評論家・開発者インタビュー RP-HD600N / RP-HD500B

解像感も両立、 “パナソニックならでは”の ワイヤレス + NCヘッドホン 「RP-HD600N」開発者インタビュー ヘッドホン商品企画課 課長・桔梗圭悟 / ヘッドホン設計課 主務・鈴木達也 解像感も両立、 “パナソニックならでは”の ワイヤレス + NCヘッドホン 「RP-HD600N」開発者インタビュー ヘッドホン商品企画課 課長・桔梗圭悟 / ヘッドホン設計課 主務・鈴木達也

パナソニックが発売した、ワイヤレスでハイレゾ相当の音楽再生に対応したヘッドホン「RP-HD600N」「RP-HD500B」が話題となっている。

先日レビュー記事をお届けしたが、この新たに生まれた名機は、どのように開発されたのか。商品企画にたずさわったパナソニック(株)ヘッドホン商品企画課 課長の桔梗圭悟氏、技術面を担当したヘッドホン設計課 主務の鈴木達也氏に話を聞いた。インタビュアーは、実際にこの製品を試用し、使い勝手や音質を高く評価している折原一也氏だ。

ワイヤレス+NCヘッドホンにパナソニックならではのこだわりを

ーー 実は昨日までプライベートで海外旅行へ出かけていたんですが、現地に「RP-HD600N」を持って行きました。飛行機内でも実際に使ってみて、この製品のクオリティの高さに驚きました。

桔梗圭悟氏(以下、桔梗氏): ありがとうございます。パナソニックとして、ワイヤレス+ノイズキャンセリングというカテゴリーの製品を出すのは、本機が初めてです。非常に活況を呈しているカテゴリーに、我々がこれまで培ってきた音づくりを加えることで、パナソニックにしかできない製品が作れると考えました。

改めてこの製品の特徴をご説明しますと、我々が今回の製品で重視したポイントは4点あります。「音質」「高音質コーデックへの対応」「上質な装着感」、そして「広帯域ハイブリッドノイズキャンセリング」です。

ーー それぞれについて、くわしく教えて頂けますか。

桔梗氏: はい。一番重要なポイントは、やはり「音質」です。弊社はハイレゾヘッドホン「RP-HD10」を2014年に出し、音質については一定の評価をいただいていると自負しています。

音質に関するエンジニアのこだわりは、「楽器そのものの生音」や、「アーティストやエンジニアが、音源制作やマスタリング時に込めた演奏の表現力や息づかいも再現する」というものです。そこに注力して音づくりをしています。

これを実現するには、「高い応答性」「高い解像感」「広帯域」という3つの要素が重要となります。特に解像感については、RP-HD10から高い評価をいただいています。これについては、きっちり継承していきたいと考えました。

鈴木達也氏(以下、鈴木氏): それを実現するために採用したのが、MLF振動板と制振フレームです。MLFは、数百層以上に積層された超多層フィルムです。レスポンスが速く、残響が少ない点がポイントです。またフレームに制振材料を採用していることで、歪みを抑え、音場の広がりを高めることが可能となります。

レスポンスの速い超多層フィルムのMLF振動板

歪みを抑える制振フレーム

ーー 音づくりのポイントがよくわかりました。私も音質については、本当に素晴らしいと感じました。ご説明いただいたとおり、解像感と音場の広がりが得られるのはもちろんですし、さらに奥行き方向の情報も描き出すのには驚きました。しかも、それをiPhoneとの接続で実現してしまうのですから、さらに驚きです。

桔梗氏・鈴木氏: ありがとうございます。

ーー 聞きこむと、いろんなジャンルの音楽に対応できる性能を備えていることに気づかされました。

桔梗氏: 基本的にオールマイティーで、どんなジャンルでも良い音で聴けるように、最後の最後まで音づくりは粘りました。もう一つ強調しておきたいのは、解像感が高いので、EDMなど電子音系にも向いているということです。若い方にもぜひ聞いていただきたいですね。

ーー 続いてのポイントは、Bluetooth®における高音質コーデックの採用ですね。LDAC™とQualcomm® aptX™ HDに両対応したことには、正直言って驚きました。

桔梗氏: 最近になって、新たなBluetooth®の音声コーデックが登場し、Bluetooth®でもハイレゾ相当の高音質が楽しめるようになりました。

一方でお客様のご意見を伺いますと、以前の製品の印象から「ワイヤレスは音が良くない」というイメージを持たれている方も多いことがわかりました。それを払拭したいと思いました。

LDAC™については、Android 8.0でコーデック自体がオープンソースになったことにより、標準的に搭載される可能性が高く、これには対応したいと考えました。一方でQualcomm® aptX™ HDについては、音にこだわったDAPに搭載されているケースが多く、それらがLDAC™に対応するかはわかりません。ですので、これも押さえておきたいと。より多くのお客様、多くのデバイスに対応するには、この2つのコーデックに対応するのは必須と考えました。

ーー LDAC™になるとビットレートが高くなりますが、音途切れへの対策でご苦労はありましたか?

鈴木氏: ビットレートが高くなると途切れやすくなるというのはその通りで、特にLDAC™では最高で990kbpsと、非常に高くなります。設計開始当初から、これはしっかりケアしなければならないと考えていました。

やはり、根本的に解決するには感度を上げるしかないということで、アンテナの引き回しや位置などいろいろな工夫をし、いまできる最大限の感度を実現できました。これによって、途切れを抑えることができています。

音質を優先しつつ、広帯域のノイズをカバーしてNC効果を高めた

ーー RP-HD600Nは、ノイズキャンセリング機能も搭載されています。これにもこだわりがあると伺いました。

桔梗氏: これまでのパナソニックのノイズキャンセリングモデルに比べ、広い帯域で効果を出せています。さらに、今回こだわったのは「ノイズキャンセリングを効かせる帯域」です。

鈴木氏: RP-HD600Nは、特に500Hz以上の高い帯域において高い性能を実現しています。ノイズキャンセリングというと飛行機、というイメージが強いのですが、実際には電車内はもちろん、カフェや家庭内などでもよく使われています。そういったところでは、比較的高い帯域の騒音がありますので、そこをいかに消せるかというのが、今回我々がチューニングでこだわったポイントです。もちろん飛行機内での帯域もカバーしており、広い帯域のノイズを抑えています。

ーー ノイズキャンセリングには、A、B、Cの3つのモードがありますね。

桔梗氏: それぞれノイズキャンセリングの効果の強さを表しており、Aは強、Bは中、Cは弱です。ノイズキャンセリングがあまりに強すぎると、お客様によっては圧迫感、閉塞感を感じる場合があります。そこまで強いノイズキャンセリングが必要でない場合には、BやCを選んでいただけたら、快適な使い方が行えます。

ーー ノイズキャンセリングには、ノイズの逆位相の音で打ち消す「アクティブノイズキャンセリング」だけでなく、外音を物理的に遮蔽する「パッシブノイズキャンセリング」がありますね。このうち、パッシブについての考え方を教えてください。

鈴木氏: RP-HD600Nでは、パッシブノイズキャンセリング性能を極限まで高めることはしていません。というのは、ノイズキャンセリング性能だけでなく、音づくりも重視しているからです。パッシブ性能を高めるには、音づくりに有用な穴まで、全部ふさぐ必要が出て来ます。そうすると音質面で妥協することになります。我々はそれをしたくなかったのです。

桔梗氏: 先ほどもご説明した、音の解像感。これはどうしても実現させたかったのです。「解像感とノイズキャンセリング性能を両立させて!」とお願いをしたので、技術も大変だったはずです(笑)。結果として、良いバランスに落とし込めたと思います。

ーー なるほど。ところで本機には便利な機能として、ボイススルー機能も搭載されていますね。

桔梗氏: これは用途がわかりやすい機能だと思います。右手でハウジングを触るだけで、外音が取り込めるというものです。電車や飛行機のアナウンスなどを聞きたいときに使えます。なお、ノイズキャンセリングボタンをダブルクリックすることで、このボイススルーモードに固定することも可能です。

快適な装着性と美しいデザインを両立し、「新しいパナソニック」を表現

ーー 実際に長時間使ってみたら、装着感も良いと感じました。どんな工夫をされたのですか?

桔梗氏: 2つポイントがあります。1つは「3Dボールジョイント機構」で、ハウジング自体が自由に動く機構となっています。人の耳の形状によりフィットしやすくするための工夫ですが、実はこの機構には、ヘッドバンドのフィッティングをしやすくするねらいもあります。

もう1つはイヤーパッドです。頭の形状に合うよう、数々の工夫が盛り込まれています。横から見ていただくと、平坦ではなく、3次元形状になっていることがお分かりかと思います。耳の後ろは凹んでいるので、その部分は膨らんだ形状にするなど、よりぴったりフィットするようにしています。思想としては、Technicsブランドの「EAH-T700」と同じです。ぴったりフィットすることで、遮音性にも良い効果が表れます。

しっかりフィットして高い遮音性も発揮する、3次元形状のイヤーパッドもポイント

柔らかく手触りも良い。イヤーカップ内側からは玉虫色のMLF振動板が透けて見える

ーー 操作性にもこだわりがありそうですね。使い始めたらすぐにボタンの配置に慣れて、すぐ操作できるようになりました。

桔梗氏: はい、ヘッドホンだけですべての操作が完結します。ボタンの配置についても、これまでの設計思想を踏襲した並び順で、手探りでも使っていただきやすい配置になっているかと思います。

ーー 製品のデザインについては、どのようなこだわりがあったのでしょうか?

桔梗氏: デザインコンセプトは「装着美と装着性の両立」です。つまり、装着した時の外から見た美しさと、実際に着けた時の装着性。これを両立したい、ということです。

美しいデザインを実現するために、素材にもこだわりました。ヘッドバンド部やハウジング部の素材は高級感を持たせた上で、あえて過度な主張を抑えて、ファッションと合わせやすいよう配慮しました。

装着性については、頭部に沿うようなヘッドバンドのデザインに加えて、見た目にスリムに見えるよう、様々な機能や折りたたみ機構などを極力薄い筐体に詰め込む、ということにこだわりました。

ーー 3色のカラーが用意されていますが、どれも魅力的ですね。

桔梗氏: RP-HD600Nのコア層のお客様としてイメージしたのは、30代の男性です。30代ともなると、かなりファッションも落ち着いてくると思いますし、持ち物についても、派手さよりはこだわり感のあるものを選ぶ、そういったイメージです。

こういったイメージに合うよう、黒は定番色としてラインナップしながら、オリーブグリーン、マルーンブラウンという2色もご用意しました。オリーブグリーンを選んだ理由は、緑がいまトレンドカラーであるということと、ほかにあまりない色だからです。お好きな方は、とても気に入っていただける色ですね。

もうひとつのマルーンブラウンは、革小物のイメージです。男性はもちろん、女性にも使っていただきやすいデザインかと思います。

これまでパナソニックのヘッドホンは、いわゆるヘッドホンらしいデザインが多かったのですが、今回のRP-HD600Nもそうですし、RP-HTX80Bもそうなのですが、「新しいパナソニックのヘッドホンを表現したい」という思いをデザインにも込めたつもりです。

ただ、こういったスリムなデザインを実現しながら、内蔵する部品も多いので、設計サイドも苦労したと思います(笑)。

鈴木氏: 基板はドライバーの後ろに配置しています。スリムなデザインに内蔵物を多く入れながら音質を高める、ということを行いました

ノイズキャンセル機能を省いた兄弟機「RP-HD500B」

ーー ノイズキャンセリングのない「RP-HD500B」も兄弟機としてラインナップされています。

桔梗氏: RP-HD500Bは、これまでワイヤードヘッドホンを使っていた方がワイヤレスに乗り換えるとき、選んでいただけるものとして開発しました。

いろいろ調べてみますと、若い方はアニソンなどをハイレゾヘッドホンで聴いてらっしゃることが多く、そういうときに“ハイレゾ相当のワイヤレス” というRP-HD500Bの特徴が活きてくると思います。

ーー RP-HD500Bの、音のチューニングについてはいかがでしょう? RP-HD600Nと変えたのですか?

鈴木氏: 全く同じ方向性をねらっています。回路構成、アンプの構成が異なっているので、そこの違いはありますが、狙った方向性は同じで、それを実現できていると思います。

ーー お話を伺っていると、パナソニックさんの持つノウハウや技術、知見など、様々な要素がこの「RP-HD600N」「RP-HD500B」に結集していると感じました。

桔梗氏: ありがとうございます。最後にもうひとつだけお伝えしたいことがあります。耐久性です。

鈴木氏: 基本的には外出先で、長くご愛用いただく製品ですので、様々な耐久試験を行っており、耐久性にも万全を期しています。もしご購入いただけたら、ぜひどんどん持ち歩いていただきたいですね。

ーー 本日はありがとうございました。

インタビュー:折原一也 / 構成:PHILE WEB編集部

WEB「PHILE WEB」2018年4月6日掲載

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