豆香洞コーヒー 後藤直紀さんが感じる「The Roast Expert」の魅力 【第2部】

「The Roast Expert」を徹底解剖
~世界チャンピオン焙煎士による「The Roast Expert」使い方のコツ~

焙煎機本体の商品開発から始まり、「The Roast Basic」でご提供している120種類以上もの焙煎プロファイル作成を手掛け、「The Roast」の焙煎機本体の性質や性能を細部まで熟知している焙煎世界チャンピオンの豆香洞コーヒー後藤直紀さんに、「The Roast Expert」の使いこなし方をご紹介頂いた、セミナーの様子をご紹介します。

プロが感じる「The Roast Expert」の魅力プロが感じる「The Roast Expert」の魅力

まずは、「The Roast Expert」を徹底解剖

焙煎プロファイルの作成方法は人によってそれぞれ違うと思いますが、小型熱風式焙煎機である「The Roast Expert」で120種類以上のプロファイルを作成した経験の中で、「The Roast Expert使い方のコツ」についてご説明したいと思います。
まず始めに、最も皆さんからの質問が多かった「焙煎機の内部構造」と「アプリに表示されている温度」についてご説明いたします。

図1にあるように、「The Roast」は、ヘアドライヤーをひっくり返したような構造になっており、ヒーターで温められた熱風で焙煎釜内に投入した豆を攪拌しながら焙煎します。風量と熱量をコントロール出来る高級なヘアドライヤーを下からあてているイメージです。

アプリに表示している焙煎温度は、釜の入り口付近の熱風温度を測定しています(図1:センサー)。開発段階に、開発用焙煎機の色々な位置にセンサーを取り付けて焙煎中の温度を測定した中で、最も安定性が高かった位置を選定しました。

図1:The Roast本体の内部構造(イメージ)

実際にアプリ表示温度と実際の豆温度の違いを測定したグラフが図2です(生豆:ケニア/ニエリ/ピーベリー)。アプリ表示温度と実際の豆温度は多少の乖離はあるものの、極端な設定でなければそれらは一定の相関性を持って推移していくので、まるでアプリ温度を使って直接豆温度を操作しているような、直観的なプロファイルの作成が可能となります。

図2:焙煎中の温度について

*豆温度は「The Roast Expert」では測定できません

「The Roast Expert」プロファイル作成のコツを伝授

それでは、次にプロファイル作成のコツを学びましょう。
こちらに、5種類の焙煎豆(ケニア/ニエリ/ピーベリー)を用意しました。標準焙煎、焙煎時間の違い(短時間焙煎、長時間焙煎)、風量の違い(風量小、風量大)の5つの焙煎条件をカッピングしながら違いをご説明します。このような違いを見る場合には、温度と風量のパラメーターを両方一度に変化させてしまうと、どのような変化が生じてこの味になったのかということが理解できませんので、パラメーターはどちらか一方に絞って変化させることをお勧めします。

①焙煎時間の違い

まずは、焙煎時間の違いについてです。「The Roast Expert」はパワーがある上に50gの少量焙煎なので焙煎時間が短く、ドラムロースターの3分の2ぐらいのイメージです。もう少し焼きたいと思っても3分ぐらいの延長で十分ですので、最大設定時間は15分としています。適性と感じる焙煎度は焙煎機の種類、入れる豆の量や焙煎方式によっても異なります。焙煎度の適正時間が何分何秒と決まっている訳ではなく、ある程度の幅の中で、皆さんがそれぞれその豆に対して工夫をすることが「焙煎」という行為です。
焙煎度合、何度まで焼けばいいのかをプロットして、まずはゴールを決めます。次にそこに至るまでの時間を決めるのがプロファイルの骨格となります。カーブが緩やかであればあるほどゆっくりと焙煎が進んでいくので、緩やかで柔らかい味になります。カーブが急になると味も香りも強いものになります。

焙煎プロファイルを図3のグラフに示しています。焙煎時間最大15分として、30秒毎のセンサー温度(アプリに表示されるヒータ付近の温度)をプロットしています。

  • 短時間焙煎:6分、標準:9分、長時間焙煎:15分
  • 予熱温度:178℃
図3:焙煎時間の違い

【カッピング結果】
短時間焙煎は味が強く、酸味も明るく、香りが強い傾向があります。ただし、豆によっては一粒ずつ成分が多少異なるのでムラが出やすくなります。今回の豆はピーベリーでコロコロと回転しやすいためムラが出にくかったですが、他の種類の豆でムラが出てしまっている場合は、焙煎時間をもう少し伸ばして均一な焼き具合にした方が良いと思います。
一方で、長時間焙煎は焼き過ぎた味、苦渋い味になる傾向があります。長時間だらだらと焼くと、焼け方のムラは無くなりますが、その分酸味が抜けてしまうことで苦渋さが出てきて暗い印象の味になってしまいます。結局、どんな種類の豆を焼いても同じ味になってしまいますので、せっかく豆と向き合うのであれば、例えばケニア独特の持ち味である特徴的で複雑な香りを引き出せる焙煎プロファイルに挑戦した方が良いと思います。

②風量の違い

次に風量の違いについてです。特に「The Roast Expert」は熱風によって焙煎が行われています。風によって熱を入れて豆を攪拌するだけでなく、水分や余計な成分を飛ばす役割を担っています。ですから、時間がたてばたつほど水分や成分が抜けていきますので、長時間焙煎をし過ぎると味や香りが抜けてしまう傾向があります。私が「The Roast Expert」でのプロファイル作りで苦労したのは、実は風量の調整でした。風量を強くしすぎると成分が抜けてしまうのでなるべく風量を抑えたいのですが、一方で、熱風で豆を攪拌する際に攪拌不足になると火の入り方にムラが出てしまうことや、カロリーが足りなくて珈琲の味に変わるはずの成分が変わり切れずに珈琲の味が足りないということにもなります。

プロファイルは図3の標準(焙煎時間9分)と同じものですが、風量の大小による違いを比べてみましょう。

  • 風量小:風量70%→50%
  • 標準(図3標準):風量76%→56%
  • 風量大:風量80%→80%
  • 焙煎時間:9分

【カッピング結果】
風量小(70%→50%)の方は、味がギュッとつまっている印象。風量大(80%)の方は、味が抜けた感じになっています。高い温度でも弱い風量になってしまいますと、結果カロリー不足となり、焼けてない味(生っぽい青臭い味)が混ざったり、コーヒーの香味自体弱い印象になってしまいます。風量調整のコツはその豆に対して最低限クルクルと回る、カロリーが入るというポイントを見つけることです。大きくて長細い形状のマラゴジッペやパカマラ、ロングベリーなどは、回転しにくいこともあり少し注意が必要なのに対して今回のサンプルで用意したピーベリーはとても扱いやすいです。すなわち、豆の形状やばらつきをチェックして熱風量のパターンを決めるのが良いと思います。焙煎全体を通して豆がきちんと攪拌されているのかを見極めるのも重要です。慣れてくると、風量76%で回転するのか否かが予想できるようになります。通常の1kg以下のサンプルロースターは、焙煎機の種類によってはダンパーという機能で空気の流れをコントロールしているのですが、風量の変化がはっきりとわかりません。しかし、この「The Roast Expert」であれば風量をしっかりと設定できるのが特徴ですので、豆による最適条件を突き詰めてみるのも面白いと思います。

5つの条件の焙煎豆をカッピングしてもらいましたが、最高に美味しいかは別にして、全て飲めないかと言われるとそんなことはありません。
温度、風量の違いによる焙煎条件を比較することによって、味わいの特徴がつかめたと思います。ただし、この枠から外れてしまうと本当に飲めないぐらい厳しいものになってしまうと思います(笑)このように、まずは5つの枠を決め、次にその枠の中で味をデザインしていくことが焙煎プロファイルの作り方の基本となります。

3つのベースプロファイルで特性をつかむ

「The Roast Expert」では、焙煎プロファイルの作成をするのに全く何の手掛かりもない白紙状態では非常に難しいと思いましたので、図4のように、アプリのプロファイル作成画面に焙煎度の異なる3つのベースプロファイル(A,B,C)をご用意しました。まずは焙煎機本体の特性を掴むためにご活用ください。

図4:焙煎プロファイル(アプリ:パターンA)

3つのベースプロファイルにも関係するのですが、予熱が終わってからボトム(中点)を作っている理由をご説明いたします。これは、「The Roast Basic」では、全国のお客様が同じ条件で設定通りに豆が焼けることを目指してプロファイルを作成していたことにあり、焙煎釜に入れる前の生豆の温度に影響されないように30秒間のボトムを作っています。通常の大型の焙煎機であれば、生豆投入時に釜の温度が下がってまた温度が上昇するので自然とボトムがつくものですが、「The Roast Expert」のように小型の場合は投入する豆の量も50gと少量で、実はそんなに温度の変化はありませんのでボトムを作らなくても焼けます。経験値からボトムを作った方が本釜で焙煎した味に近いような気がしていますし、どのような環境条件においても30秒間の間で均一になるため味が安定しているように感じています。ただし、ボトムを作るとその分だけ焙煎時間が長くなり、味が抜けるデメリットもありますし、優しい味になってしまうようにも感じます。コンペで最高の味を作りたい時には、「カリカリ」のプロファイルを作りますので、ボトムを作らない方が味をしっかり引き出せると思います。ご自身の目的に応じたプロファイルのパターンをいくつかストックして頂ければと思います。
例えば、素材確認のサンプル作りに関して言えば、豆に形や大きさによって撹拌が変わるので、豆が大きい場合の標準プロファイル、小さい場合の標準プロファイルなどと標準プロファイルを複数作っておくとやりやすいと思います。

コーヒーの焙煎を勉強されている方はもちろん、サンプルロースターとして、お店や工場などプロの味づくりの現場での使用に十分耐えられる仕様になっていると思います。また使い方次第では、生産や開発、流通の現場等でも大活躍する事でしょう。是非皆さんの目的に合わせてご活用ください。