不眠の影に女性ホルモンのゆらぎが…。【専門家が解説】「更年期の睡眠の質」を上げる方法

監修:栁原 万里子(やなぎはら まりこ)
ライター:UP LIFE編集部
2025年6月16日
健康

寝つきが悪い、途中で目がさめる、すっきりと起きられない、寝ても疲れがとれない。睡眠にまつわる問題は多くありますが、実は女性ホルモンがその原因になっているとしたら、どうでしょうか?今回は、女性と睡眠の関係ついて「眠りと咳のクリニック虎ノ門」院長の柳原万里子先生にお聞きしました。

睡眠の不調に弱いのは、男性より女性?

写真:女性がベッド外の光を感じている様子

男女を問わず「眠りの問題」は起こるものですが、そもそも睡眠に性差があるのはご存知でしょうか?柳原先生によると、男女で睡眠の問題に差があり、しかも男性より女性の方が睡眠の質の低下や睡眠不足といった不調に弱いのだとか。

そもそも差がある!女性と男性の睡眠

「実は思春期を迎える12歳頃までは、睡眠にほとんど男女差は見られません。しかし思春期以降は差が出てきます。原因は性ホルモンが睡眠に影響を及ぼすから。図1は月経に伴う女性ホルモン(卵胞ホルモンや黄体ホルモン)の1ヶ月間の変動を表したものですが、月経開始前には女性ホルモンの量が急激に変化します(ピンク色の部分)。この女性ホルモンの変動が大きいタイミングに、不眠や日中の眠気など、睡眠の不調を自覚しやすいことがわかっています」と柳原先生。

図1:女性ホルモンの1か月間の変動

女性ホルモンが大きく変化する更年期の睡眠に要注意!

月経以外にも妊娠や出産、閉経や更年期など、人生を通して女性は男性よりも性ホルモンの変動が激しく、またその影響を受ける機会が多いと柳原先生は話します。

「特に更年期は女性ホルモンの変動が大きくその期間も長いため、睡眠へ悪影響が出やすい時期です。更年期の不調を自覚している女性の約4割※1にイライラや不眠の症状がありますが、これは更年期症状として有名なホットフラッシュの頻度の約3割※1よりも頻度が高い。さらに女性ホルモンには呼吸を保護する作用があるため、睡眠中にいびきをかいて息が止まってしまう睡眠時無呼吸症候群も閉経以降の女性で増加します」

深掘り!女性ホルモンのゆらぎと睡眠の関係

写真:女性が寝ている様子

それでは、更年期の不眠の原因となる女性ホルモンのゆらぎについて、さらに詳しく見ていきましょう。

更年期の女性ホルモンの変動は大きく、長期間におよぶ

「更年期は閉経前後の5年、合計10年間の時期と定義されます。この更年期に女性ホルモンは大きく変動を繰り返しながら、全体的にはゆるやかに減少していきます(図2)。女性ホルモンの大きな変動は、ホットフラッシュと呼ばれる火照りや発汗や体調不良、情緒不安定などメンタルの不調、さらに寝つきが悪くなる、途中で目がさめる、眠りが浅くなるなどの更年期不眠を引き起こします」と柳原先生。

図2:女性ホルモンの変化

更年期不眠への対策は?

「40〜59歳の更年期症状を自覚している女性の約9割※1は、その症状のために生活に支障を感じています。不眠を含む更年期症状への根本的な対策としてホルモン補充療法を検討するのですが、血栓症のリスクもありその賛否は分かれるところ。ほかに更年期症状と不眠の両方に効果が期待される漢方薬を使う、ウォーキングなどの適度な有酸素運動を行うことも対策として挙げられます。ただし更年期症状へのアプローチや解決が難しい場合には、睡眠の不調に的を絞って、依存性がないといわれる安全性の高い睡眠薬を使用することも有効です」

柳原先生は、この世代の不眠には特有の社会的な事情も関係していると話します。

世界的にも睡眠時間が短い日本の女性

「更年期女性の睡眠の原因は、女性ホルモンの変動だけではありません。日本人は世界的にも睡眠時間が短いことが知られています※2が、なかでも最も短いのは更年期世代のビジネスウーマン※3 ※4。社会でも家庭でも責任のある立場を担い、仕事や家事、育児や介護などに睡眠時間を削って対応し、頭を悩ませる問題も多い世代です。実は更年期症状の有無にかかわらず、この年代の女性の6割以上に何らかの不眠症状があることも知られています」

悪循環を断ち切ることが大切!

「睡眠時間が短いうえに不眠症状により睡眠の質が下がると、睡眠不足が加速してしまいます。睡眠は脳と身体と心をメンテナンスする大切な時間です。睡眠不足や睡眠の質の低下は日中のパフォーマンスを低下させるほか、心身の不調を招きます。そうなると日中に効率よくタスクをこなせず、さらに睡眠時間を削って対応することになり、体調やメンタルの不調により睡眠の質がより低下するという悪循環に陥りかねません。
この悪循環を断ち切るために、安全性の高い睡眠薬を用いて睡眠の質を改善すること、時短家電や代行サービスを利用して睡眠時間を確保すること、家族や社会の理解やサポートを得ることも解決策として検討したいところです」

入眠前にゆるむ時間を。ベストな力を発揮できる毎日へ

写真:女性が伸びをしている様子

切り離せない関係にある睡眠とメンタル。更年期女性の睡眠の質を上げるために、ほかにもできることはあるのでしょうか?

気持ちをほどく時間をつくる

柳原先生いわく、大切なのはわずかでも自分をゆるませる時間を持つことだといいます。

「忙しい日々のなかで、自分の時間という言葉のハードルが高い!と言う方もいらっしゃいますが、眠りにつく前にご自身をほぐしてあげる心地の良いひとときを用意してみてください。キャンドルライトが楽しめるくらいの暗さまで照明を落として、リラックスできるアロマや音楽を楽しむ。心地よく感じるレベルのストレッチやマッサージは、リラックス効果があり睡眠にもおすすめです。
一方で、自分をほぐすために夜更かしをしてネットサーフィンやゲーム、動画鑑賞をして睡眠時間を削ってしまう習慣は避けたいもの。これらは日中の時間をとれなかった反動で行いやすい習慣で、「リベンジ夜更かし」といわれています。リベンジ夜更かしを防ぐためには、移動中や仕事の合間などの日中のすき間時間にこまめに自分にご褒美をあげて、夜までに発散をしておくことが役立つそうです※5。自分にちょこちょことご褒美をあげることって大切なのかもしれませんね」

人やモノに頼る、手放す意識も大切

「クリニックに来てくださる更年期女性の皆さんは、とてもストイックに手を抜かずに日々をこなしておられると感心させられます。私からみるとお仕事はもちろん、家庭やそれ以外のタスクを多くこなしていて、すごいなぁ、超人的だなぁと思うのですが、それでもご本人は「できていないことが多くて!」と満足されていないことも。ご自身のパフォーマンスにもシビアで、それを1つの誇りとしてライフスタイルに昇華されているのかもしれません。

でも私たちの身体は、生物としての限界もあれば年齢に伴う変化もあります。心にも無理ができる限界があります。

更年期はずっと続くものではありません。この期間には、ある程度のパフォーマンスを維持しご自身も周囲の方々も気持ちよく過ごすために、医療の力や家電やサービスなど使えるものを使い、人やモノに任せられる部分は思い切って任せることが大切かもしれません。ストイックな方々がそう思えるためにも、女性の睡眠についての知識が広がり、社会的にも理解が得られることを願っています」

監修

写真:栁原 万里子さん

栁原 万里子(やなぎはら まりこ)

眠りと咳のクリニック虎ノ門・院長。医学博士。日本睡眠学会総合専門医・指導医。日本呼吸器学会呼吸器専門医・指導医。
筑波大学附属病院睡眠呼吸障害診療科講師、公益財団法人神経研究所客員研究員、東京医科大学睡眠学寄附講座客員講師を経て2022年に「眠りと咳のクリニック虎ノ門」を開院。「皆さまの睡眠と健康寿命を守る」をモットーに、女性ならではの丁寧な視点で多岐にわたる睡眠障害の診療と臨床研究、啓発活動を行う。著書に「臨床医のための疾病と自動車運転(三輪書店)」「診断と治療のABC 睡眠時無呼吸症候群(最新医学社)」など。

出典

  1. 「令和5年度 男女の健康意識に関する調査」(令和5年度内閣府委託調査)
  2. OECD“Gender data portal 2021 Time use across the world”
  3. NHK放送文化研究所「国民生活時間調査2020」
  4. 総務省「令和3年社会生活基本調査」
  5. “Bedtime procrastination: introducing a new area of procrastination”, Front Psychol. 2014 Jun 19:5:611.

2025年6月16日 健康

  • 記事の内容や商品の情報は掲載当時のものです。掲載時のものから情報が異なることがありますのであらかじめご了承ください。