洗濯機の再生プラスチック使用量を35%に。プロジェクトメンバーが語る、その難しさと意義
ライター:榎並紀行、栄藤徹平(CINRA)
2026年4月24日
家事・くらし
パナソニックが2023年に発売した縦型全自動洗濯機(NA-FA7H2)は、製品全体のプラスチック量に占める約35%を再生プラスチックに置き換えることに成功しています。特筆すべきは、再生材の活用が難しいとされていた「脱水受け」という大型部品において、部品重量の70%を置き換えられているという点です。なぜ実現できたのか、またそこにどんな課題や挑戦があったのか、同商品の開発を、日本と生産工場のあるベトナムの両方でリードし続けた担当者3名がご紹介します。
GX推進のため、再生プラスチックの使用率を35%まで高めた洗濯機
―2023年にパナソニックが発売した、7㎏モデルのインバーター全自動洗濯機(NA-FA7H2)は、使用されるプラスチック全体重量の約35%を再生プラスチックに置き換えています。そもそも、洗濯機に再生プラスチックを使う取り組みは、いつ頃からスタートしていますか。
川瀬:再生プラスチックの活用は10年以上前から取り組んでいます。今回の製品の前機種でも、約15%は再生プラスチックを使用しているんです。15%でも業界ではかなり高い水準で、ほかの事業者さんから「どうやって実現しているんですか?」と聞かれることもあったくらいです。
―今回は、それをさらに使用率35%まで引き上げたと。
川瀬:はい。企業としてGX(グリーントランスフォーメーション)に取り組むなかで、製品に再生・リサイクル材をどれくらい使うかという使用量の目標が定められたんです。
―新しい洗濯機では、具体的にどの部分に再生プラスチックが使用されていますか?
川瀬:まず従来の製品では、「台枠」と呼ばれる本体の土台にあたるプラスチック部品や、本体内部や後部のプラスチック部品など、お客さまの目に触れにくい部品に再生プラスチックを採用していました。これらの部品は製品の外観に大きな影響を与えないだけでなく、水圧や激しい振動をほとんど受けない部品のため、再生プラスチックに置き換えても品質を担保できたんです。
しかし、さらに使用率を上げるとなると、お客さまの目に触れる部品や、高い強度が必要な部品にも使用する必要があります。今回、再生プラスチックへの置き換えに挑戦した「脱水受け」はまさにそういう部品。洗い運転時には最大51Lもの水を貯水し強い水圧を受け、脱水運転時には激しい振動を受けます。
この部品は、洗濯機におけるプラスチック部品のなかで最も大きい部品なので、ここを大幅に置き換えられるかどうかが今回のプロジェクトの肝でした。「どうせやるならできる限り置き換えよう」と挑戦した結果、「脱水受け」の部品重量の70%を再生プラスチックに置き換えることができました。
再生プラスチックに変えても絶対に譲れない「品質保証」
―「脱水受け」の大部分を再生プラスチックに置き換えるにあたり、どのような課題がありましたか?
川瀬:「脱水受け」は水圧と振動を受け続ける部品のため、水漏れしないための強度が必要になります。洗濯機は長年使用される商品であり、毎日使用される商品ですので、品質維持が特に重要なんです。再生プラスチックに置き変えた場合に、水漏れなどを起こすことなく余裕をもって使用できる部品保証を何年にするか、その設定が難しかったですね。
堀木:再生プラスチックの場合、バージンプラスチック(※石油から製造される新品のプラスチック)では起こり得ない異物混入の可能性があり、強度などの材料特性は低くなってしまいます。お客さまのご使用に支障をきたさない範囲でどこまでそれを許容するのか、新たに分析し、定義しなおす必要がありました。
強度が低くなるということは変形や劣化が起こりやすいということですから、「脱水受け」のように激しい振動を受け続ける部位には使いづらいのではないかという懸念がつねにありました。何度も脱水運転を繰り返した際、最終的に破損するまでの限界値を示す「疲労強度」は、バージンプラスチックと再生プラスチックとでは大きな差が出ることが初期の段階からわかっており、この目標値をどのように見極め、再設定するかが大きな課題でしたね。
川瀬:そこは私たち設計開発チームと材料開発担当の堀木さんとで、かなりの解析と議論を重ねました。私としては、水漏れに関係する部品の耐久設計は従来からの当社洗濯機設計基準どおりと考えていましたが、堀木さんからは「お客さまの使用実態を見ると、なかには製品の設計寿命を超えて長くお使いいただいているケースもある。だったら部品の余裕としてそれ以上を保証する必要があるでしょう」と言われて。
堀木:結果的に、そこは私が押し切らせていただきました(笑)。
―では、どのようにして必要なプラスチック部品強度を再生プラスチックで担保することができたのでしょうか?
川瀬:材料の専門家である堀木さん、そして今回の製品の生産拠点であるベトナムのR&D部門の材料担当の方にご尽力いただきました。先ほど堀木さんがおっしゃったとおり、再生プラスチックは強度面で変形や劣化が起こりやすいのですが、そこに最適な添加材をブレンドすることで耐久性を上げることが検討と評価を重ねるなかでわかったんです。
R&D部門の材料担当者が「この配合なら、これくらいの製品寿命を出せますよ」と、さまざまなブレンド配合のデータを示してくれたことで、想定よりも短期間で狙いとする強度を担保できる配合を見出すことができました。
―品質保証を確立するために、どのようなテストを行ないましたか?
山本:CAE(※コンピューター上でシミュレーションを行ない、工学的問題を解決するシステム)を活用して、洗い運転時や脱水運転時に「脱水受け」に加わる力がどれくらいになるかを可視化・数値化しました。また同時並行で実機を使った計測も行ない、「このレベルの力であればCAE上でも実機上でも長期間の使用に耐えられる」ということを立証しました。
それまでは堀木さんをはじめ、さまざまな人から「脱水受け」が割れてしまう恐れがあるんじゃないかというご意見をいただいていたんです。しかし、CAEによる具体的な数値と定量的な解析、そして実機による測定を重ねたデータを共有することで、長期間の使用に対する品質を確保できるということを理解していただくことができました。
CAE解析と実機検証をリンクさせて、必要強度を確保するための部品設計をするというのは初めてだったので、やりがいがありましたね。
再生プラスチック活用の弊害さえ、新しい価値として訴求
―今回、新たにリサイクル材を使用したのは洗濯機内部の脱水受けなど、基本的に「外から見えにくい部分」ばかりです。理由はありますか?
川瀬:日本では、洗濯機といえば清潔感のある「白」というイメージが多くのお客さまに定着しています。しかし、再生プラスチックは異物混入の可能性があるので製品として均一な外観にするために着色されていることが多く、そこから白くすることは難しいんです。黒くすることは難しくないのですが......。
―黒い洗濯機があってもいい気はしますが。
川瀬:白い内装の脱衣所に黒の洗濯機を置くことで、雰囲気が暗くなってしまうことを気にされている人も多いようです。実際に、落ち着いたダークシルバー色の洗濯機を出した際にも、思いのほか販売台数が伸びず、白色に戻して販売台数が増えたことがありました。最近の流行の淡いベージュなどナチュラル色に近いカラーも出してはいますが、人気色はやはり白です。
―難しい問題ですね。ただ、裏を返せば色にさえこだわらなければ、外観部分も含めてリサイクル材の使用割合を高めることができるわけですよね。
川瀬:われわれとしてもそうしていきたいと考えています。環境への課題意識が高い購買層も今後増えてくると考えていますから、それを見据えて今回の新製品では本体内部部品の再生プラスチック化に取り組んできました。さらに、外観部分等を含めた将来への変化へ備えていきたいと考えています。
たとえば、再生プラスチックを部品にすると、原材料に混入する微小な不純物による「黒点」と呼ばれる小さな汚れが発生することがあります。それがいつか、再生プラスチックを使っているからこそ生まれる価値として、受け入れられる時代もくるかもしれないと私は思っています。
―黒点が「環境にやさしい製品」である証として、逆にかっこいいものだと認識されるようになれば、さらに再生プラスチックを使用しやすくなりますね。
川瀬:そう思います。先ほども申し上げたとおり、洗濯機のメインのお客さまには「洗濯機は白」というイメージが定着しているのですが、若い世代に人気の黒を基調とした製品もあります。そういった層に向けて、外装部分にも再生プラスチックを積極的に使った製品も面白いのではないかと思っています。
私はそういった環境配慮型製品を、パナソニックが先行していけるように技術・製品開発に取り組んでいます。そういう意味でもNA-FA7H2を発売できたことはうれしかったですね。
開発者としての矜持。製品としての性能と品位を確保しながら「いかに再生プラスチックを使いこなすか」
―今回の施策では、ベトナムで生産・販売される縦型洗濯機の一製品が対象ですが、今後はほかの地域で生産される製品、あるいはドラム式洗濯機などでも再生プラスチックの使用割合を増やしていく予定ですか?
川瀬:そうしていきたいと思っています。
―それを実現するにあたり、どんな課題がありますか?
堀木:いちばんは、材料リソースの問題ですね。当然、再生プラスチックは無限にあるわけではありません。さらに対象製品を広げるとなれば、どの製品にどれくらいのリソースを充てるのか、しっかり検討しなくてはいけないでしょう。
また、今回の洗濯機に使用している再生プラスチックが、そのままほかの洗濯機に転用できるとは限りません。今回の材料を使うにせよ、新しい再生プラスチックのリソースを探してくるにせよ、あらためて疲労強度などを検証する必要があります。
―今後そうした検証を行なっていく際には、今回の取り組みで得られた知見も生かせそうでしょうか?
堀木:大いに生かせると思います。材料の観点でいえば、従来のバージンプラスチックを再生プラスチックに置き換えるにあたって、必要な手順やアプローチを確立できたことが大きいですね。品質目標の立て方などもそうですし、そもそも何に注意しなければいけないのかもわかりました。
また、再生プラスチック特有の不純物やばらつきが生じたときに「どんな調査を行なえばいいのか、何を数値化すればそれが製品に致命的な不具合を及ぼさないと判断できるのか」といったことも、今回の取り組みによって見えてきています。この知見は、仮に今回とは別の再生プラスチックを使用することになったとしても、おそらくそのまま活用できるはずです。
―では最後に、今回のプロジェクトを通じて、ものづくりに対する思想や考え方などはアップデートされましたか?
山本:ぼくは、かなり考え方が変わりました。これまではどちらかというと、始める前から「これは難しいんじゃないかな?」と考えてしまうところがありました。今回のプロジェクトの初期段階でも、パナソニックとして守るべき設計基準があるなかで、脱水受けの大部分を再生プラスチックに置き換えるなんて、とても無理だろうと思っていたんです。
でも、たとえ難しそうなことでも、どうすれば実現できるかをつねに考え、プロジェクトメンバーだけでなく有識者等さまざまな方々と議論し、本当に無理なのかを突き詰めて考えて試してみることの大切さに気づきました。
川瀬:思想のアップデートということではないのですが、成長できた部分はあると思います。私は「いまいる場所にとどまらず、つねにチャレンジすること」をモットーにしていて、人から無理だと言われれば言われるほど、逆にやってやろうと燃えてくるタイプなんです。それゆえに、これまでは一人だけで突っ走ってしまうところもありました。
ただ、今回の取り組みに関しては、自分一人ではとても判断がつかないことだらけでした。そこで、関わるメンバーと丁寧に対話していき、それぞれが不安に感じている点を一つひとつ聞き取りながら解決策を探っていったんです。そうすると、最終的にはみんな首を縦に振ってくれる。当初はあれだけ喧々囂々とやりあっていた堀木さんとも、いつしか同じ方向を向いて走ることができましたから(笑)。
今回のプロジェクトで培った、対話しながら実行していく力を今後も発揮していけたらと思います。
―堀木さんはいかがですか?
堀木:私の場合、考え方がアップデートされたというよりも、もともと思っていたことの重要性を再認識できたというか、理想を具現化することができたプロジェクトだったかなと思います。
―ぜひ、その思いを聞かせてください。
堀木:サステナブルな社会を実現することは、言うまでもなく人類共通の課題です。それに対して、パナソニックの材料開発担当である私に何ができるのか。その答えのひとつが、「いかに再生プラスチックを使いこなすか」ではないかと思っていました。
ただ、環境に良いからといって、製品としてお客さまが望むレベルに達していないものを出すわけにはいきません。バージンプラスチックから再生プラスチックに置き換えたとしても長くお使いいただけるように、これまでと同等の品質保証を確保しなくてはいけないと考えていたんです。そこに関しては今回、妥協なく突き詰めることができたのではないかと思います。
今後は再生プラスチック以外にも、自分なりに環境問題に貢献できる取り組みを探していきたいと考えていますが、何をするにせよお客さまの期待を裏切らないという姿勢は貫いていきたいですね。
対談者プロフィール
川瀬 尚希
パナソニック株式会社 くらしアプライアンス社 ランドリー・クリーナー事業部 衣類ケアBU 技術総括 商品開発部
2011年入社。洗濯機の機構設計者として日本向け縦型洗濯機を中心に性能評価・外観設計・プロジェクトマネジメントに従事。2023年4月よりPanasonic Appliances Vietnam Washing Machine R&D Centerに在籍。アジア向け洗濯機の開発を手がけている。
私がつくりたい未来:新しい「コンセプト」
新たな視点で新たな提案を生み出し、お客様の価値に繋げていきたい。行き詰ったとき、少し視点を変える度に新たな発想が生まれてくる。これからもこの考え方を大事にたくさんの方と入り混じって商品開発に尽力したい。
堀木 泰佑
パナソニック株式会社 くらしアプライアンス社 ランドリー・クリーナー事業部 衣類ケアBU 技術総括 技術企画部
2003年入社。材料開発者として洗濯機やヒートポンプ給湯機等の水周り商品を中心に要素技術開発に従事。2017年4月よりランドリー・クリーナ―事業部に在籍。材料専門家として、新材料の開発・商品化などを手がけている。
私がつくりたい未来:「我慢しないサステナブル社会」
お客さまが期待する性能および品質を犠牲にすることなく、さらに地球環境にも貢献することができる商品をパナソニックから提供し続けたい。
山本 勝規
パナソニック株式会社 くらしアプライアンス社 ランドリー・クリーナー事業部 衣類ケアBU 技術総括 商品開発部
2006年入社。技術者として洗濯機を中心に国内外の洗濯機の設計業務に従事。洗濯機の機構開発をはじめ、CAE開発などを手がけている。
私がつくりたい未来:新しい「技術」
新しい技術によって、新しい材料、形状および構造をつくっていきたいと考えています。
2026年4月24日 家事・くらし
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