ミシュラン三つ星 日本料理「かんだ」 神田裕行さんが語る、
ごはんへのこだわりとは。
「ミシュランガイド東京」が刊行された2007年以降、継続して三つ星を獲得し続けている名店 日本料理「かんだ」。
神田さんがこだわる炊きあがりの瞬間「煮えばな」とは?おいしさの持続の工夫とは?
進化した炊飯器 ビストロとともに、神田さんに語っていただきました。
神田さんに聞くおいしいごはんへのこだわり
神田さんがお店で提供する「主役」の土鍋ごはん
粒が立ってハリがある筋肉質なごはん
僕にとってのおいしいごはんは「筋肉質なごはん」です。一粒一粒にみずみずしい水分があって膨らみ過ぎていない。それが「筋肉質」であり、大変大事に捉えています。
一般的に言うと、「粒が立っている」「ハリがある」という表現になるでしょうね。
炊き上がったごはんにしゃもじを入れた瞬間に筋肉質かどうかわかります。お米の周りに余分な糊が出てしまうとさくっと入らないんです。
最高の賛辞は「おかずがいらない、ごはんだけでおいしい」
僕は、「ごはん」は主⾷であり、「主役」であると思っています。だからこそ、お客様には「ごはんが⼀番おいしかった」と⾔っていただきたい。⽇本のほとんどの⽅は、毎⽇ごはんを⾷べているので、「そこのお⽶がおいしい」「この⼈が炊いたごはんがおいしい」という違いがわかると思うのです。この国で、シンプルな⽩いごはんで⼀番を取れたら⽇本料理で⼀ 番だと思うから、僕はここに全⼒を注いでいます。「ごはんだけでおいしいね」と⾔っていただくのが最⾼にうれしい瞬間です。
炊き方のこだわり
お米の状態を見極める
収穫したばかりの新米は、お米の中に、お米本来の水分がみずみずしく保たれています。その水分をなるべく失わないよう、精米したてのお米を炊いています。
ただ、秋に収穫したお米を翌年まで同じ状態で保管するのはどんなに工夫してもできません。どうしてもお米自体の水分は失われていくので、その過程に応じて、その日の状態で判断して、炊き方を変えています。
撮影時は5月で気温が高い日だったため、浸水時間は約40分
大切なのはお米の水分量
お米の水分量が最も多い新米の場合は、水をお米に浸透させずにサッと洗ってすぐに炊きます。
浸水は、時間の経過によって失われていくお米の水分を補うためにするので、時期や気温によって最適な水分量になるように調整しています。
細部に宿る火入れの極意
おいしいごはんを炊くためには火加減も重要なポイント。最初は土鍋の中でお米が浮くまで少しずつ火を入れます。その後は強火にして一気に沸騰させる。沸騰した後は水分が飛び過ぎないように火加減を調整してぎりぎりの沸騰をキープします。自分の頭の中で、鍋の中の水分がなくなり、お米がだんだん膨らんでいくのを意識しながら、少しずつ火を弱めていきます。そして最後に30秒だけ強い火を当てて鍋の縁の水分を飛ばし、火を切ります。お米の状態だけでなく、水温や火力といった条件も毎回同じではないので、その都度状況に応じた火加減を細かく調整して炊いています。
⼟鍋の中のお⽶の浮き加減を触ってチェック
つきっきりで細部に気を配る
強火の時間配分も都度調整
水分とお米の膨らみ具合を最終確認
ごはんの匠だからこその加圧
加圧するというところが、実は非常に難しい。鍋の中に水分がある状態の時は加圧できるのですが、水分がなくなると加圧できなくなる。水分が少なければ湯気も少なくなるので、少なくなった湯気を逃がさないようにして加圧するんです。
基本的には、湯気の状態を見ながら視覚で判断していますが、野球のピッチャーがどのタイミングでボールから手を離しているのか説明できないのと同じで、説明するのは難しい。僕の場合は、体がおのずと反応するんです。
蒸気を逃がさないように、⼟鍋の蓋の⽳を箸でふさぐ
神田さんが土鍋で炊いたごはんは一粒一粒にハリのある「筋肉質」なごはん
炊き上がった瞬間の「煮えばな」が格別
お米がご飯に変わるんですよね、水と火を使って。ご飯に変わった瞬間、生まれ変わった瞬間が僕は一番好きで、それを煮えばなって言ってるんです。炊きあがりの瞬間だけが何か違う味を持ってるんですよね。
提供するお食事は“瞬間”にこだわる
土鍋で炊き上がったごはんは、どんどんお米の温度も落ちていきますし、水分も蒸発して奪われていきます。そうなる前の炊き上がりの瞬間が「煮えばな」で、この瞬間にお客様にごはんを食べていただきたい。温度感だったり、お米自体の水分による甘さだったり、そういうものを感じてほしい。そのため、炊き上がりの瞬間に合わせてご提供しています。
新製品のビストロ炊飯コースの企画開発アドバイスについて
自宅では、僕はもちろん炊き上がりの瞬間を狙って食べるんですが、家族全員がそのタイミングでごはんを食べるわけではないので、その時間が長く持続すればするほどいい。つまり、「煮えばな」のおいしさが一番大切だから、炊き上がりの状態を長く維持することが炊飯器に求められているのではないかと。これは土鍋には無理なんです。炊飯器で「煮えばな」のおいしさが持続すれば素晴らしいですよね。
そのためには、保温の進化も大切だけれど、最後の追い炊き、蒸らしの工程で、熱の入れ方を変えるという炊き方の工夫ができるのではという話はさせてもらいました。
神田さんが語る、Vシリーズ(2024年モデル)の炊き立てのごはん
ビストロで炊いたごはんは、必要以上に膨らみすぎていないハリのある「筋肉質」なごはん。一粒一粒に存在感があって本当においしい。一番いいなと思ったのは、炊き上がりのごはんにしゃもじがさくっと入ること。炊き上がりのお米がいろんな方向に独立して立ち上がってできる「カニ穴」がたくさんあるからこそで、おいしく炊けている証拠でもあります。
Vシリーズ 30分経過したごはんの試食
前回のモデルで炊いたごはんよりも、炊き立ての状態からの変化が明らかに少ない。温度が高く保たれていて、水分量も多いですね。プリっとした弾力があって、筋肉質というか、よく締まってますね、米が。みずみずしいし、すごく澄んだ、きれいな味ですね。おいしいです。
2024年モデルで炊いたごはん(左)と2023年モデルで炊いたごはん(右)
神田さんの試食の様子
僕が知る限り、ライバルともいえる炊飯器
⽕⼒が強いだけではおいしいごはんには到達できない。「お⽶の質や量によって炊き⽅を変える」という僕と同じ思想をもった炊飯器が出来たことはうれしいですね。ライバルでもあるかな(笑)
ビストロは僕が知る限り、今までにない、画期的な炊飯器だと思います。
神田裕行さんプロフィール/お店情報紹介
1963年徳島生まれ。
大阪での日本料理修行を経て、1986年渡仏。パリの日本料理店で料理長をつとめる。
1991年帰国し、徳島の名店「青柳」に勤務。同店の東京進出に貢献するとともに、国内外で日本料理の講師として活躍。
2004年オーナーシェフとして「かんだ」をオープン。
2007年『ミシュランガイド東京』発刊と同時に三つ星を獲得し、以後継続。
2010年シェフ仲間とともに安全な食と環境への貢献を目指すNPO法人FUUDOを設立、代表に就任。毎年無農薬の米作りを行っている。農林水産省料理マスターズ第9回(平成30年度)シルバー賞。
2021年後進の手本となるシェフに与えられる、ミシュラン「メンターシェフアワード」世界3人目の受賞者に。著書に『日本料理の贅沢』(講談社)、『神田裕行のおそうざい十二ヶ月』(暮らしの手帖社)。
2022年「かんだ」を元麻布から虎ノ門へ移転。