ライカレンズ × 写真家 連載企画 Vol.9
![ハービー・山口 作品1](/content/panasonic/jp/ja/dc/G-series/photographer-origin/herbie-yamaguchi/_jcr_content/root/main/componentContainer1/c_lay001_copy_copy_c/item/c_lay002/c_gen003.coreimg.jpeg/1715218496117/herbie-yamaguchi-mv.jpeg)
(左)42.5mm(85mm相当)/マニュアル露出(F1.2、1/500秒)/ISO 400/ WB:オート
48年前のあの日、少女がバレーボールをしていた場所に立ってもらう。背景の木は今も変わらずに残っている。ボケの中に人物が立体的に浮かび上がり、物語の始まりを予感させる
(右)42.5mm(85mm相当)/マニュアル露出(F1.2、1/320秒)/ISO 200/ WB:オート
落ち葉が模様を作る地面が印象的だった。85mm相当の画角のおかげで引いたカットでも背景や前景に入り込む要素を整理できて、しっかりとイメージを作り上げることが可能だ
ハービー・山口
1950年、東京都生まれ。大学卒業後に渡英し、およそ10年間を過ごす。70年代の生きたロンドンの姿を写真に記録し、高い評価を受けた。帰国後もアーティストから市井の人々までをモノクロームの作品に残している。エッセイ、ラジオDJなどジャンルの垣根なく人気を得ている
【源流/大田区 本門寺公園】
バレーボールをする少女に出会った、実家近くの思い出の公園。隣にある大森第四中学は出身校で、そこで写真部に入部して写真を始めることになり、この公園で写真家として目指す方向が決まった
![安達ロベルト プロフィール画像](/content/panasonic/jp/ja/dc/G-series/photographer-origin/herbie-yamaguchi/_jcr_content/root/main/componentContainer1/c_lay001_copy_copy_c_1032440419/item/c_lay002_50138207/c_gen003_copy.coreimg.jpeg/1716370483460/herbie-yamaguchi-profile.jpeg)
叙情的なボケの中に浮かぶ瞳の中に宿る感情を写す
1970年1月25日、自宅近くの本門寺公園をカメラを持って歩いていると、バレーボールをしている少女がいた。少女が突然、声をあげる。カメラを構えていた私に、ふいにボールがぶつかりそうになったからだ。ボールが当たることはなかったが、私は少女に釘付けになった。私のことを心配する彼女の瞳が優しさにあふれていたのだ。とっさのことでその瞬間を撮ることはできなかった。そのとき撮れなかった慈愛に満ちた表情を撮るために、それから48年がたった今でも、私は写真を撮り続けている。
![ハービー・山口 作品2](/content/panasonic/jp/ja/dc/G-series/photographer-origin/herbie-yamaguchi/_jcr_content/root/main/componentContainer1/c_lay001_434717760_c/c_lay011/c_gen003.coreimg.jpeg/1710900838445/vol09-img01.jpeg)
![ハービー・山口 作品3](/content/panasonic/jp/ja/dc/G-series/photographer-origin/herbie-yamaguchi/_jcr_content/root/main/componentContainer1/c_lay001_434717760_c/c_lay011_copy/c_gen003_copy.coreimg.jpeg/1710900843556/vol09-img02.jpeg)
(左)42.5mm(85mm相当)/マニュアル露出(F1.2、1/80秒)/ ISO 400/ WB:オート
背景を暗く落として、彼女の強いまなざしにスポットを当てる。ピント面の描写はシャープで、瞳の奥に宿る感情まで感じられる
(右)42.5mm(85mm相当)/マニュアル露出(F1.2、1/500秒)/ ISO 400/ WB:オート
彼女に声をかけ、振り向いてもらう。ふわりと舞う髪の毛の1本1本を解像し、かけがえのない瞬間を写真の中に閉じ込めた
2018年12月22日、しとしと降る弱い雨が地面と落ち葉をほんのりと湿らせていた。木々が生い茂り当時より鬱うっそう蒼としているが、48年前と変わらずに公園はそこにある。広告のように絵コンテが用意されていない撮影では、その日の天気なりに撮れば良い。レンズは85mm相当の中望遠となるLEICA DG NOCTICRON 42.5 mm / F1.2 ASPH. / POWERO.I.S.。美しいボケが紡いでくれる情緒と雨の情景を生かしてしっとりと描くために、カメラのフォトスタイルは階調と質感が重視されるL.モノクロームに設定した。
![ハービー・山口 作品3](/content/panasonic/jp/ja/dc/G-series/photographer-origin/herbie-yamaguchi/_jcr_content/root/main/componentContainer1/c_lay001_286883130_c/item_1682418277059/c_gen003.coreimg.jpeg/1710914494602/vol09-img03.jpeg)
モデルを依頼した采さんとは数年前に知り合った。あのバレーボールの少女にどこか似た面影があり、撮影を依頼したことがきっかけだ。ファインダーをのぞいて会話をしながら、F1.2の浅い被写界深度の中に浮かぶ彼女の感情を探る。メランコリックな表情を浮かべる彼女だが、瞳の奥に慈悲深さや情熱を宿している。それが、48年前の少女の表情と重なり合うようで、時の迷宮を進んでいくような感覚を覚えた。
このレンズは、手ブレ補正にも対応し、AFも迅速で正確。撮影に集中できるので、撮影者=私に対する相手の反応を撮るという私の信条にきっちりと対応してくれる。美しいボケ味は叙情的なイメージを作り出し、そこに存在する空気までもが写っているかのようだ。48年の時の流れをたどり、あの日見た瞳を探るような撮影を、このレンズはしっかりと受け止めてくれた。
![夜の屋台に並ぶ南国の果物](/content/panasonic/jp/ja/dc/G-series/photographer-origin/herbie-yamaguchi/_jcr_content/root/main/componentContainer1/c_lay001_copy_copy_c_1117862881/item/c_lay002/c_gen003.coreimg.jpeg/1710901443531/vol09-img04.jpeg)
42.5mm(85mm相当)/マニュアル露出(F1.4、1/320秒)/ISO 200/ WB:オート
大口径レンズの浅い被写界深度を生かして、あえて雨粒の付いたガラス越しに彼女を撮影した。前ボケにより彼女と私の距離感を再現することで、どこかもどかしいような心情を表した
モデル:采