写真家×開発者トークショー vol.1

2018年度に新発売されたスチルカメラの中から、「カメラグランプリ2019大賞」に輝いたLUMIX S1R。「LUMIX GINZA TOKYOのトークショー」にLUMIX Sシリーズでいち早く撮影に挑戦していただいた写真家の藤村大介氏を迎えて、クリエイティブディレクターの大貝篤史氏の進行のもと、カメラの技術者、企画担当者とSシリーズの驚異のポテンシャルと開発秘話を熱く語り合いました。

■「LUMIX S1R」が「カメラグランプリ2019 大賞」を受賞
https://panasonic.jp/dc/products/s_series/s1r/camera_gp.html

※LUMIX GINZA TOKYOは、閉館し、新拠点へ移転リニューアルをしております。

写真家/藤村 大介氏

1970年 香川県生まれ。日本写真芸術専門学校卒。世界500都市以上を取材し、世界遺産や世界の夜景、名所、旧跡等を撮影する旅の写真家。「Simple&Positive」をモットーにわかりやすく、心地よい表現で創作活動をしている。独創性のある撮影方法は定評があり、ライフワークとして25年以上撮影している“世界の夜景”は、世界でも有数の感動夜景を撮る写真家として有名。

クリエイティブディレクター/大貝 篤史氏

大阪府生まれ、横浜育ち。東京学芸大学を卒業後、数々の出版社で編集業務を行うかたわら、写真撮影も行う。2011年からスナップポートレートの作品を撮りはじめる。17年よりフリーディレクターとして活動しながら、写真誌「アサヒカメラ」のデスク業務をこなす。15年、個展「安倍萌生写真展」、17年、18年、「育ち盛りの写真家写真展」に参加。19年の6月および7月に若手写真家とのグループ展を開催。

http://35mm50mm.com

LUMIX Sシリーズ
プロダクトリーダー/
高橋 征契
LUMIX 商品企画担当/角 和憲

LUMIX S1/S1R 高感度耐性の魅力

大貝:このカメラのコンセプトのひとつは「生命力・生命美」。その場の空気感を含め、いろいろなものを写し込んで、リアルに感じられる描写を目指してつくったカメラだと聞いています。今回、写真家の藤村大介さんに実際、このカメラで撮影をしていただきました。藤村さん、実際、撮影をされていかがでしたか?

藤村:今までのミラーレス一眼は、「サイズが小さくて手軽」という印象があったのですが、最初にS1を見た時に、イメージしていたミラーレス一眼と違って、デカくてごついな(笑)、しかも重いな、という印象でした。でも、いつも一眼レフ機を使っているので、実際にS1を手にした時の感覚は、普段とほとんど差異はありませんでした。そして、S1で写真を撮り始めてみたら、高感度にした時の画質のあまりのキレイさに本当に驚いてしまいました。今までの夜景の撮り方とは何か違う撮り方が出来るぞと・・・。次世代の新たな夜景作品ができるんじゃないかなというワクワクするような予感がありました。

大貝:僕らのような媒体者からすると、夜景とか夜間撮影において高感度に関してはどうなるんだろう?ということに、まず注目しますね。ノイズがどれだけ出るのか、逆にどこまで感度を上げられるのかというあたりが非常に気になります。見るポイントとしては“ディテールが溶けるか、溶けないか”というのが非常に重要なのです。ノイズが出なくても、その代わりにディテールがベタッとなってしまうというのでは、写真として臨場感が伝わりづらいと思います。僕はとくにそういうあたりを注目しながら、作品を見ています。

 

LUMIX S1 , LUMIX S 24-105mm F4 MACRO O.I.S. , F5.0 , 1/50秒 , ISO8000 ©Daisuke Fujimura

藤村:この作品は横浜の大桟橋から撮った写真で、ちょうど船が旋回しているところを狙いました。

大貝:ISO感度がなんと8000!さらに手持ちで撮っているんですね?

藤村:通常、夜景撮影の場合は三脚を使ってスローシャッターで撮るのが一般的です。この時は、船がずっと旋回していたので、スローシャッターにすると船がブレてしまいます。そのため早いシャッタースピードにする必要がある。でも、絞りを開けるのにも限界があるし、シャッタースピードも限界がある。となると、感度を上げざるを得ないわけです。今までだと、感度を上げる=画質が悪くなる、というのが常識なので、あまり上げたくないというのが正直なところでした。でも、テスト撮影でS1を使いISO感度8000を試してみると、意外なことにすごくキレイだったので、お、これは使えるぞ!と思って…。今回は、美しい夕景を撮るのに、わざわざ動くものを被写体にしてみたのですが、思いのほかうまく撮影ができて、僕自身正直驚いています。

大貝:ISO感度8000って、僕にとっては結構未知の世界ですね。僕自身、人物撮影をするのですが、ポートレートの場合は肌への影響なども気になって、ISO感度の上限は800ぐらいが通常です。プロカメラマンの方の中には、ISO感度640以上は上げたくないという人もいるぐらいで…。ISO感度8000でこれほどの写真が撮影できるのなら、ポートレート撮影もいけるのではないかと思いますよね。ノイズ感もないし、ディテールもしっかり残っていて、これは凄いと正直思いました。

LUMIX S1R , LUMIX S 24-105mm F4 MACRO O.I.S. , F5.0 ,1/10秒 , ISO5000 ©Daisuke Fujimura

藤村:この作品も夜の港を撮ったものですが、ISO感度5000で撮影しました。ランプ自体の白の飛び方とか、ランプの向こうの空のグラデーション、若干マゼンタが乗っているようなところから上の方へ藍色がかっていくあたり、青よりちょっと濃いような、青色のグラデーションが本当に微妙に表現できていますね。非常に繊細なグラデーションの出方がとても美しいと思います。

大貝:すごいね、本当にキレイにディテールが残っていることにびっくりします。

藤村:ちなみにこれらの写真は、ほとんどが撮って出しなんですよ。ほとんど画像処理をしていない写真ばかりです。

LUMIX S1R , LUMIX S 24-105mm F4 MACRO O.I.S. , F4.0 , 1/25秒 , ISO6400 ©Daisuke Fujimura

藤村:この作品はレンガの壁沿いに座っている女の子がスマホを見ていて、そのスマホの灯りで顏が照らされているシーンを、ISO感度6400で撮影したものです。これだけ顏が照らされるということは、夜、寝室でスマホを見ている時に顏が照らされる状況に近い暗さということです。そんな環境下で、ISO感度6400で撮ってもこれだけの画質が得られるというのは驚きですね。

大貝:この作品は、夜の教会を撮影したものでしょうか。僕が先ほど言っていた“溶ける・溶けない”の話がまさにここによく表現されていると思います。ISO感度12800とか10000越えで、これだけ建物のディテールが表現できるというのは、あまり他のカメラでは見たことがないですね。ちょうど建物の入口の上に英文字が入っていますが、通常はあのあたりが溶けてしまうんですよ。

藤村:半円形マークの下の文字ですね。

大貝:そうです。ほとんどの場合文字は滲んでしまうし、縞模様の壁もノペッと塗りつぶした感じになりがちなのですが…。ここまでちゃんと立体感が表現できるというのは、なかなか昨今のカメラにはないことですね。この優れた高感度に関する技術的なアプローチについて、高橋さん、お話をお聞かせください。

高橋:たとえば、建物以外の黒いエリアが墨で描いたようにベタッとしてしまうと臨場感や奥行きが出なくて、つまらない写真になります。そこをナチュラルに表現できるように、ノイズリダクションの機能が使われています。全域にノイズリダクションをかけてしまうと、かけてほしくないところにもかかってしまうのですが、今回のSシリーズの絵作りでは新しいヴィーナスエンジンによって画像の領域ごとに被写体を見分けて適応的にノイズを処理できるようになりました。我々は、ミラーレス一眼で10年、コンパクトで15年、ムービーでもいろいろと実績を積んできているので、ノイズリダクションの使い方を熟知しています。今回フルサイズになったことで、フルサイズセンサーの持つ豊富な信号量・高感度耐性を掛け合わせることで、高感度時の自然なノイズの質感と被写体のディテールの両立を実現しています。

LUMIX S1R , LUMIX S 24-105mm F4 MACRO O.I.S. , F4.0 , 1/320秒 , ISO25600 ©Daisuke Fujimura

大貝:映像機器をつくっているメーカーさんは、ノイズを消すのがうまいというか、かなり苦労しながら研究・開発をされているなと感じます。御社もビデオのノイズの消し方やマイクロフォーサーズの開発などで、小さいサイズでもノイズを消していかないといけない大変さはよく実感されているのでしょうね。フルサイズになっても、今までの技術開発のフィードバックがあるということでしょうか?

高橋:もちろん、そうですね。フルサイズ、APS-Cのカメラに負けたくないという思いがあって…、マイクロフォーサーズで映像・画像信号処理の技術を磨いてきましたので。高感度時のノイズリダクションもその成果の一つと言えます。

大貝:僕も御社のGシリーズのカメラをよく使っているのですが、7、8年前だと、マイクロフォーサーズで使える常用感度はISO800もいかなかったですから…。今回、フルサイズになったことで、過去のジレンマから完全に解き放たれた感がありますね。

LUMIX S1 強力な手ブレ補正機構で撮れる、新しい夜間撮影の可能性

LUMIX S1 , LUMIX S 24-105mm F4 MACRO O.I.S. , F14.0 , 1.0秒 , ISO640 ©Daisuke Fujimura

大貝:もう一つ、伺いたいことがあるのですが、夜景撮影など高感度の話をすると、どうしても気になるのがどれだけブレを抑えられるのか?ということ。実際に夜景撮影をされて、そのあたりはいかがでしたか?

藤村:この夜景の作品も手持ちで撮影しました。最近、ミラーレス一眼の高感度や手ブレ補正については、他のカメラも含めて技術がかなり進歩してきていて、僕もいろいろとテストをしてきました。シャッタースピードを1秒にしてもOKかな?とかね。この作品では、上の方は緑の観覧車が回っていて、下の方は観覧車の乗車を待っている人が並んでいます。待っている人は動かずにじっとしていますが、その上で観覧車はぐるぐる回っている。だから、観覧車自体はちょっとブレていて、それ以外の建物はブレていない。これ、実はシャッタースピード1秒で撮影しているんです。稀に、手持ち撮影で広角レンズを使って1秒ぐらいなら大丈夫という人がいますが、通常アマチュアの方は1/2秒でも厳しいかなと思います。ですから、普通はシャッタースピード1秒というのはとんでもない世界だと思います。しかも広角側ではなくて、標準50mmから60mmぐらいの焦点距離なのですが、それでもこれだけガッチリとブレずに撮れている。手持ちで…!

LUMIX S1R , LUMIX S 24-105mm F4 MACRO O.I.S. , F5.6 , 2.0秒 , ISO200 ©Daisuke Fujimura

大貝:こちらの夜景の作品はどれくらいのシャッタースピードだったんですか?

藤村:これは本当に驚くと思いますが、2秒なんです。さらに凄いのは、焦点距離が105mmということ。LUMIX S 24-105mm F4 MACRO O.I.S.という標準ズームの、一番望遠側の105mmの状態で、しかも2秒の手持ちです。これは正直言ってちょっと考えられないことで、撮った僕が一番ビックリしました(笑)。撮った瞬間、周りに人が結構いたんですが、一人で「ええっ・・・!?」と思わず小さく叫んじゃいました(笑)。ワイドなら結構手ブレ補正が効くカメラもあるし、そういうレンズもあるのですが、望遠側で、しかも2秒というのは普通考えられないですね。

大貝:これはLUMIXのGシリーズからG9 PROを含めて、手ブレ補正の技術を開発してきた中での進化なのでしょうか?

角:そうですね。LUMIXの手ブレ補正は、ボディ内手ブレ補正とレンズ内手ブレ補正の両方を掛け合わせたDual I.S.へと発展し、その後Dual I.S.2へと進化していきました。僕はGX8の商品担当もしていたのですが、このGX8がDual I.S.の始まりでした。当時、各メーカーがボディ内手ブレ補正を搭載してきて、何段という段数の数字競争みたいになってきたので、何かLUMIXらしい面白いことはできないの?と技術チームに問いかけたんです。そこで出てきたのがDual I.S.でした。それをGX7 MarkⅡやGH5、G9を経て徐々に進化させていき、最終的にこれらの技術の粋を今回のS1やS1Rに入れ込みました。焦点距離が広角側の場合はボディ内手ブレ補正が支配的なのですが、ボディ内手ブレ補正の可動範囲が限られているので、望遠にいくにしたがって、どうしても性能が落ちていきます。

そこをS1やS1R では、レンズ内手ブレ補正を連動させ、Dual I.S.2で6段という段数を達成しています。だから、この作品のように105mmでも2秒手持ちでいけるし、ブレずにしっかり止まるということが実現できているんです。さらにファームアップによって、Dual I.S.2で6.5段まで達成できます。

大貝:作品をつくっていく上で、どんなシチュエーションでも、やはりブレというのはイヤなものです。昨今、ここまでブレを抑えられるようになるとイージーに写真を撮れるようになって、アマチュアでも撮影可能な領域が広がってくるので、写真表現もどんどん広げていけますね。

藤村:Dual I.S.2で6.5段って、本当に凄いですよ!

大貝:手持ちで5秒とかもいけるんじゃないですか?

藤村:5秒か・・・。いや、さすがにそれは無理でしょ。

大貝:心臓を止めればいける(笑)。昔、取材のときに「俺は手持ちで、レンズ内手ブレ補正でも4秒止められる」と言われ、「どうやって止めるんですか?」と聞いたんですよ。そうしたら「バカやろう! 心臓を止めるんだよ」と…(会場爆笑)。まあ、そんな嘘みたいな冗談話もあったわけですが、5秒なんて未知の世界も、近い将来出てくるかもしれないですね。

LUMIX S1R 中判カメラに匹敵するほどの圧倒的な解像感

大貝:S1とS1Rの2機種が出ているのですが、S1Rは4700万画素越えでかなり高画素なモデルになっています。藤村さんは、中判カメラに匹敵する圧倒的な解像感を感じたと仰っています。

LUMIX S1 , LUMIX S 24-105mm F4 MACRO O.I.S. , F13 , 1/160秒 , ISO100 ©Daisuke Fujimura

藤村:まず、この作品は、太陽が雲の向こうにあるので美しいトーンを表現したいと思って撮影しました。僕がなぜ中判のデジタルカメラを使うのかというと、美しさの表現で一番重視しているのがトーンだからです。いわゆる色味のグラデーションとハイライトがどのぐらい粘ってくれるかが大切で、ハイライトから色がつくところの中間トーンがどのぐらい出るのか?が、一番気になるので中判を使っています。こういうシーンはハイライトが白トビしてしまって、白トビしたところから色がついているところの中間グラデーションがトーンジャンプを起こしてスジになってしまう。そのスジの下が真っ白で、上に急に色がついてしまったり…。デジタルカメラでは、今まではそういう現象が起きるのは普通でした。それをなるべく回避したいので、今までは中判カメラを選んできました。今回、S1やS1Rを使ってみたらハイライトの粘りが凄くよくて、僕が実際に使っている中判カメラに匹敵するほどでした。ほとんど変わらないぐらいの粘りが出来たので、これは凄い!と思いました。S1やS1Rを使ってみて、センサーの大きさだけで解像感が変わるのではないのだ!ということに、初めて気づきました。

大貝:雲の階調のグラデーションや光が差し込む光線の部分って、どちらかというとノぺッとしやすいですね。

藤村:立体感が出ないんですよね。

大貝:立体感が出るというのは、画素数だけで判断できるものではないですね。たぶん色のつくり、ダイナミックレンジが関係しているのではないかと思います。

LUMIX S1 , LUMIX S 24-105mm F4 MACRO O.I.S. , F5.6 , 1/30秒 , ISO160 ©Daisuke Fujimura

藤村:この作品は夕景の終わりぐらいのギリギリの時間帯を写したのですが、空に赤い夕焼けが残っていて、そこからブルーの星空が見えそうな暗い部分がある。そんな繊細なグラデーションが滑らかに変わっていく様子を見事に捉えていると思います。この美しい滑らかなグラデーションと有明海の干潟にキラッと反射している水面の映り込みに加え、干潟自体の砂の黒くなっているところまで、すべてのディテールがちゃんと出ている。単にディテールを出したいのなら普通に明るくすれば出ますが、ちゃんと黒が黒として表れて、なおかつディテールが見えていて、しかもグラデーションもしっかりあるという…。こんな写真は中判カメラ以外では今まで出来なかったことですね。

LUMIX S1R , LUMIX S 24-105mm F4 MACRO O.I.S. , F16 , 1/50秒 , ISO100 ©Daisuke Fujimura

藤村:僕の得意分野の一つで、トワイライトの時間に撮る夜景というのがありますが、この作品はまさしくそれにあたります。ブルーの空がキレイで、街並みの茶色や黄色っぽいライトもキレイで…。遠景の夜景を撮る時に、一番気になるのが街灯の点光源なんです。点光源が中心のハイライトから周りにかけて色が乗っていて、とくにふわっとしている部分がきちんと美しく表現されている。そんな写真を撮りたいんです。全体の色のバランスも美しいですし、細かい部分までちゃんと描写されているのがこのカメラの凄いところです。これも中判カメラに匹敵するという理由の一つです。

LUMIX S1 , LUMIX S 24-105mm F4 MACRO O.I.S. , F10 , 1/80秒 , ISO200 ©Daisuke Fujimura

藤村:これは北海道の十勝川ですが、-23℃ぐらいかな。涙が凍って瞼がくっつきそうな寒さですよ。そういうところで、川霧(けあらし)が、こう、ふわーっと立ち上って、少し小高い丘や山の中腹にふわりと現れる霧がかった雲とか、ああいう流れが、今この時も動いているように見える感じを撮りたかったんです。もちろんシャッタースピードは早いので、ブレているわけではないのですが、全体的に動いているように感じられて、さらにその向こうの雲、朝日を受けつつある黄色やピンクがかった雲と、その上の水色まで、全て淡い色合いで再現しているんです。ここまで淡い色合いのトーンは正直いって、本当にいいカメラじゃないと出せないですね。

大貝:出ないですよね。

藤村:これは本当に出ないです。

大貝:凄いなって思うのは、現場の空気そのものを感じるというか、本当の意味での空気感っていうね。僕はフォトコンテストの一次審査員もしているのですが、審査する時に、特に風景写真で一番重要視しているのが空気や温度、湿度まで感じられる写真なのかどうか、という点です。空気や湿度まで描けているものと描けていないものが並んでいると、必然的に選ばれる作品っていうのは決まってきます。ご本人を目の前にしていうのも何ですが、この写真はめちゃくちゃ、いいですね。

大貝:この作品はLUMIX S 24-105mm F4 MACRO O.I.S.というレンズを使用しているものです。マクロの機能がついていて、非常に細かいディテールが表現されていますね。

LUMIX S1 , LUMIX S 24-105mm F4 MACRO O.I.S. , F4.5 , 1/640秒 , ISO100 ©Daisuke Fujimura

LUMIX S1R , LUMIX S 24-105mm F4 MACRO O.I.S. , F16 , 1/40秒 , ISO100 ©Daisuke Fujimura

大貝:この二枚の写真は、上の写真が全景で、下の写真はランプの部分を拡大しています。拡大して切り抜いてもとてもキレイで、トーンジャンプを起こしていないんです。

藤村:ランプの白いところが電球の位置ですが、通常は、電球があるところは真っ白になりがちで、色が飛んでしまうのは仕方がありません。問題は色の飛び方なんです。飛んだところから、色が乗っている明るさがあるところまでのグラデーションが出るかどうか。S1Rで撮ると、そのあたりが、非常に滑らかな階調になっているんです。

大貝:技術的なダイナミックレンジの広さもあると思うのですが、実際にはどうなんでしょうか?

角:グラデーションの美しさは絵づくりでこだわったポイントの一つです。LUMIX Gシリーズの静止画ハイエンドモデルに、私が担当したG9 PROというモデルがあります。このモデルは2018年1月に発売しました。それまではLUMIXというと動画のイメージが強かったのですが、G9 PROは静止画にしっかりとこだわった写真機をコンセプトに、絵作りの面でも見直しました。実はその頃から、今回のフルサイズSシリーズ(S1/S1R)を商品化すると決めていて、Sシリーズに繋がっていくように、G9 PROのときに、LUMIXの絵作り思想「生命力・生命美」を確立させました。その場の空気感や湿度感の表現にこだわりましたが、それを表現する上で重要なのが先ほどのグラデーションになります。G9 PROで取り組んだことを、このS1/S1Rでも継承しさらに向上させています。G9 PROはマイクロフォーサーズでしたが、S1/S1Rでフルサイズになったことで画質設計に余裕が出てきました。その結果、従来ノイズリダクションに費やしていた部分を階調表現に活かすことができるようになり、結果としてダイナミックレンジの広い絵作りが実現できていると思います。

大貝:階調感について、ダイナミックレンジという言葉で片付けていいのかはわからないですが、このカメラには他のカメラと比べても、素晴らしいアドバンテージがあると感じるのは、間違いなく「階調感」ですね。階調感があるということは、つまり立体感が出るということ。当たり前ですが、スチール写真は平面で表すものであり、3Dになるわけではないので、いかに平面で奥行きを感じさせられるかがポイントなんです。人物をLUMIXのF1.4の明るいレンズで撮ると、風でなびいた髪の毛がフォーカスポイントから綺麗にボケていくんです。もう、そのボケ方が過去に例がないぐらい滑らかで、柔らかくて、綺麗なんですよ。こう、サラーっとね、髪がまた動くんじゃないかなと思うぐらい、なびくんです。そういった細かいところがしっかりと絵づくりとして表現できる。つまり、写真力が一気に上がるんです。風景にしても、自分の目で見た美しさを誰かに伝えたいから写真を撮るわけでしょう? その時の景色をその空気感ごと切り取って持って帰りたくないですか? 僕は、持って帰りたい派です(笑)

藤村:僕がこのカメラを使って感じたことがズバリそこなんですよ。作家的なことを言うと、この景色をこういう風に表現したい、こういう作り方をしたいという時に、ちゃんとその希望通りに言うことを聞いてくれるカメラじゃないと絵づくりはできないんです。

LUMIX S1 , LUMIX S 24-105mm F4 MACRO O.I.S. , F10 , 1/80秒 , ISO200 ©Daisuke Fujimura

藤村:この作品も、撮って出しです。写真を撮る時、「こんなふうに撮りたい」というイメージを持って、しっかりセッティングをして作業をするわけです。でも、ちゃんとイメージしてきちんとセッティングをしても、その通りに写らないカメラが多いんですよね。だから、こんな風に撮って出しで、思い通りに撮れるカメラというのは、作家の意図をきちんと伝えてくれる優れたカメラだと思いますね。

優れたファインダーから得られる「チャンスの多さ」

大貝:僕も、S1やS1Rは本当にいい凄いカメラだと認識しています。どこまでいっても、我々が求めているものは、あくまで写真機なんです。写真機としての原点をしっかり把握しているカメラでないと、我々も使う気持ちになれない。S1やS1Rが写真機として凄いところの一つがファインダーではないかと思うんですが、それはいかがですか?

藤村:パナソニックというメーカーを知っている方は、いろいろな製品をイメージされると思うのですが、代表的な製品にテレビがあります。テレビを製造しているメーカーだから、こんなにキレイなのか?と思ったぐらい、EVF(Electric View Finder)が良かったんです。僕はずっと一眼レフを使っていましたが、それは生の光が見えるからなんです。今までのミラーレス一眼のEVFは、モニターを見るということなので信用できなかったんですが、S1を構えると、本当にリアルにその時の映像がちゃんと生っぽく、いい感じに見えるんです。

LUMIX S1R , LUMIX S 24-105mm F4 MACRO O.I.S. , F7.1 , 1/80秒 , ISO80 ©Daisuke Fujimura

藤村:たとえば、こういうスナップ写真を撮る時に、単にいい感じに見えるということだけでなく、レスポンスが非常に重要で、ミラーレス一眼の弱点の一つである、撮った後に一回真っ暗に消えてしまうブラックアウトの瞬間がこのカメラの場合ほとんどないんです。だから、すぐに次の撮影にいける。このレスポンスの良さがミラーレス一眼の中ではすごく秀逸で、スナップ写真を撮っていても全然ストレスがありませんでした。ピントが合うのも早いし、ファインダーもしっかり見えて、リアルタイムで撮ることができる。作品を撮るにはすごく都合がいいですね。

LUMIX S1R , LUMIX S 24-105mm F4 MACRO O.I.S. , F4.0 , 1/1000秒 , ISO100 ©Daisuke Fujimura

藤村:この左側に引っかかっている黒い影は、僕のすぐ隣にいた男性の顔です。顏が前後に揺れている状況で、それを女の人と表情や手のしぐさと絡めながら、いい位置にきた時にパシッと撮るっていうね。連写をしながら撮っているのですが、僕の場合、1〜2枚をさっと撮るとき、押しっぱなしの連写ではなく、パッパッパッとシングルシャッターで撮るんです。シングルシャッターで撮る時のタイミングを計る大切な瞬間に、ブラックアウトの時間が長いと、あ、いい!ここ!という時にシャッターを押せなかったりするのですが、そういうストレスが全くありませんでした。

藤村:この作品は、可愛らしい家並みがあるところにカップルが向こうから歩いてきて、いいタイミングで撮りたいなと構えていたら、二人同時に斜め左上を向いてくれた。そのジャストな瞬間を狙ったんです。こういうレスポンスの良さがS1、S1Rの特徴の一つかなと思います。

大貝:僕もLUMIXシリーズを10年使い続けていますが、昨今のEVFの進化は、シャウトを高めてくれるなと実感しています。初期モデルはチャンスを逃すんですよ。チャンスを逃すカメラ=ミラーレス一眼!みたいなね(笑)。だから、僕は当時両目を開けて撮っていたんです。構図を見るだけのただのモニターぐらいしか考えていなくて、両目じゃないと撮りたい瞬間を撮り逃がすと感じていました。昨今、フレームレートのスピードが速くなったのか、ブラックアウトのタイミングの良さとか、映像と実際に目で見ているものが非常に近いなと感じるんですが、やはりそういう進化を遂げているのでしょうか?

LUMIX S1R , LUMIX S PRO 70-200mm F4 O.I.S. , F4.0 , 1/400秒 , ISO100 ©Daisuke Fujimura

高橋:EVFファインダーの良いところは、見たままの情報を露出や表示を変えたまま撮れるので、光学ファインダーにはない特性を持っていることです。ご存知だと思うのですが、この10年、ミラーレス一眼にはいろいろな課題がありました。たとえば解像感がない、像が歪んでしまう、像が遅れて映ってしまう、ブラックアウトしてしまう…など。ミラーレス一眼をやってきたメーカーとして写真機というものをつくりあげる時に、どういうファインダーにしたらいいんだろう?と考えてきた中で、プロのカメラマンが使うカメラとして、「見て疲れないファインダー」をつくりあげたいというのが最大の目標でした。まず、解像度として業界最高の約576万ドット有機ELを採用したファインダーを実現しています。瞳の解像度が、大体600〜700万画素と言われていますので、片目で被写体を見ながら、もう片目はファインダーをずっと覗いていても目が疲れづらいといわれる理由はそこにあります。光学系も徹底的にこだわって、自然な明るさで周辺まで歪みやコントラストの低下がなく、いわゆる目ブレにも強いファインダーとなっています。的確な色再現性と最高フレームレート120fps、かつ最短表示タイムラグ0.005秒による高速表示にも対応しています。また、新開発ヴィーナスエンジンによりシーケンスの並走処理が可能となり、S1/S1Rはブラックアウトも従来よりも高速になりました。

大貝:初期設定での消費電力の問題もあると思うんですが、フレームレートが60fpsになっています。設定を変えて120fps、つまり倍にできるのですが、設定120fpsを初期設定にするには、消費電力上の問題で難しいのでしょうか?

高橋:そうですね。ファインダーを主で撮影される方でも動くものかどうかで60fpsにしたい方、120fpsにしたい方、いろいろおられますので、まずは電力の関係でフレームレートを抑えた60fpsを初期設定としています。

大貝:僕は120fpsに切り替えたままにしていますが、バッテリーがすごく減ると感じたことは一度もないんです。実際、今回のバッテリーの持ちがめちゃくちゃいいなと思っています。

藤村:バッテリー、かなり持ちますね。

大貝:めちゃくちゃ持ちます、お世辞抜きで。実はバッテリーを3本買ったんですよ、絶対に消費するだろうと思って。でも、1日使っても2本目の真ん中ぐらいまでで済むんです。1本、返そうかな。返品できますか(笑)。とにかく、それだけ考えてつくられたカメラだという実感はありますね。いろいろと魅力ある機能を語っていただきましたが、藤村さんはこれからこのカメラでどんな世界を撮っていきたいですか?

藤村:僕は、そもそもライフワークとして夜景を沢山撮ってきているので、このS1やS1Rはすごくいいものだとリアルに実感できました。なので、改めて本気の夜景をしっかり撮りたいと思っています。具体的なイメージが湧いているわけではないのですが、S1で撮るからには、ただの夜景で終わらせたくないという気持ちはありますね。

大貝:写真家がそう思えるって凄いことですね。

藤村:このカメラだけで作品撮りができるという点でも、信頼性が高いですね。

大貝:過去にはないミラーレス一眼と感じるクオリティですよね。あと一つ、僕の持論なんですが、ミラーレス一眼に関する皆さんの誤解を解きたい点があります。ミラーレス一眼は決して小型・軽量のアドバンテージを持っているだけのカメラではないということです。マイクロフォーサーズのセンサーや過去に1インチ型センサーなどをそれぞれのメーカーが出していますが、センサーサイズが小さいものからスタートしているので、小型・軽量であることを重視していると思われがち。ですが、元々ミラーレス一眼の原点は、ミラーがないことでのアドバンテージが大きいわけです。ボディを小さくするための技術=ミラーレス一眼では決してないんです。それを念頭に置いてもらえると、S1やS1Rの価値と未来性と、撮りたいと思うものがきっちり撮れるポテンシャルの高さを感じていただけると思います。ミラーレス一眼=小型・軽量、小型カメラといった風潮がカメラ市場にはあるのですが、あくまでもカメラとして、ミラーがないことで得られるアドバンテージをフルに生かして、どんなカメラをつくっているのかが大切。そこをしっかり見てもらって、カメラを選んでもらえたらいいなと思います。

藤村:本当にそうですね。プロが作品撮りをするためのカメラ=写真機とはどういうものなのか? 僕自身はSシリーズで次世代の夜景の撮影にぜひ挑戦したいですね。プロの現場でも新たなイマジネーションが広がる刺激的なカメラだと思います。

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