「三角形」への挑戦。RULO開発物語

この世になかったもの

第二章 この世になかったもの

「三角形」と聞いたメンバーは皆、頂点を前にして進むと思っていた。
「隅をしっかり掃除する形だ、と聞いていたのでなおさら。
矢印みたいに前を向いて、隅っこを狙うのかと」と松本は当時を振り返る。
彼女も、三洋電機在籍時代から掃除機の設計に携わってきた技術者だ。
ルーロでは機構設計(ルーロの躯体設計)を担当した。


*機構設計・・・機械構造や商品構造の設計のこと。
ルーロでは、三角形のボディ、駆動部、集じん部の設計にあたる。

三角形ならではの難しさ

三角形は、直観的に「隅に届きそう」と感じさせる形状だ。では実際には、どういう動きをさせるのが良いのか。頂点を先頭にして進ませたなら、隅を狙った後の方向転換はどうするのか。壁際の掃除はどうするのか。

「三角形は走らせるのが難しい」と、渡部は懸念していた。三洋電機在籍時代にロボット掃除機量産化の検証に携わったことがあり、円形状のもの以外は、走行が難しいことを実感していたからだ。

「円なら回転してもあたらないし、方向転換もさせやすい。ルーローの三角形は、回転してもあたらないのだけど、実際に動かすのは難しい。隅掃除のための三角形だから、隅ぎりぎりまで走行させたい。方向転換するときは少しバックさせる必要がある。その動かし方の加減が課題でしたね」。

「 ルーロは隅を見つけないといけないんです 」

壁の横を走行するときは、本体サイドの近距離用の赤外線センサーで距離を測り、超音波センサーで前方の壁を検知する。
横の壁と前の壁、両方があると判断したら「ここが隅だ」と認識して、ぎりぎりまで進んで首振りをして隅を掃除する。そして少しバックして、方向転換する。

「ルーロは、上手に壁や隅を見つけないといけないんです」と渡部。
「“こういうときは隅じゃないよ”とか、“こういうときはやめるよ”とか、“隅でゴミが見つかったから、往復して掃除するよ”とか…。自分で掃除機を動かすならカンタンなことですが、これをロボットにさせるためには、非常に複雑な制御が必要なのです」。

なぜ2種のセンサーが必要なのか

「センサーには得手不得手があります。大まかにいえば、超音波センサーは前面は幅広く見えるが、音を吸収する素材が苦手。赤外線センサーは近づいた距離は正確に見えるが、光なので、透過するものが苦手。ルーロは2つのセンサーを組み合わせることで、壁・隅を認識しています」。

なぜ2種のセンサーが必要なのか なぜ2種のセンサーが必要なのか

そう語るのは、2008年入社の重藤。渡部と共に、ルーロの回路設計を担当した。紙パック掃除機のハウスダスト発見センサーは担当してきたが、ロボット掃除機に必要な数々のセンサーの開発は、当然ながら全く初めての経験だった。

上手に壁や隅を見つけるためには、センサーの種類、精度はもちろん、本体のどこに配置するかがカギを握る。
センサー感度が高すぎると、余計なものまで認識してしまう。
三角形のロボット掃除機は世の中にないので、すでにある商品のセンサーの配置は参考にはならない。センサーの種類と数を絞った上で、どのように配置するのが効果的なのか。とくに、横の壁を検知するセンサーは、どこに配置すればよいのか。
重藤は日夜、検証を続け、ひとつの結論に達する。皆の前で提言した。

「三角形の2つの頂点に、測距センサーをつけたいのです」。


*回路設計・・・電子回路、センサー、デバイスなど、
ロボット掃除機の”頭脳”にあたる部分の設計のこと。

そう語るのは、2008年入社の重藤。

「 デザインは変えたくないじゃないですか 」

ルーロの走行パターンは、「ラウンド&ランダム走行」だ。最初に壁や障害物を感知して、ゴミがたまりやすい部屋の隅や壁際をぐるりと回ってラウンド走行し、掃除する。その後は部屋の内部に向かってランダムに走行する。

「色々検証した結果、ラウンド走行時は、前方向の2つの頂点で壁を検知するのがいちばん安定していたのです」と重藤。
その提案の結果、苦労したのが機構設計の松本だ。

最終的には「力技で」(松本)押し込んだ。

「頂点付近には、サイドブラシを回すモーターがあり、近くにノズルもあり狭いスペースに収めることが難しいのです。毎日のように、回路チームと議論しました」。最終的には「力技で」(松本)押し込んだ。

松本の「力技」は、随所で発揮された。 松本の「力技」は、随所で発揮された。

松本の「力技」は、随所で発揮された。

実はルーロは、開発途中で一度、高さを変更している。本体高さがあると、家具の下には入り込みにくくなる。それでよいのか?掃除機メーカーがつくる以上、「掃除もできるロボット」ではなく、「人間の代わりに掃除をする」ロボットにする必要があるのではないか?

機能を掃除性能と走行性能に絞り込んで磨き上げることになった。高さは約1センチメートル削る。センサーにも影響が出るので、センサーの検証も一からやり直し。開発中、もっとも時間がかかったのはこの行程でしたと松本。けれども「機構が入りきらないから、デザインを見直してほしい」とは、けして口にしなかった。

「設計者って、『中の機構が成り立たないならデザインを変えてもらおう』と言うときがあるんですよ、たまに。でも、ルーロはまるっこい可愛らしいイメージを崩したくなくて。デザイン優先でいくために、機構を小型化して中に押し込んで調整しました」。

実は2000年ごろには、「ゾウさんの形」のロボット掃除機を研究していたこともあるという松本。 「部屋の中で、こどもが上に乗って遊べたらいいなぁ、と思って」。

松本は、掃除機を単なる掃除道具とは思っていない。

松本は、掃除機を単なる掃除道具とは思っていない。

それぞれの家庭で愛され、暮らしの中に溶け込むように存在するものであってほしい、と考えているのだろう。そして、お客様に愛着を持っていただくためには、掃除機として満足いく性能を備えておくのは当然だ、とも。

そんな彼女が、技術者として挑んだ課題も大きなものだった。

『小型モーターで吸引力の少ないロボット掃除機に、キャ二スター並みの掃除性能を叶えよ』。

*記事の内容は2015年時点のものです