珈琲がつなげる想いと、つないでいく未来 〜The Roast secret session in Ada〜【前編】

コーヒー栽培には不向きといわれてきた日本で、初めて誕生したスペシャルティコーヒー「安田珈琲」とは?! 先日、日本各地からコーヒーのプロフェッショナルをお招きし、その試飲会と、日本のコーヒーの未来について語り合う、2日間のイベント「The Roast secret session in Ada」を開催しました。その模様を2回に分けてお伝えします。

日本初のスペシャルティコーヒーが生み出す味とは?

「素晴らしいコーヒーです。普段私たちが飲んでいる輸入の豆とは違い、コーヒーの果肉独特の甘い香りがしました」

これは「The Roast secret session in Ada」で印象的だった、2013年世界焙煎チャンピオン 後藤直紀さんの「安田珈琲」に対するコメントです。このイベントは、『The Roast コーヒーAIランドジャパン プロジェクト』が、日本発信ネクスト・ウェーブ・コーヒーのトレンド創造を目的とした活動の一環として開催したもの。

土壌や天候条件が厳しく、これまでコーヒー栽培には不向きといわれてきた日本で育てられたスペシャルティコーヒーとはどのような味なのか?! 私たちは日本各地からコーヒーに関わる多彩なゲストをお招きし、「安田珈琲」の試飲会を通して日本初のスペシャルティコーヒーの将来の方向性を検討し、日本のコーヒーの未来について語り合いました。

舞台は南の島の小さな集落

私たちが訪れたのは、沖縄本島北部・国頭村(くにがみそん)の安田(あだ)地区。那覇空港から車を走らせること3時間弱、山々の中にポツンと佇むこの場所は、人口160名ほどの小さな集落です。那覇と同じ沖縄といえど、一歩足を踏み入れると別の世界に迷い込んだような感覚になるほど、集落一帯には山独特のひんやりとした空気と静けさが漂います。

通称「山原(やんばる)」と呼ばれる自然豊かなエリアで、最近では“やんばる畑人(はるさー)”という言葉がよく聞かれるほど農業が盛んです。日本で初めてスペシャルティコーヒーを誕生させた、「アダ・ファーム」もこの小さな集落の周辺にあります。

沖縄ならでは食卓を囲み、コーヒー談義を肴につながるゲストたち

今回お招きしたゲストは、「アダ・ファーム」の徳田泰二郎さん、優子さんご夫妻をはじめ、「The Roast」でお馴染みの2013年世界焙煎チャンピオン「豆香洞コーヒー」オーナーの後藤直紀さん、2017年日本焙煎チャンピオン「豆ポレポレ」店主の仲村良行さん、2016年日本焙煎チャンピオン「いつか珈琲屋」の近藤啓さん、株式会社アマナ コーヒークリエイターの中川亮太さん、さらにコーヒーアクセサリーの開発・製造・販売をしているダグラス・ウェバーさんなどなど、コーヒーのプロフェッショナルばかり。まずは皆さん顔合わせ、ということで1日目の夜は食卓を囲んで懇親会です。

テーブルに並んだ16種類のお料理は、沖縄本島南部の糸満市で野菜ソムリエの上級プロとして活動されている徳元佳代子さんのお手製。ブロッコリーや人参など、徳元さんの畑で採れた新鮮な食材も食卓に彩りを添えます。

なかでも目を引いたのが、琉球王朝時代、中国からの使者をもてなす際に使った真っ赤な器、東道盆(とぅんだーぶん)。綺麗に盛り付けられた品々は、どれも伝統的な宮廷料理です。赤に映える緑は、2つのかまぼこを青葱でぐるぐると巻いた「ビラガラマチ」。「離ればなれのものを一緒にする。仲良くやっていきましょうという意味が込められた、縁起の良い食べものなんです」と徳元さんが、今回のイベントにぴったりのメニューを紹介してくれました。集落の静けさのなか、ゲストたちの賑やかな笑い声が会場に響きます。

食後は「The Roast」のはじまりともいえる豆でコーヒータイム

お腹が満たされた頃、「The Roast」で焙煎した豆でコーヒータイムです。後藤さんが初めて「The Roast」用にプロファイルを制作したという思い入れのあるワイニードリップ(エチオピア産イルガチャフィ地区)の浅煎りをハンドドリップで抽出していきます。

「僕はこの1年で『The Roast』のために38種類の豆の3パターン、計114のプロファイルをつくってきました。その始まりがこのプロファイルであり、『The Roast』の世界観を作る第一歩と言える、大事な味なんです。あ… 真剣に話していたら淹れるのを失敗しました(笑)」と会場の笑いを誘うチャーミングな一面も。

コーヒーにやさしく寄り添う、和菓子とのマリアージュ

そして後藤さんのコーヒーにやさしく寄り添うように、その味を引き立ててくれたのが、苺と白あんがたっぷり入った「苺の最中」。東京・浅草で和菓子のコースを提供している「菓子屋ここのつ」の溝口実穂さんが、ワイニードリップに合うお菓子として考案した、この日だけの特別メニューです。

白あんには砂糖を使わず、低温でじっくりローストした苺とホワイトチョコが練りこまれていて、果実の酸味をおさえた、上品な甘みが感じられます。紅茶のようなやわらい口当たりの浅煎りコーヒーに、主張しすぎない最中の甘さがよく合います。

「事前にこのコーヒーを飲ませていただいたときに、ストロベリーと紅茶のような香りを感じたんです。そして焙煎した人は和菓子が好きなんだなって思いました」

後藤さんのプロファイルが提案する香りのイメージだけでなく、その人柄までも感じ取った溝口さん。もちろんこの日お二人は初対面でしたが、まるで会う前からコーヒーを通してコミュニケートしたような、見事なペアリングでした。

至福のコーヒータイムのあとも、ゲストたちのコーヒー談義はまだまだ続きます…。2017年日本焙煎チャンピオンに輝いた仲村さんは、親友でありライバルでもある2016年日本焙煎チャンピオンの近藤さんと、秋に控えた世界大会に向けて対策を議論しているご様子。コーヒーでつながる縁の強さを感じた、熱い夜となりました。

沖縄の光・土・水から生まれたスペシャルティコーヒー

翌朝、いよいよイベントがスタート! ゲストを歓迎するかのように、清々しい朝の空気にのって、軽やかな鳥のさえずりが聞こえてきます。まずは徳田さんご夫妻の案内のもと「アダ・ファーム」の見学です。

農園へ入っていくと、防風林と中央に聳える大きな樹木が、コーヒーの木をやさしく守るように覆っていました。沖縄の日差しとは思えないほど、やわらかい木漏れ日を浴びるコーヒー畑が私たちの目に神秘的に映ります。

「中央にあるのはシェイドツリー(日除け)です。沖縄は日差しが強いので、直射日光を少しでも弱めるために、そして土の中の水分を保つためにこの木を植えています。防風林のユシギ(イノスキ)は樹齢40〜50年にはなると思います。この地域で農業をやってきた先人たちの財産を引き継いだのです」と話す泰二郎さんの言葉からは、この土地とそれを創り上げてきた人たちへの敬意が感じられます。

「コーヒーづくりには、光と土と水のバランスがとても大事なんです。もともとここの土は粘土質でコーヒー栽培に不向きなので、堆肥をいれることで土の状態を調整しています。ただこの土地がつくる本来の味を大事にしたいので、堆肥が効きすぎないように、あえて周りの雑草を残したり、他の植物を植えたりして土壌環境を管理しています」。土の状態をみるために、雑草をセンサー代わりに使うアイディアには、ゲストも感心のご様子。

コーヒーと真摯に向き合い、その対話を楽しむ生産者の姿

アダ・ファームのコーヒーのほとんどは熟度の判別がしづらい、黄色の果実をつけます。果実の熟度をそろえることは、おいしいコーヒーの必須条件。色だけではなく、一つひとつを手にとって感触を確認し、時には齧って熟度を判断しているそうです。コーヒーの木が約800本あるこの農園で、一本一本の木を見ながら、コーヒーに最適な環境づくりを心がけ、細心の注意をはらって収穫している泰二郎さん。その労力は計り知れません。

「熟していないものでも、なんだか呼ばれたような気がして直感的に採ることもたまにあります。その時々感じたことをそのまま栽培に生かすようにしています。大変だなんて思ったことないんですよね。こんな楽しい仕事、他の人に渡したくないくらい(笑)」と、無邪気に笑う泰二郎さん。日本で初めてスペシャルティコーヒーを誕生させた背景には、丁寧に、そして何より楽しみながらコーヒーと対話をする生産者の姿がありました。

その丁寧な栽培の様子に、驚くコーヒーのプロフェッショナルたち

その泰二郎さんの姿勢は数値にもしっかりと表れています。「アダ・ファームは標高170メートルの低地ですが、高地であればあるほど高いといわれる脂質の数値が、一般の豆より高い結果が出ました。さらに熟度に関しては、現在流通しているスペシャルティコーヒーより高い。これはこまめに収穫していたり、肥料をしっかりあげたりと、丁寧に作られている証拠です」と世界中のコーヒー豆を分析してきた石光商事株式会社社長の石脇智弘さんが、成分表を見ながら解説してくれました。

「立地としてはコーヒーにとってベストな条件ではないけれど、生産者が育て方を磨き上げていると思います。普通ここまでしないよなっていうことまでされている。この土地が出し得る最大限の状態をつくっているように感じました」と後藤さんもアダ・ファームのクオリティの高さに驚いた様子。見学を終えて、ゲストの皆さんもますますその味への期待が高まったようでした。

いよいよこの後は、後藤さんらによる「安田珈琲」の公開認定試験(Qグレーダー試験)と、試飲。さてその点数と珈琲の味は如何に!? この続きは後編にてお届けします。お楽しみに。

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