「防災に関する意識調査2024」から読み解く
意識ギャップに見出す防災対策術vol.3
<家族のための防災編>
災害時の備えについての監修:国際災害レスキューナース・辻 直美(つじ なおみ)
ライター:UP LIFE編集部
2024年11月22日
防災
いつどこで起こるかわからない自然災害。同じ家に住む家族であっても、学校や職場など別々の場所で被災する可能性もあります。家族と離れている状況で被災した場合を考えると、家族一人ひとりが自然災害へのあり方を考え、家族間で防災に対する認識をすり合わせておくことが命を守る上でも重要になってきます。今回は、「家族で向き合う防災」について考えてみたいと思います。
同居家族がいる人は「家族や知人の安否」を気に掛ける傾向が強い
今回の意識調査によると、同居家族のありなしで、「自然災害が起こった時に不安に感じること」に違いがあることがわかりました。同居家族ありの場合は、1位が「家族や知人の安否 57.0 %」、2位が「電気・ガス・水道などのライフラインの停止 50.7 %」、3位が「建物の倒壊・破損49.5 %」という結果になり、同居家族がいる人は一緒に暮らしている家族の安否を最も重要視する傾向がわかりました。
一方で、同居家族なしの場合は、1位が「電気・ガス・水道などのライフラインの停止51.3 %」、2位が「食料や物資の不足44.3 %」、3位が「家族や知人の安否38.6 %」という結果に。自らの身の安全やライフラインに関することが上位にランクイン。同居家族の有無で、「家族や知人の安否を最優先するかどうか」に約20ptほどの差が出ています。
同居家族の有無で災害時に不安に感じるポイントがちがう
また、同居家族の有無に関わらず、「電気・ガス・水道などのライフラインの停止」が不安要素の上位にランクインしましたが、停電経験の有無によって電気・ガスなどの備えにギャップがあることもわかりました。一度非常事態を経験した家族は、未経験の家族よりも平均で10pt以上、備えをしているという事実があり、災害の経験が家族全体の備え度合いに直結しているということが言えます。
停電経験の有無で災害への備えにギャップあり
家族の安否を気にかけるものの、実際には話し合えていない状況
一方で、家族や知人の安否に対して不安を感じる傾向が強いにもかかわらず、実際に家族間で話し合うことができている比率は低いというデータも出ています。
「災害時に家族が離れている場合の行動について、事前に家族間での決め事があるかどうか」という質問項目については、YESと回答したのはわずか22.3 %。家族間で災害時の行動について話し合えている人は、4人に1人以下という現状です。
また、年齢の傾向でいうと、若くなるほど自然災害の備えに対して家族と話す機会が減少する傾向にあり、子どもと暮らす家庭では、より意識的に、災害時の対応についてコミュニケーションをとる必要があるとも言えます。
同居家族と備えについて話せている割合は低い
年齢が若くなればなるほど自然災害について家族と話す機会は少なくなる
防災は非日常ではなく、家族の日常のなかで考える
同居する家族と自然災害の備えについて話し合えていない現状に対して、辻さんは警鐘を鳴らします。
「防災について家族で話すことはとても重要です。ただ、防災のことに絞って話をすると、なかなか話が広がらないというのも事実。それは、自然災害を非日常のこととして話してしまうと、途端にリアリティがなくなってしまうからです。そこで、私が重要だと考えているのが、防災を日常のこととして自分事化して考えるということ。“防災=非日常”という観点で考えてしまうことがすでにミスリードになっているのではないでしょうか?」と辻さんは語ります。では具体的に、家族で防災のことを話し合う場合、どういう取り組み方をすればより会話が深まるのでしょうか?
子どもが自分事化できる方法で防災とポジティブに向き合う
辻さんは、「子育て世帯の場合であれば、子どもにも役割を持たせることが重要」と説きます。「例えば、子どものいる家庭であれば『子どもを防災リーダーに任命する』という方法があります。家族の防災対策状況をチェックする、気づいたことを指摘する、街で見かけた『津波が来たときの避難場所』の報告をするなど、防災対策に対してポジティブに取り組むことで、子どもが防災を自分事化できるきっかけをつくるやり方です。子どもたちは、仕事や家事や宿題よりも、『命にかかわること』の優先順位が高いことを本能的に理解しています。小学生の子どもであっても“ひとりの人”として向き合うことが大切です」と辻さんは語気を強めます。
避難場所や避難ルートの確認も、子どもの送り迎えや散歩などの日常生活の中に上手に取り入れて確認してみると自分事化しやすくなります。避難場所へは坂道なのか、下り坂なのか、細い道なのか、階段はあるのか、子どもを抱っこして、あるいは手を繋いで避難する場合や暗い中避難する場合には何に気を付ければいいかなど、あらかじめ確認しておくこともとても大事です。
「子どもの主体性を意識しながら家族みんなで防災に取り組むと、大人には見えてないことに気付かされることもあります。例えば、『地震が来た時に転倒しそうな棚やモノを探してみよう!』という掛け声のもと、家族みんなで家のなかのリスクを探してみたときに、子どもたちは大人が気づかなかったような低い目線の棚や物にも目が行きます。それは、高齢者や車いすの方など、防災弱者の方の目線に寄り添った対策方法を見つけることにもつながるのです」と、子ども主体の防災アクションが、家族みんなにとってプラスになる可能性もあると辻さんは語ります。
40・50代女性は同居家族と備えについて話す傾向が高い
親が理想とする防災のあり方を子どもに押しつけないことも重要
調査結果によると、「同居家族と、自然災害の備えについて、どんなことを話し合いますか」という設問に対して、「災害時に家族が離れている場合の行動について、事前に家族間での決め事があるかどうか」や「避難所の場所を知っているかどうか」という項目をチェックした割合が、女性40・50代で比較的高くなっている傾向がわかりました。これは、40代・50代女性の母親層が家族の防災対策をリードしているということのひとつの表れと言えるかもしれません。
一方で、気に留めておきたいのが、家族で防災対策について考える際、ついつい、親が主導で物事を進めがちだということ。よくあるのが、親が理想とする防災のあり方を子どもに押し付けてしまうというケースです。それを強要すると、子どもの自主性をうばうことになり、親は親で「なぜできないの?」とフラストレーションが溜まってしまい、結果的に子どもの防災の知識や意欲が定着しないことにつながってしまいます。まずは家族一人ひとりの防災に対する思いや価値感をテーブルに置き、ひとつずつ取り上げて会話をすることが重要です。
まとめ:防災対策は家族の「発表会」。そのなかで各々の心地よさを見つける。
「防災対策は、家族の気づきを共有しあう発表会のようなもの。『失敗』という文字は『敗れるを失う』と書きます。失敗を恐れたり嫌がったりする人も多いですが、失敗すればするほど、成功に近づくということ。防災に関していうと、いろんなことを試してみればみるほど、本人にとって心地よい対策法が見つかります。家族それぞれが思う理想の防災があっていい。日頃から会話できている家族は、いざというときに強いと思います」と辻さんは家族で考える防災のあり方を総括します。
家族みんなで災害を乗り越える。そのためにまず、「防災リーダー」を決めることから始めてみてはいかがでしょうか。
<調査概要>
- 調査内容:防災に関する意識調査2024
- 調査期間:2024年7⽉12⽇(⾦)〜2024年7⽉15⽇(⽉)
- 調査対象者:全国の20〜69歳男⼥ 計2,000⼈(内1,000⼈が5時間以上の停電経験者)
- 調査主体:パナソニック株式会社
- 調査⽅法:インターネット調査
災害時の備えについての監修
辻 直美(つじ なおみ)
国際災害レスキューナース
⼀般社団法⼈ 育⺟塾 代表理事
阪神・淡路⼤震災を経験し、災害レスキューナースへ転⾝。
看護師歴33年、災害レスキューナースとして29年活動。
国内外30ヶ所以上の被災地派遣で経験を積む⼀⽅で、防災に関する講演やコラム掲載など、活躍は多岐にわたる。
著書『レスキューナースが教えるプチプラ防災』(発売:扶桑社)、『地震・台風時に動けるガイド - 大事な人を護る災害対策』(発売:Gakken)
- 辻の「しんにょう」は「⼆点しんにょう」です。
2024年11月22日 防災
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