岡田敦氏特設ギャラリー
岡田敦氏 特別インタビュー
インタビュー第一弾
『~幻の島 ユルリ島~ 「命の美しさ」を追い求める表現者・岡田敦 × LUMIX S5』
ー LUMIX S5を使ったファーストインプレッションについて ー
岡田:これまでLUMIX S1、S1Rを使ってきましたが、それらと比較してだいぶ軽くなりました。大きさも、ひと周り小さくなった印象ですね。小さいながらもグリップが深く作られているので、持ちやすく、操作しやすいと感じました。もちろん、小型軽量といっても写りや機能はS1に引けを取らない印象です。写真も映像もしっかり撮れるカメラだとなと。また、LUMIXの絵作りの思想がS5にもきちんと受け継がれていて、それも良かったと思っています。
ー ユルリ島での撮影環境について ー
岡田:ユルリ島は北海道の最東端・根室沖に浮かぶ周囲8キロほどの小さな無人島で、そこに野生化した馬がいるのが特徴です。馬はかつて昆布漁の労力として働いていた馬の子孫で、現在は人に使われることもなく島で自由に暮らしているのですが、無人島に馬がいるというのは、世界的にも珍しいことのようです。ぼくは、ユルリ島の馬たちの命がどのように受け継がれていくのかという関心から、撮影を始めました。また実際に、ユルリ島で目にする光景がまるで神話にでてくるような美しい世界だったので、多くの人に見てほしいと思い、10年にわたって写真や映像を発表してきました。夏は濃い霧に覆われることが多く、馬を探すのも一苦労です。ものすごく幻想的な島なのですが、その分、写真を撮ることにも苦労する場所です。上の写真の馬は、濃い霧の中から突然馬の群れが現れたときに、その瞬間を逃さないように撮った一枚です。
ー 作品づくりの思想について ー
岡田:ぼくがユルリ島で追い求めているのは「命の美しさ」です。LUMIXの絵作りの思想は「生命美」「生命力」ですが、それは日本人の美意識に非常に深く関係していると思いますし、ぼくが表現したい感覚や思想に共通したものを感じています。「生きとし生けるもの」「移ろい消えてゆくもの」に美を見出すのは日本人独特の美意識なので、そうした思想のもとに作られたカメラは、写真や映像で美しい世界を捉えようとしたときに、もっとも理に適っているのではないでしょうか。たとえば以前は、RAW現像にすごく時間がかかってたいへんでした。でもS1、S1Rを使い始めてからはRAW現像の手間がかなり省けています。実際、今回の作例に関しても色温度を多少調整しただけで、ほとんど手を加えてない。ポストプロダクション作業がほぼ不要になったことは、絵作りの思想が素晴らしいからだと思っています。それがS5にもしっかりと受け継がれていると感じました。
ー 明暗差や動きのある被写体、またカメラのハンドリングについて ー
岡田:ユルリ島のような無人島はもちろん、屋外での撮影はできるだけ機材を軽くしたいので、S5は小さくて扱いやすかったです。暗闇で揺れる炎の写真は、ユルリ島の対岸、根室の海岸で撮影した一枚です。レンズはキットレンズ(LUMIX S 20-60mm F3.5-5.6)。レンズ自体も、小さいことに驚きましたし、S5とのバランスもすごく良いと思いました。暗闇での撮影なので、手の中にカメラが収まることの安心感、操作性の良さは大事ですね。炎は一瞬一瞬で姿を変え、明暗差も大きく、写真に撮るのはなかなか難しいのですが、キットレンズでここまで描写がいいと、たいがいの被写体はこれで撮れてしまうなぁと。このレンズには手ブレ補正機能はありませんが、S5本体に強力な手ブレ補正機能が付いているので、問題なく撮影できました。小型軽量が特徴のS5は、機動性の良さはもちろん、写りも想像以上に良かったので驚きました。
ー 写真と映像を撮影する上で意識の違いについて ー
岡田:霧の中から突然現れた馬の群れが、また霧の中へ消えてゆく。「幻の島」と呼ぶに相応しい、そんな幻想的な世界を映像で表現してみました。霧が濃いと馬を見つけるのがたいへんで、この日も朝から2時間くらい島を彷徨いながら馬を探していました。ユルリ島で過ごす時間のなかでは、馬との出会いの瞬間が一番ドラマチックなので、そのタイミングを逃さないようにすることが大事です。ぼくは映像も写真も両方撮っているので、出会ったときに映像なのか写真なのかを判断して撮影します。たとえば映像を撮る前提で、事前にシナリオのようなものを考えて撮影に臨むようなことは自然が対象だから難しく、そのときの判断になります。そんなときに「映像はこのカメラ、写真はこのカメラ」といった感じで使い分けていると、最高の瞬間を逃してしまいます。ですから、写真も映像も両方作品として高いクオリティで表現できるカメラが必要だし、S5はそれをしっかり叶えてくれるカメラだと感じました。実際、霧の表現などは非常に難しいのですが、S5は幻想的な霧を見事に表現してくれました。
ー 進化したオートフォーカスについて ー
岡田:上の写真を撮影したときも、かなり濃い霧が島を覆っていました。20~30メートル先がまったく見えないということもあります。その中で突然現れた馬をどう捉えるかが難しかったですね。こうした環境では、5年ないし10年前は、オートフォーカスが効かずマニュアルで撮影していました。ですが、マニュアルだとどうしてもピントを外してしまうことがあります。そこで今回、オートフォーカスの動物認識機能を多用しました。公式にはS5の動物認識機能の対象に馬は入っていないのですが、霧の中でも馬の瞳にしっかりピントを合わせてくれました。S1やS1Rと比較して、S5はオートフォーカス機能が進化している印象です。ユルリ島の馬は人に飼われているわけではないので、どのような行動をするかなかなか予想しづらいんです。S5のオートフォーカスには、粘りのようなものが出てきたと感じました。とくに映像を撮る上では重要な進化だと思いますし、今回の環境でもストレスなく一瞬のチャンスを逃さずに撮影することができたことは、大きかったですね。
ー あらためて、全体的な感想について ー
岡田:写真も映像も両方作品をつくっている中でS5を使ってみて、両方とも「単に撮れる」ではなく「クオリティの高いレベルで撮れるカメラ」だと確信しました。まさにS1の小型軽量版で、写りも引けを取らずに高い機動性を手に入れたカメラといった印象です。写真と映像は表現としてはまったく違うものですが、共通してこだわっていることは、美しい瞬間に出会ったり、感動する瞬間に出会ったときこそ、撮影後の後処理をできるだけしないようにすることです。カメラがとらえた画力を大事にしたいので、なるべくRAW現像や映像編集の際も手を加えないことが、ぼくの中では大事なんです。逆に言えば、その分カメラの性能がそのまま作品に反映されるので、信頼のおけるカメラじゃないと現場では使えないということです。次回ユルリ島へ行くときも、S5で撮影することを楽しみにしています。
映像作品
静止画作品
『NORTHERN LIGHT』2021冬
『YURURI ISLAND』2020夏
●掲載作品の著作権は写真家に帰属します。
写真家 岡田敦
北海道生まれ、東京在住。大阪芸術大学芸術学部写真学科卒業、東京工芸大学大学院芸術学研究科博士後期課程にて博士号取得(芸術学)。“写真界の芥川賞”といわれる木村伊兵衛写真賞の他、北海道文化奨励賞、東川賞特別作家賞、富士フォトサロン新人賞などを受賞。作品は北海道立近代美術館、川崎市市民ミュージアム、東川町文化ギャラリーなどに収蔵されている。