高湿度で起こる!?夏前の熱中症にご用心専門医に聞く!「梅雨型熱中症」の予防と対応・完全ガイド


監修:藤永 剛(ふじなが つよし)
ライター:UP LIFE編集部
2025年4月4日
健康
高温多湿…。現在の日本は、夏前から過ごしにくい気候がはじまります。最近では夏本番をむかえる前に起こる「梅雨型熱中症」という言葉も聞かれるようになりました。今回は、近年増えつつある梅雨型熱中症について、埼玉慈恵病院副院長の藤永剛先生にお聞きしました!
夏前から注意!「梅雨型熱中症」とは?

春と夏の境界が曖昧になり、かなり早い時期から蒸し暑さを感じるようになった昨今。ちょうど梅雨の時期に起こる「梅雨型熱中症」という言葉も聞くようになりました。この梅雨型熱中症とは、どのようなものでしょうか?
「梅雨型熱中症は、夏本番を迎える前の梅雨時期に起きやすい熱中症です。真夏ほどの気温でなくても、湿度が高ければ起きやすく、風が弱い日にはさらに発症しやすくなります。室内での発生が多いのも特徴ですね。
“梅雨寒”という言葉もあるように、かつて梅雨は涼しい日が多かったのですが、最近はそうでもありません。気温や湿度が高くムシムシして、真夏ほど高温でなくても熱中症が発生しやすい環境です」と藤永先生。
梅雨型熱中症の初期症状は真夏の熱中症と同じで、めまいや立ちくらみ、吐き気や身体のだるさ、筋肉痛や大量の発汗があります。症状が進むと、頭痛や嘔吐、虚脱感が出て、集中力や判断力が鈍ったり、さらに症状が進むとけいれんや意識障害を起こします。
地味な熱中症?梅雨型熱中症の特徴
「梅雨型熱中症と真夏の熱中症のちがいをあえていうなら、真夏の方が大量の発汗と高体温で救急搬送されることが多くなることです。つまり真夏の方が急激で激烈、“派手な熱中症”といえるかもしれません。また、炎天下で起こるため、本人や周りの人も熱中症を疑うのは容易です。一方、梅雨型の熱中症は、知らず知らずのうちに発症し、じわじわ進行する“地味な熱中症”。静かに進行するため、本人も周囲も即座に熱中症を疑わないことも」
梅雨型熱中症のメカニズムとは?高湿度が引き起こす体温上昇と脱水
では、高湿度がどのように身体に影響して梅雨型熱中症を引き起こすのでしょうか?
「湿度が高いと汗が蒸発しにくく、体内に熱がこもり体温が上がりやすくなります。そこで身体は体温を下げようと発汗するので脱水が起こります。また、湿度が高いとのどの渇きを感じにくいため、水分補給がおろそかになり脱水症状がさらに進みます。こういった過程をくり返すと、しだいに体温の調整機能が弱まり熱を下げられなくなります。このように“体温上昇”と“脱水”が組み合わさることで、熱中症が引き起こされるのです」
暑さに不慣れ、自律神経の乱れ、心と身体の隙をつく梅雨型熱中症
さらに梅雨型熱中症は、この時期特有の身体の状態によって起きやすいといえます。
「梅雨型熱中症が起こる時期は、春から夏への移行期で季節の変わり目です。この時期は身体が暑さに慣れておらず(暑熱順化の未獲得)、自律神経のバランスが乱れ体調を崩しやすいとき。加えて、まだ夏ではないからと油断して熱中症対策を怠りがちです。人の心と身体の隙をついて引き起こされるようなものなので、注意が必要です」と藤永先生。
知っておきたい!梅雨型熱中症のチェック方法

梅雨型熱中症のメカニズムがわかったところで、自分でできる梅雨型熱中症のチェック方法は?
以下を参考に確認してみましょう!
すぐにわかる!梅雨型熱中症チェックリスト
- 多湿・高温の環境にいる/いた(目安は気温25℃以上、湿度60%以上)
- 汗をかいている
- 頭痛やめまいがある
- 吐き気や嘔吐がある
- 筋肉の痛みやこむら返りがある
- 身体が重くだるい
- 熱がある
チェックリストの1つ目にある環境下で、2〜7の症状の1つでも当てはまる場合は、梅雨型熱中症を起こしている可能性があります。しっかり水分をとり、汗をかいている場合は塩分もとりましょう。
もしもの時はどうする!?梅雨型熱中症の対応、日々の予防とは?

注意していても症状が起こってしまった場合、対処の判断も鈍りがちです。藤永先生に症状が出た場合の対処方法をお聞きしました。
体調不良を感じたら…
「症状を感じたら、すぐに涼しい場所に移動しましょう。エアコンが効いている部屋や風通しの良い日陰がよいです。また、服をゆるめて身体を冷やしましょう。首や脇の下、足の付け根など太い血管が通っている部分に氷袋や保冷剤、冷えたタオルなどを当て、経口補水液があれば摂取して、なければスポーツドリンクや水を補給しましょう」
上記を行い、20分安静にしても症状が改善しなければ医療機関を受診しましょう。そもそも自分で水分補給ができなかったり嘔吐してしまう場合は、その時点で医療機関を受診するのが正解です。
昨今、熱中症による救急搬送の増加が社会問題になっていますが、緊急時にはためらわず救急車を要請することが大切です。
自宅で安静にしてよいか救急車を要請した方がいいのか、悩んだりためらわれた時は、専門家からアドバイスを受けることができる電話相談窓口「救急安心センター事業(#️7119あるいは、地域ごとに定められた電話番号)」に電話することで、救急相談を受けることができます。また、下記も判断の目安にしてください。
救急車を呼ぶ目安は?
- 意識障害
ぼんやりしていたり、反応が鈍い、話す内容がまとまらない、混乱するなどしている時。さらに呼びかけに応じない場合も - 高熱
40度以上の熱があり、冷やしても効果がない場合 - 呼吸困難
呼吸が速く、浅い時。または呼吸ができない場合 - けいれん
意識障害の有無にかかわらず、けいれんを起こしている場合 - 異常な発汗、突然の無汗
大量の発汗や、その汗が急に出なくなった場合 - 強い吐き気や嘔吐、激しい頭痛
強い吐き気や嘔吐、強い頭痛が続いている場合
特に1の意識障害がある場合は、迷わず119番をしましょう。
また、ふだんから梅雨型熱中症に意識を向け予防するのが理想です。
梅雨型熱中症の予防方法は?

「梅雨型熱中症の予防には、①適切な温度と湿度(目安は室温25〜28度、湿度50〜60%)、②こまめな水分補給、③暑熱順化の獲得が挙げられます。①は換気をしたり、扇風機やサーキュレーターを使って空気を循環させたり、エアコンの除湿機能を使って調整しましょう。温度だけでなく湿度も下げるのが大切です。②はのどが渇く前に飲むのがコツ。③の暑熱順化とは、暑さや高湿度に慣れることをいいます。暑熱順化が完了すると、汗の量が増し体温の上昇を防ぐことができます」
日々、少しずつ!暑熱順化の方法
暑熱順化は、汗をかくことで獲得できます。
1 適度な運動/筋トレやストレッチ、ウォーキング、ジョギングなど
じんわり汗が出るぐらいの強度で行う。
「筋トレならスクワットやカーフレイズと呼ばれるかかとの上げ下げ、あとはウォーキングなどもおすすめです。水分を補給しながら、汗が出やすいあたたかい環境で行うとより良いです。また身体を動かす家事や、階段を使うことで汗をかきやすい身体づくりができますよ」
2 入浴、半身浴
汗が出るまで湯船にゆったりとつかる
「梅雨時期は、シャワーだけという方も多いかもしれませんが、湯船につかることで発汗を促すことができます。暑く感じる場合は、半身浴もいいですね」
筋肉量のキープは、梅雨型熱中症の予防におすすめ!
上記の方法を試していくと、数日から2週間ほどの間に暑熱順化を獲得できるようになります。
「数ある方法の中でも“適度な運動”は、筋肉量のキープにつながります。筋肉はいわば、水分の貯蔵タンク。貯蔵タンクが空だと脱水になりやすいのです。さらに筋肉を動かすとそのポンプ作用で血の巡りがよくなります。血液が適切に循環できてこそ体温の調整ができるので、筋肉量のキープはとても重要です」
梅雨型熱中症の正しい知識を身につけよう!
「私は、”日本一暑い街”で知られる熊谷市の救急病院で、熱中症の救急搬送患者さんの診療を25年以上行ってきました。昨年も220名以上の熱中症患者さんを診察しました。以前は梅雨時には熱中症診療もひと息つけましたが、最近は梅雨時期でも熱中症患者さんの数が増えています。
真夏の熱中症については多くの人が知るようになりましたが、梅雨型熱中症はまだまだ知られていません。発症を怖がるよりもまずは知ることが大切です。この記事から梅雨型熱中症の正しい情報を得ていただき、梅雨の間の健康維持に少しでも役立てていただけたらうれしいです!」
監修

藤永 剛(ふじなが つよし)
医師、医学博士、埼玉慈恵病院副院長。東京慈恵会医科大学卒業後、同大学附属病院、虎の門病院を経て、1996年から埼玉県熊谷市の埼玉慈恵病院へ。以後25年間、救急医療に従事しながら多くの熱中症患者の治療にあたる。地域柄、熱中症患者が多いこともあり熱中症診療は自身のライフワークになっており、副院長となった現在でも救急搬送の患者に真っ先に対応している。また「報道ステーション」(テレビ朝日)や、「ひるおび!」(TBSテレビ)など、メディア出演も多数。
2025年4月4日 健康
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