加可能な片側及び両側上肢の最小の障害基準に該当するもの。

「一生やらない」と思った陸上競技

写真:シューズを履き、準備をする重本選手

中学時代のきつい経験から「陸上は一生やらない」と思っていた

重本選手が陸上競技に初めて出会ったのは、中学校2年生のとき。体育祭の800m走で1位になり、市の陸上大会の出場が決まったことがきっかけだ。

「市の大会では3位になったんです。でも、もう一生こんな競技はしないだろうと思いました(笑)。練習では、ひたすら自分をいじめて追い込んでいって、本当にきつかったので」

小学校5年生からハンドボールをやっていた重本選手。中学時代、陸上にはハンドボールのようなゲーム性も感じなかったという。しかし、大学に入って転機が訪れる。東京2020パラリンピックの開催が決まったこともあり、大学の先生から「パラスポーツをやってみないか」と声がかかった。

「私自身、障がいがあるけど、『障がい者』という気持ちはなかったので、その時は、『どうしてパラリンピックに出ないといけないのか』『自分は何もできないことはないのに、どうしてなんだろう』と思いました。でも、いろんな考え方を聞いたり、いろんな人と話をしたりして、やってみようと前向きになったんです。ダメだったらやめればいいと思って」

今しかできないことをやる!

体力測定の結果、運動の基本である、「走る」ことがいいのではないか、という結論にたどり着いた。「一生やらない」と思っていた陸上競技と、こうして再会した重本選手だが、実は大学に入ってから在籍していたのはハンドボール部。当初は、ハンドボールと陸上を掛け持ちしていたが、あるきっかけで陸上に専念することになった。

写真:ウォーミングアップをする重本選手

パラ陸上の山本篤選手に影響を受けた

「2015年のIPC 陸上競技世界選手権大会で、山本篤選手※2が金メダルをとった瞬間を目の当たりにして、心が震えたんです。こういう気持ちにさせる選手って素晴らしいなと思ったし、それを共有できる選手ってすごいなと感じたんです」

※2:北京2008パラリンピックの走り幅跳びで銀メダルを獲得した、日本の義足陸上競技選手初のパラリンピック・メダリスト。多くの国際大会でメダルを獲得している。

写真:陸上の練習をする重本選手

「今しかできないこと」として陸上競技を選択した

重本選手の気持ちが動いたのは、その時だ。
「今しかできないことをやろうと思ったんです。ハンドボールはいつでもできます。でも、2020年を考えると、今しかできないのは陸上。2015年の3月から陸上をはじめて、その年の12月にはハンドボール部をやめて、陸上に専念することにしたんです」

ありのままの自分の存在を見せたい

写真:トレーングの合間の重本選手

「みんな違って、それでいい」が、重本選手の考え方

重本選手は、これまで「パラリンピックとオリンピックの差を縮めていける選手になりたい」と思っていたそうだ。しかし、今は考え方が変わったという。

「私の顔のパーツは、私しかもっていないですよね。みんな違って、だから世界ができている。その違いによって美しかったり、おもしろかったりするのが、世界なんだと思いはじめました。みんな違って、それでいいんです」

2017年からは、重本選手の大会や練習の様子をLUMIXが写真家とともに追い続けている。その中で、「自分の姿をどう見せていくか」ということを、本人は考えている。たとえば、写真の被写体としての自分についても、さまざまなアイデアが浮かんでくる。

写真:トレーニングの合間、休憩中の重本選手

ありのままの自分ももっと見せたい(重本選手)

「人がすごく多い場所で、ただ私が立っている姿を撮影したいです。その様子を周囲の人々に、『こいつなにやってんだ?』みたいな感じで見てもらいたい。そんな風に私のありのままの姿を撮影できたら、この日本の中に『私もいる』というメッセージになると思うんです」

陸上競技をやっている姿だけではなく、「一人の人間としての自分も表現したい」と重本選手は話す。
「私は、女性として少しでもきれいでありたいし、日焼けにも気をつけています(笑)。競技を離れて、そういう姿を撮ってもらえたらいいですよね。誰でもコンプレックスがあると思います。それをみんなが受け入れる社会になってほしい。リアルな生活を見せることで、『私もハツラツと生きているよ』『できないことなんてないよ』ということを伝えたいんです。ちっぽけなコンプレックスはどうでもいい。写真を通して、もっと多くの人に、私のような人がいることを知ってもらったり、触れてもらったりする機会につなげたいと思っています」

大切にしているのは、「挑戦し続けること」

重本選手が、常に大切にしているのは、『挑戦する気持ち』だ。実際、レースが終わるごとに新たな課題が出てくる。アスリートとして成長・進化していく中で、次々と課題が出てきて、常に満たされることはない。ゴールは、常にアップデートされていくのだ。だから、挑戦し続けなければいけない。

写真:競技後インタビューをうける重本選手

第23回関東パラ陸上競技大会では、自身の日本記録を更新

「挑戦することで、成功するかしないかはどうでもいいんです。成功したら、また新しい課題が出てくる。失敗したら、そこからまた学びがあり、次の課題が見えてくる。どっちでも挑戦によって得られることがあるんです」

写真:陸上トラックでスタートをきる重本選手

次の目標は、58秒台。さらなる記録更新を目指す

自身の日本記録を更新したばかりの重本選手だが、すでに次の課題に向けて挑戦はスタートしている。

「(日本記録更新は)率直に言って、公認の大会で出てよかったです。やっぱり練習は裏切らないし、やってきてよかったと思います。またひとつ自分に自信がつきました。次は、400mで58秒台。できれば年内(2018年)に達成したいと思っています」

東京2020に向けて、挑戦し続ける重本選手の姿を、LUMIXはこれからも追い続ける。


重本沙絵さん(旧姓 辻沙絵さん) プロフィール

1994年生まれ、北海道函館市出身。日本体育大学大学院博士前期課程陸上競技部パラアスリートブロック。生まれつき右ひじから先を欠損しながらも、ハンドボール選手として健常者に交じってプレーし、高校総体にも出場。スポーツ推薦にて日本体育大学に入学し、ハンドボール部に所属。大学2年生の夏にパラリンピック種目の転向打診があり、適性検査にて瞬発力が高く評価され、陸上競技を選択。2015年12月に本格的にパラリンピックでのメダルを目指すためにハンドボール部から陸上競技部(パラアスリートブロック)に転向。パラ陸上競技の日本記録を樹立。2016年にはリオデジャネイロ2016パラリンピック陸上競技女子400m(T47)で銅メダルを獲得。2017年に世界パラ陸上競技選手権大会ロンドン大会代表。200mでは自身の日本記録を更新。400mでは銅メダルを獲得。日本記録保持者(T47):100m(12秒86)、200m(26秒84)、400m(59秒28)

おすすめ記事