ライカレンズ × 写真家 連載企画 Vol.8

プラサット・クラヴァンを囲む堀

45mm(90mm相当)/絞り優先AE(F4、1/400秒、-1.0EV)/ ISO 1600/ WB:晴天
花の名が付く寺院プラサット・クラヴァンを囲む堀には命があふれていた。それらを絶妙な線と発色で生命力を感じるように描いてくれるのがこのレンズの何よりの魅力だ

安達 ロベルト

1969年、新潟県生まれ。上智大学法学部国際関係法学科卒業。アナログ白黒作品制作を活動の中心におき、国内外で展示および受賞多数。写真集に『Clarity and Precipitation』(arD)などがある

【カンボジア/アンコールワット】
写真を始めるきっかけになったアンコールワットの写真。苦難の時代を撮影してきた石川文洋氏だから、平和になったこの地を祝福するような慈しみのある写真が撮れたのだろう

安達ロベルト プロフィール画像

余計なものを削ぎ落としながら命も無機物も端正に描き出せる

ずっと写真を撮るのが嫌いだった。旅は好きで10代の頃からよく行っていたが、カメラを持ち歩くことはなかった。撮ることよりも、経験すること、感じることを優先したかったからだ。ところが、2003年、雑誌で見た石川文洋氏のアンコールワットの写真が、心に強く突き刺さった。それまで見てきた写真と何かが決定的に違う。それらがライカのカメラとレンズで撮られていることを知り、一気に写真にのめり込んだ。ライカは信頼する相棒となり、いつのまにか嫌いだった写真が仕事になっていた。

バンテアイ・クデイ寺院

45mm(90mm相当)/絞り優先AE(F5.6、1/500秒、-1.3EV)/ ISO 400/ WB:晴天
無機的な遺跡と有機的な木。南国の光と影。生の営みのダイナミズムを体現するバンテアイ・クデイ寺院を写すのに、質感描写に富んだこのレンズがよく似合った

ライカを持ってアンコールワットに行きたい。私が写真家になるきっかけとなった15年前のこの思いが、LEICA DGレンズで叶うことになった。 LEICA DG MACRO-EL MARIT 45mm /F2.8 ASPH. /MEGA O.I.S.は90mm相当の画角。レンズ1本で旅する場合、ほとんどの人が汎用性のある広角〜標準あたりを選ぶだろう。しかし私は、画角の狭さはむしろプラスに働くと考えた。加えて、このレンズには建築など硬質なものの描写が得意という印象を持っていたので、遺跡を描くのにマッチするだろうという目論見もあった。

アンコールワット 食事・夕景

実際に現地で使ってみると、予想どおり好感触だった。画角が狭いぶん、情報を削ぎ落とすことができ、写真が説明的になりにくい。描写は端正で、硬過ぎず柔らか過ぎず、線は細くもなく太くもない。1点だけ印象が変わったのが、植物など有機物の描写。硬質なものや無機物以上に、植物、水、人の生き生きとした描写にドキッとさせられた。レンズの描写に触発されて、遺跡中心に考えていた撮影プランを途中で修正し、遺跡周辺やシェムリアップの街を歩き、命あるものを積極的に撮った。学生時代に難民支援のボランティアをしていたときに知り合ったカンボジア人のNさんはその後どうしているかなど、被写体と直接関係ない命のことも多く心に浮かんだ。闇の時代を経て人々が輝く国となったカンボジア。レンズに導かれるかのように、生の美しさをあらためて感じた旅だった。

夜の屋台に並ぶ南国の果物

45mm(90mm相当)/絞り優先AE(F2.8、1/80秒、-0.7EV)/ ISO 1600/ WB:晴天
夜の屋台に並ぶ南国の果物をマクロレンズの特徴を生かして近接撮影。ボケ味と発色の良さに目を見張る。カメラもレンズも小さいから、お店の人も撮影に寛容だ

45mm(90mm相当)/絞り優先AE(F2.8、 1/125秒、-0.3EV)/ ISO 400/ WB:晴天
12世紀に始まり周囲の国々にも多大な影響を与えた寺院の数々。90mm相当で切り取ったほんの一隅の描写からも、アンコール遺跡の壮大なスケールが伝わってくる

アンコール遺跡 壁面の彫刻
ホテルでの一枚 繊細な衣装の模様

45mm(90mm相当)/絞り優先AE(F2.8、1/160秒、-0.3EV)/ ISO 400/ WB:晴天
乾季に入ったばかりのカンボジアの朝は爽やかだった。繊細な衣装の模様が滑らかにぼけた背景に浮かび上がる。ホテルでの1枚にレンズの特徴が詰まっている

使用機材

GX7MK3

DC-GX7MK3

比較的コンパクトなこのレンズはLUMIX GX7 MarkⅢと組み合わせると、見た目的にも機能的にもバランスが良い。さっと取り出せて目立たず、遺跡でも街でもフットワーク良く撮影することができた

LEICA DG MACRO-ELMARIT 45mm / F2.8 ASPH. / MEGA O.I.S.

最短撮影距離15cm、35mm判換算2倍の最大撮影倍率を持つマクロレンズでありながら、無限遠まですべての撮影距離で端正な描写をしてくれる。特筆に値するのがボケ味で、前後ともスムーズでクセがなく立体感に富む。開放F2.8と被写界深度も浅過ぎず、ピント合わせに神経質にならずに済む。

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