ナノケアを大刷新。こだわりのものづくりでドライヤーを設計開発する匠。

伊東謙吾 伊東謙吾

2022年秋に発売したナノケアドライヤーは、既存製品から風量やヘアケア効果をアップしながら小型軽量化を実現し、大きな話題を呼びました。そのドライヤーの開発をディレクションしたのが、伊東謙吾。不可能を可能にするような、匠のもの作りのこだわりを取材しました。

大学で学んだ発電の知識を美容家電に

子供の頃から乗り物が好きで、大学ではエネルギー工学を専攻しました。耳慣れない学科だと思いますが、発電所のようなことをやっていまして。学部棟は太陽光発電システムが設置されており、ソーラーパネルでの発電でエレベータやエスカレータを動かしたり、太陽光蓄熱システムによる冷暖房を年中完備されていたりなど、再生可能エネルギーの研究をしていました。火力発電の研究もしていましたね。

写真:伊東謙吾さんが白衣を着た男性と話している様子

発電研究の大きなテーマに、発電効率を上げることがあります。そのためには、冷却構造も必要となります。これらを学んだことで、住宅建材の分野で知識が活かされるのではと考え、松下電工(注:現パナソニック)に入社しました。しかし、配属されたのはヘアケアの商品設計課でした。ドライヤーやスチーマーのような熱を伴う美容機器で、これまでの知識をベースにしながら、ドライヤーやスチーマーの商品開発、先行技術の開発に取り組むことになったのです。以来32年間、仕事は美容家電一筋です。

ナノケアドライヤーの大刷新を担当

現在はヘアケア製品、主にドライヤーの設計開発を担当しています。最近担当したのは、2022年9月に発売されたヘアードライヤー ナノケア「EH-NA0J」です。これまでのドライヤーに対して大幅に小型軽量化し、かつナノケア史上最大の風量を実現しました。そのための課題が、ヒーターの小型化でした。海外の工場との取り組みを行い、自分自身も赴任して、途中で挫折したりなど大変な苦労を重ね、どうにか実現することができました。

写真:パソコンの画面を見ている様子

さらに、仕上がりを小型化するために、部品の配置も大きく見直しました。「高浸透ナノイー」と「ミネラルマイナスイオン」を発生させる装置と吹出口を、より髪の近い位置になるよう、メインの風の吹出口下部に配置しました。ドライヤーの温風によって高浸透ナノイーの性質が変わってしまうので、これまでは吹出口から少し離れた位置に配置していたのです。これはもう調整を重ねて、不可能が可能になったという形です。合計で数十回の試作を重ねたと思います。

写真:部品を見つめている伊東謙吾さん

おかげさまで多くのお客様に使っていただけています。雑誌などのビューティアワードでも多数の賞をいただきました。Webの口コミで喜びの声を見たり、特集を組んでいただいたりするのを見ると、うれしい気持ちでいっぱいです。

PDCAの繰り返しで品質が向上

商品設計の仕事には、いわゆる「PDCA」というサイクルがあります。Plan(計画)、Do(実行)、Check(測定・評価)、Action(対策・改善)です。頭で思い描いていた内容と現実は異なることが多く、もの作りは実際やってみないとわからないという部分もあります。「EH-NA0J」は数十回試作をしてPDCAを回し続けないと、実現したクオリティには辿り着けなかったと思いますね。

次から次へとスケジュールに追われると、Aが疎かになったり、PとDだけで回ってしまうことにもなりかねませんが、もの作りを向上させる上で最も大切なのはCとAの部分です。海外との取り組みを経験して痛感している部分でもあります。

また、PDCAに加え、Q(品質)とC(コスト)、D(商品開発スケジュール管理)の徹底管理も重要です。特に設計のアウトプットとして重要な金型の図面作りには、大きな労力と日程管理徹底が必要となります。組立図面の作成、試作組立、量産組立…と、それぞれ発生する課題に対して原因分析と対策実施しています。

写真:機器を操作する伊東謙吾さん

現在、パナソニックのドライヤーは日本で高いシェアをもっていますが、海外での認知度は決して高くないのが実情です。今後はガラパゴス化していくのではなく、世界的にも受け入れられるデザイン、性能の製品を作り上げていきたいと思っています。

プロフィール

伊東謙吾(いとうけんご)

1967年生まれ。大学でエネルギー工学を学び、発電効率アップや冷却効果を上げる構造を研究。その知識を活かして美容家電を手がけ、キャリアは32年。現在はヘアケア製品の商品設計全体を管理。特にドライヤー作りのプロフェッショナル。

写真:伊東謙吾さん
  • インタビュー内容は2023年7月現在のものです
  • 「Panasonic Beauty Laboratory」に掲載の情報は、当社の研究や開発の取組み内容です