耳のトラブルシリーズ 第3回「音楽が難聴をやわらげる!?聴力を回復させる音楽で、耳の健康を保つ方法」

監修:岡本 秀彦(おかもと ひでひこ)
ライター:UP LIFE編集部
2022年3月1日
健康

先天性や加齢で患うことが多い難聴。実は難聴から認知症に発展することもあるといいます。

耳のトラブル企画の3回目は、難聴と健康の関係を紐ときます。監修は、国際医療福祉大学の岡本 秀彦先生です!

難聴は認知症の入り口?

写真:女性が耳がに手をあてているイメージ

「まず、難聴は大きくわけて2種あります。1つは伝音難聴。もう1つは、感音難聴です」と岡本先生。

伝音難聴は、センサーの役目を果たす蝸牛(かぎゅう)に音波が入る前の段階で問題があると起こります。音が聞こえづらくなりますが、神経はダメージを受けていないので、手術等で治るのが特徴です。逆に感音難聴は、蝸牛の神経やその奥の中枢神経に問題が起こる難聴。以前の記事にもあったイヤホン難聴メニエール病も感音難聴で、一度かかると治療が難しくうまくつきあっていくことが求められます。

これらの難聴は、根本的にはどなたでもかかる可能性があるものです。それぞれの難聴で困りごとも異なりますが、岡本先生は、聞こえ方に不自由があると認知症や鬱症状につながるおそれがあると話します。

なぜ、聞こえ方の問題が、認知症や鬱につながっていくのでしょうか?

難聴と認知症の関係

「難聴になると、聞こえづらさの問題からコミュニケーションに自信がなくなっていきます。すると会話の量が減りますし、人はコミュニケーションで頭を使う動物なので、結果的に頭を使わない状態がつづくことになるんです。使わない機能はどんどん低下していきますから、最終的に認知症のような状態になることも多いんです」と岡本先生。

そのほか、聞こえづらさがあると車のクラクションが聞こえず、事故に遭いやすかったり、仕事などでコミュニケーションがとりにくくパフォーマンスが落ちていくことも。

「海外の50代の方の補聴器使用率は、日本よりも断然高い。海外では、会議やパーティでビジネスチャンスを得ることが多く、聞こえに問題があると不利になりやすいという考え方が一般的なんです。ですので、補聴器は自己投資と考えられています。日本では補聴器にややネガティブな印象がありますが、最近のデジタル補聴器はワイヤレスイヤホンのような耳穴式もあり、見た目のイメージも改善していると思います」。

音楽が難聴を回復させる?難聴に効く音楽とは?

写真:外国人男性がピアノを弾こうとしてるイメージ

驚くことに、難聴には「音楽」がよいといいます。難聴と音楽の関係についての研究する岡本先生は、音楽をきくことで脳の活性化につながると話します。

「ある実験で、突発性難聴の方に周波数体系の広いクラシック音楽を約1週間聴いてもらいました。音楽を聞くと、ドーパミンなどの脳を活性化させる神経伝達物質が出て、良い刺激になります。その結果、脳の機能を良い方向に変化させることができるのです」と岡本先生。

はじめて聞いた曲でも、なんとなく耳に残り、口ずさんでしまうなんてこともありますよね。音楽は記憶に残りやすく、脳にとっても非常に学習効果が高いということ。それだけ脳に与える影響も大きく、神経系に問題が生じている感音難聴の回復も助けるのです。

自分の好きな曲で良し!手軽で楽しい音楽療法

また、この音楽療法の優れたところは、クラシック音楽だけでなく、自分の好きな音楽を聞くスタイルで良いところ。クラシック音楽は高低さまざまな音が重なり合っているので、それだけ脳への刺激のバランスも良いということですが、自分の好きな曲を、自分の好きなときに聞くという形でも効果があるといいます。

「たとえば1日5時間とか、長時間にわたって接していてもつらくなかったり、飽きないで聞ける音というのはなかなかありません。音楽なら仕事や移動中のBGMにすることもできますし、聞いているうちに時間がたっていますよね。聞く音楽は、明るい曲でも暗い曲でも、どんな速さやリズムでも、まず好きだと感じられるものをおすすめします」。

耳の健康を保つために。耳にやさしい音楽の聞き方

写真:女性が部屋でヘッドホンをしながら音楽を聴いてるイメージ

耳の症状をやわらげるためには、音楽の聞き方にも注意が必要です。
以下は、音楽を活用するときの注意点です。

【音楽を活用するときの注意点】

  • 音楽は好きな曲を
  • 音楽を聞く頻度は、多ければ多いほど良し(BGMとして活用するのがおすすめ)
  • 集中して聞いても、ながら聞きでもOK
  • 大音量で聞かない
  • 電車の中や騒音が大きい場所では、ノイズキャンセリング機能をつかい、音量が大きくなりすぎないようにする

音量が大きすぎないようにする

一番大切なのは、音量。大きすぎる音は、耳の健康どころか害になってしまいます。

「音量の大きさは、要注意です。雑音がない環境で聞いて、反射的に大きい!と感じる音量は、NGということ。逆に音楽と接する機会に大きな音を好むようになったら、聞こえ方に問題が出ている可能性もあります。また騒音下ではボリュームをあげてしまいがちですが、ノイズキャンセリング機能をうまく使って!今はイヤホンも高性能のものが多く出ているので、自分に合ったものを選びましょう」。

岡本先生によると、イヤホンだけでなく、オーディオ機器やスピーカーも、音源がもつ幅広い音を拾えるものがよいとのこと。音の周波数が広い方が脳に与える刺激も多いのです。

「人にとって、無音の環境というのは、不自然です。音が入ってこないというのは、それだけ脳への刺激も少ないということ。脳への刺激がなければ、機能はどんどん落ちていってしまいます。意味のある音(自分の好む音楽や言葉)をしっかり聞いていくことが耳と脳の健康につながっていくはずです」。

監修

写真:岡本秀彦(おかもと ひでひこ)さん

岡本 秀彦(おかもと ひでひこ)

国際医療福祉大学医学部教授。医学博士。大阪大学医学部を卒業後、同大学大学院を修了。同大学付属病院、大阪船員保険病院を経て、トロント大学ロットマン研究所、ミュンスター大学生体磁気研究所、自然科学研究機構生理学研究所などで研究に勤しむ。ヒトの神経活動が疾病や障害でどのように変化するのか、その神経メカニズムを調べて明らかにすることで、不適切な脳活動を改善する新しい治療に繋げていきたいと考えている。2014年、文部科学大臣表彰若手科学者賞受賞。2017年より、現職。

2022年3月1日 健康

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