「電力ひっ迫」はなぜ起こる? 電力不足の理由と家庭でできる省エネ対策

電力不足の原因と今後についての監修:和田 隆昌(わだ たかまさ)/家庭でできる省エネ・節電対策についての監修:藤原 千秋(ふじわら ちあき)
ライター:UP LIFE編集部
2023年3月8日
空気

電力不足の問題が深刻さを増す昨今。2022年の春には電力需給ひっ迫警報が、夏には注意報が発令されたことも記憶に新しく、今後も見透しが厳しい状況にあると言われています。そもそも電力需給がひっ迫するのはなぜなのでしょうか? そして私たちにできる省エネ・節電対策は? それぞれの専門家にお話をうかがいました。

電力需給がひっ迫するのはなぜ? その弊害は?

写真:電球

まずは電力需給ひっ迫について、災害危機管理アドバイザーの和田隆昌さんに聞いてみましょう。

電力需給ひっ迫って何? どんな状況を指すの?

「電力需給ひっ迫とは、発電による供給電力に対して需要電力が大きくなり、供給の上限に迫っている状況のこと。基準となるのは安定供給に必要な予備率で、これが3%を下回るか、下回ることが予想されると“ひっ迫状況にある”と言われます」

2022年3月と6月には電力需給ひっ迫警報・注意報も発令

2022年3月22日、政府から初めて発令された“電力需給ひっ迫警報”。さらに同年6月27日には、“電力需給ひっ迫注意報”も発令されています。この直接的な原因は「福島県沖で発生した地震による火力発電所の停止にある」と、和田さん。

「2022年3月16日深夜、福島沖で発生した地震は、多くの火力発電所で緊急停止を引き起こしました。復旧に時間がかかっている間に気温が低下したことで、電力の需要が急激に増大。この状況を受けた政府から“電力需給ひっ迫警報”が発令され、節電が呼びかけられることになったのです。

火力発電所の再稼働と修理が進まない中、6月27日に発令されたのが“電力需給ひっ迫注意報”。こちらの原因は、全国各地が梅雨明けを迎え、猛暑日が続いたことで電力の需要が急上昇したことでした」

※電力需給ひっ迫注意報……前日の段階で安定供給に必要な予備率が5%を下回ると予想される場合、午後4時をめどに「電力需給ひっ迫注意報」が発令される

電力需給のひっ迫は何を引き起こす?

大規模停電(ブラックアウト)を防ぐために発令される、電力需給ひっ迫警報や注意報。発令されるとどのようなことが起こるのか、具体的な流れを和田さんに聞きました。

「電力の需給がひっ迫すると、まずは経済産業省の管轄となる資源エネルギー庁から“電力需給ひっ迫警報”が発令されます。その後はひっ迫状況に応じ、一般市民や大規模に使用している工場などに節電を要請。それでも足りない状況になると、東日本大震災の際に実施されたような計画停電が行われますが、うまく機能しなければ大規模停電のリスクが高まると考えられます」

発電所の停止だけじゃない! 電力需給ひっ迫の原因

写真:発電所

2022年春・夏は火力発電所の停止が理由でしたが、電力需給ひっ迫を引き起こす要因はこれ以外にもさまざま。たとえばどのようなことがあるのか、和田さんに教えてもらいましょう。

①災害による発電所の停止やトラブル

「近年は中規模~大規模の地震により、火力発電所の停止が多発しています。この要因のひとつは火力発電所の老朽化ですが、一方で耐震化も課題ですね。このほか、台風や大雨による浸水の場合にも発電所、変電所などの機材に影響が出ることもあります」

②火力発電所の相次ぐ休廃止

「廃炉の要因にもなっているのが、火力発電所の老朽化。また、世界的な脱炭素化の流れから、火力発電によるCO2の排出にも厳しい目が向けられているのが現状です」

③記録的な寒波や猛暑の発生

「季節外れの寒波や猛暑といった異常気象も、電力をひっ迫する要因の一つです。冬季、夏季のエアコンの使用状況は電力需要の急激な拡大につながり、近年は都市部での需要拡大も拍車を掛けています」

④ウクライナ情勢の悪化による発電用燃料の調達難

「化石燃料の輸出国であるロシアからの調達を段階的に制限していることで、世界的にもエネルギー価格が上昇。日本も割高の化石燃料を他国から購入することになりますが、万が一、必要量が調達できなければ当然、電力需給のひっ迫に陥ってしまいます」

⑤原子力発電所の停止や再生エネルギーへの転換

「そもそも原子力発電所の稼働停止がひっ迫の大きな要因ですが、再稼働、ましてや新設は事故のこともあってハードルは高いですね。風力、太陽光、地熱など代替エネルギーなどにシフトすべきでしょうが、こうした次世代の自然エネルギー利用への転換はあまりに遅れているのが現状です」

電力不足の問題、今後はどう動く?

写真:雪景色

「慢性的な日本の電力不足は、根本的な解決策がとられていません」と、和田さん。

「電力需給ひっ迫の問題が、すぐに解消するとは考えにくいですし、戦争などによるエネルギ―価格の高騰も看過できません。調達国とトラブルがあれば、すぐにエネルギー危機に陥ることも考えられますね」

電力不足解消に向けて、最初の一歩を踏み出そう

この冬の厳しい電力供給に対応するため、政府は家庭や企業を対象に節電を要請しています。電力の安定供給に最低限必要な3%は確保できるという見解を示しましたが、決して安心はできないということ。私たちも引き続き、無理のない範囲で節電を心がけていきたいものです。

「あまりに古い家電を使い続けていると、それだけで電力消費量が大きくなっていることもあります。省エネ家電を使用すれば、数年で元をとれるほど光熱費が抑えられることを知っていただきたいですね。まずは自分の使用している家電と、現在の省エネ家電の電気消費量を比較してみることから始めてみてはいかがでしょうか?」

電力需給ひっ迫を回避するために。家庭でできる節電行動

写真:ストールを羽織る女性

家電の見直し以外にも、私たちにできることはまだまだあるはず。続いては、具体的な省エネ・節電の手法を、暮らしまわりの専門家である藤原千秋さんに聞きました。

冬の節電を考える前に実践したい節電行動は?

まずは藤原さんに、季節を問わずに実践できる節電の手法を教えてもらいましょう。

「最初にしておきたいのは、日々の電気代を把握すること。基本料金と電気の単価を把握し、何日でいくらかかっているのかを可視化すれば、何に電気代がかっているのかも見えてきます。

また、照明も意外と電気代がかるため、省エネできるLEDタイプに交換するのがおすすめ。使っていない場所のあかりを消すのも大事ですが、防犯上、明るくしておく必要がある場合は、周囲の明るさでオン・オフを自動制御するセンサーライトを活用しましょう。また、人の動きで自動制御する人感センサー付き照明をトイレや廊下などに導入すれば、消し忘れを予防できて便利です」

冬も湿度コントロールで体感温度をアップ

続いては、冬ならではの節電方法。まずは湿度コントロールの考え方です。

「湿度を下げることで夏の蒸し暑さを軽減できるように、冬も湿度をコントロールすることで暖かく感じられます。部屋に温湿度計を置き、常日ごろから温度と湿度はチェックしたいですね。加湿機を利用したり、部屋干ししたりすることで、湿度45%〜65%を目安にコントロールしましょう。また、結露を起こさない限り、湿度の高い空気は部屋の上にたまるので、サーキュレーターを真上に当てて空気を循環させると、部屋の温度ムラも同時に解消できます」

冷蔵庫の設定は「弱」に変更

「意外と見落としがちなのが、冷蔵庫内の温度設定です。気温の低い冬は、基本的に“弱”にすると良いでしょう。ただし、冷蔵庫の大きさなどによっても変わるので、説明書で推奨される設定を確認してください」

寒いなら1枚羽織ってみる

「衣類による体温調節は不可欠。暖房を使いながらTシャツ姿……なんて、節電とはほど遠いスタイルです。いつもより1枚多く羽織ったり履いたりすれば、+1〜2℃は補完できるはず。子どもは服装の判断がうまくできないこともあるので、大人がちゃんと見てあげましょう」

ピンポイントで暖かくなる電気毛布のススメ

「この冬、私がイチオシしているのは電気毛布です。製品にもよりますが、電気代は1時間あたり1円程度なので、暖房の温度設定を上げるよりもリーズナブルで効果的。暖房をつけているのに足だけが冷える……なんてときにぴったりで、仕事中など、これを膝掛けのようにして使っています。大きさ的には、掛け敷き両用タイプがおすすめ。洗濯できる製品もいろいろあるので、ぜひお試しください」

エアコン暖房の賢い使い方と、暖めた空気をムダにしないコツ

写真:エアコンをつける女性

エアコンをはじめとした暖房器具を節電しながら使うには、どのようなことに気を付ければ良いでしょうか? 藤原さんにアドバイスをもらいました。

設定温度に頼りすぎず、体感を大切にする

「部屋にいる人数が多ければ、室温も上がるもの。高性能なエアコンならそれらも考慮して自動で運転を行いますが、そうでないモデルもあるので、温湿度計をチェックしつつ体感温度で設定することも時には必要です」

暖房はできるだけひとつの部屋で

「冷房でも言えることですが、意味もなく別々の部屋で暖房を使うのはもったいないですよね。無理のない範囲で同じ部屋に集まった方が、節電効果は高いと言えます」

部屋から逃げる熱を抑える方法

「断熱性能の低い窓は熱の出入りが大きいため、せっかく暖めた空気が外へ逃げることになります。カーテンを閉めるだけでも大きく変わりますが、より効果を高めたいなら断熱カーテンを活用しましょう。レースカーテンと窓の間に下げることで断熱性能が高まるので、窓はもちろん扉のない階段などにもおすすめです。

なお、冷気は下に移動するので、丈は床に余るくらい長めの方が効果的。窓に使う場合はカーテンの間に空気層ができるため、結露の軽減効果も期待できます。“だまされたと思ってやってみたらすごく良かった!”という声もよく聞かれるので、ぜひお試しいただきたいですね。このほか、ワンルームの場合は、玄関ドアの冷気避けとなるパーテーションを使うのも良いでしょう」

日中の太陽の熱をたっぷり取り込む

「昼間に日差しが入る家なら、布団やクッションなどをひなたぼっこさせておくと、ある程度の熱をため込むことができます。濃色のカバーならより効率良く熱を吸収する反面、紫外線で色あせしやすいので注意を。日が暮れたらすぐにカーテンを閉めるようにすると、熱を逃がしにくくなるので習慣付けたいですね」

「節電アシスト機能つき」エアコンも

編集部からお伝えしたいのが、パナソニックのエアコン「エオリア」に対応したアプリ「エオリア アプリ」。節電アシスト機能がついていて、アプリの画面で電気の使用量と、そこからわかる電気代の目安がグラフで表示されます。前年と今年の比較をしたりと、スマートフォンの画面でわかりやすく確認できるから、楽しく節電に取り組めますね。ついエアコンをつけっぱなしで外出してしまった、なんてときにもアプリがお知らせ、外出先からでもアプリがあれば電源をオフにできるので、万が一エアコンを切り忘れても大丈夫。

画像:エオリアアプリ画面

さらに、最新のエアコンは機能が進化しており、省エネや快適性がグンと向上しているので、10年以上使用しているエアコンがあるなら、買い替えがおすすめ。最新の「エオリアLXシリーズ(2023年モデル)」は家庭用ルームエアコンでは唯一「2022年度省エネ大賞」を受賞しており、さまざまな省エネ機能が搭載されています。

健康と節約を両立させる、無理のない節電を実践しよう

写真:家の模型とコンセント

「節電を考えることは大切ですが、過剰になるのはよくありません」と、藤原さん。

「“我慢は美徳”と考えられることもありますが、健康を害してしまっては本末転倒。お金はもちろん、時間や手間も余計にかかってしまうので、優先順位を間違えずに無理なく適切な節電行動をとるようにしてください。また、いくら部屋の暖かい空気を逃がしたくないからといっても、換気を怠るのはNG。1時間のうち、5分が寒くても残りの55分が暖かければいいと考えて、惜しまずに換気しましょう」

電力不足の原因と今後についての監修

和田 隆昌

和田 隆昌(わだ たかまさ)

災害危機管理アドバイザー。感染症で生死をさまよった経験から「防災士」資格を取り、自治体や企業の災害対策コンテンツを作成。専門誌編集長を歴任。講演会、各種セミナー(リモート可)TVなどマスコミ出演多数。著書に『【最新版】中高年のための「読む防災」』(ワニブックス)などがある。総合情報サイト『All About』防災ガイド。

家庭でできる省エネ・節電対策についての監修

藤原 千秋

藤原 千秋(ふじわら ちあき)

主に住まい・暮らしまわりの記事を専門に執筆して20余年。現在はライティングの傍ら監修、企画、広告、アドバイザリーなどの業務に携わる。プライベートでは三女の母。『この一冊ですべてがわかる! 家事のきほん新事典』(朝日新聞出版)など著書監修、マスコミ出演多数。総合情報サイト『All About』家事・掃除・子育てガイド。

2023年3月8日 空気

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