休養学の専門家が選ぶ!最もリラックスできる音楽3選

監修:根津 知佳子(ねづ ちかこ)
ライター:UP LIFE編集部
2022年11月28日
健康

いつも健やかでいるために、心身ともにリフレッシュし、自分らしいパフォーマンスを取り戻す活動=「リフ活」。今回は、誰でも簡単に日常生活に取り入れられるリフ活として、音楽の効果に注目しました。
心身への癒しの効果があるといわれる音楽で、リフ活をするにはどうしたらよいのでしょうか?
日本女子大学の根津 知佳子先生に聞きました。

音楽でリラックス!音と身体の関係

写真:女性が音楽を聴いているイメージ

音や音楽が心身の癒しにつながるとはよく言われますが、それはどういった理由からなのでしょうか?

「音の振動は、人の身体に興奮や鎮静を引き起こします。音楽を聴いてわくわくしたり、心が静かに落ち着いたりするのは、音が心身にフィジカルな影響をおよぼすものだから」と話す根津先生。

具体的に音や音楽は、心身にどのような影響を及ぼしているのでしょうか?

「よく言われるのが、音が及ぼす自律神経への影響。音や音楽の一部には、交感神経や副交感神経のバランスを保つ作用があります。また、音楽は人の無意識に働きかける性質もあり、音楽を聴くことによって思いもかけない『自分自身』と出会うことができます。音楽によって、そのときどきの気分を切り替えるという方法もあるのです」。

気分が上がる!アナ雪の「Let It Go」のヒミツ

根津先生によると、気持ちを切り替える音楽には、一定の条件があるそう。

「それぞれの人の、その時々の気持ちや身体の調子によって求められる音楽は異なります。気分が落ち込んでいる時には、今の沈んだ気持ちに寄り添う音調のものからはじめるとよいでしょう。徐々にこうありたいという自分のイメージや、切り替えたい気持ちと合った旋律に変化していく楽曲がおすすめ。
『同質の原理』と言いますが、暗い気持ちのときに、真逆の明るい曲をかけるのは逆効果なんです。ディズニーアニメのアナと雪の女王で有名になった『Let It Go』は、静かで暗い印象の前奏と歌詞からはじまり、徐々にメロディーやテンポに快活さを伴っていくわかりやすい曲です。なりたい自分に向かって気持ちを切り替えていくのにうってつけですよ」。

リラックス効果のある音楽とは?「モーツァルト効果」と「1/fゆらぎ」について

写真:川のイメージ

また、心身への影響という意味では、モーツァルトの楽曲や、自然の音などに代表される1/fゆらぎの効果にも注目だそう。

「モーツァルトの楽曲の多くは、シンプルな旋律や和音進行が繰り返され、おだやかにすすんでいきます。現代音楽のように、どのようなメロディーになるか予想しにくかったり、インパクトのある音が散りばめられた曲とは異なります。また、個人の持つ心地よいテンポ(パーソナルテンポ)から外れにくいのも特徴。だからといって、メトロノームのようにきっちりと正確ではなく、穏やかな変則性がある。そういった音楽が自律神経のバランスを整えるのだと考えられています」と根津先生。

よく聞く「1/fゆらぎ」とは?

1/fゆらぎとは、自然界にある音や動きのゆらぎを指します。寄せては返す波の音や川のせせらぎなど、規則的な中にも不規則が混在しているのが特徴で、人の心拍やお経などが代表例です。安定的なテンポで、安心できる音や音楽が当てはまります。

「モーツァルトの楽曲や1/fゆらぎの音を聞くことは、疲労を癒す効果的なリラックス方法という意見が多い一方で、モーツアルトの音楽も専門的な音楽教育を受けた方には、当てはまらないこともあります。また、西洋音楽における12平均律※1とは異なる音楽文化の中で育った方々にとっては、むしろ聴きなれない音楽になってしまうので、やはり当てはまらない場合もあります」と根津先生。

※1 1オクターブの音程を12等分した音律のこと。西洋音楽の多くは12平均律で構成されている。

リフ活にぴったり!癒しの効果を実感できる音や音楽の聴き方3選

写真:楽器を演奏しているイメージ

音や音楽による癒しをもたらしたい時には、具体的にどのようなものを選ぶとよいのでしょうか?
おすすめの音や音楽の聴き方についてもお聞きしました。

おすすめは3つ。1つめはパッフェルベル作曲のカノン、そしてJ.S.バッハ作曲の無伴奏チェロ組曲第一番プレリュード、最後はなんと静寂(!)とのこと。

癒される音と癒し効果のある音楽 おすすめ3選

  • パッフェルベルのカノン
    同じコード進行が繰り返される循環構造で、典型的な1/fゆらぎを体感できる曲。さまざまな世代やジャンルのミュージシャンがアレンジを行なっているため、音楽的な広がりをもって楽しめるのも魅力。循環コードにのったラップミュージックも多く作曲されている。
     
  • J.S.バッハの無伴奏チェロ組曲第一番プレリュード
    人の声の音域に近いチェロを使った楽曲。弦楽器の運弓※2が人のブレスと呼応する部分があり、人の声が持つ音のゆらぎと似たリラックス効果を得られる。宮澤賢治著『セロ弾きのゴーシュ』のねずみの親子の場面にあるように、音や音楽の振動をじっくり味わうのがおすすめ。チェロを抱えて、大きく息をすいながら演奏するイメージをもってみよう。
     
  • 静寂
    都会生活で聞こえてくる低周波音や電子音(冷蔵庫や空調などの音を含む)をできるだけ排除した状態で、高周波の自然音を聞くこと。自然に身をおくことが難しい場合は、意味のある音や音楽を避けるのも、癒しを得る方法の1つ。電子音のシャットアウトには、耳栓などを活用するのもOK。

※2 弦楽器を演奏するときの弓の運びのこと。

リラックスする音や音楽は、1人1人異なる

リフ活で音楽を取り入れる際のポイントは、1人1人の音楽の好みや、その時々の体調や感情で、必要とする音や音楽が異なってくることに留意することといえます。

「時代や世情の移り変わりで、求められる音楽は変わります。バブル時代には、電子音が織り交ぜられたアップテンポのデジタルサウンドが好まれましたし、『やる気』を鼓舞するような歌詞に自分自身を投影できる楽曲が人気でした。しかし、90年代の終わりには、しっとりとしたアコースティックな旋律が求められるように。時代や背景によって求められる音や音楽は異なるのです。
そして、大切なのは、Soundと同じくらい“Silence”が重要だということです。楽譜には音符もありますが、休符も大事な音楽の要素。その意味では、静寂でさえ、癒しにつながるのです。
また、無意識に『聞きたい』と欲している曲は、自分の今の瞬間に合った音楽(同質の音楽)なのかもしれません。そんなことも感じながら、音の持つ癒しの力に、少しずつ触れてみることをおすすめします。自分にあった音や音楽探しは、自分自身の再発見の旅ともいえますから」。

監修

写真:根津 知佳子(ねづ ちかこ)さん

根津 知佳子(ねづ ちかこ)

日本女子大学家政学部教授。日本芸術療法学会認定芸術療法士 日本音楽療法学会認定音楽療法士。東京学芸大学教育学部を卒業後、同大学大学院音楽教育専攻修了。
三重大学教育学部で教鞭をとった後、三重大学教育学部附属特別支援学校校長などを歴任。2017年より現職。専門は、音楽教育学、芸術療法(音楽療法)。
芸術の創造過程における、構造やコミュニケーションの変容について研究中。中でも、音楽的空間と時間の中で、どのように“ドラマ"が綾なされていくのか、音楽を介した対話が子どもの感性にどのような影響を与えるかが目下の研究テーマ。2001年度よりウィリアムズ症候群の家族を対象とした音楽キャンプを、これまでに21回開催。現在は、参加者一人ひとりのかけがえのないSoundとSilenceを共有する場としての“音楽の森"の第11回を企画中。

2022年11月28日 健康

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