長引く産後の腰痛、尿もれ対策!心の疲れもすっきりさせる「お尻の筋肉ほぐし」とは

監修:荒木 智子(あらき ともこ)
ライター:UP LIFE編集部
2024年7月24日
健康

出産から1年以上が経過した頃、ママの体はどのように変わっているのでしょうか?実は、出産から時間が経っても腰痛などの痛みに悩まされる方は多いといいます。今回は出産から時間が経過した場合の心と身体について、理学療法士・公認心理師の荒木智子先生にお聞きしました。

出産から1年以上経つとどうなる?身体や子どもの成長、そして生活のこと

写真:子供と一緒にパソコン作業をしている女性

出産から1年、あるいは1年半も経つと、お産が遠い昔のことに感じられるかもしれません。赤ちゃんは生まれたときの3倍以上の体重に成長していますし、生活は目まぐるしく、仕事復帰に挑戦する方もいることでしょう。

荒木先生はこの時期を、「多様な時期」だと表現します。

「身体は、順調に回復すれば産前と変わらない状態になるかもしれません。しかし、そうでもない人が多いのも事実です。また産前と異なるのは育児があるということ。さらに子どもはどんどん成長していきます。歩きはじめた子どもの成長に合わせて大人の活動量も上がりますし、ママたちも心身ともにも新しい環境に慣れていかなければなりません。もしこの多様な時期に、日々の生活の中で“うまくいっていない”と感じるのであれば、それは心や身体が現在の生活にうまく順応できていないのかも。しかし、日々の生活の目まぐるしさを思うと、それも当然のようにも思います」

腰痛や尿もれだけでなく、慢性的な疲労感、メンタル面での負担も

身体の問題で多いのは、やはり腰痛や尿もれ、慢性的な疲労だそう。また、メンタル面での変化を感じる方も少なくないようです。

「仕事復帰を目指し子どもを保育園にあずけたり、第二子を産む時期を検討する方もいるでしょう。この時期の子どもは、身体が成長するだけでなく情緒面での成長も著しいもの。保育園で人見知りをするなど子どもも生活に慣れるのが大変ですが、大人も心理的な負担が増える時期なのです」と荒木先生。

もとの身体に戻るのは至難のわざ!?産後の回復度チェック

写真:女性が腰に手をあてている様子

特に身体の変化の状況について、荒木先生から興味深いデータを教えてもらいました。

米軍兵士であっても産後の回復は難しい

「米軍の女性兵士におけるフィジカルテストで、産後半年を経過しても産前の状態には戻っていなかったというデータ※1があります。一般女性と比べフィジカルに優れた女性兵士ですら回復が万全ではないのですから、一般の方にとってはやはり産後の回復には大きなハードルがあるのだと思います」

産後女性の8割以上は運動機能が低下した状態に

「産後の女性の運動機能の低下の原因には、産前からの体力不足や、体力そのものはあっても妊娠と出産で一時的に活動量の低下が生じたため、体力や身体機能が低下したままになっているといったことが考えられます。また、ロコモティブシンドロームに高齢者のイメージがあるかもしれませんが、最近では若い世代の方にもみられます。中でも産後、時間を経てもリスクを有する割合が多かったのは、驚きでした」

心の疲れは身体に、身体の疲れは心に。それぞれ影響し合う

また荒木先生はフィジカルの問題だけでなく、メンタル面での変化も挙げます。

「産後の環境変化による疲労の蓄積や、体力低下も精神的な不調につながりやすいと思います。産後はどうしても“忙しくて当然”とか、“自分に構うことができなくても仕方がない”と考えてしまいがちで、自身の気持ちが疲れてしまっていることに気づきにくいのかもしれません。また、変化した生活におけるパートナーシップやそれ以外の人間関係、仕事の状態なども精神面へ大きく影響すると思います」と荒木先生。

産後の身体の不調の代表格といえる「腰痛」は、フィジカルな要因のものだけでなく心因性のものもあるので、不思議ではありません。

では、自身がどのくらい産後の状態が回復しているのか、心と身体の状態をチェックするにはどうしたらよいのでしょうか?
荒木先生に聞くと、以下の項目のうち3つ以上当てはまる場合は、心身ともに順調に回復している可能性が高いとのこと。逆に、ほとんど該当しない場合は、注意が必要かもしれません。

自分の状態を知る!「産後の回復度チェック」

①しっかりとよい睡眠がとれている(時間は短くても熟睡感がある、疲れが取れている)
②日常生活に制限を生じるような身体の痛みがない
③尿もれや便秘などの排泄に関する悩みがない
④子どもと過ごす時に体調を気にせず楽しめる
⑤体型や今の生活に焦りや不安はなく、何とかやっていけそうだと思える

上記のチェックリストで、回復度に心配がある場合は、どうすればよいのでしょうか?

おしりがゆるめば、産後の腰痛も楽になる!おしりの筋肉をほぐす方法

写真:女性が体を伸ばしている様子

産後の不調の中でも特に身体の問題は、腰痛や尿もれなど骨盤まわりに集中するもの。骨盤まわりのケアの前提として、おしりの筋肉がほぐれてやわらかい状態になっていることが大切です。

骨盤に近いおしりの筋肉をほぐすメリット。心と身体のリラックスにもつながる

「おしりの筋肉は歩行時に必ず必要な筋肉で、なくてはならない存在。骨盤ケアの方法はたくさんありますが、おしりの筋肉をほぐしておくことでケアの効果が高まります。ストレッチなどもやわらかい筋肉の方が伸びやすいものですから。またほぐすことで、痛みの感覚は和らぐという研究報告※3も実際にありますよ」

さらに、この”ほぐす“時間が、短時間でも自分の身体に向き合い、今の身体の状態を知る大切な時間です。
骨盤ケアの前におしりの筋肉をほぐす時間を取り入れることで、心と身体にポジティブな影響を与えることができるはず。

骨盤ケアの前に。心と身体をゆるめるおしり筋ほぐし

  1. おしりの下に、大きめのボールを入れる(ボールはややへこむぐらいの空気をゆるく入れたもの、あるいはタオルを丸めたロールでもよい。ゴルフボールやテニスボールは硬すぎる場合があり、あまりおすすめしません。)
  2. 尻もちをつかないよう気をつけながら、ボールにゆっくりと腰を下ろし、ボールの上を転がるように揺り動かしながら乗る。この時、呼吸は止めないよう気をつける
  3. 尻もちをつかないよう注意しながら、おしりの下のボールを左右、斜めなどさまざまな方向に動かし筋肉を刺激していく。動くのが難しい場合は、ほどよい痛み(強い痛みはNG)を感じる位置にボールを置き、じっと体重をかけていく
写真:おしりの下にボールを入れて体重をかけるイメージ

筋肉をやわらかく保つことで、心も身体も楽になる

おしりの筋肉はもちろん、他の筋肉もやわらかくしなやかに保つことで、気持ちもほどけていきます。心に柔軟性があれば、育児や生活の固定観念に多少振り回されたとしても、自分の身体をいたわり、自分を大切にすることにつながるかもしれません。

「産後は生活が激変します。赤ちゃんが産まれることは喜ばしいことですが、同時にお母さんも命がけでお産をしたのですから十分な回復が必要です。赤ちゃんとの新生活は大人にとっても毎日が初日です。どうか、ご自身の身体に目を向け、よくいたわってあげてください。それが、赤ちゃんとみなさんの未来にもつながるはずです。少しずつ短い時間から、ぜひはじめてみてくださいね」

監修

写真:荒木 智子さん

荒木 智子(あらき ともこ)

理学療法士・公認心理士/医学博士。現在の主な研究テーマは、産後の心身の回復。身体と心の2つの側面から「女性のwell-being」を追究している。現在、大阪大学学際大学院機構に在籍、一般社団法人SRHR Japanの活動を通し、様々な領域の視点から研究に携わっている。著書(分担執筆)に「専門医からのアドバイス内心台がなくてもできる女性診療外来診療からのエンパワメント」(池田裕美枝編集/日本医事新報社)など。

※1 Miller MJ, Kutcher J, Adams KL. Effect of Pregnancy on Performance of a Standardized Physical Fitness Test. Mil Med. 2017 Nov;182(11):e1859-e1863. doi: 10.7205/MILMED-D-17-00093. PMID: 29087853.
※2 さんごのからだプロジェクトリーフレットより
※3 Daneau C, Cantin V, Descarreaux M. Effect of Massage on Clinical and Physiological Variables During Muscle Fatigue Task in Participants With Chronic Low Back Pain: A Crossover Study. J Manipulative Physiol Ther. 2019 Jan;42(1):55-65. doi: 10.1016/j.jmpt.2018.12.001. Epub 2019 Apr 5. PMID: 30955910.

2024年7月24日 健康

  • 記事の内容や商品の情報は掲載当時のものです。掲載時のものから情報が異なることがありますのであらかじめご了承ください。