【獣医師監修】手軽で簡単、いつも清潔に。愛犬のおうちトリミング

トリミングの意義についての監修:箱崎 加奈子先生(獣医師)/
自宅でトリミングをする際のコツやポイントについての指導:根本 裕介さん(プロトリマー)
ライター:UP LIFE編集部
2020年8月4日
ペット

忙しくてなかなか愛犬をトリミングサロンにつれていけない、愛犬が臆病な性格だからサロンに預けるのが心配…。そんなとき、自宅でトリミングができたら便利ですよね。そこで今回は獣医師の箱崎加奈子先生にトリミングの意義を、トリマーの根本裕介さんに自宅でトリミングをする際のコツやポイントを教えていただきました。

愛犬にトリミングが必要な理由とは?

―そもそも、なぜ愛犬にはトリミングが必要なのでしょうか?

箱崎加奈子先生(以下、箱崎):トリミング(動物の毛を刈って整えること)の最も重要な意義は、愛犬の体を清潔に保ち、生活しやすくしてあげることです。例えば、犬種によっては長期間カットせずにいると毛が伸びて目に入ったり、耳の通気性が悪くなって、病気の原因になってしまうおそれがありますし、口や肛門の周りの毛が伸びると、食べかすや排泄物などの汚れが毛に付着しやすくなります。また、伸びた毛がもつれたり、毛玉になってしまったり、季節によっては蒸れてしまって、皮膚トラブルの原因になることもあります。さらに 肉球の周りの毛を伸びたままにしておくと、フローリングなどで滑りやすくなってしまい、危険です。そうならないように、毛が伸びる犬種については定期的なトリミングが必要なのです。ただし、すべての犬種にトリミングが必要というわけではないので、犬を飼い始めるときには、飼おうとしている犬がトリミングの必要な犬種かどうかを事前によく理解しておくことが大切です。

愛犬にトリミングが必要な理由とは?

―トリミングが必要な犬種とそうでない犬種はどうやって見分ければ良いのでしょうか?

箱崎:愛犬の被毛(コート)の生え方は大きく分けると、「ダブルコート」と「シングルコート」とに分けることができます。ダブルコートは被毛がオーバーコート(上毛)とアンダーコート(下毛)の二重構造になっていて、春と秋に換毛します(ただし、最近は気温差の少ない室内で飼育されるケースが増えたため、換毛期がない犬が増えています)。ミニチュア・ダックスフンドやチワワ、コーギー、柴犬やポメラニアン、ビーグルやゴールデン・レトリバーなどが代表例です。
一方のシングルコートは下毛がない一層構造で、換毛期がありません。代表例はマルチーズやトイ・プードル、ヨークシャー・テリア、シーズーなどです。
一般的にダブルコートの犬種の毛は一定の長さまで伸びると伸びなくなり、抜け換わりますが、シングルコートの犬種の毛は人間の髪の毛と同じで伸び続けるため、適宜トリミングをして被毛を適切な長さに切ってあげる必要があります。

―ダブルコートの犬種にはトリミングは必要ないのでしょうか?

箱崎:いいえ。例えばシュナウザーのように、ダブルコートでも毛が伸び続け、トリミングが必要な犬種もいます。また、そうでない場合でも、犬の見栄えをよくするためにトリミングをする方もいます。その際に注意したいのは、ダブルコートの犬種によっては一度短くカットしてしまうと、毛の長さが元に戻りにくい犬種もいるということ。毛を短く切ってしまうと、次に生える毛がうねってしまったり、場合によっては元のように伸びなくなってしまうことがあります。特にポメラニアンやチワワ、ダックスフンドなどで、新陳代謝が落ちた高齢犬の場合は、そうなってしまう可能性が大きいと言われています。
また、最近は暑い時期に被毛を短く刈る「サマーカット」をしている犬も見かけますが、実は被毛を短くカットすることが、必ずしも暑さ対策になるわけではありません。逆に皮膚に直接日光が当たってしまい、かえって愛犬が暑さのダメージを受けやすくなるおそれもあります。さらに、本来トリミングをしないダブルコートの犬にサマーカットをしてしまうと、冬になっても被毛が伸びてこなかったり、均等に伸びずに長いところと短いところがまだらになってしまったりして飼い主さんの悩みになってしまうケースもあるので、注意が必要です。見た目の可愛らしさや手入れのしやすさ、夏の暑さ対策のためにサマーカットを検討している場合は、愛犬本来の被毛の特徴をよく理解した上で、適切なケアをしてあげるようにしてください。愛犬に合ったカットスタイルがわからない場合はトリマーにお任せして、一度カットしてもらうと良いでしょう。

トリミング

自宅で愛犬のトリミングをするメリットは?

―トリミングが必要な犬種の場合は、サロンでプロのトリマーにトリミングを任せるのが一般的ですが、事情があってサロンに行けないときなど、飼い主さんが自分でトリミングをしても問題ないのでしょうか?

箱崎:愛犬と飼い主さんの安全性さえ確保できれば、特に問題ありません。先程も述べたとおり、被毛が伸びすぎると健康上のトラブルの原因になってしまうこともあるので、サロンに行けない時期が続くようであれば、飼い主さんが自分でカットしてあげたほうが良いでしょう。また、いつもはサロンでシャンプー~ドライ~カットをしている愛犬も、気になる箇所だけカットしたい場合は自宅で行うことができれば手軽ですし、高齢犬や臆病な性格でサロンに行くのが不安な犬などは、自宅で飼い主さんがカットできれば安心ですよね。
また、トリミングの時間は愛犬とのスキンシップの時間にもなります。体を触ることは、愛犬との良いコミュニケーションになりますし、ボディチェックができるので体調の変化(皮膚の異常やしこりなど)に気が付きやすいというメリットもあります。

―自宅でのトリミングで気をつけるべきことはありますか?

箱崎:とにかく愛犬にケガをさせないことです。飼い主さんでも簡単に使える安全に配慮されたトリミンググッズを揃え、愛犬の安全が確保できる場所で行いましょう。また、愛犬が嫌がっているのに無理にトリミングをしようとすると、愛犬との信頼関係が崩れてしまうおそれがあるので、要注意。まずは短時間から始め、少しずつ慣らしていくとよいでしょう。
また、飼い主さん自身が必死になりすぎないのも大切です。必死になるあまり怖い顔になってしまうと、愛犬が緊張してしまい、リラックスしてトリミングに臨むことができなくなります。自宅でのトリミングでは完璧を目指す必要はありません。飼い主さんも心に余裕をもって、愛犬とのコミュニケーションの一環として楽しみながら取り組んでください。

プロトリマー直伝! おうちトリミングの基本とポイント

プロトリマー直伝! おうちトリミングの基本とポイント

トリマーの根本裕介さんとカットモデルを務めてくれた梅子ちゃん

―とはいえ、愛犬のトリミングが初めての飼い主さんは、やはり緊張してしまいますよね。ここからはプロのトリマーとして活躍する根本裕介さんに、トリミングを実演していただき、その基本的な手順とポイントを教えていただきましょう。

STEP1 道具を揃える

STEP1 道具を揃える

プロのトリマーはカットのデザインを美しく仕上げるためにハサミを使いますが、家庭では安全性を考慮して設計された、ペット用のバリカンがおすすめ。パナソニックの「ペットクラブ 犬用バリカン」は、全身カット用だけでなく、部分カット用(写真手前)もあるので、足裏や口・肛門の周りなど細かいところも優しくカットできて便利です。何より、皮膚を傷つけにくい設計になっているので、初心者にも安心して使うことができるのが良いところです。

<POINT> 全身カット用と部分カット用を使い分ける
今回は全身カット用と部分カット用のバリカンを併用しますが、全身カット用は毛の流れに沿って、部分カット用は被毛の流れに逆らって使うのが原則。いずれの場合も愛犬の目や鼻、口の粘膜を傷つけないように十分注意して行ってください。

STEP2 毛をきれいにする

STEP2 毛をきれいにする

バリカン使用前は、しっかり毛の汚れを落とすことが大事

バリカンを使う前には、必ず被毛の汚れをしっかり落としてください。被毛に砂やゴミ、毛玉がついていると、バリカンの刃が傷んでしまうだけでなく、愛犬に思わぬケガをさせてしまうおそれも。シャンプー&ドライ後、しっかりブラッシングをして汚れやもつれがないことを確認してから、バリカンを当てるようにしましょう。

STEP3 気になる箇所・汚れやすい箇所の被毛をカットする

STEP3 気になる箇所・汚れやすい箇所の被毛をカットする

口周りなどの細かい部分には、部分カット用のバリカンが便利

サロンでは全身をカットしてもらうのが一般的ですが、自宅では無理に全身のカットをする必要はありません。
まずは気になるところ・汚れやすい箇所の被毛、例えば、汚れやすい口や目、肛門の周りの毛、伸びると滑りやすくなって危険な肉球周りの毛などをサッとカットすることを目指しましょう。

こういった細かい部分のカットには、部分カット用のバリカンを使うのがおすすめです。今回使用したパナソニックの犬用バリカン「部分カット用」は、刈リ高さ(毛の長さ)を1mmにカットできる設計になっているので、汚れが付きやすい部分の毛を短くカットするのに最適。スイッチを入れたら、毛の流れに逆らって当てていくと、きれいにカットできます。
なお、愛犬が嫌がる場合にはすぐにカットをやめ、プロにお任せすることをお勧めします。無理やりやろうとすると犬が暴れ、眼球や唇を傷つけてしまうおそれもあるので、注意しましょう。

<POINT> バリカンの音や振動に慣れさせよう
慣れないうちは、バリカンの音や振動に驚いてしまう愛犬もいます。まずは電源を入れ、音に慣れさせましょう。その後、電源をいれたバリカンの「刃」ではなく「本体部分」で犬の体に触れ、振動に抵抗がないかを確かめます。こうして音や振動に慣れることができたら「刃」を当てる、というようにステップアップしていくと良いでしょう。

STEP4 胴体部分や足の被毛をカットする

STEP4 胴体部分や足の被毛をカットする

全身カットでは、毛の流れに沿ってカットする

次に、胴体部分や足の被毛をカットする際のポイントですが、この場合はより広い面積をカットするので、「部分カット用」ではなく、「全身カット用」のバリカンを使います。「全身カット用」のバリカンは毛の流れに沿って当てるのがポイント。

<POINT> アタッチメントで好みの長さに
パナソニックの犬用バリカン全身カット用には、「刈り高さ」(毛の長さ)3mm/6mm用と、9mm/12mm用の2種類のアタッチメントが付いていて、愛犬の毛質や飼い主さんの好みに応じて、刈り上がりの毛の長さを調節することができます。ちなみに、この全身カット用バリカンの場合、アタッチメントなしで使うと、部分カット用バリカンと同じく、「刈り高さ」が1mmになってしまいます。一般的には、全身の毛が1mmになると短すぎるので、全身をカットする場合は、原則としてアタッチメントをつけて使用しましょう。

脚も毛の流れに沿ってカット

脚も毛の流れに沿ってカット

STEP5 カットした毛を取り払って、完成!

STEP5 カットした毛を取り払って、完成!

プロトリマー根本さんのトリミングを終え、すっきりした表情の梅子ちゃん。
※写真のモデル犬は、バリカンで刈った後にハサミで仕上げています。

最後に、カットした毛をきれいに取り払えば、おうちトリミングは終了!プロのトリマーの場合は、このあとデザイン性を良くするためにハサミで整えますが、飼い主さんがそこまでやる必要はありません。むしろ、短時間でササッと終わらせることによって、愛犬にトリミングの苦手意識を植え付けないようにすることが大切。特に愛犬が嫌がる場合は、STEP2~4をすべてやる必要もありません。例えば口や肛門のまわりなど、汚れやすいところだけカットしてあげるだけでも、十分です。
おうちでのトリミングは、愛犬とのコミュニケーションの一環と考え、飼い主さんも愛犬も、無理なく楽しく行うことが大切です。愛犬の様子を見ながら、まずは簡単なところからチャレンジしてみましょう。

―根本さん、ありがとうございました。カットモデルを努めてくれた梅子ちゃん、バリカンカットで見違えましたね。

まとめ

バリカンと言うと、短く刈り過ぎてしまうのではないかと不安に思う飼い主さんも多いかもしれませんが、全身用と部分用、そしてアタッチメントを上手に使い分ければ、思ったよりも簡単に好みの長さにカットできるんですね。皆さんもぜひ、バリカンを使って、愛犬のおうちトリミングにチャレンジしてみてくださいね。
なお、自宅でのトリミングをする頻度やタイミングなどに特別なルールはありません。愛犬の毛の長さや汚れが気になるときに、適宜カットしてあげれば大丈夫。ただし、ブラッシングやスキンシップは毎日してあげましょう。少しの時間でいいので、愛犬と触れ合うスキンシップの時間を持つことで愛犬との信頼関係が育まれ、トリミングもやりやすくなるはずです。
おうちでのブラッシングや顔周りのケアなど「おうちグルーミング」の知識もあると、より快適な愛犬ライフを送ることができますね。

 

<関連リンク>

愛犬のケアは、日頃の“グルーミング”も大切。おうちでできる正しいブラッシングの方法や、お顔周りのケアのやり方を知って、愛犬の身だしなみUPや健康管理に役立てましょう。

トリミングの意義についての監修

箱崎 加奈子先生(獣医師)

箱崎 加奈子先生(獣医師)

獣医師、トリマー、ドッグトレーナー、アニマルアロマセラピスト。一般社団法人女性獣医師ネットワーク(代表理事)。東京でペットのためのトータルケアサロン「ペットスペース&アニマルクリニックまりも」を経営。毎日足を運べる動物病院をコンセプトに、病気の予防、未病ケアに力を入れ、気になったときにはすぐに相談できるコミュニティースペースを目指し、家族、獣医師、プロ(トリマー、動物看護士、トレーナー)の三位一体のペットの健康管理、0.5次医療を積極的に提案。プライベートでは一児の母。愛犬はシーズー。

自宅でトリミングをする際のコツやポイントについての指導

根本 裕介さん(プロトリマー)

根本 裕介さん(プロトリマー)

ペットハウス「シアンシアン」オーナー、トリマー。
専門学校のドッグトレーナー科を卒業後、トレーナーの目線で考えられるトリマーを目指し、トリマーとして就職。もともと猫好きなこともあり、猫のトリミングも数多く手掛け、猫と犬のアプローチの仕方の違いなど、プロ向けの猫のグルーミングセミナーを日本各地で開催。多くのトリマーが集う新年会など交流会企画も数多く手掛け、技術や考え方の違うトリマー同士の絆を深めるなど、業界の発展を目指す。TVチャンピオンペット屋さん選手権準優勝、JPFドッグスタイリストショー2015関東代表キャプテン優勝、TVチャンピオン極ネコ通選手権3位。

2020年8月4日 ペット

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