専門家が教える!妊娠・出産期の腰痛対策と、骨盤おしり周りのセルフケア
監修:荒木 智子(あらき ともこ)
ライター:UP LIFE編集部
2024年12月2日
健康
妊娠中、そして産後の女性にもみられる骨盤おしり周りの痛みや不快感。UP LIFEではこれまでも、これらの腰痛をはじめとした痛みを様々な角度から取り上げてきました。2024年秋に開催された「第65 回⽇本⺟性衛⽣学会総会・学術集会」では、骨盤おしり周りのセルフケアに関する講演が、周産期分野に関わる医療関係者の注目を浴びました!女性のQOLアップにつながる!筋肉にアプローチする「骨盤まわりケア」の記事でも監修いただいた荒木智子先生による発表でした。すこやかで快適な妊娠生活と産後のヒントとなる骨盤おしり周りのケアについて、荒木先生の講演内容をまとめて、レポートします。
原因の特定は難しい?妊娠・出産で起こる腰痛とは?
産前・産後の身体の痛みには多くの種類がありますが、特に腰痛や肩こり、手首の痛み、頭痛などは訴えの多い症状です。中でも腰痛は有病率が50%※1という報告もあります。腰より下の骨盤まわりの痛み(骨盤帯痛)を感じる方も少なくありません。
また、妊娠前から腰痛があったという人や、妊娠中に腰痛を経験した人は、産後の腰痛が慢性化しやすいという報告もあります。
そもそもわかりにくい、腰痛の原因
気になる腰痛の原因ですが、実は特定できないものがほとんどです。
産前・産後の女性の腰痛だけでなく、腰痛全体で見た時に、原因がわかるものは全体の15%ほどしかありません。
よく聞く椎間板ヘルニアや圧迫骨折などでも4%前後という数字※2です。
腰痛とメンタルの関係
産後の腰痛は、出産後3ヶ月ほどで改善する人が多いですが、腰痛が慢性化してしまう人もいます。そしてこれらの腰痛の問題点は、痛みだけでなくうつとの関係もあるということ。
産後、慢性腰痛を発症した人のうつの有病率は、そうでない人の3倍※3にもなります。
腰痛は心理的な要因が大きく影響するのです。
「ひどくなる前に予防」の一手!セルフケアの大切さ
これらの腰痛は、妊娠中は起き上がり方の指導、産後は授乳やだっこ姿勢の指導で改善する場合が多いです。特別な運動ではなく、日常の姿勢や動作の工夫で痛みを回避することが可能です。
痛みの悪循環を生まない方法
だからこそ、気づいたときに早めに対処していくことが大切です。痛みが続き気持ちが落ちてしまうと、痛みに対して向き合うことが難しくなってしまいます。また、腰痛改善のためには、マッサージやストレッチのように身体を動かすことが大切です。痛みを放置してしまうと、痛みが出やすい動作を無意識で避けてしまいますし、それに伴いケアにも気持ちが向かなくなります。すると活動量が下がり筋力も低下、さらには社会活動への影響も出るといった悪循環になる場合もあります。
気づいたその日からはじめたい、大切なセルフケア
そこで重要になってくるのが「セルフケア」です。
私たちが提供するような理学療法や医療機関、整体などに毎日通えればよいのですが、現実には難しいと思いますし、経済的な問題や時間のハードルもあります。専門家にアドバイスを受けつつも、基本的には自分で自分の身体をケアする。それができれば、妊娠中や産後の腰痛は防ぐことができますし、慢性化も恐れる必要はありません。
産前・産後は自分の時間が取れず、痛みがあっても外に助けを求めにくいなどセルフケアのハードルが上がります。子育て中だけでなく未来のQOLのためにも、セルフケアを取り入れてもらえればと思います。
自然と続けられるサイクルをつくる
特に骨盤おしり周りの筋肉を刺激するマッサージやストレッチは、簡単で時間もかかりません。身体が楽になったという実感を得ることで、自然と「続けよう」と思えるようなサイクルに身をおくのが理想です。
妊娠中・産後の腰痛予防は、ストレッチとマッサージで筋肉をしなやかに保つことがポイント
産前・産後は、無理なくできることからはじめていきましょう。特におすすめしたいのは、「筋肉に働きかけるセルフケア」です。具体的にはマッサージやストレッチ。これらは筋肉をより良い状態に保つ手助けになります。
張る、緩む。両方ができてこそ良い筋肉
筋肉はゴムと同じです。適度に張ったり、緩むことができるのが良い状態。この筋肉のコンディショニングとして、以下のセルフケアをおすすめします。
ステップ1 筋肉をほぐし、セルフケアの効果を高める「おしりのマッサージ」
- バスタオルをロール状に丸め、その上にあぐらをかき、腰から背筋をまっすぐ立て、キープする
- その後、両ひざを立て、タオルを揺らすイメージで前後に動き、おしりを刺激する
- 2の姿勢から、片ひざを外側にゆっくり倒す。逆側も同様に行う
ステップ2 ストレッチのウォーミングアップを兼ねた「深呼吸」
- 仰向けに寝て、おなかと胸に手を置く
- おしりが硬くならない程度に軽く膣を締め、骨盤底筋を効かせる。その後、下腹部から頭の方向をイメージして息を吐く
- 息を吐き切ったら脱力し、自然に吸う
- 再度1〜3を繰り返す
ステップ3 骨盤おしり周りのコア筋肉を意識した「ヒップリフト」
- 仰向けに寝て、両ひざを立て、手はおなかに置く
- 骨盤底筋を効かせた状態で、息を吐きながらおしりを持ち上げる
- おしりをゆっくりとできるところまで持ち上げたら、一息入れて、また息を吐きながら下ろす
ステップ1〜3の回数は、それぞれの人が心地よく感じる範囲で行いましょう。また、マッサージなどは上に示したようにツールに頼ることも大切です。産前・産後は忙しさが続くので、ツールの活用も頭に入れておきましょう。セルフケアも続けやすくなると思います。
凝って硬い筋肉には、マッサージから
マッサージは、筋肉の緊張と炎症を改善します。その結果、痛みもやわらぎますし、リラクゼーションにもつながります。また、ヒップリフトなどのストレッチは、関節の可動域を広げ血流を改善し、疲労を回復します。筋肉の硬さが強いときは、まずはマッサージをして筋肉を緩めることで、ストレッチやその後の運動の効果を高めることができます。
荒木先生の講演では、妊娠中や産後の腰痛には骨盤おしり周りのセルフケアが大切だということが、参加した医療関係者をはじめ広く紹介されました。骨盤おしり周りの筋肉をしなやかに保つためのセルフケアを楽に長く続けるための方法を、便利なツールも交えながら考えてみてください。
監修
荒木 智子(あらき ともこ)
理学療法士・公認心理師/医学博士。現在の主な研究テーマは、産後の心身の回復。身体と心の2つの側面から「女性のwell-being」を追究している。現在、大阪大学学際大学院機構に在籍、一般社団法人SRHR Japanの活動を通し、様々な領域の視点から研究に携わっている。著書(分担執筆)に「専門医からのアドバイス 内診台がなくてもできる女性診療 外来診療からのエンパワメント」(池田裕美枝編集/日本医事新報社)など。
- :出典/村井みどり、ほか:妊婦及び褥婦における腰痛の実態調査.茨城県立医療大学紀要.10:47-53,2005
久野木純一:妊娠と腰痛.からだの科学.206:65-69,1999
平元奈津子:成人期にみられる男女の身体変化と症状-妊娠、出産と男女の更年期-.理学療法学.41(8):511-515,2008 - :出典/Deyo RA et al.:What can the history and physical examination tell us about low back pain? JAMA 268:760-765,1992
- :出典/Gutke A et al.:Pelvic girdle pain and lumbar pain in relation to postpartum depressive symptoms. Spine (Phila Pa 1976).2007 Jun 1:32(13):1430-1436
2024年12月2日 健康
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