洗いながら髪を美しく。化粧品と機器の双方向アプローチ
花王 ヘアケア研究員
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パナソニック シャワーヘッド研究員
プロフィール
山﨑直幸(やまざきなおゆき)さん
1984年、東京都生まれ。花王株式会社に入社して16年のベテラン研究員。インバスヘアケアに関する研究開発に長く従事されており、現在はマネジメントをご担当。洗髪で発生する髪の絡まりを除去する技術を開発され、特許を取得。研究という枠組みにとらわれず、製品化された後の情報発信にも取り組まれており、現在の仕事に面白さを感じておられる。
光岡基樹(みつおかもとき)
1983年、大阪府生まれ。大学時代、尊敬する指導教授に「君はこれから水を研究しなさい」と告げられ、そこから奥深い水の特性研究に没頭する。一方で家電オタクでもあり、学生時代はアルバイト代をコツコツ貯めて家電の新しい技術に触れることにワクワクしていた。2017年にパナソニックへ入社し、現在はフェイス・ボディケア技術開発課でファインバブルを用いた機器を担当。
齋藤純子(さいとうじゅんこ)
1976年、滋賀県生まれ。1997年に旧松下電工へ入社し、設計開発に23年間従事した後、5年前に技術開発課へ異動。モニター評価の技術開発、エビデンスデータの取得、使用感や効果感を高めるための商品仕様や使用方法の検討を行っている。自分自身で何度も試作品を使い込み、商品の特徴を理解して、改善点や訴求ポイントを見極めることにこだわっている。
【取材した人】
大塚真里(おおつか まり)さん
エディター。出版社で女性誌の編集を務めた後、独立。雑誌のビューティページの編集・執筆や、ビューティ広告のコピーライティングを中心に活動。
予洗いの大切さ。それを手軽にする工夫
大塚:
Panasonic Beauty Laboratoryのスペシャル版として、パナソニック社外の研究員の方にお越しいただいている本企画。今回は、花王の山﨑直幸さんです。パナソニックからは光岡基樹さんと齋藤純子さん、どうぞよろしくお願いいたします。
光岡:
山﨑さん、初めまして。私は水の研究を15年以上続けておりまして、現在は毛穴よりも小さい泡として知られる「ファインバブル」の研究を手掛けています。この研究の過程で、ファインバブルの頭皮や髪への有用性に着目しており、花王のヘアケア技術についていろいろお伺いできたらと思っておりました。
齋藤:
ファインバブルを搭載したシャワーヘッドの研究に、モニター調査や訴求開発の部分で携わっている齋藤です。本日はどうぞよろしくお願いします。
山﨑:
ありがとうございます。水とインバスヘアケアの関係で言うと、花王ではシャンプー前にシャワーのお湯で髪と頭皮をすすぐ「予洗い」を、非常に大切なステップと捉えています。予洗いをきちんとできているか否かに、シャンプーの効果が大きく左右されるからです。
光岡:
なるほど、予洗いの目的はどのような点にあるとお考えになりますか?
山﨑:
大きく分けてふたつあります。まずは、頭髪全体をしっかりと洗えるようにするため、すみずみまできちんと濡らすことです。
大塚:
普通にシャワーを頭全体にあてるだけでは、濡れないのですか?
山﨑:
シャワーでお湯をざっとあてれば、髪全体が濡れると感じている方が多いと思います。でも、実は意外とそうではないんです。最近はシャワーを前頭部からあてる“上向き洗髪”をされる方が多く、髪の内側にあたる頭頂部やうなじに水が行き渡りづらくなっています。鏡で見ると濡らし切れたように映るので、髪や頭皮全体が均一に濡れていないことに気づきにくいのが困りものです。
齋藤:
さっとシャワーをあてるだけで洗い始める方も多いですね。
山﨑:
そうなんです。そしてもう1点が、事前にしっかりすすぐことで、ある程度汚れや皮脂を落とすためです。この2点において、ファインバブル搭載のシャワーヘッドは魅力的だなと感じました。実際に使ってみると、髪も頭皮もすみずみまで濡れる実感があります。特に、頭皮にお湯があたっている感覚が気持ちいいですね。
光岡:
ありがとうございます。まさに、頭皮をしっかり洗える実感を出すべく、水流の中に空気を巻き込んで、一緒に噴出させています。単に水流を強めるだけだと痛さを感じてしまうのですが、空気を巻き込むことで気持ちよさを感じられるように。私が以前、髪をブリーチしていたことがあり、髪がごわついていると水が頭皮まで届かず予洗いがしにくいんですよね。その経験を活かして研究しました。
齋藤:
モニター評価では、シャンプーの泡立ちが良くなったというコメントを得られています。また、モニターの試験データや声を分析しデータ化する中で、髪の予洗い時間が短くなっていることに気づきました。水流がスピーディに髪と頭皮全体に行き渡ることで、時短というメリットも叶えられています。
山﨑:
それは良いですね。予洗いを2~3分もすればもちろん髪も頭皮もしっかり濡れるでしょうが、現実的には忙しくて難しい方がほとんどなので。
カルシウムイオンを除去して美髪に
光岡:
花王では髪に蓄積したカルシウムイオンの除去にまつわる研究をされていると思います。私たちも水の中のカルシウムイオンと髪の関係について着目しており、共通点を感じています。
山﨑:
花王では長年にわたり、有機酸に着目してさまざまな美髪技術を確立し、商品に応用してきました。そのひとつが、髪内部に蓄積したカルシウムイオンをコハク酸により除去する技術です。髪のゴワつきについて研究をする過程で、水道水中のカルシウムイオンが髪内部に蓄積すると、ゴワつきやすくなることがわかりました。コハク酸には毛髪表層のカルシウムイオンを除去する働きがあり、シャンプーに配合すると、ゴワつきやうねりを防いで柔らかい髪に導きます。
光岡:
魅力的ですね。すべてのシャンプーに配合されているのですか?
山﨑:
コハク酸は酸性であるため洗浄剤に配合することが難しく、処方に工夫を行いながら、一部のシャンプーに配合しています。また、使い方をしっかりご説明できるカウンセリングブランドで、シャンプーとコンディショナーの間に取り入れる3剤式にしたケースもあります。
齋藤:
コハク酸配合のシャンプーを使用し、社内モニターを実施しましたが、心地よく洗えると好評でした。
山﨑:
ありがとうございます。
光岡:
髪を日々洗うことで蓄積してしまうカルシウムイオンが、ゴワつきの原因となるのですね。私たちは、水道水中のカルシウムイオンを始めとする金属イオンを髪に付着させないというアプローチを、ファインバブルの機能のひとつとして捉えています。
山﨑:
面白いですね。具体的にはどのようなことでしょうか?
光岡:
ヘアトリートメント剤の髪への吸着を高めるアプローチです。水に濡れた髪はマイナスに帯電しており、それに対してヘアトリートメント剤の一部は水中でプラスに電離しているため、濡れた髪にトリートメント剤が引き寄せられて吸着する仕組みになっています。ただ実際には、水道水中に含まれるカルシウムイオンやマグネシウムイオンなども同時に髪の毛に吸着してしまい、ヘアトリートメント剤の吸着を妨げてしまうのです。ここにファインバブルが加わると、水中の金属イオンは、静電相互作用によってファインバブルの方に結びつきます。すると、ヘアトリートメント剤が髪全体に行き渡りやすい状態がつくられるのです。
山﨑:
なるほど。髪に金属イオンを触れさせないことでトリートメント剤の期待通りの効果が得られやすいということですね。
大塚:
シャンプーで髪に蓄積したカルシウムイオンを除去し、ファインバブルで水中のカルシウムイオンの髪への吸着を防ぐ。作用機序が異なるので、一緒に使うと理想的な美髪効果が得られそうです。
光岡:
ファインバブルの研究は業界でもさまざまに行われてきていましたが、その多くが肌にまつわるものでした。私たちは、髪や頭皮の予洗いと、美髪効果に着目して研究を行い、確かな手応えを実感しています。ぜひ、花王のインバスヘアケア製剤と一緒に使っていただきたいです。
山﨑:
過去にドライヤーやヘアアイロンとの併用について研究を行ったことがありましたが、シャワーヘッドとの併せ使いというのは初めての発想でした。今後のヒントになるお話を、ありがとうございました。
- インタビュー内容は2025年8月現在のものです