「三角形」への挑戦。RULO開発物語

果てなき追究

第三章 「果てなき追究」

掃除性能において、キャニスター掃除機とロボット掃除機の
大きな違いのひとつが、吸引力の差だ。
「キャニスターとロボットでは、そもそも搭載しているファンや
モーターのレベルが違います。
ある程度の吸引力があれば、ごみはそこそこ取れますが、
そのためには大きなモーターを搭載しないといけない。
いかに少ない風量で、ごみを効率よくとるかが大変でした」(松本)。

キャニスター掃除機と同等のノズル性能

上司である吉川から、松本が最初に言い渡された課題は「MC-BR30Gと同等の吸い込み性能にしなさい」ということだった。
「吸い込みパワーを表す数字で言うと、何十分の一のパワーしかないファンで、この何十倍のモーターと同じだけとれるようにしなさい、と。2ヶ月くらいずっと取り組んでいましたね」。

吉川も、けして“無茶ぶり”をしたわけではない。2013年に発売した充電式コードレスのMC-BR30Gは、ノズル性能を上げることで、コードレス式の吸引力でも十二分な掃除性能を発揮できる商品だった。
また、渡部が2013年に開発したハイブリッドサイクロンによって、リチウム電池でもパワーと持続力を発揮できることが証明されていた。大容量のリチウムイオン電池と、独自の高性能ノズル搭載で、満足いく掃除性能が実現できるのでは、と考えたのだった。

MC-BR30G

2013年10月に発売された、コードレスプチサイクロン掃除機。「ハイパワーリチウムイオン電池」を内蔵。モーター駆動式の「小型軽量パワーノズル」で、じゅうたんの奥のゴミまでしっかりかき出す。

MC-HS700G

2013年10月に発売された、ハイブリッド電源のサイクロンは、ハイパワーリチウムイオン電池を採用。強いパワーと持続力を両立させている。

結果、ルーロに搭載されたのは、フローリング掃除に効果を発揮するマイナスイオンプレート。床面との接点が多くゴミをしっかりかき出すY字ブラシ。ブラシ全体はV字にして、本体前方の最長辺に配置。本体前面の両側につけたサイドブラシでかきだしたゴミを、効率よく吸込口に集めて吸い取れるように工夫した。

6条のブラシで構成されたルーロのノズル。6条のブラシで構成されたルーロのノズル。

リチウム電池と、逆方向に回転するノズル

「ブラシの床面へのあたり具合は、何度も調整しました。あたらないとごみがとれないし、あたりが強すぎるとモーターに負荷がかかり、電池の寿命が短くなる。バランスをとるのが難しかったですね」と松本。

自走するロボット掃除機にとって、大きなノズルは負荷がかかる。走行中にじゅうたんなどに乗り上げやすくもなるので、前へ走らせることだけを考えれば、ノズルはコンパクトな方が、都合が良い。

しかもルーロは、この大きなノズルを、進行方向と逆回転させながら前へ走行するのだ。この動きで、じゅうたんの奥のごみをかき出し、上へ浮いてきたごみをすっと吸い取る。

「この大きなノズルを搭載できたのは、渡部さんがプロジェクト前年に開発されたハイパワーリチウム電池があったからこそ。他社には真似のできないことです」と吉川が微笑む。

ハウスダストをいかに検知するか

キャニスター掃除機とロボット掃除機の掃除性能の違いとして「ハウスダスト発見センサー」も挙げられる。紙パック式で「ハウスダスト発見センサー」を担当していた重藤だが、ロボット掃除機は少々勝手が違った。

「ゴミが通過するスピードが、全然違うんですよ。一般の掃除機は、早い速度で通過するのを、赤外線で検知しているのですが、ロボット掃除機はゆっくり。感度の調整が必要でした」(重藤)。

ハウスダスト発見センサーハウスダスト発見センサー

センサーの位置を決めるのも一苦労だった。
風の流れが淀む位置につけると、正しく検知できない。必然的に風路形状がストレートになっている位置につけることになるが、小さいボディにあらゆる機構を詰め込んでいるわけだから、なかなかぴったりの位置が決まらない。
回路設計の重藤と機構設計の松本で、何度も何度も、議論を重ねた。

ハウスダスト発見センサーには、もうひとつ課題があった。
「普通の掃除機だったら、お客様が自分で動かして、ランプを見て、『キレイになった』と納得してから、次の場所へ移りますよね。ロボット掃除機の場合、誰が見ても納得する動き方のパターンをどうするのか」と渡部。

センサーの位置を決めるのも一苦労だった。
ゴミの量に応じて、パワー、走行速度、走行動作を制御
ゴミの量に応じて、パワー、走行速度、走行動作を制御

ゴミの量が多い場合は、一度下がって二往復する等、動かし方のパターンをきめ細かく設定し、ごみを効率よくとりつつも、「誰が見ても『おおっ』と驚くような動きを目指しました」(渡部)。

お客様目線で厳しく

八日市工場の同じ敷地内に、一軒の家がある。その名は生活研究ハウス。八日市工場で生まれた掃除機はすべてここで、実際の家屋での使用に耐えうるものか否か、厳しい審査が行われる。
「ルーロ」の審査を担当したのは、消費生活アドバイザーの資格をもつ製品審査チーム主事 勝永房江。消費者視点での改善点を提示するため、何日もビデオを回し続けてルーロの動作性を検証した。

お客様目線で厳しく
お客様目線で厳しく

「ルーロちゃんは、掃除性能がとてもよかったです。ただ、じゅうたんを滑らかに乗り越えないことが何回かありました。サイドブラシが本体より前に出ているから、ブラシが本体より先にじゅうたんに当たるんです」。
勝永の口からは、自然に「ルーロちゃん」という言葉がもれた。
商品を抱く手にも、優しさを感じる。

じゅうたんへの乗り越えを滑らかにするために、発売直前にサイドブラシの形状を変更。お客様に満足いただく掃除性能を実現するために、最後まであきらめない、それが八日市スタイルだ。

量産移行前にも、責任者中心に、自宅で延べ200時間を超えるモニター検証を行なった。
隅掃除やハウスダスト発見センサー連動動作など、その優れたごみ取れ性能に絶対の自信を抱くところまで、商品が作り上げられた。

「ロボット掃除機は、△が正解だった」。
モニター全員の実感だった。

罫線

ようやく生まれた、未だかつてなかった三角形のロボット掃除機「ルーロ」。開発者たちの感慨もひとしおだ。

「何十年も前から、多くの関係者が開発に携わってきたわけですから、必ず商品化しなければならない、と思っていました。ロボットはいくら掃除しても疲れないから、自分たちの代わりにどんどん使ってほしい」(渡部)。

渡部
松本

「本当に難産だったから(笑)、可愛さもひとしお。みんなのおうちで愛されて、可愛がってもらいたいです」(松本)。

「私たちのような、若い共働き・子育て世代に、ぜひ使ってほしい。夢は世界中でルーロが使われることですね」(重藤)。

重藤

2015年3月。パナソニックは「ルーロ」をこの世に送り出す。いったいどれほど多くのお客さまのお役に立てるだろうか?お客さまの毎日をラクに快適に、楽しいものにできるだろうか?

お客さまに使っていただき、声を聞き、そしてまた次の開発へ。彼らの挑戦は、終わることはない。

彼らの挑戦は、終わることはない。彼らの挑戦は、終わることはない。

*記事の内容は2015年時点のものです