しっとり、しかも速く乾く。理想を追い求めるドライヤー設計者。

しっとり、しかも速く乾く。理想を追い求めるドライヤー設計者。 村上 聡 しっとり、しかも速く乾く。理想を追い求めるドライヤー設計者。 村上 聡

今までなかったようなものを生み出す。その裏には開発者の計り知れない苦労があります。チームが一丸となってゼロベースで開発し、髪のうるおいと速乾性能を両立、しかもそれぞれを高めた新機軸のドライヤーについて、全体の旗振り役である商品設計担当の村上 聡にインタビュー。

設計の仕事は商品開発の旗振り役

先日、タイの工場でドライヤー量産の製造立ち合いをしていました。無事量産に入ることができ、ホッとして帰国しました。

私はヘアケアの商品設計を担当しています。設計とは、新商品の企画やコンセプトに始まり、試作、モニター評価、企画の確定、量産…といったすべての工程に携わる、商品開発の旗振り役のような仕事です。美容家電のようにお客様が手に持って使う商品は、機能が高いことはもちろんなのですが、サイズや重さ、使い勝手の良さ、デザインなど、さまざまな要素のバランスをとることが重要です。毎日使い続けたいと思っていただけ、日常をちょっと豊かにするような商品の設計に日々取り組んでいます。

最近では、秋に発売される新しいナノケアドライヤーの設計を担当しました。〝しっとりとなめらかで指通りのいい仕上がり〟と〝早く乾かすこと〟の両立と進化を目指し、チームが一丸となって時間をかけて取り組んだ商品です。過去のドライヤーのリニューアルではなく、ほぼゼロベースで作り上げた商品だと思っています。

高浸透ナノイーが計画通り発生しない!?

しっとりとうるおい感のある仕上がりの秘密は、高浸透ナノイー(ナノイー:大気中の水分を電極に結露させて集め、高電圧を加えることで発生させるパナソニック独自のイオン)です。高浸透ナノイーの発生量を増やし、髪のうるおい感を上げるような設計にしたため、中の構造にも工夫が必要になりました。

具体的には、高浸透ナノイーの発生を安定させるために新しい冷却構造を考えました。高浸透ナノイーは水分を結露させて作るため、発生装置周辺の温度が上がると発生が不安定になります。それを解決すべく、発熱する電子部品を高浸透ナノイーエリアと遠ざけ、パッキンで区画を分けるなどの工夫を行いました。

村上 聡さん

言ってしまうとシンプルなのですが、これを実現するのが実はものすごく大変でした。今回、速乾性を叶えるために従来品と異なる新たな高回転モーターを搭載しています。そのため、従来のやり方で問題ないだろうと想定していたところ、試作当初は高浸透ナノイーが発生せず、高浸透ナノイー発生装置周辺を冷やすために風の動きをコントロールするなど、シビアな設計が必要になりました。苦労はありましたが、現状以上にたくさんの高浸透ナノイーが発生することで、仕上がりが明らかにしっとり指通りよくなったり、髪悩みに合わせた仕上がりのメニュー作りが実現するなど、お客様に喜んでいただけるような仕上がりになったと思っています。

速乾性能と絡まり防止を両立

もうひとつ苦労したところといえば、使い勝手や仕上がりの良さを叶えるための、ノズルの工夫です。

ノズルとは、ドライヤーの風吐出部分についているパーツのことです。今回採用した高回転モーターは風速が速く、乾燥性能が上がって速く乾くものの、髪が絡まりやすくなるという難点もあります。強い風が髪の狭いエリアに一度に当たると、どうしても髪が踊って絡まりやすくなるため、髪にあたる風が拡散するような新しい形状のノズルを検討しました。吐出口の絞り量を維持することで、強い風で一気に乾かすような手応えを感じていただきつつもなるべく絡まりを抑える設計になっています。

また、風温の低い中心付近の風を風温の高い外側の風と合流させることで、風温を均一化し、使っていて局所的に熱く感じにくくなるよう調整しました。

この設計にもなかなか苦労しまして、まず、開発当初は風速が速いため髪が絡まりやすく、せっかく高浸透ナノイーが出ているのに仕上がりが悪い、ということになってしまいました。髪にあたる風を拡散させればいい、という構想はもともとありましたが、どのように広げるのが最適なのか、という微調整で何度も試作を重ねました。風の速さ、ノズルの角度、外径、乾燥性能の担保…すべてのバランスをとることに苦労しました。

村上 聡さん

速く乾くドライヤーは男性にも好評ですが、速く乾くことだけを追求すると、毛先ばかりが乾いて髪の根元は湿ったまま、ということが多いんですね。そのため、髪の根元まで風が入り込むことで、根元からしっかりと乾かせることを狙って設計しています。

固定概念を覆す商品を創出したい

美容機器はお客様に直接手にとって使っていただける、という点に魅力を感じてこの仕事につきましたが、実際にこうしたアイデアを商品という形で具現化することができ、お客さまに届けられるところが楽しいです。商品が発売された後に高い評価を得ているという話を聞くと、苦労が報われたようでとてもうれしく思います。

村上 聡さん

夢は、固定観念をくつがえすような商品を創出すること。今回のドライヤーでは、髪のしっとりした仕上がりと速乾性能のそれぞれを進化させたうえでの両立を叶え、一歩夢に近づけたように思っています。すでに次の商品設計は始まっていますが、これからもたくさんのアイデアを盛り込んだ商品を開発していければと思っています。

プロフィール

村上 聡(むらかみさとし)

1985年生まれ。子供の頃はお医者さんになりたかった。一般ユーザーに近く、かつ独創性が高い商品の開発に携われると考え、ビューティ商品の設計担当に。何気ない日常をちょっと豊かにするような商品の開発を目指している。

写真:村上 聡さん
  • インタビュー内容は2024年6月現在のものです
  • 「Panasonic Beauty Laboratory」に掲載の情報は、当社の研究や開発の取組み内容です