評論家・開発者インタビュー RP-HD600N / RP-HD500B

これがワイヤレス+ノイキャンヘッドホンの新たな基準!「RP-HD600N」を聴く! 評論家:折原一也これがワイヤレス+ノイキャンヘッドホンの新たな基準!「RP-HD600N」を聴く! 評論家:折原一也

“ワイヤレスでハイレゾ相当”音質を実現、パナソニック「RP-HD600N/500B」

パナソニックのヘッドホン・イヤホンは近年、インナー型イヤホンの「RP-HDE10」やハイレゾ対応ヘッドホンの「RP-HD10」、Technicsブランドの「EAH-T700」など、ハイレゾ対応のワイヤード機に、その音質が高く評価されたモデルが数多い。

そんな同社が、ついに「ハイレゾ相当ワイヤレス+ノイズキャンセリング」という、トレンドの最前線へ本格参入した。それが2月に発売された、ノイズキャンセリング対応ワイヤレスヘッドホン「RP-HD600N」だ。なお、ノイズキャンセリング非対応のワイヤレスヘッドホン「RP-HD500B」もすでに発売されている。

「RP-HD600N」。本体色は左からブラック、オリーブグリーン、マルーンブラウン

冒頭から思わず熱く語り出してしまったが、両モデルを実際に見て、聴いてみると、全方面においてパナソニックの“ハイレゾ・ノイズキャンセル・ワイヤレス”にかける本気度が現れているのだ。それでは早速、RP-HD600N/RP-HD500Bをレビューしていこう。

上位機は“ハイレゾ相当ワイヤレス・ノイズキャンセル”のトレンドを網羅

パナソニックのワイヤレスヘッドホンの頂点としてデビューしたのが、上位モデルのRP-HD600N、そしてノイズキャンセル機能とボイススルー機能を省いたモデルがRP-HD500B(本体色はブラックのみ)だ。

RP-HD600N/RP-HD500Bの高音質の思想は“ハイレゾ”対応だ。パナソニックは近年継続してハイレゾ対応製品を送り出しているが、特に現在のユーザー環境をターゲットとした取り組みとして、今回の2モデルではBluetooth®のコーデックとしてLDAC™ & Qualcomm® aptX™ HD両対応という盤石のスペックを備え、“ワイヤレスでハイレゾ相当”を打ち出している。

今年搭載モデルの増加が見込まれるAndroid 8.0が、LDAC™とaptX™ HDの採用を容易にしたこともあり、有線接続時のみハイレゾ対応ではなく、「ワイヤレスでハイレゾ相当」のヘッドホンが誕生した事になる。

筆者個人としても、AndroidスマートフォンにGRANBEATを使っているので、aptX™ HDですぐにワイヤレスでハイレゾ相当を実現できるのは大歓迎だ。なお、iPhoneユーザー向けにAACも対応しており、音質面で一切の妥協もナシ。すべてのデバイスで最高音質を実現する、パーフェクトなコーデック対応だ。

ハイレゾ対応ヘッドホンの音質の作り込みは、パナソニックの得意とするところ。RP-HD600N/RP-HD500Bでは、同社のハイレゾヘッドホン「RP-HD10」で初めて採用した「MLF振動板」を採用している。

独特の玉虫色の光沢を放つ振動板を記憶している人も多いと思うが、MLFとは“Multi Layer Film(マルチレイヤーフィルム)”の略。数百層にも積層された超多層フィルムによりレスポンスを高速化し、不要な残響を残さず、高い応答性と広帯域・高解像度再生を実現するという、ハイレゾに適した振動板である。従来と比較してフレームへの新・制振材料を採用したことで、さらに歪みを低減し、音の純度を高める構造が徹底された。

数百層の超多層フィルムによりレスポンスを高速化、広帯域・高解像度再生を実現するという

フレーム部には新・制御材料を採用し、さらに音の歪みを低減する構造を徹底

また、RP-HD600Nが対応する目玉機能がノイズキャンセリングへの対応だ。近年のワイヤレスブームを受け、ワイヤレスヘッドホンの購入を検討する方も多い中、ヘッドホンを選ぶ決め手となる機能の一つがノイズキャンセリングだろう。

ノイズキャンセル機能は、ただ付ければいいというものではなく、その精度の高さが重要。RP-HD600Nでは、合計4つのマイクを用いた独自設計の「広帯域ハイブリッドノイズキャンセル」を搭載し、また3種類のノイズキャンセルモードが選べる仕様を採用。また、かんたんに外音を取り込める機能「ボイススルー」も搭載している。

新世代のスタイリッシュなヘッドホンデザイン

RP-HD600N/RP-HD500Bを語る上で、そのデザインについても言及しておきたい。近頃、筆者は複数の女性ファッション誌でヘッドホン企画の監修を手がけた事もあり、ヘッドホンは人の目を引くアクセサリーという意識を改めて抱くようになった(余談だが、デザイン面でみると、女性向けヘッドホンの筆者のイチオシはパナソニックの「RP-HTX80B」だ)。

パナソニックが従来展開していた高音質ヘッドホンのデザインは、少々乱暴な言い方かもしれないが、30代の筆者のセンスにはあまり合っていなかった。高機能で信頼感のあるパナソニック製品らしさは感じるのだが、身につけるものとして考えたときに、若干メカっぽさが際立つのが気になっていた。ところがRP-HD600N/RP-HD500Bは、そんな僕が一目見て「おっ!」と驚きを口に出してしまうほど、デザイン志向のヘッドホンとして作り込まれているのだ。

イヤーカップの形状はシンプルなラウンド型のフォルムなのだが、緩やかなカーブの具合も洒落た雰囲気を帯びている。デザインコンセプトは装着美と装着性の両立で、ブラックやブラウンはマットな光沢感がストレートに質感の良さを表しており、また「Panasonic」ロゴも印刷ではなく彫り加工。これまでのパナソニック製品を思い起こしても、この処理はあまり記憶にない。単体のモノとしての美しさもさる事ながら、RP-HD600N/RP-HD500Bの質感であれば、ファッションとのコーディネートも楽しそうだ。

RP-HD600Nの3色の本体カラーで僕が特に気に入ったのは、オリーブグリーンだ。ヘッドホンとしてブラックは定番の人気色だし、ブラウンは珍しい色ではあるものの、落ち着いた大人を狙ったカラーとして納得感がある。だがオリーブグリーンはそこから一つ飛んで、10代から30代までのファッションシーンで近年注目のミリタリーテイストにも通じるトレンドカラーだ。定番色のブルーやレッドをスキップしてグリーン系のオリーブグリーンを送り出したきたことに、デザインを革新しようという意気込みを感じずにはいられない。

なおディテールでは、オリーブグリーンのみ、イヤーカップの縁にあたるパーツがブラウンのツートーンと凝っている。僕が今回レビューするにあたって、RP-HD600Nのオリーブグリーンを指名して外に持ち出し、使ったのは言うまでもない。

デザインコンセプトのもう一面である装着性についても、細かな作り込みがなされている。イヤーパッド全体が三次元に動きながら耳にフィットする構造は実に合理的だ。また、耳の後ろ側が首に向けて凹んでいる構造にあわせて、耳周辺の厚みを変えた低反発ウレタン製を採用し、密閉性と遮音性を高めながら、同時に、実に心地良い装着感を実現している。実際に身に着けてみても、ストレスなく着けていられるのは当然ながら、それ以上に装着時の気密性の高さを実感した。なお、折りたたみも可能なので携帯性も万全だ。

室内/路上/電車/飛行域全てで抜群の精度を誇る“広帯域ハイブリッドノイズキャンセル”

それではRP-HD600Nを実際に使っていこう。はじめにヘッドホンのボタン操作と端子を解説しておくと、R側に操作ボタンは全てまとめられており、上(首側)から順にマルチファンクション(音量、再生コントロール系)、NC、電源・ペアリングの順番で、microUSBによる充電端子も右に搭載。左側には有線接続用の3.5mmステレオミニ端子のみを搭載する。

まずは、RP-HD600Nのみ搭載する“広帯域ハイブリッドノイズキャンセル”の性能をチェックした。右イヤーパッドのボタンからオンにできるノイズキャンセリング機能は、標準の「ノイズキャンセルA」が最も高精度に働く。屋外の騒音が少し聞こえる自宅でも、「ノイズキャンセルA」設定では、ほぼ無音の静寂までノイズが抑えられる。路上の利用でも静寂を感じられるレベルまで騒音を低減した上で、自動車の加速音などは聞こえた。

電車の中でも騒音はほぼなくなり、人の声や車内アナウンスは、ボリュームを一段下げたような聞こえ方で伝わってくる。飛行機の機内では、特に目立つエンジン音の低音の騒音はほぼカット。風切のように鳴る高域ノイズが若干残るレベルまで低減した。

騒音を抑えるという目的では「ノイズキャンセルA」だけで良いのでは?というのが、僕が使ってみた感想だ。なお、「ノイズキャンセルB」「ノイズキャンセルC」の位置づけは、「ノイズキャンセルA」よりも中域の効き目を落としたもので、ファン音程度の騒音しかないオフィスや、ある程度は騒音も聞きたいカフェなどパブリックスペースで使う時に積極的に切り替える形が良さそうだ。

もう一つ、想像以上に便利に使えるのが外音を取り込む「ボイススルー」だ。音楽を流した状態で右のイヤーカップを包むようにタッチすると、音楽のボリュームがグッと絞られ、同時に外音がクリアに取り込まれる

例えば電車や空港のアナウンスを聞きたい時、あるいは飛行機の機内でキャビンアテンダントと会話する時などに便利だ。また、細かな便利機能として、NCボタンを2回押しするとボイススルー状態に固定することもできるので、コンビニで買い物をする時のように、ちょっとした会話をしたい時にも使い勝手が良い。

ハイレゾ相当の微細音の再現性を実現

音質については、最初にRP-HD600NとiPhone 8を組み合わせ、CD音質の音源をワイヤレスでチェックした。

映画「ラ・ラ・ランド」サントラのジャズ音源『アナザー・デイ・オブ・サン』を聴くと、まずピアノの生音の透き通るような再現力、そして広大なサウンドフィールドまで響き渡るリッチな楽器、そして人の声の帯域の粒立ちの良さまで素晴らしいサウンドを実感。またティンパニーの躍動感あるサウンドの響き、トランペットの音を質感まで踏み込む再現力は見事だ。

ウッドベースの低音は刻みも音の弾力感と共に、その立ち上がりの像すら浮かぶような圧倒的なリニアリティを達成している。このクオリティのヘッドホンなら…と期待して聴いたカーペンターズの『トップ・オブ・ザ・ワールド』も、音のメロディを超えて、録音時に秘められたギターの質感と立体感、ボーカルの機微までも鳴らし分ける域に到達している。どんな音源を聴いても鳴りはハイレベルだが、特に微細音の再現性に優れたタイプのヘッドホンと言えるだろう。

邦楽からはRADWIMPSの『前前前世 (movie ver.) 』を聴いた。まさに情報量一本勝負といったところで、エレキギターのエッジある、鳴りの質感まで見通すリニアリティの良さ、そしてボーカルも誇張なく声の抑揚まで全て音情報として出し尽くす。洋楽ではMarkRonsonの『Uptown Funk feat.Bruno Mars』を聴くと、極めて広大に展開するサウンドフィールドに、タイトルで正確無比に刻むリズムの激しさ、そしてトランペットの鳴りはアタックだけでなく、楽器の鳴りの質感まで引き出した。

続いて組み合わせるスマートフォンをGRANBEATに変更し、同じ音源を聴き込んでいく。すると、やはりaptX™HDによる音質向上が強く感じられた。『アナザー・デイ・オブ・サン』で実感するのは、持ち前の楽器の生音の再現力に加え、音がよりソリッドな実体感を持ち、高域までのワイドレンジな伸びやかさ、更に音の静寂の見通しまでも一段向上する。

『トップ・オブ・ザ・ワールド』はサウンドフィールドの広がりが一段増し、ボーカルの粒立ちの鋭さとエコーも正確に引き出してくる。特にaptX™ HDの効果が大きく感じられたのは『前前前世 (movie ver.) 』。ギターの音のシャープさと刻みの正確さ、そして男性ボーカルの奥行き感によるセパレーションが大きく現れた。MarkRonsonの『Uptown Funk feat.Bruno Mars』も、音の歯切れと静寂からの立ち上がりが鮮明かつ、音の止めの鋭さも向上する。

RP-HD600Nはワイヤレス対応モデルの中でも、中域の音のクリアネスや厚みのレベルが高く、その音質はハイクオリティだ。GRANBEATとRP-HD600Nを付属ケーブルで有線接続してみると、若干ニュアンスは異なるものの、ハイレゾ志向で音のセパレーションに優れた非常に高精度なサウンドが楽しめる。ただし、この差程度であれば、aptX™ HDのワイヤレスでも十分満足できるのではないだろうか。

続いてRP-HD500BをiPhone 8から組み合わせ、先ほどと同じ楽曲で改めて聴き込んでみると、RP-HD600Nとベースは同じだがサウンドのキャラクターはやや異なっている。RP-HD500Bで聴く『アナザー・デイ・オブ・サン』はゴージャスで情報量豊富な鳴り、『トップ・オブ・ザ・ワールド』では空間がマイルドに再現される。『前前前世 (movie ver.) 』もキレよくストレートに鳴らし、『Uptown Funk feat.Bruno Mars』はダイナミックに感じられた。

RP-HD500Bの操作ボタン部分

RP-HD500Bにはソフトケースが付属する

一方、GRANBEATと組み合わせたaptX™ HDの試聴では、『アナザー・デイ・オブ・サン』は生楽器の質感を引き出す音のバランス。そして『トップ・オブ・ザ・ワールド』ではその音の質感が現れ、『前前前世 (movie ver.) 』は情報量志向に、MarkRonsonの『Uptown Funk feat.Bruno Mars』はリズムの刻みの正確さ、そして空間表現と低音表現の安定感を実感した。

RP-HD500Bは音楽再生時にノイズキャンセリング機能がかからない分、AACでは空間表現より音の粒立ち志向になっているが、aptX™ HDで聴くと、再現できる微細音の領域が広がり、結果的にRP-HD600Nに近い水準まで引き上げられる。有線接続でGRANBEATとRP-HD500Bを接続した際のサウンドにおいても、音質面ではやはり、RP-HD600Nの弟分といった印象だ。

パナソニックが新たに送り出した「RP-HD600N」「RP-HD500B」の2モデルを改めてじっくり使い込んでみると、LDAC™ & aptX™ HDという高音質コーデックへの対応と、そのポテンシャルを十二分に引き出すヘッドホンとしての基本性能の高さ、RP-HD600Nにおいては高精度で実用性十分なノイズキャンセル機能、そして上質なデザインと、全ての要素において期待の上を行く高い完成度を見せつけられた。

「ハイレゾ相当ワイヤレスでノイズキャンセリングのヘッドホンを選ぶならRP-HD600N」と言える。今後のこのカテゴリの製品を語る上でリファレンスとすべき一台だ。弟分の「RP-HD500B」と合わせて、2018年の新世代ヘッドホンを語る上での最重要モデルとして推薦したい。

著者:折原一也
WEB「PHILE WEB」2018年3月30日掲載

● Bluetooth® のワードマークおよびロゴは、Bluetooth SIG, Inc.が所有する登録商標であり、パナソニックホールディングス株式会社は、これらのマークをライセンスに基づいて使用しています。その他の商標およびトレードネームは、それぞれの所有者に帰属します。
● Qualcomm aptX is a product of Qualcomm Technologies International, Ltd. Qualcomm is a trademark of Qualcomm Incorporated, registered in the United States and other countries, used with permission. aptX is a trademark of Qualcomm Technologies International, Ltd., registered in the United States and other countries, used with permission.
● LDACおよびLDACロゴはソニー株式会社の商標です。

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