「歯と健康のシンポジウム2019」イベントレポート

「歯と健康のシンポジウム2019」イベントレポート「歯と健康のシンポジウム2019」イベントレポート

2019年2月14日、東京・秋葉原UDXギャラリーNEXT-1にて、日本歯科医師会主催による「歯と健康のシンポジウム2019」が開催されました。「アクティブライフを送るためのオーラルケア~歯周病への理解を深める~」をテーマに、歯科医師の先生による講演や、ゲスト登壇した竹中平蔵さんを交えてのQ&Aコーナーも。男性ビジネスパーソンを中心に約60名が参加しました。

第1部 講演「アクティブライフには、まず歯周病予防を!」

歯科医師/和泉 雄一先生

東京医科歯科大学名誉教授
総合南東北病院 オーラルケア・ペリオセンター長

歯科医師/和泉 雄一先生

あなたも歯周病かも?

昨年3月に東京医科歯科大学を定年退職し、現在は郡山の総合南東北病院オーラルケア・ペリオセンターに週4日お勤めされている和泉先生。時間に余裕が生まれ、今まさに“アクティブライフ”を楽しんでいるという先生が、アクティブライフを楽しむために欠かせない歯の健康についてレクチャーしました。

口は、噛むこと、飲み込むこと、味を感じること、唾液による消化殺菌、言葉を発することなど、人間が社会生活を営む上で非常に大切な機能を持っています。
その機能を失わせる主な原因となるのが歯科の二大疾患である虫歯と歯周病で、今は虫歯よりも歯周病で歯を失う人の方が増えているそう。しかも、歯周病は痛みもなく症状が進行するため、歯周病であることに気づかないまま歯を失っていくケースも多いそうです。

先生は「歯ぐきの腫れ、出血、膿が出る、口臭がするなど、歯周病の症状に1つでも該当したら、たとえ痛みを感じていなくても歯医者さんで検診を」と呼びかけていました。

歯周病と生活習慣病の深い関係

歯周病には、歯肉が腫れる「歯肉炎」と、歯肉炎が悪化し、歯を支える骨が溶けていく「歯周炎」の2つの病態があります。歯周病に罹患している歯周ポケット内面の歯肉表面を顕微鏡で見ると、小さな潰瘍がたくさんあり、ここにはたくさんのばい菌が繁殖しています。これを放っておくと、体の中に細菌や細菌の代謝産物がどんどん入っていき、心臓病や脳梗塞といった循環器系の疾患や、糖尿病、肺炎などを悪化させる方向に働く「リスク因子」となるそうです。

中でも、介護が必要になる原因の3割を占める生活習慣病(脳卒中、心臓病、糖尿病、呼吸器疾患、がんなど)は歯周病と深い関係があると言われており、実際に、歯周病の治療に来た人の多くが、糖尿病や循環器の疾患を持つことがわかっているそうです。

さまざまな全身病と歯周病の“負の連鎖”を断ち切るには、歯周病のない健康な口腔環境を守ることが重要です。

歯周病と生活習慣病との関係

定期的な口腔ケアで健康な毎日を

歯周病の治療には「細菌の因子(歯周病原細菌)」とそれに対する「生体の反応」、そして「環境」がありますが、生体の反応については変えることができないため、細菌と環境の要因を小さくすることが重要になってきます。

細菌の因子を小さくするには、セルフケアとプロフェッショナルケアの併用が効果的。自分でブラッシングをしてプラークを取るだけでなく、歯科医師や歯科衛生士による専門的な治療や定期検診を受けることで、健康な口腔を保つことができます。また、口腔内の環境を整えるには、禁煙、よく噛むこと、食生活の見直し、ストレスの解消などが有効だそうです。

講演の最後に先生が語られた「アクティブライフを楽しむには、まず“Mouth and Health=口と健康”。このことをぜひ頭に入れて、口腔管理を続けていってください」という言葉に、参加者のみなさんも深く頷いていました。

歯周病のリスク因子

第2部トークショー 「歯を食いしばらない生き方」

経済学者/竹中 平蔵氏

慶應義塾大学名誉教授
東洋大学教授

経済学者/竹中 平蔵氏

世の中でいちばん嫌いなもの

続いては、ゲストの竹中平蔵さんによるトークショー。「歯の健康」と「経済」を絡めたユニークな切り口で、軽妙なトークが展開されました。

竹中さん:私は地方都市の商店街に育った平均的な昭和の日本人でして、子どもの頃は、甘いものを食べて虫歯をたくさんつくって、親に怒られながら、嫌々歯医者さんに連れて行かれました。当時、世の中でいちばん嫌いなものが、習字の先生と歯医者さんだった、という記憶があります。
「歯を大切にしなさい」と言われて育ちましたので、歯が大切だということは漠然とわかっているのですが、私の母親は今95歳で、おかげさまで元気にしておりますが、でも歯は1本しか残っていなくて、あとは入れ歯なんです。そういう意味では、母親が「歯を大切にしろ」と言い続けていた意味はわかるし、その一方で、「自分は大切にしてなかったじゃないか」というような思いもあります(笑)。

歯はインプットの入り口である

竹中さん:私は経済が専門なので歯と経済を絡めた話ができないかなと考えたところ、あることに気づきました。経済の観点から見ると、経済活動というのは、何かインプットがあってアウトプットがある。アウトプットの合計がGDP(国内総生産)、インプットは資本と労働とテクノロジーです。人間に当てはめると、食べ物をインプットして、そこから生まれるエネルギー、人間の活動というのがアウトプットになる。そのインプットするときのいちばん重要な入り口として、歯があるんだろうなと思うんです。

もうひとつ、私が歯を見ていて思うのは、実は、歯と経済発展には深い関わりがあるのではないかということ。ものすごく簡単に言うと、やはり所得水準の低い発展途上国の人に比べて、所得水準の高い国の方が、みなさん歯がしっかりしているし、何より歯が美しいということです。
所得の高い国、所得の高い人は、歯にお金をかけている。そういう点を見ると、歯は、経済発展の度合いのひとつの象徴とも言えるのかなあと思います。

関西人ならではの健康法

竹中さん:健康のためには、歯ぎしりするようなストレスをなくすことが最も重要。実は関西人なので、なんでも笑いに変えるということを常に心がけております。
もうひとつ重要なのは、当たり前のことですが、やりたいことをやるということですね。

若者には「あんまり歯ぎしりするな」「歯を食いしばるな」と言うようにしていますが、もちろん、歯を食いしばらなきゃいけないときもあります。自分は一体何をやるべきなのかと長期目標を立てて、この目標を実現するためには、その5年前にこれをやらなきゃいけない。そうして考えると今はこれをやらなきゃいけない。この長期の目標に向かって順調に進んでいるという実感が持てるならば、今、私は頑張って歯を食いしばれる、ということなのだと思います。こういう逆算方式というのは、大変重要なのではないかなと思っております。

今日は、歯と経済を結びつけて、健康はどうあるべきか、私なりの雑談、雑感をお話しさせていただきました。

ゲスト、参加者から和泉先生への質問コーナー

竹中さんのトークショー終了後は、和泉先生が加わり、参加された方からの質問に答えるQ&Aコーナーへ…と思いきや、歯医者嫌いの竹中さんが、和泉先生を質問攻めに!誰もが一度は感じたことがある歯医者さんへの素朴な疑問をぶつけていました。

キーンという切削音について

竹中さん:前からどうしてもお聞きしたかったことがあるんです。私だけじゃなくみなさんそうだと思うのですが、歯を削るときの音、あれはなんとかならないんですか?

和泉先生:キーンという音。あれ、僕も嫌いです(笑)。歯を削るときのタービンとエンジンの音ですね。最近はかなり性能がよくなって音も小さくなってきたんですが、やっぱり音がします。そのため、診療所の中にリラックスできる音楽を流して、削る音を小さくする配慮をされている先生も多いです。あとはヘッドホンをつけて音楽を流したり、リラックスできるような落語を流したり、そういうことをやっている方もいらっしゃいます。技術の進歩と同時に、そういった音に対する対策面も、今後はもっと進んでいくと思います。

インプラントや歯を保存する技術の今後

竹中さん:私、インプラントを2本やっていて、もうすぐ3本目をやろうと思うのですが、インプラントってすごい技術だと思うんですね。こういう画期的で飛躍的な技術進歩が、今後、どうなっていくのか気になります。

和泉先生:インプラントというのは、失われた歯のところに噛めるようにと入れるものですが、骨と結合する技術が格段に進歩しています。また、自分の歯、天然の歯を長くもたせるためにも、いろんなことが考えられています。例えば、細胞増殖因子を使ったり、近い将来、細胞移植をしたり。なるべく自分の歯を残していこうという技術が進んでいます。ただ、前提になるのはやはり汚れ(プラーク)を取ることなので、ぜひ、しっかり磨いて汚れを落としてください。

歯周病のリスク因子

歯周病は防げない?

司会者:すでに歯周病と診断されている方からの質問です。「毎日きちんと歯を磨き、デンタルフロスやリンスも使っているのに、老化現象のひとつとして歯周病というのは不可避なのでしょうか?改善も見られないし、対処方法はあるのでしょうか」

和泉先生:非常に難しい質問です。確かに歯周病は、老化の結果起こるひとつの現象でもあります。歯周病を老化として考えた場合、歯を支えている骨は少しずつなくなっていくのですが、さらに炎症があると、スピードが速くなる。ですから、周りについた汚れを取って炎症を起こさないようにするのが原則です。汚れを落とす、炎症をなくす、歯ぎしりをなるべくしない。そういうことが守られればかなり防ぐことができます。
また、なかなか歯周病がよくならないというお話ですが、治療すればよくなります。ただ、いろんな要因が隠されていますから、それをひとつでも多く取り出すことが大切です。例えば口をポカンと開けて口呼吸をしているために、歯ぐきが乾いてしまうとか。粘膜はしっかり濡れている状態でないと防御の役割を果たせませんから。そういうことを含めて、隠れたいろんな要因をひとつでも多く見つけていく。なかなか改善しない場合は、歯周病専門医に受診して解決していただくのがいいと思います。