健康と天気 第2回「気温差による体調不良を予防する!私たちにとって「快適」な服とは?」

監修:田村 照子(たむら てるこ)
ライター:UP LIFE編集部
2021年2月22日
健康

1日の気温差が大きい春先。朝の寒さに怖気付いて、しっかり着込んで出たら、昼は予想以上にあたたかくなってしまった…。そんな経験は1度ではないはず。気温や湿度、そして気圧の急激な変化は「気象病」といわれる体調不良を起こしやすいと“健康と天気“の第1回目ではご紹介しました。
今回は、外気の変化から身体を守るための衣服について、医学博士の田村 照子先生に教えていただきました。

人にとって快適な温度とは?身体×温度にまつわるメカニズム

人が暑さや寒さを感じるとき、身体の内側ではいったい何が起こっているのでしょうか?
医学博士の田村 照子先生は、人が快適に感じる温度とは衣服を着ないでじっとしている場合、気温28℃±3℃の狭い範囲だと話します。

「身体には常に体温を一定に保とうとする機能があり、外気温の変化に応じてさまざまな手段を講じています。
暑さや寒さ、快適という感覚は、このような体温調節反応と深く結びついていて、体温が上がりそうなときは暑く感じ、下りそうなときは寒く感じます。」と田村先生。

具体的には、どのような反応が起こっているのでしょうか?

私たちは日々食べ物を摂取し、呼吸で取り込んだ酸素でこれを燃やすことによって、身体の中で熱をつくりだす「産熱(さんねつ)」を繰り返しています。

一方、身体の表面からは体温より温度が低い外気に向けて、絶えず熱が奪われる「放熱(ほうねつ)」が起こっています。

この産熱と放熱のバランスが、以下のようになると、人は暑さや寒さを感じます。

産熱<放熱(つくりだす熱より、放つ熱のほうが多いので体温が下がる状態)→寒く感じる
産熱>放熱(つくりだす熱より、放つ熱のほうが少ないので体温が上がる状態)→暑く感じる
放熱=産熱(つくりだす熱と放つ熱が同じ量なので、体温が一定に保たれる)→熱くも寒くもなく、快適に感じる

体には、無意識下に、このバランスをとるための仕組み「自律性体温調節」の機能が備わっているのです。

手足の末端に存在する「動静脈吻合」による「自律性体温調節」

動脈 静脈 毛細血管 バイパス(動静脈吻合) 暑いとき:バイパスが開く→皮膚血流が増加→放熱して体温上昇を抑える、寒いとき:バイパスが閉じる→皮膚血流が減少→手足が冷たくなって放熱を抑える

それでは、この自律性体温調節は、身体のどの部分でいかにして行われているのでしょうか?

普段、寒さを感じると、真っ先に足先が冷えてこないでしょうか?これは、末端の血管を閉じることによって、外気温と身体の表面温度の差を小さくし、放熱を防ごうとする身体の生理反応の1つです。

特に手足には、動脈と静脈をつなぐバイパスである、動静脈吻合(どうじょうみゃくふんごう)という機構が多く存在し、寒いときにはこのバイパスが閉じて皮膚血流が減少するため、手足が冷え、放熱が抑えられます。

逆に暑さを感じると、バイパスが開いて皮膚血流が増すため、手足が温かくなって身体の熱が放散され、体温の上昇が抑えられるのです。

この動静脈吻合による調節で体温が維持できる範囲では、暑くも寒くもなく快適でいられますが、その範囲を超えると身体の反応は次の段階に進みます。

暑さ・寒さと生理反応―衣服による調整

皆さんは、暑くなると「汗」をかきますよね。

動静脈吻合を開いても放熱しきれず、熱が身体にたまる段階になると、自然に汗がでてその蒸発熱で体を冷やします。これも自律性体温調節反応です。

この段階では、気温が高く汗を多くかくほど暑さを感じ、服を脱いだり冷たい水を飲むなど、体温を下げる行動を起こします。

一方、寒さが厳しいときには、手足がかじかんだり、体が硬くなったり震えたりします。

動静脈吻合を閉じても放熱が大きく、体温が下がる際は筋肉を収縮させることでエネルギー代謝を上げ、一気に産熱を増やします。
これも自律性体温調節反応です。

この段階では、気温の低下とともに寒さが強くなり、服を着たり、ストーブに当たる、温かいものを食べるなど体温を上げるための行動を起こします。

つまり、服を着こんだり、逆に脱いだりするのは、体温が上がったり下がったりしないための行動で、「暑い・寒い」という感覚は、体温調節行動を起こさせるサインなのです。

服の選び方も、これらの一連の「暑さ・寒さ」に関する身体の変化、そしてメカニズムを理解すると変わってくるはずです。

なぜ服は繊維でできている?空気が持つユニークな性質を利用する

突然ですが、なぜ衣服の素材に繊維が選ばれてきたのか、わかりますか?
改めて考えると、これだ!という説明が難しいかもしれません。

繊維はやわらかく、肌にやさしいからでしょうか?
繊維の多様性がさまざまなデザインやカラーを反映できるからでしょうか?

もちろん、それも一理あります。
ですが、もっとも重要なのは、体温調節の手助けになるという点かもしれません。

保温の秘密は、繊維の隙間の空気

保温の秘密は、繊維の隙間の空気

「実は空気には、様々な物質の中で最も熱を伝えにくい性質と、ものに張り付く粘性があります。空気は、衣服につかわれる繊維1本1本の表面にまとわりつき、“静止空気”として留まります。

その“静止空気”こそが、保温の秘密。寒さに凍える状況で、身体を温めるためには体の表面を静止空気で覆って、外への放熱を防ぐための『断熱』を行うのが正解です」と田村先生。

繊維はその細さゆえに、熱を伝えにくい静止空気を多くキャッチアップするというわけです。

繊維が細かい服ほど温かい

ちなみに繊維は、細ければ細いほど体積当たりの表面積が大きいため、静止空気を多く留めるそう。同じ毛でもカシミアはメリノより非常に細いので、軽くてあたたかいのです。

また、冬の防寒具の代名詞ともなっているダウンジャケットは、羽毛の中綿を緻密な織物ではさんだもの。
羽毛の毛先は細かく枝分かれしていて、あたたまると毛先が広がるためそこにたくさんの空気が絡まります。

ダウンは毛皮よりもあたたかく、何よりも軽くて快適。
防寒着としては、もっとも効率の良い選択肢といえるでしょう。

気温差を防ぐために。最適な服を選ぶ!

これまでお話しした産熱と放熱の関係性や、静止空気のしくみを考えると、“最適な服選び”の基準は、おのずと決まってきます。

夏場は、体から出る熱や汗が出ていくのを邪魔しない服が最適です。
先ほど、静止空気は最も優れた断熱性を持つと述べましたが、反対に、流動する空気(風)は、熱と水蒸気を最もよく放散してくれます。つまり夏は、衣服の中に風を入れる服―通気性に優れ、開口部が空いた服がおすすめです。さらに、吸水・吸湿性があり、放湿性が高い生地であればより快適に過ごせるはずですね。

反対に、冬は、静止空気で放熱を防ぐ(断熱する)服が前提です。

それでは、身体をあたためたい時には、まずどこを温めればよいのでしょうか?

体を温めるときは、体幹部から

田村先生は、その答えを「体幹部」だといいます。

「身体の中で一番冷感受性の強い部位は、顔です。
ですが、顔は冷たくてもあまり気にならないですよね。

顔は、外気温を感受するアンテナの役目を果たしており、動静脈吻合の開閉など体温調節へのサインを送ります。

一方、顔の奥の脳には体温調節の中枢(司令塔)があり、脳はからだ中で一番大切な臓器ですから、体のどこよりも優先的に温かい血液が供給されます。

また、体幹部にはその血液を送り出す心臓や、生命を守るための重要な臓器がありますから外気の変化があっても、これらの部位の体温は優先的に守られなければなりません。

手足を冷やしても体幹部皮膚温への影響は少ないのですが、体幹部を冷やすと、手足・腕脚の皮膚温にまで全身的に影響が及ぶことが実験的に確認されています。

つまり、寒さ対策は、まずは体幹部の保温を優先する必要があります。

この時、体幹部であたためられた衣服内の空気は軽くなり、襟元から逃げていくので、寒さが続く春先はスカーフやタートルネックのセーター、コートの襟などで服の開口部を塞ぐと、有効に暖をとることができます。

ただし、空気は温度で比重が変わり、室内でじっとしている場合は、床面近くの温度が低くなりがちです。
こんな場合は足元の保温にも配慮が必要ですね。」

急な気温変化にも対応できる服装とは?

Point1:ベストを着用している女性のイラスト、Point2:マフラーを首に巻いている女性のイラスト

春先の安定しない気温、そして、気象病の患者さんが怖れる劇的な気温差。
日中はポカポカしていたと思ったら、陽が傾くと同時に寒さが増していく。そんな日が多い春先の気候でも快適に過ごせる服装とは、どのようなものでしょうか?

【ポイント1】体幹部を守れるベストをスタイリングに取り入れる

体幹部を守れるベストを着ておくと、日中にコートを脱いだとしても体幹部が守られます。ベストなら着膨れもせず、普段のコーデにプラスしやすいですね。
流行りの薄手のダウンベストなら、ニットの上に羽織るだけで気軽にあたたかさを保つことができます。

【ポイント2】急な冷えを想定して、マフラーなどの小物を持ち歩く

マフラーは、体幹の開口部にあたる首もとを守るのにぴったりのアイテムです。巻き方は、あたたかい空気が漏れないようきつくねじるのではなく、まとわりつく静止空気が多くなるようふわっと結ぶのがおすすめです。

まとめ

気候の変化や気象病の予防には、自分の感覚を大切にしながら、シーンに合わせ簡単に着脱できるスタイルを選びましょう。
自分にとって扱いやすい素材を知ることも大切です。衣服をデザインだけでなく、機能面でも楽しむ。
そんな感覚になれれば、この春先も安心感をもって過ごせるでしょう。

監修

田村 照子(たむら てるこ)さん

田村 照子(たむら てるこ)

医学博士。文化学園大学名誉教授。お茶の水女子大学大学、順天堂大学解剖学教室助手を経て、1968年から文化学園大学教員に。文化学園大学教授や同大学院生活環境学研究科長、文化・衣環境学研究所長を歴任。衣服の機能性と医学知識を合わせた被服衛生学の第一人者として、メディア出演も多数。著書に「衣服と気候」(気象ブックス)など。

2021年2月22日 健康

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