北京2008・競泳男子平泳ぎで二冠を達成した北島康介「なんも言えねぇ」の裏に隠された恩師からの一言北京2008・競泳男子平泳ぎで二冠を達成した北島康介「なんも言えねぇ」の裏に隠された恩師からの一言

©Takuya Sugiyama/JMPA

《スポーツライターが目撃した「オリンピックの涙の記憶」》

北京2008・競泳男子平泳ぎで二冠を達成した北島康介「なんも言えねぇ」の裏に隠された恩師からの一言

 

text by 松原孝臣(Takaomi Matsubara)
photographs by Takuya Sugiyama/JMPA

いよいよ間近に迫ったパリ2024オリンピック競技大会。
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今回は北京2008を現地で取材したスポーツライター・松原孝臣氏が「涙の記憶」をテーマにコラムを書き下ろします。

レコーダーに録画して何度でも観たい、リピートしたい光景がある。2008年8月11日のレースもそうだ。

まるで秋を迎えたかのように涼しい気候が続く中、4年に一度の大舞台となった北京市の国家遊泳センターは対照的に熱かった。平泳ぎの男子100m決勝が始まろうとしていたからだ。

注目は北島康介がアテネ2004に続く連覇を達成するかどうかにあった。だが、決勝のレースを前にして危機感が渦巻いていた。前々日の予選、前日の準決勝は全体の2位にとどまった。かたやいずれもトップで通過したアレクサンドル・ダーレオーエン(ノルウェー)は好調そのもの。優勝候補とは目されていなかった好調な新星の登場は、脅威と言うに値した。

しかも準決勝でのダーレオーエンとのタイム差は約0秒4。北島を指導する平井伯昌コーチはこう振り返っている。

「ふつうなら逆転は難しいタイムです」

何よりも準決勝での北島の泳ぎは後半の伸びを欠き、本来のそれではなかった。

北島本人は「(タイムを)上げていこうと思って」、前半ストロークの回数を増やしたことから「後半は浮いてしまいました」と語った。決勝を見据えて試してみた部分もあっただろう、でも見守る人々が不安を抱くのも無理はなかった。

それでも勝負のときは訪れる。決勝、アナウンスとともに場内を歩く北島の眼光は鋭い。気迫に満ち溢れていた。でも張り詰めた感はなく、どこかすっきりしているようでもあった。

号砲が鳴り、スタート。北島は予選、準決勝よりもひとかきひとかきをたしかめるようにゆっくりと大きくかく。準決勝よりも3ストローク少ない泳ぎで50mの折り返しを迎える。折り返し時点での1位はやはりダーレオーエンで27秒85、2位にはアテネで優勝を争ったブレンダン・ハンセン(アメリカ)が27秒97でつけた。

北島は28秒03で3番手。折り返すとトップに立つ。そこからの泳ぎは圧巻だった。ひとかきごとにリードを広げていく。準決勝にはなかった伸びやかな泳ぎを披露する。

差は縮まらない。むしろ広げていく。そのままダーレオーエンに差をつけ、先頭でゴール板にタッチする。北島は振り返ると、電光掲示板に目を向ける。順位と数字を確認した瞬間、北島は雄たけびをあげ、堅く握りしめた両こぶしを突き上げた。

表示されていたのは「58秒91」。世界の誰も到達したことのない58秒台だ。むろん、世界新記録だった。場内に大歓声がこだまし、一段と熱が高まった。

引き上げてきた北島が取材の場に姿を見せる。

「すみません……。なんも言えねえ……」

そのまま言葉に詰まった。涙を流し、そしてタオルで顔を覆った。大舞台での連覇を達成した直後だ。その喜びもあっただろう。何よりも4年分の思いが込められているようでもあった。

アテネ2004で100mそして200mと二冠に輝いた後、北島は決して順風満帆というわけではなかった。そのシーズンの世界大会の日本代表選考を兼ねた日本選手権では200mで優勝を逃すどころか表彰台に上がれないこともあったし、2005年から2007年の主要国際大会では100mで一度も優勝することはできなかった。体調を崩した時期もある。

苦しみつつ、それでも成長を志して取り組んだ末に迎えた北京2008では、強力なライバルが現れた。壁の連続だった。でも最後はもてる力を存分に発揮してみせた。

「(泳いでいる間)体感速度はすごく速かったです。理想の泳ぎをパーフェクトにできたと思います。見ている人にもそう言ってもらわないと、こっちも困るんで」

最後はもてる力を存分に発揮してみせた

©Takuya Sugiyama/JMPA

ユーモアを交えつつ北島は振り返ったが、きっかけとなったのは一つの言葉だった。決勝のレースを前に、平井コーチは北島に言葉をかけていた。

「勇気をもって、最初からゆっくり大きく行け」

平井コーチは中学時代から北島を指導していた。長年教える中で、今、何が必要なのかを熟知しているからこその短いアドバイスだった。

その言葉に北島は反応した。それは準決勝と異なる、ゆったりとした大きな泳ぎとして体現された。隣のコースにはダーレオーエンがいる。ライバルの泳ぎに影響を受けてペースを乱してもおかしくないはずなのに、自分の泳ぎを守って泳ぎ切った。

平井コーチはこう称えた。

「準決勝は失敗したレースでしたが、決勝では冷静に自分の泳ぎを心がけることができたと思います。康介はなぜあんなに度胸よく、僕が指示したとおりにやってくれるのかな、と思いますね。隣でテンポの速い泳ぎをされると焦るものですが」

コーチへの信頼、そして地道に励んできたトレーニングへの自負と自信もあっただろう。加えて、相手にとらわれず自分のパフォーマンスを発揮することができた要因は、北島の強靭な精神力にほかならない。

続く200m平泳ぎでは他の選手を寄せつけず完勝。目標として掲げてきたアテネ2004に続く二冠を達成できたのも、100m決勝での、何度も映像で振り返りたくなる会心の泳ぎあればこそだった。

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