健康と天気 第3回「気候療法で心身ともに健康に!自然環境を利用した健康法のご紹介」
監修:加賀美 雅弘(かがみ まさひろ)
ライター:UP LIFE編集部
2021年3月23日
健康
日中の陽の光で、新しい季節のはじまりを感じる今日この頃。
凍てつく冬の気候が和らいでいく中で、身体中の緊張を解放できる喜びを感じている方も多いのではないでしょうか?
日本の気候は、四季折々の美しさを愉しめる一方で、気候の変化による不調をよびやすいともいえます。
古くからヨーロッパでは、気候を味方につけた静養が上層階級を中心に支持されてきました。
「気候療法」と呼ばれる、自然環境を利用した健康法とは、いったいどのようなものなのでしょうか?
「健康と天気」の3回目では、理学博士の加賀美 雅弘先生に気候をいかした健康増進の考え方や健康法についてお聞きしました!
健康的な生活をサポートする「気候療法」とは?
みなさんは、「気候療法」という言葉をきいて何を思い浮かべるでしょうか?
森林浴や、ハイキング、温泉という方もいらっしゃるかもしれません。
まだ結核が不治の病だった頃に利用された、サナトリウムをイメージする人もいるでしょう。
気候療法を「普段の自然環境とは異なる場所で、気候を利用して行う健康増進の取り組み 」だと加賀美先生はいいます。
ドイツで発展した気候療法
「気候療法(クアオルト)は18世紀のドイツで発展しました。
ドイツ語で、クア=治療、オルト=場所を意味し、健康効果の得られる環境に保養地をつくり、そこで一定期間過ごす方法が一般的です。
現在のドイツでは、気候療法の専門医もいて、病状や体調に合った療養場所、療養先でのメニューなどについて処方箋を出します」と加賀美先生。
日本では、自然環境による健康効果というと、まっさきに温泉が思い浮かびますが、気候療法は、どのような場所でいかなる健康促進が叶うのでしょうか?
気候療法は、3つの環境が生み出す健康法
気候療法には大きくわけて3つの環境が生み出すメリットがあると考えられています。
1つめは、澄んだ空気や風
2つめは、適度な日光
3つめは、起伏のある斜面
これらがおよぼす身体への影響を、順に見ていきましょう。
気候療法は多くの場合、山岳地帯や海岸、温泉地を保養地として、特定の環境を利用した健康促進を目指します。
山岳地帯にある保養地では、澄んだ空気や風、起伏のある斜面を利用
たとえば山岳地帯にある保養地では、澄んだ空気や山間を通り抜ける風、日光、起伏のある斜面などを利用します。
山の澄んだ空気には、呼吸器系疾患やアレルギー症状の改善が期待され、適度な冷気や風は、体温調節や血流の流れを改善する可能性があるといいます。
また、程よい日光浴は、ビタミンDの合成や骨の強化、免疫力の活性化などが考えられるそう。
さらに、丘陵地帯を歩くことで、心拍数や血圧が上下し、結果的に新陳代謝がアップする効果も。
山岳地帯における環境条件が、私たちの身体にさまざまな刺激を与え、広い意味での体質改善を促すのです。
海岸地域の保養地は、日光浴やウォーキングに最適
また、海岸地域の保養所は、塩分を含んだ潮風が呼吸器系疾患の療養になるということで現在のヨーロッパでも親しまれています。
粘膜の保護にも良いとのこと。
海岸は、遮蔽物が少なく、太陽の光を浴びやすく、日光浴に良いのもメリット。
広い砂浜は歩きやすく、長い時間歩けるというのもリハビリ的な視点で役立ちます。
日本の気候療法は「森林浴」や「湯治」を取り入れてきた
それでは現在まで、日本ではどのように気候療法が取り入れられてきたのでしょうか?
自律神経を安定させ、ストレスを緩和する「森林浴」
日本では1980年代半ばに、林野庁の指導で「森林浴」という言葉が盛んに使われるようになりました。
森林浴は、山岳地帯の森林の中をハイキングするなどして過ごすことで心身を整えるイメージがあります。
実際に、森林の中を歩くと、徐々に気持ちが落ち着き、清々しい気分になりますよね。
これは「フィトンチッド」と呼ばれる樹木が出す有害な昆虫や微生物などから身を守るための物質の効用で、森林の中でフィトンチッドを吸い込むと心身に深いリラクゼーションをおよぼすと考えられています。
呼吸を整え、自律神経を安定させ、ストレスを緩和するなど、気苦労の多い方には、大きな癒し効果が期待できるかもしれません。
病気やケガの治癒を目的とした「湯治」
そのほか、日本各地に湧く温泉は効能もさまざまで、気候や環境条件だけでなく観光要素も併せ持った療養地として発展してきました。
病気やケガの治癒を目的とした湯治という言葉もありますが、湯につかって得られる効能だけでなく、温泉街の観光を楽しんだり観光地周辺の自然環境の散策を含んだ、範囲の広い楽しみ方ができるのが日本の温泉の特徴かもしれません。
特定の療養先で決まったメニューをこなす、ヨーロッパ型の気候療法とは異なる独自のスタイルを、現在の日本は築いています。
今だからこそ考えたい!これからの気候とのつきあい方
気候療法が心身におよぼすポジティブな影響や気候療法そのものが、人生の愉しみにもつながると理解していただけたと思います。
それでは、新型コロナウィルスの影響で外出が抑制される中、どのような形で私たちは、気候療法の取り組みができるでしょうか?
健康づくりにウォーキングをしてみては?
「日本では体調管理の一環として、ウォーキングが定着しています。
感染対策防止の観点から、遠出を控える現状では、山や海に出かけるのは難しいかもしれませんが、例えば2日に1回でも、自宅近くにある樹木があり開けた場所に出向いてみてはいかがでしょうか?
そこでのウォーキングや、気軽な散歩は明確な健康促進の目標がなかったとしても、心身へ良い影響を与えるはずです。
四季の移ろいを眺めながら、生活の1コマとして、ウォーキングを取り入れる。
いつしか、それが愉しみに変わる日がくれば、しめたものかもしれません」と加賀美先生。
健康的な新しい過ごし方を模索してみよう!
新しい生活様式を求められる日常の中で、在宅勤務が根付き、リゾート地などで仕事と休暇を両立する「ワーケーション」という言葉も生まれました。
時間に支配されてきた日本人にとって、あらゆる意味で転換期が訪れているのかもしれません。
ぜひ、“健康と天気”という側面から、各々の健康的で新しい日常の過ごし方を模索してみてください。
監修
加賀美 雅弘(かがみ まさひろ)
理学博士。東京学芸大学教授。アレクサンダー・フォン・フンボルト財団招聘によるドイツ・ハイデルベルク大学客員研究員を経て、東京学芸大学連合大学院学校教育学研究科教授を兼任。NHK高校講座「地理」講師。ヨーロッパの環境論、地域文化論を専門とする。著書に「気象で読む身体」(講談社現代新書)など。
2021年3月23日 健康
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