テクニクス&パナソニックから、満を持して完全ワイヤレスイヤホンが登場。(Stereo Sound ONLINE)

「RZ-S50W」「RZ-S30W」は個性ある魅力いっぱいの兄弟機だった 掲載元:Stereo Sound ONLINE(2020年3月19日) 執筆:土方久明「RZ-S50W」「RZ-S30W」は個性ある魅力いっぱいの兄弟機だった 掲載元:Stereo Sound ONLINE(2020年3月19日) 執筆:土方久明「RZ-S50W」「RZ-S30W」は個性ある魅力いっぱいの兄弟機だった 掲載元:Stereo Sound ONLINE(2020年3月19日) 執筆:土方久明

イヤホン端子をなくしたアップル「iPhone 7」が登場した2016年頃から、町中で音楽を楽しむ風景は少しずつ変わってきた。今や、スマートフォンやDAP(デジタルオーディオプレーヤー)で音楽を聴く人たちの耳にあるイヤホンは完全ワイヤレスタイプが主流。左右のハウジングを結ぶケーブルを必要としない究極のユーザビリティが魅力で、多くのブランドが参入している。

そして今、満を持してこの一大市場に現れたのがテクニクスとパナソニックだ。テクニクスからは「EAH-AZ70W」が、パナソニックからは「RZ-S50W」と「RZ-S30W」が発表され、一挙に3機種の完全ワイヤレスイヤホンが登場した。

ブランド初の完全ワイヤレスイヤホン開発に際し、3つのコンセプト“Music”“Communication”“Noise Cancelling”を掲げた。Musicは音質向上。CommunicationはBluetoothの接続安定性と、通話品質の向上。そしてNoise Cancellingとは、文字通りノイズキャンセリング性能を更に向上させるための機能だ。このコンセプトを具現化する為に開発された3モデルには、かなり先鋭的な技術アプローチが施されている。

価格的にも上位になるテクニクスEAH-AZ70Wについては、こちらのリポートをご参照いただくとして、ここではパナソニックブランドの2モデルの魅力を探っていきたい。

ノイズキャンセリングやタッチセンサーアンテナなど独自技術満載の「RZ-S50W」

まずはパナソニックブランドから登場した上位モデル「RZ-S50W」を紹介しよう。本製品は“Music”“Communication”“Noise Cancelling”のコンセプトをそのままに、「デュアルハイブリッドノイズキャンセリング」機能や、Bluetoothアンテナ部とタッチセンサーを一体型とした「タッチセンサーアンテナ」、そして左右のイヤホンで直接電波を受ける左右独立受信方式、スマホアプリ「Panasonic Audio Connect」からの調整など、EAH-AZ70Wと同じ機能を継承しながら価格を抑えたハイコストパフォーマンスモデルである。

イヤホン本体は正円形のシンプルなデザインで、ハウジング周囲にはノイズキャンセリング用のマイク孔を表現したオーナメントが施される。本体カラーはブラック/ホワイトの2色。ドライバーサイズが直径8mmとなったことで、ハウジングサイズがEAH-AZ70Wと比べて小型化している。質量は片側約7g。質感や青色LEDの配色などのデザインと、ハウジングの成形精度などのビルドクォリティも良好だ。

なおEAH-AZ70Wの記事でも紹介した通り、「デュアルハイブリッドノイズキャンセリング」技術は、ハウジング外側のマイクでノイズを取り込む「フィードフォワード」回路に演算処理能力が高いデジタル式を採用するほか、耳側のマイクでノイズを取り込む「フィードバック」回路には遅延の少ないアナログ式のノイズ低減機能を採用。

「タッチセンサーアンテナ」は、アンテナ部をハウジング外側に配置。電波の方向性を人体の影響を受けにくい方向に飛ぶようにすることで電波の飛びと安定性が向上する。そして、音量可変や早送り、通話のON/OFFに使うタッチセンサーをひとつのパーツが兼ねるので小型化にも貢献。一石三鳥の設計を技術力で実現したのである。

また、スマホやDAPとのBluetooth通信手段にもメスが入れられ、左右独立受信方式を採用している。実はここも大きなトピック。一般的なモデルが採用するリレー伝送方式は、端末から左右片側のハウジング、そこからもう片方のハウジングへと文字通りリレーのように信号が伝わる。しかし、左右ハウジングの間には頭部があり、電波が回り込みづらく特に片側の音飛びが発生する。これに対して直接左右のハウジングに電波を飛ばすことが出来る左右独立受信方式は、接続安定性が大幅に向上する。パナソニックの左右独立受信方式は、ほとんどの再生機(スマホ)でその恩恵にあずかれる点もユーザーには喜ばれるはずだ。

それぞれの持ち味を活かした、チューニングの業が光る

ビリー・アイリッシュ『バッド・ガイ』を用いてクォリティチェック。アップルの「iPod touch」と「iPhone X」を用い、AACコーデックでBluetooth接続している。

まずRZ-S50Wを聴いたが、かなりバランスのいい音だ。バランスと書くと普通の音だと思われてしまうかもしれないが、そうではなく、高域から低域までの帯域バランスが自然で、分解能も高いが耳に突き刺さるような刺激的な音とは無縁。

つまりRZ-S50Wの音色はクセがなく適度なグルーヴ感を備えている。また、重厚感やサウンドステージの広大さはEAH-AZ70Wに譲るものの、センター定位するヴォーカルの距離感や口元の大きさが適切な範囲に収まっている。この音像表現は意外と難しいので、これだけでもかなりチューニングにこだわったモデルであることがわかる。

機能面では、今回のようにAACコーデック接続時の連続再生時間は、ノイズキャンセリングONでは約6.5時間(OFF時は約7.5時間)と小型の割に電池の持ち時間も長い事が嬉しい。また、15分の急速充電対応で約70分の再生に対応(ノイズキャンセリングON時)。IPX4相当の防滴性能も備える。さらに本モデルも通話品質の向上に力が入れられており、EAH-AZ70Wで採用された「ビームフォーミング技術」と風切り音を低減する「ラビリンス構造」も搭載。実売価格からは考えられない機能性を備えている。

最後は、3モデル中もっともお手頃な「RZ-S30W」を紹介しよう。本機は、エントリークラスながらひじょうに魅力的で、個人的に大きく評価したいモデルである。

まず驚いたのがコンパクトなハウジングとその軽さ。重量は片側僅か約4gしかない。ドライバーはφ6mmダイナミック型で、ノイズキャンセリング機能は非搭載だが、上位モデル同様に「タッチセンサーアンテナ」が搭載されていて接続安定性は高い。まるで耳栓のような小さなハウジングを実現した事で、抜群の装着感で使用できる。

ハウジングのカラーもとてもよい。ブラック、ホワイトに加え、淡くて美しいグリーンがラインナップされ、付属のイヤーチップもS/M/Lに加えXSの4種類が用意されているから、女性にも人気が出そうなモデルだ。さらにこちらは、15分の充電で約90分(AAC再生時)使用できる急速充電にも対応しつつ、IPX4相当の防滴性能も備えているなど使い勝手もよさそう。

そして、もちろん音質も良好なのだ。ビリー・アイリッシュはひと言でいうならフレッシュで躍動感のある気持ちのいいサウンド傾向。絶対的な情報量や重厚感は上位モデルに譲るものの、1つ1つの音の粒立ちがよく、ハウジングの内側にエアーダクトを設けた結果、低域の量感もあり、ノリのいい楽しい音がするのだ。

この音の出方は音楽再生だけではなく、YouTubeなどの動画視聴にも適した明瞭度の高い音として楽しめる。もちろんマイク部分には先述したラビリンス構造を採用しており、通話品質も確保しているところがポイント。ラインナップの中では一番シンプルかつ価格面でも手に届きやすいモデルだが、完成度の高さが印象深かった。

3機種とも、オーディオファンと音楽ファンのどちらも楽しめる完成度だ

今回のEAH-AZ70W、RZ-S50W、RZ-S30Wはいずれも価格対音質の満足度が高く、更にワイヤレス化によるユーザビリティの高さと、ノイズキャンセリング性能、接続安定性、通話時の品質など、まさに完全ワイヤレスイヤホンのアドバンテージを如実に感じる事ができる完成度である。完全ワイヤレスイヤホンは現在の全オーディオジャンルにおいても一番注目と競争の激しい世界だが、そのような中で満を持して投入された3モデルのクォリティの高さには驚くほかない。

その中でもEAH-AZ70Wは音質のよさ、RZ-S50Wは全方位的なコストパフォーマンスの高さ、RZ-S30Wは小型軽量な事による装着感のよさと、聴き心地のいいフレッシュなサウンドを両立している事が強く印象に残っている。つまり、3モデルはキャラクター的なメリットが際立っているのも面白い。

また、ハウジングの成形技術やタッチセンサーとアンテナを統合した技術力、更に効果の高いノイズキャンセリング技術、Bluetoothの安定性を高める独自機能など、開発力のあるメーカーだからこそ実現した独自技術が多数搭載されていることにも驚嘆する。オーディオファイルと音楽ユーザーが求める要素を高い次元で両立した注目新製品と言えよう。