「歯の健康シンポジウム2019秋」イベントレポート 第1部

「歯の健康シンポジウム2019秋」イベントレポート 第1部「歯の健康シンポジウム2019秋」イベントレポート 第1部

2019年10月23日、東京・渋谷にあるTRUNK HOTEL ONDENにて、日本歯科医師会主催の「歯の健康シンポジウム2019秋」が開催されました。テーマは「オーラルケアとビジネスパフォーマンス」。日本歯科医師会による講演のほか、ゲストに堀江貴文さんを迎えての対談など、おおいに盛り上がりました。

主催:日本歯科医師会
協賛:パナソニック株式会社

講演「ビジネスパーソンの歯と口の健康」

小山茂幸(公益社団法人 日本歯科医師会 常務理事)

小山茂幸(公益社団法人 日本歯科医師会 常務理事)

深刻な状態まで自覚症状が少ない歯周病

「80歳になっても20本以上自分の歯を保とう」という8020運動は平成元年にはじまりました。当時80歳で20本以上の自分の歯を保有している人は7%程度でしたが、平成28年には51.2%を達成しました。若い世代の歯の喪失理由はむし歯が多いですが、40歳以上では大半の要因は歯周病です。

図A:歯周病は歯肉溝にプラークがたまることからはじまります。

図A 歯周病の進行1 歯肉溝がある様子

歯周病は、歯周病原菌が歯と歯ぐきの境目に停滞して起こる炎症。少し腫れた状態が歯肉炎(図B)で、さらに進むと歯ぐきと歯の間に「歯周ポケット」ができます。

図B:歯肉溝にプラークがたまり、歯肉が炎症で腫れて、歯肉ポケットになりました。まだ歯槽骨は破壊されていません。

図B 歯周病の進行2 歯周ポケットがある様子

この歯根面に歯石がたくさん付着し、細菌の出す毒素により骨も少し溶け出していきます(図C)。

図C:歯肉の腫れが大きくなり、根の先に向かって炎症が拡大し、歯槽骨や歯根膜も破壊されはじめます。それに伴いポケットも根の先に向かって深くなり、歯周ポケットになります。プラークや歯石が歯周ポケットにたまっています。

図C(軽度歯周炎) 歯周病の進行 歯槽骨が破壊されはじめた様子(歯の根の長さの三分の一以下)

このまま放置すると(図D)骨がさらに溶けて歯を支えられなくなり、歯がグラグラしはじめます。ここでようやく痛みや膿が出るという自覚症状があるのですが、このころには抜歯しか治療法はないというような状態にまで進行しています。

図D:炎症はさらに根の先に向かって拡大、歯槽骨が半分以上破壊され、歯はグラグラです。

図D (重度歯周炎)歯周病の進行4 歯槽骨が歯の根の長さの二分の一以上まで破壊

4mm以上の歯周ポケットを持つ人の割合は平成17年以降、増加傾向にあります。むし歯は年々減る一方で、歯周病は増えつつあるのです。

4mm以上の歯周ポケットを持つ者の割合(対象歯のない者を除外)

歯周病は、喫煙習慣、口腔内の清掃不良、ストレス、食生活などの環境も大きく影響します。なかでも危険な環境因子として突出するのが喫煙習慣。重度の喫煙習慣のある人は、健康な人より歯周病のリスクが4.75倍も高まります(出典:Genco et al.,1994)。

“ダラダラ食べ”でむし歯のリスクが増加

通常、口腔内は中性ですが、むし歯菌が砂糖を利用して酸を発生すると歯垢中のpHが下がります。

歯垢中のpHの変化 一日の生活時間の中での歯垢のpHの変化のグラフ

食事によってpHの値は下がり歯が溶けはじめます。これを脱灰と呼びます。しかし、時間が経つと、唾液の緩衝能により口腔内は中性に戻り修復されます。これを再石灰化と呼びます。
普通は食後、自然にpHの値も元に戻りますが、食事以外にも間食を何度もとってしまうとpH値は正常な状態まで戻りきらず、むし歯になる危険性が高まるpH値の低い状態が長く続いてしまいます。特に、就寝前のおやつなどは危険です。睡眠中は唾液が減少するため、非常にむし歯になりやすい状態になります。

むし歯は、歯質と歯垢(細菌)と食物の3つが要因で起きるので、砂糖をできるだけ遠ざけた食生活や、フッ化物入りの歯磨き剤の使用で歯質の強化、細菌のかたまりである歯垢を除去するためのブラッシングをおすすめします。

認知症、糖尿病など、口腔の健康は全身に影響する

現在、成人の3人に2人は歯周病。また近年、口腔の健康は全身に影響するといわれるようになり、歯科健診の重要性が叫ばれています。

たとえば歯周病が影響するといわれているのは、認知症、心疾患、誤嚥性肺炎、リウマチ、糖尿病、肥満、早産・低体重児出産など。炎症を起こすと、毛細血管を介して歯周病原菌の出す毒素が全身へと送られてしまうのです。

歯がほとんどなく、義歯を使用していない場合は、自分の歯が20本以上の人と比較し認知症を発症するリスクは最大で1.9倍に、転倒リスクは2.5倍以上になることがわかっています。自分の歯が19本以下の人は、20本以上の人より要介護になりやすいという追跡調査の結果もあります。

65歳以上の健常者を対象として、歯と義歯の状況を質問紙調査し、その後4年間、認知症の認定状況を追跡(n=4,425名)。
年齢、疾患の有無や生活習慣等にかかわらず(年齢、所得、BMI、治療中疾患、飲酒、運動、物忘れの自覚の有無を調整済み)歯がほとんど無く義歯を使用していない人は、20本以上歯を有する人と比較して、認知症発症のリスクが高くなることが示されました。

グラフ:横軸…日数、縦軸…認知症になっている人の割合 歯を喪失・義歯を使用していない場合は認知症発症リスクが最大1.9倍に

歯周病が糖尿病を進行させるリスクが高いこともわかってきました。歯周病を治療すると血糖コントロールが改善したり、糖尿病の血糖コントロールが悪いと歯周病が悪化、反対に糖尿病を治療すると歯周病も改善したり、両者には深い関連があるのです。

約240万人のNDB(ナショナルデータベース)を分析して50~70歳代の医科医療費を調査したところ、歯が1本でも減ると医科医療費が高くなるという結果も出ています。歯周病は自覚症状が少ないため40~50歳代になってはじめて気づき、気づいたときにはかなり進行していることが多い病気です。そうならないよう、できるだけ早くから予防に努めていただきたい。そのためにも、かかりつけ歯科医をもつことをおすすめしています。