「防災に関する意識調査2024」から読み解く
意識ギャップに⾒出す防災対策術vol.1
災害時の備えについての監修:国際災害レスキューナース・辻 直美(つじ なおみ)
ライター:UP LIFE編集部
2024年8月28日
防災
9月1日は防災の日。2024年で関東大震災の発生から101年目となりますが、気象庁のデータによると、日本全国でこの100年間に起きた「震度6弱以上の地震」は78回記録されています。そのうち、2011年の東日本大震災以降に起きた震度6弱以上の地震はなんと35回。実に、大きな地震の約45%がこの10年余りの間に発生しているのです※1。8月中旬には南海トラフ臨時情報が発表され、自然災害への対策を考え直すべきこの機会に、パナソニックは2021年、2022年に続き、「防災に関する意識調査2024」を実施しました。この結果をもとに、国際災害レスキューナースとして多方面で防災の重要性を発信されている辻直美さんに、自然災害への備えについてのポイントと、私たちが今すべきことについてお聞きしました。
※1:気象庁 震度データベース検索より編集部にて集計(2024年8月26日現在)集計対象日時は、1924/08/24 00:00 ~ 2024/08/24 23:59
被災は「イメージと実際では全然違う」を知ることがスタート
「防災対策について考える際、はじめに知っておきたいのが『被災経験のない⼈は想像で防災対策を考えがち』という点です。被災経験のない⼈は、テレビや友⼈から聞きかじった情報から推測して防災グッズを⽤意されていることが多いですが、被災の現状は、平常時にイメージするような内容とは全く違います」と、防災を考える起点は想像と事実とのギャップを知ることだと辻さんは語ります。被災の現場は待ったなしであるにも関わらず、今回実施した「防災に関する意識調査2024」の結果を⾒ると、そもそも⾃分に対しての危機感が少ないため、防災グッズの⽤意すらしていない⼈も多くいるようです。
「災害は、起きてから対策しても間に合いません。⼀部の若年層においては、⾮常に楽観的に考えている傾向が強く、『どうにかなるだろう』『誰かが何とかしてくれるだろう』という思いも⾒え隠れします」と辻さんは若年層の防災意識の低さを指摘します。
電気、⽔道、ガスが⽌まった際の困りごとは⽔回りに関するトラブルが上位に
「備えの必要性」については若年層の意識の低下が顕著
防災グッズを買うことがゴールになってしまっている
「被災していないからこそ、過度な⼼配や闇雲な不安にさいなまれて、『どうすればいいかわからない…』と思って⾏動できなくなってしまう⼈もいます。その場合は、正しい情報のもと、⾃分に必要な備えや知識をしっかりと取り⼊れることが⼤切です。家族とコミュニケーションをとって、不安の理由を解消することも重要です」。不安で対策ができない⼈に向けてはまずは話をじっくりと聞き、本⼈の胸の中にある思いをすべて吐き出させることが⼤事だと辻さんは⾔います。
「今回の調査結果を⾒ると、⾃分や家族にとって必要なものをきちんと分析せず、不安になると『とりあえずモノを買う』という⾏動で安⼼しようとする傾向が強く出ています。これはつまり、『防災対策=モノを買って安⼼』で対策が⽌まってしまっているということです」とデータの傾向から防災グッズを買って安⼼して終わる⼈の⼼理を推測する辻さん。本当に⼤切なのは、防災グッズを買って安⼼するのではなく、それをどう使うかまでを考え、適切かどうかをシミュレーションすることが重要だと⾔えます。
備えをするだけではなく、実際に⾏動に起こしているかどうかという点で⾒ると、「被災経験の有無」が⼤きく関わっていることも今回の調査でわかりました。やはり、⼀度被災者として災害を経験すると、備えの意識もそれに対する⾏動も、より現実的なものにアップデートされるということが⾔えます。
停電経験者と未経験者では備えに関する意識ギャップがある
実際に被災された⽅の⾔葉は「何より役⽴つ知恵」
これらの傾向は、実際に被災された⽅の⾔葉を聞くとより実感がわくと思います。地震や集中豪⾬の影響で避難⽣活を送ることになった⽅々の⾔葉は、とてもリアリティがあり、災害未経験者にとっては⼤きな教訓になります。辻さんによると、「これまでの経験から、被災地で会った被災者からよく出てくる⾔葉は⼤きく分けて5つに分類されます」とのこと。
①⽤意していたものと実際に必要なものが違った
②⽤意はしたものの全く量が⾜りなかった
③使い⽅がわからず、結局使えなかった
④使い勝⼿が悪かった・不便だった
⑤使⽤感・使い⼼地が悪かった
「これらの⾔葉が出てくる理由は、『モノを買っただけで使っていない』ということに起因しているのでは」と辻さんは分析。「テレビやラジオ、雑誌などで防災特集が組まれ、もしくは動画などで、⽬についたら同じものを買って安⼼してしまう。しかし、それを使うという経験が全くないため、それをどういう順番で使うのか、⽣活⽤品であればどういう質感でどういう⾹りなのか、⾷料であればどういう味・⾷感なのか。これらの特⻑が全く未知であるため、こういった感想が被災の現場から多く出てきます」と辻さんは⾔います。いざ被災してしまった時に、このような⾔葉が出てこないよう、また、いざ使うとなった時に賞味期限が切れていたり、ウェットティッシュなどが乾燥して使い物にならなかったりしないよう、定期的に内容のチェックをしておくなど、よりリアリティを持って対策を考える必要があります。
⾃然災害対策に潜む様々な意識ギャップ
今回の調査結果からは総じて、想定と現実に「ギャップがある」ということが浮き彫りになりました。「離れて暮らす親と⼦のギャップ」「年齢別の防災意識ギャップ」「被災経験の有無のギャップ」「⼀⼈暮らしと家族と一緒に暮らしている人のギャップ」など、状況や環境に応じて防災の意識に差が⽣じてしまっているということ。「ギャップは『認識のズレ』につながり、いざという時の家族間での⾏動のズレにもつながりかねません。これらのギャップを埋めることが、⼤切な⼈を救うこと、⾃らの命を守ることにつながります」と辻さんは⾔います。
- 「家族のことは⼼配するのに、⾃分⾃⾝のことは⼼配していない」ギャップ
- 停電経験者と停電未経験者の防災意識ギャップ
- 家族間(世代別)の防災意識ギャップ
被災した時に困らないためには、事前に確認する・使ってみることが⼤切
今回の調査データを総括して辻さんは「全体的に過去のデータよりも防災についての意識は上がっていますが、被災経験の有無によって災害に対する思いにも備えにも差が出ています。備えているとしても『モノを買って安⼼』で対策が⽌まっており、中⾝を使ってみたり、使い⽅などをきちんと確認する⾏動はしていない⼈がほとんどという状況。実際に被災した時に初めて『思っていたより⾜りなかった』『本当に欲しいものが備えられていなかった』など、被災した時に困らない備え⽅が⼤切です」と、災害レスキューナースとして数々の現場に⽴ち会い、被災された⽅々の声に⽿を傾けてきたからこそ感じる危機感で、浮き彫りになった備えに対するギャップを語ります。
まとめ:災害時は、⽇常にできることしかできない。
「災害時は⽇常にできることしかできません。その上、できたとしても100%はできません。普段からスムーズにできていなければ、全く機能しないことがほとんどです。防災意識をより⼀歩先に進めるためには、モノを買うだけではなく、『知識とスキルを備蓄する』ということを後押ししていくことが必要になってきます」と辻さんは普段から知識と経験を蓄えることの重要性を語ります。そのためにはまず、防災意識に関するギャップを知り、その溝を埋めること。ギャップを埋めるためにも、家族とのコミュニケーションは重要です。ぜひ防災の⽇をきかっけに、⼤切な家族やパートナーと防災について話し合ってみてはいかがでしょうか?意識のギャップが⾒つかったら、それが改善の第⼀歩になるはずです。
この記事の続編として今後、「親世代」「ファミリー」「⼀⼈暮らし」の防災ギャップについて記事をアップしていく予定です。ぜひチェックしてみてください。
<調査概要>
- 調査内容:防災に関する意識調査2024
- 調査期間:2024年7⽉12⽇(⾦)〜2024年7⽉15⽇(⽉)
- 調査対象者:全国の20〜69歳男⼥ 計2,000⼈(内1,000⼈が5時間以上の停電経験者)
- 調査主体:パナソニック株式会社
- 調査⽅法:インターネット調査
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災害時の備えについての監修
辻 直美(つじ なおみ)
国際災害レスキューナース
⼀般社団法⼈ 育⺟塾 代表理事
阪神・淡路⼤震災を経験し、災害レスキューナースへ転⾝。
看護師歴33年、災害レスキューナースとして29年活動。
国内外30ヶ所以上の被災地派遣で経験を積む⼀⽅で、防災に関する講演やコラム掲載など、活躍は多岐にわたる。
著書『レスキューナースが教えるプチプラ防災』(発売:扶桑社)、『地震・台風時に動けるガイド - 大事な人を護る災害対策』(発売:Gakken)
- 辻の「しんにょう」は「⼆点しんにょう」です。
2024年8月28日 防災
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