美髪を叶えるドライヤーを目指す、美容向けナノイーのエキスパート。

木下雅登 木下雅登

パナソニックが誇る、水から生まれた暮らしを快適にするイオン、ナノイー。もともとは空気清浄機のために開発され、その技術を応用して美容家電ではドライヤーやストレートアイロンなどに搭載されています。美容向けの高浸透ナノイーをドライヤーに搭載する開発を担当した木下雅登。その苦労や喜び、そして美容向けナノイーの未来について、聞いてみました。

電気と生物、双方の知識と経験を活かして

私が小学生のころ、家庭用ゲーム機器が世に誕生しました。永遠に遊べる楽しいゲームを生み出す、その機器の中身の方に興味をもち、大学では電気・電子工学を専攻しました。所属していた研究室が松下電工(注:現パナソニック)と共同研究をしていた関係で、電子機器の回路設計技術者として入社することになりました。

…のはずだったのですが、蓋を開けてみれば光技術チームに配属され、光を使った生体刺激技術の基礎研究に携わることとなりました。初代「光エステ」(注:光美容器)の発売までを経験します。これにより、もともと専門だった電気回路だけでなく、生物、生体刺激についても理解を深めることができました。

写真:パソコンを操作しながら、木下雅登さんと2人の白衣を着た男性が話している様子

これらの経験を活かして、放電によって発生させたイオンを生体に作用させる、美容向けナノイーの開発を担当することになったわけです。約12年前のことですね。

高浸透ナノイーの開発に成功!

美容向けナノイーの担当になってから数年は、ナノイーの髪への効果にまつわる基礎研究を行いました。

ナノイーとは、さまざまなイオンやラジカルを内包した、ナノサイズの水微粒子です。針のように細い電極の先端を冷やして結露させ、できた水に高電圧をかけて、ナノサイズの水微粒子を生成します。このとき、放電によって生じるプラズマ領域で生成されるイオンやラジカルを水微粒子に内包させることで、遠くまで届けたり、髪に浸透させたりといった機能をもたせることができます。

イオンと水というとマイナスイオンが思い浮かぶかもしれませんが、マイナスイオンはイオンの周辺に水微粒子が付着している状態であるのに対し、ナノイーは水微粒子がイオンなどを内包しているので、水分の量が多いのが特徴です。

写真:機器を操作する木下雅登さん

発生するナノイーの性質や量は、放電の条件や、作られるプラズマ領域の環境によって大きく異なります。毛髪を専門にした大学教授などの意見を伺いながら、髪に最適なナノイーの研究を重ね、髪への浸透性を大幅に高めた高浸透ナノイーにたどり着きました。ナノイーの発生方式を変えることで、水分発生量が従来の18倍に。髪の内部までしっかり浸透してうるおいを与えるので、髪内部の水分不均衡によるうねりを抑え、なめらかでツヤのある髪に仕上げることができます。

写真:機器を操作する木下雅登さん

その高浸透ナノイーを搭載したドライヤーを、2019年に発表しました。モニターテストでも目に見えて髪のまとまりやツヤ感などが良くなったことがわかっていましたが、お客様からも多くの喜びの声をいただき、非常にうれしかったです。

美容には美容のためのナノイー技術が必要

美容家電に搭載するナノイー技術は、生活家電のそれとは異なります。もちろん基本理論は同じですが、ドライヤーの場合は使用時間が短いので、電源を入れたらそれこそ数秒でナノイーが発生してほしいというニーズがあります。また、髪に熱を与えながら至近距離で使用するために、ナノイーに内包されるイオンやラジカルの量や割合の、最適な条件が異なります。美容機器に適したナノイーとして、安定して発生させる必要があるのです。

ヒーターによって内部温度が変化しやすいドライヤーにおいて、いかにナノイーを狙い通りに安定発生させるかという点は、常に大きな課題です。ナノイーを発生させる電極は1ミリにも満たない細さですし、本当にわずかな条件が変わるだけでナノイーの発生量が何倍にも変わるといった世界なので、バラつきをなくすことには苦労しています。

写真:木下雅登さんが何かを見つめている様子

毛髪の仕組みについて、それに対してどのようなナノイーがどんなふうに作用するか、基礎研究から実際の製品への搭載、モニター調査に至るまで、長年にわたり研究を重ねてきました。ここで得た知見を生かし、さらなるお客さま満足度の高い製品開発を目指していけたらと思っています。

プロフィール

木下雅登(きのしたまさと)

1977年生まれ。大学で電気・電子工学を学び、松下電工(現パナソニック)へ入社後は光を使った生体刺激技術の基礎研究に携わる。双方の知見を生かしてナノイーの開発担当に転身。高浸透ナノイーを搭載したドライヤーを開発。より高性能なナノイーデバイス開発に向けて情熱を燃やしている。

写真:木下雅登さん
  • インタビュー内容は2023年7月現在のものです
  • 「Panasonic Beauty Laboratory」に掲載の情報は、当社の研究や開発の取組み内容です