お米の出来栄えは毎年変わる!?毎日のごはんをもっとおいしくする方法とは
ライター:UP LIFE編集部
2024年5月21日
食・レシピ
記録的な大雪や大雨、日照不足…。地球温暖化による気候変動は、自然環境や動植物、そして、私たちの生活に欠かすことができない農作物の生育にも大きな影響を与えています。もうすぐ新米の季節。気候が米の出来栄えに与える影響や、作柄※1などについて、3人の“お米のプロフェッショナル”が対談を行いました※2。
【対談メンバー】
- 永野 邦明(一般社団法人 未来のタネ研究所)
- 西野入 英幸(全農パールライス お米アドバイザー)
- 塚原 知里(Panasonic Cooking @Lab)
※1 農作物の出来具合
※2 この記事は2018年の秋に行われた対談内容を収録しています
気象変動が激しく、農作物の出来が不安定
永野:みなさん体感されてわかる通り、非常に温度が高くなったり、突然の大雨や低温など、年々気象変動が大きくなり、農作物にもさまざまな影響が出てきています。気象はなかなか予想できないですし、それに対応する技術や人手も追いついていない。本当に悩ましい時代が来たなと感じています。
宮城県の米を例に挙げますと、今年(2018年)は8月の上旬まで非常に高温が続き、その後、お盆あたりから急激な低温が入りました。この低温が3週間早かったら大冷害になっていたかもしれないほどの気温です。本当にヒヤヒヤしましたが、今のところ大きな被害を受けている稲はあまりなさそうなので安堵しているところです。
天候によって米の出来栄えはどうなる?
西野入:ちょうど今、新米が出始めていまして、私は主に東日本の銘柄を試食しているのですが、千葉のふさおとめ、ふさこがね、コシヒカリの出来栄えはいい方ではないかと感じています。高温の影響を受けると「粉状質粒」といって白いお米が多くなりがちなのですが、今のところそういったこともありません。まだ出始めなので、早めに刈り取ったものと、これから刈り取るものとでは多少の違いは出てくるかもしれませんが、関東のお米に関してはそんなに悪くはないのかなという印象です。
永野:北海道の米もとてもよさそうです。昨日もライブ映像で田んぼを見せてもらったのですが、非常に稔りがいいようですし、量も獲れるのではないかと思っています。
西野入:西の方では大雨の影響が心配されていましたが、仕入れの部署に聞いたところによると、大雨がずっと続いたわけではなく短期間だったので、大きな影響はないのではないかということでした。また、農林水産省から出ている資料からも、全国的な米生産量については平年並みではないかと予測できます。
米の出来栄えが変わったら、炊飯はどうしたらいい?
※本記事はパナソニックから、永野 邦明さんと西野入 英幸さんに、気候が米の出来栄えに与える影響や、作柄などについて、インタビューを依頼し、コメントの内容を編集して掲載しております。
塚原:同じ産地、同じ銘柄でも、気象条件によって毎年出来栄えは変わってきます。お客様からも「いつもと同じコースで炊いているのに、炊き上がりが違う」というお声をいただくことがありますが、パールライスさんの方ではいかがですか?
西野入:私どもでもそういったお問い合わせをいただくことがあります。農産物はその年によって出来栄えが変わりますし、お客様のお好みのかたさにしていただくにはやはり水加減のご案内をしています。
お米をすり切りでしっかり量っていただいて、水加減もきちっと合わせていただいたうえで、「もうちょっとやわらかい方が好みだったら増やしてください」「かためが好みだったら減らしてください」というご案内をしています。
塚原:やはり、お好みのかたさに調整していただくには、水加減が一番のポイントになってきますよね。それでもパサつきが気になるときは事前の浸水時間を延ばしていただいたり、コース選択ができる炊飯器であれば、やわらかく、じっくり火を入れるようなコースを選んでいただく。
逆にベタつく場合には「かためコース」など、圧力をあまり入れない炊き方のコースにしていただくと、よりお好みに合った炊き方になっていくのではないかと思います。
永野:たとえば、穂の出る時期に「温度が高すぎる」「水不足」「肥料切れ」などの条件が重なると、「胴割れ」といって米にヒビが入りやすい状態になることがあります。
また、出穂時に温度が高く日照が足りないと、先ほど話に出た「粉状質粒」といわれる未熟の白い米が出てきたり、極端に温度が高いと背白・基白など部分的に白くなり、粒が小さくなるなど、本当にいろいろな影響が出てきます。ですが、それはあくまでも見た目の品質や構造的な変化で、トータルの栄養価としてはそんなに変わらないと考えています。
西野入:食味(味わい)に関しても、家庭用の炊飯器で炊く場合にはそんなに大きな影響はないと考えています。ただ、白いお米は空洞になっているので、大きな業務用の炊飯器で大量に炊飯する場合などは、白いお米の割合が多くなると煮崩れしやすくなる傾向があると思います。
米は密閉容器に移して低温で保存
塚原:空洞があると吸水がそこから始まってしまうため、ベタつく、焦げつくなどの原因になることがあります。家庭用炊飯器で炊いた場合、誰が食べてもすぐにわかるというレベルではないかもしれませんが、お客様の中には若干気づかれている方もいらっしゃるのかな、という実感があります。
永野:「粉状質粒」に限らず、品種によっても吸水特性や糊化特性は違いますし、保管の仕方も米の状態に大きく影響してきます。白米だったらある程度大丈夫ですが、玄米は穀象虫(コクゾウムシ)などの虫が湧きやすいので、保管には特に注意が必要ですね。
西野入:低温保管であれば、ある程度、鮮度を保てたり虫の発生を防ぐことができますので、お客様には「密閉できる容器に入れて冷蔵庫で保管してください」とご案内しています。また、お米は匂いを吸収しやすいので、どうしても冷蔵庫に入らないという場合でも、できれば密閉容器に移していただいて、風通しのいい冷暗所、できるだけ涼しい場所に置いていただくようお伝えしています。
塚原:開封してから常温で保存すると乾燥してきてしまうので、パナソニックでも同じように、密閉容器に入れて低温で保存することをおすすめしています。
西野入:個人的なリクエストになりますが、パナソニックさんの冷蔵庫に、お米を保管する場所をつけていただけるといいなぁと思うのですが…。
塚原:ご意見ありがとうございます。担当者に伝えます!(笑)
お米の状態や銘柄によって炊き方を自動調整する新機能搭載の炊飯器がある
塚原:「お米の状態や出来栄えによって炊き上がりが左右されるのに、炊飯器のプログラムは変えられない」というのが私たちの大きな課題でした。そこで、新しい炊飯器にはお米の状態に合わせて的方を自動調整できる「ビストロ匠技AI」という新機能を搭載しました。お米の状態は、季節や保管状態によって変化するため、炊飯器が自動で、現在のお米の状態を確認して、最適な火加減や加熱時間を決めて炒飯します。また、全国73銘柄のお米の個性を生かして炊き分けることができるため、お客様によりお米を楽しんでいただけると思います。
永野:高機能炊飯器は私も何台か持っていますが、機能がいっぱいありすぎて、使いきれないというのが正直なところです(笑)。ただ、今はいろいろなニーズがありますし、こういった機能によって米に興味を持っていただくという意味では、非常にいいなぁと思っています。
塚原:ありがとうございます。お米の消費量が年々減ってきているので、まずはお米に興味を持っていただきたいというのが私たちの思いです。「銘柄炊き分け」などの機能を通じて、こんなにいろいろおいしい銘柄があって、毎年たくさんの新しい銘柄が生まれていることをお客様に知っていただき、お米を楽しむきっかけづくりができたらいいなと思っています。また、フードロスを気にされる方も年々増えていますので、まとめ炊きのごはんをおいしく召し上がっていただくための「冷凍用ごはんコース」があり、ごはんを無駄なく最後までおいしくいただける工夫にも力を入れています。
日本のお米をもっと楽しもう!
西野入:お米は日本の風土に一番合った作物ですし、日本で100%自給できる作物ですので、ぜひみなさんに普段からたくさん食べていただきたいなというのが私どもの思いです。ごはんって全般的にあまり味がしないというか、強い主張がない。だからこそ毎日食べても飽きないと思うんです。でも、その一方で、粘りやかたさなど、銘柄によっていろいろ特徴があります。特に新米の時期にはいろいろな種類のお米が出てきますので、例えば2キロとかの少量を買って、いろいろな銘柄を食べていただいて、お好みの銘柄を見つけていただけたら、というのがいつも思っていることです。
塚原:本当にお米って日本の心だと思います。私自身、料理に合わせてお米の銘柄を変えたり、気分に合わせて炊き方を変えるなどして楽しむようになって、より一層お米が好きになりました。「お米は太る」という印象をお持ちの方も多いようですが、そんなことはないので、もっとみなさんにお米を楽しんでいただけたらいいなと思っています。
永野:何千年も同じ場所でつくれる作物なんてなかなかありえないのですが、それができる稲の力は本当にすごいと思います。白米にすると栄養が一部削がれますが、玄米で食べるとかなりオールマイティな栄養素がそろうという、本当に貴重な食料ですので、いろいろなアレンジを楽しみながら、たくさん食べてほしいですね。毎年、毎日、同じような品種を食べるのではなく、いろいろな品種にチャレンジしてもらってですね、「こんなに違うんだ」とか「あんまり変わらないな」とか(笑)。お米を楽しんでもらえるような食文化を作っていければ、もうちょっとお米に対する関心も高まっていくのではないかと思いますので、一緒に頑張っていきたいですね。
塚原:はい、ぜひ!今日は貴重なお話をありがとうございました。
永野・西野入:ありがとうございました。
対談者プロフィール
永野 邦明(一般社団法人 未来のタネ研究所 所長)
宮城県古川農業試験場や農林水産省北海道農業試験場において、「ひとめぼれ」「まなむすめ」「金のいぶき」「だて正夢」等の水稲品種(計33品種)の育成・研究に長年携わる。現在は玄米食の普及活動を中心に、子ども食堂やフードバンクのサポートも行っている。
西野入 英幸(全農パールライス株式会社 品質管理部 品質管理室・お客様相談室 室長)
一般財団法人 日本穀物検定協会 お米アドバイザー、公益社団法人 日本炊飯協会 ご飯ソムリエ、一般社団法人 日本精米工業会 米穀検査上級技術者など、お米に関する資格を多数取得。
塚原 知里(パナソニック株式会社 くらし事業本部 くらしアプライアンス社)
Panasonic Cooking @Lab 炊飯部所属。お茶の水女子大学大学院食品栄養科学コース卒業後、パナソニックに入社。管理栄養士の資格を持ち、「調理科学×市場の声」をベースに、VSXシリーズをはじめとする炊飯器のプログラミング開発に一貫して携わる。全国各地の銘柄米コンテストでの審査員や、東京農業大学で講師を務めるなど、日本のごはん文化を盛り上げるための活動もしている。
Panasonic Cooking @Labとは?
「おいしさを科学し、食卓に笑顔と感動をお届けする」をモットーに、「電子レンジ」「炊飯器」「調理小物」「IHクッキングヒーター」「冷蔵庫」を含むパナソニック調理事業の全カテゴリーの調理ソフト開発メンバーが所属し、設計者と生活者の両視点からお客様へのお役立ち活動を実践する組織です。
調理機器・食に精通するユニークな専門性を有するメンバーの知恵を結集して近年の多様化するライフスタイルや価値観に共感する商品やサービスを生み出し、お客様においしくうれしい食生活をお届けしてまいります。
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