ライカレンズ × 写真家 連載企画 Vol.4
25mm(50mm相当)/絞り優先AE(F10、 1/1,300秒、±0EV)/ ISO 200/ WB:オート
釧路を代表する橋・幣舞橋を望む釧路川の夕景。北洋漁業全盛期は大量の漁船が河岸を埋め尽くした。低い光線を浴びて輝く川面が立体的に捉えられている
デジタルカメラマガジンで掲載された誌面を再構成しています
中藤 毅彦
1970年、東京都生まれ。東京ビジュアルアーツ卒業。ギャラリー •ニエプス主宰。モノクロームのスナップを中心に作品を発表している。第24回林忠彦賞、第29回東川賞特別作家賞受賞
【北海道/釧路】
漁業、製紙業、炭坑などの産業を持つ道東の中核都市。幼少時に単身赴任だった父と過ごすため、何度も訪れた。写真家になった後、北海道をテーマに写真集も作っている。
炭坑と漁業の街に刻まれた懐かしい記憶をあぶりだす
釧路は思い入れのある街だ。私自身は東京で生まれ育ったのだが、両親は若い頃この北の港町に住んでいた期間があり、兄は釧路生まれである。僕の幼少時、銀行員だった父は仕事の関係で単身赴任でしばらく釧路に戻っていたため、夏休みや冬休みには家族で父のいる釧路で過ごした思い出がある。もう40年以上も前の話だが、幣舞橋から眺めたたくさんの漁船が連なる光景やメインストリートの北大通りのにぎわいなど、北洋漁業で栄えていた当時の釧路の街の活気は今でもよく覚えている。東京との差異を感じるこの街での体験は、街を舞台に撮影する今の私に受け継がれている。そんな釧路を約5年ぶりに訪れて、記憶をたどりながら私なりの心象風景を撮り歩いてみることにした。旅の相棒として選んだのはLUMIX GX7 MarkⅢとLEICA DG SUMMILUX 25mm / F1.4 ASPH.だ。力強いモノクロを描いてくれるL.モノクロームDを使ってみたかったこと、そして、レンズの基本中の基本である標準レンズ1本でフットワークを駆使したシンプルな撮影をしてみたいと考えたことが理由となる。
25mm(50mm相当)/絞り優先AE(F11、1/1,300秒、+0.3EV)/ ISO 800/ WB:オート
港の外れにある船舶修理用ドックに並ぶ大型クレーン。花と絡めてのどかな空気を写した。50mm相当のレンズは足を使って試行錯誤する面白さを再認識させてくれる
久しぶりの釧路の街は、昔のようには多くの人々でにぎわってはいないけれど、そこかしこに港町らしい風情のある懐かしい光景が残っていて写欲をそそられる。特に驚くのは国内最後の炭坑が今も現役で操業され、運炭鉄道も元気に運行されていることだ。 25mm / F1.4は、ライカレンズらしくしっとりと味がある描写で記憶の中の風景を叙情的に再現してくれた。絞り込めば産業を支える構造物の質感がありありと写真に浮かび上がる。
25mm(50mm相当)/絞り優先AE(F8、1/1,000秒、+0.3EV)/ ISO 200/ WB:オート
釧路中心部にある繁華街、栄町。今も、夜になればネオンと酔客の喧噪でにぎわう。電線と電飾が絡み合う複雑な街模様が破綻なく緻密に再現されている
50mm相当のレンズは使いこなし次第で広角的にも望遠的にも使える万能レンズだ。基本にして写真を知るものが最後にたどり着く通好みのレンズとも言える。足を使う意識が強くなるから、被写体に多角的にアプローチできる。時を経てなお息づく釧路の産業と、私の記憶が呼応するようなアングルを探してシャッターを切ると、ライカレンズ特有の立体感で街に刻まれた歴史が浮かび上がってきた。
25mm(50mm相当)/プログラムAE(F4.5、1/1,000秒、±0EV)/ ISO 200/ WB:オート
日本に唯一残る石炭を運ぶ運炭鉄道である釧路臨港鉄道の高架。運んで来た石炭を降ろす設備だ。年代を感じる橋脚の質感が豊かに描かれている
25mm(50mm相当)/絞り優先AE(F10、1/320秒、-0.3EV)/ ISO 200/ WB:オート
国内最後の炭坑である釧路コールマイン( 旧太平洋炭礦)の石炭積み出し施設。柔らかな光を反射する石炭や水たまりの表面をしっとりと描写してくれた
使用機材
DC-GX7MK3
新搭載されたフォトスタイルL.モノクロームDと粒状モードで、ハイライトとシャドウを強調しつつ、粒子を加えた深みのあるモノクロ表現ができる。コンパクトなボディと軽快な操作性は旅やスナップに向いている
LEICA DG SUMMILUX 25mm / F1.4 ASPH.
LEICA DGレンズシリーズの初期からラインアップされている描写力に定評ある標準レンズ。絞り込んでも固過ぎずライカらしいしっとりとした味がある。開放ではF1.4の大口径らしい柔らかなボケ味を味わえて、光量を生かした夜景やポートレートでも威力を発揮する。