鶴見大学 歯学部 歯周病学講座 教授 五味 一博先生 鶴見大学 歯学部 歯周病学講座 教授 五味 一博先生

歯を失う原因 第1位

「歯周病」の正しい知識とケアについて

鶴見大学 歯学部 歯周病学講座 教授
五味 一博先生

歯を失う原因は「むし歯」だと思われがちですが、実はその多くは、「歯周病」が原因。 むし歯と歯周病の違いや、歯周病ケアのポイントについて、鶴見大学の五味先生にお話を伺いました。

歯周病は、むし歯とは違うものなのでしょうか?

むし歯は、歯そのものが壊されていく病気であるのに対し、歯周病は、歯を支えている組織が壊されていく病気です。破壊される組織が異なるため、全く別のものとして考える必要があります。

むし歯の原因は、歯肉(歯ぐき)よりも上についた「歯肉縁上プラーク(むし歯菌)」、
歯周病の原因は、歯と歯肉(歯ぐき)の隙間にいる「歯肉縁下プラーク(歯周病菌)」です。
2つの菌の大きな違いは、棲息している場所です。

図:歯と歯ぐきの構造の断面図 図:歯と歯ぐきの構造の断面図

むし歯菌は、糖を栄養源として酸を出し、歯そのものを溶かしていきます。進行が、一般的に神経と言われる歯髄におよぶと痛みを伴います。

一方、歯周病菌は、歯と歯肉(歯ぐき)の境目から出る血清たんぱく質を栄養源にしています。 この血清たんぱく質は、歯肉(歯ぐき)を壊して炎症を起こさせることで、より多く出てきます。そのため、歯周病菌は歯の周りの組織を破壊し、歯周病が進行するのです。

歯周病にはどのような症状(特徴)がみられますか?

歯周病には4つの特徴があります。

「歯周病の特徴 4S」

Silent Disease : 痛みを感じにくい病気
Slowly Progressive Disease : ゆっくり進行する病気
Social Disease : 社会的な(誰もがなり得る)病気
Self Controllable Disease : 自らのケアでコントロールできる病気

歯周病は、むし歯に比べ、痛みを感じにくい病気です。
また、ゆっくり進行すること、30歳で80%、50歳で90%と言われるほど、誰もがなり得ることが特徴です。
そのため、自覚症状がなくても、歯科医から見ると、かなり進行している場合があります。

初期段階では、歯肉(歯ぐき)からの出血などが見られます。
痛みを感じた場合には、かなり進行している状態と考えた方が良いでしょう。

歯周病セルフチェック

1. 歯をみがくと血が出る
2. 朝起きた時、口の中がネバネバする
3. 口臭が気になる
4. 歯肉(歯ぐき)の下がりが気になる
5. 歯間に食べカスがよくつまる

自覚のないまま歯周病が進行すると、どうなるのでしょうか?

歯周病にも、進行具合によって「歯肉炎」と「歯周炎」という2つの段階があります。
「歯肉炎」は、プラーク(歯垢)によって、歯肉(歯ぐき)が腫れた状態のことを言います。
この段階であれば、正しいケアにより、歯肉(歯ぐき)を健康な状態に戻すことができます。
ところが、それを放置し、歯と歯肉(歯ぐき)が付着している部分が破壊されはじめると「歯周炎」となって、二度と戻ることはありません。

歯周病の進行状況の解説図 正常な歯周:歯肉(歯ぐき) 歯肉溝(0.5~3mm) 歯槽骨 歯根膜 歯肉炎:プラーク(歯石) 歯周炎:プラーク(歯垢) 歯周ポケット(4mm~) 歯周病の進行状況の解説図 正常な歯周:歯肉(歯ぐき) 歯肉溝(0.5~3mm) 歯槽骨 歯根膜 歯肉炎:プラーク(歯石) 歯周炎:プラーク(歯垢) 歯周ポケット(4mm~)

歯と歯肉(歯ぐき)が、付着している部分が破壊されていなければ「歯肉炎」、付着している部分が破壊されると「歯周炎」ということになります。

 

「歯周炎」は、歯肉(歯ぐき)の上皮付着部位というところから破壊され、歯根膜、歯槽骨を侵していきます。 歯を支えている土台である「歯槽骨」が侵され続けると、歯はぐらぐらと揺動し始め、やがて、抜け落ちてしまいます。

 

歯を失う原因といえば、「むし歯」と思われがちですが、実は、その多くは自覚症状が出ないまま進行してしまう「歯周病」なのです。

いつごろから歯周病ケアを意識した方が良いのでしょうか?

歯周病は自覚症状の出にくい病気である一方で、自分でケアをすることによって、ある程度コントロールできる病気でもあります。

 

歯周病の原因は、継続的にプラーク(歯垢)が付着してしまうことです。 20代くらいまでの健康的な歯肉(歯ぐき)の場合は、自浄性があり、歯の汚れが取れやすい状態ですが、30代からは、プラーク(歯垢)が蓄積しやすくなってきます。 ですので、30代からは特に歯周病ケアを意識する必要があるでしょう。 ただし、若いからといって、歯周病にならないわけではありません。最近では、20代での歯周病患者が増えていることも事実です。

表:年齢別の歯肉炎 歯周病 表:年齢別の歯肉炎 歯周病

歯肉炎は、歯が生えたと同時にケアをするというのが基本、
年齢を問わず歯が生えていたら、日々、ケアをすることが大事です。

どのように歯周病ケアをすれば良いでしょうか?

大事なのは、歯と歯肉(歯ぐき)の間の溝である「歯周ポケット」に潜むプラーク(歯垢)をしっかりと除去することです。
「歯周ポケット」は、正常な状態で約1~3mm。4mm以上になると、歯周病が進行しつつある状態ですので、歯科医による診断が必要となります。

※歯学上では、「歯周ポケット」は、正常な状態で深さ1~3mmの「歯肉溝」と、歯周病が進行し、深さ4mm以上の「歯周ポケット」に分類されます。

歯磨きは、しっかりと磨ければ、1日1回でも問題ありません。
ただし、食事をした直後の食べかすは3~40分経つと、菌のかたまりになり、粘着性がでて固くなります。よく「1日3回食後に」といわれるのは、プラーク(歯垢)が成熟しないうちに除去できることに由来するのでしょう。

歯磨き粉は、プラーク(歯垢)を浮かせるのに有効ですが、口内の爽快感からブラッシングが不十分な状態でも磨いた気分になってしまいがち。大量につけすぎないことが大切です。

ブラッシングで除去できなかったプラーク(歯垢)は、固くなり、歯石として蓄積されてしまいます。その場合には、歯科医による処置が必要でしょう。

鶴見大学 歯学部 歯周病学講座 教授 五味 一博先生
歯の模型を持って解説する 鶴見大学 歯学部 歯周病学講座 教授 五味 一博先生

歯周病になってしまったら、どうすれば良いのでしょう?

一度、破壊されてしまった歯周組織を元に戻すことはできませんが、正しいケアを行うことで、進行を止めることはできます。

深くなってしまった「歯周ポケット」は、歯科医による治療が必須ですが、治療するにも、まずはPMTC※によって「歯周ポケット」に溜まったプラーク(歯垢)を除去する必要があります。治療を終えた後にも、その状態を長く維持するため、ブラッシングによる日々のケアが重要です。

※「プロフェッショナル・メカニカル・トゥース・クリーニング」。個人では落としきれないプラーク(歯垢)を歯科専門の機器や技術によって除去すること。

・歯周病を予防するためのホームクリーニングケア
・歯周病を治療するための原因菌除去
・治療を終えた後に、状態を保ち、再発を防ぐためのケア

この3つのいずれにおいても、歯周病ケアの根幹となるプラークコントロールが大事であるということです。
また、歯周病に対する正しい知識を身に付けることも重要です。
歯周組織が破壊されると、歯肉(歯ぐき)が下がってきますが、一方で、炎症を起こすと歯肉(歯ぐき)は腫れた状態になります。
歯周病治療を始めた直後に、それまで以上に歯肉(歯ぐき)が下がったと心配される患者さんがおられますが、これは腫れていた歯肉(歯ぐき)が引き締まったためです。
 
さらに、歯肉(歯ぐき)の色も重要です。
健康な歯肉(歯ぐき)というと、赤みがかったピンクをイメージされる方が多いと思いますが、本当に健康な歯肉(歯ぐき)は白っぽいくらいのコーラルピンクです。赤みがかったピンクであれば、炎症を起こし、腫れていると考えた方が良いでしょう。