【専門医が徹底解説】自律神経を整えて、健康な毎日を過ごすセルフケアの方法

監修:伊藤 克人(いとう かつひと)
ライター:UP LIFE編集部
2025年10月10日
健康

皆さんは「自律神経」と聞いて、何をイメージしますか?原因不明の体調不良や不定愁訴、またメンタルの不調のようなイメージを持たれるかもしれません。しかしよくわからないというのが多くの人の本音ではないでしょうか?今回は自律神経について、東急病院心療内科の伊藤克人先生にお話をお聞きしました。

身体と心に影響する自律神経

写真:室内でテーブルに座る人物が額を拭いている様子

自律神経とは何か?伊藤先生は、「心臓の動きや呼吸、体温調節を自動で行う神経のこと」だといいます。実際、自律神経は皮膚をふくむ内臓の諸器官に張り巡らされていて、必要に応じてその働きを自動調整しています。

自分でコントロールできず、交互に切り替えながら働く

「意外ですが自律神経は、身体のどこにでも存在します。また自律神経は、活動モードの交感神経と回復モードの副交感神経に分かれ、それらを交互に切り替えることで身体と心を安定した状態に保とうとします。さらに注目すべきは、自律神経が身体の精密な働きを担っているということ。前述の呼吸などに加え、胃腸の動きなど自分ではコントロールできない働きを制御しているんですよ」と伊藤先生。

身体と心に影響する!自律神経のメカニズムとは?

これらの自律神経のバランスが乱れてくると心身にさまざまな影響が出てきます。不規則な生活や大きな疲労をもたらすような身体的ストレスが長期間続く場合は、少しずつ症状が出てくるかもしれません。

また、自律神経はメンタル面にも大きな影響を与えます。伊藤先生は、情動を支配する大脳辺縁系が自律神経のコントロール基地である視床下部に信号を伝達し、そこから自律神経を介して身体が反応すると、それが心にも影響を与えると話します。

「たとえば会議で急に発言を求められたとしましょう。すると大脳新皮質が緊急事態を把握し、発言の内容を検討しはじめます。その後、大脳辺縁系で不安や緊張が生まれます。その緊張の信号が視床下部へ伝わって交感神経に指令を出し、動悸や発汗がはじまります。すると心にも影響して、不安や緊張がさらに高まります」

自律神経が乱れる原因は、慢性的なストレスと過度の負担

そしてコントロール基地である視床下部の働きが悪くなる時が、自律神経のバランスが乱れる時だと伊藤先生はいいます。
「身体的ストレスでも心理的ストレスでも、慢性化したり過度になれば視床下部の負担が大きくなります。このような状態が続けば視床下部に混乱が生じて、交感神経から副交感神経への切り替えがうまくいかなくなってしまう。つまり、自律神経のバランスが崩れてしまうのです」

その結果、暑くもないのに汗をかいたり、安静にしているのに動悸がするといった症状に。自律神経のバランスが乱れると、本来交感神経が働くときに副交感神経が働いてしまったり、その逆の現象がみられたりするのです。

自律神経のバランスを整えるための3つのセルフケア方法

写真:床にあぐらで座り、両手を腹部に置いている人物の様子

では、自律神経のバランスが乱れた場合、どのような症状に見舞われるのでしょうか?

自律神経の乱れでおこる症状

「よく聞かれるのが頭痛、頭重感、めまい、首や肩のコリ、動悸、息苦しさ、吐き気、下痢や便秘、身体のだるさなどです。どれも他の疾患にもみられる症状で、原因が自律神経にあるとはわからないかもしれません。しかし、こういった症状が長く続くことで不安やイライラが起こり、さらに自律神経のバランスが乱れていきます」

それでは、自律神経を良い状態に戻す方法はあるのでしょうか?
伊藤先生に聞くと、簡単にできる自律神経の調律方法があるといいます。

自律神経を「整える」!今すぐできる3つの方法

緊張信号を受け続けた視床下部には、身体から脳へ働きかけてリラックスさせることで緊張信号を抑えることができます。

1.腹式呼吸で交感神経の緊張をゆるめる!呼吸法

  1. 5つ数えながら鼻からお腹に空気を入れる
  2. 10数えながら、口からゆっくり息を吐く
  3. ①と②を3セット行う
⓵鼻からお腹に空気を入れる様子 ②口からゆっくり息を吐く様子のイラスト

ポイントは、息を吐く動作に意識を集中すること。無理に緊張をゆるめようとするのではなく、ゆっくり息を吐いていきましょう。

2.脱力感を味わう!筋弛緩法

  1. 肩をギュッとすぼめた状態で5つ数え、その後ストンと落として脱力しながら10数える
  2. 手と足首を強くそらし5つ数えたあと、脱力して10数える
  3. ①と②を3セット行う
⓵肩をギュッとすぼめた状態 → ストンと落として脱力する様子のイラスト
⓶手と足首を強くそらす → 脱力する様子のイラスト

ポイントは、力を抜いて10数える際に「自然と脱力している感じ」を味わうこと。身体の感覚に意識を向けてみましょう。

3.自己催眠を体験!自律訓練法

  1. 座って目を閉じながら、手は腿の上に置き、腹式呼吸をゆっくり、3〜4回行う
  2. 右手に意識を向けて、「右手が重たい」と心の中でくりかえす
  3. 次に「両手が重たい」→「両手がとても重たい」→「両手両足が重たい」→「両手両足がとても重たい」と心の中でくりかえし、さらに「両手両足が温かい」→「両手両足がとても温かい」とくりかえしていく
  4. 目を開けてグッと伸びをし、手足に力を入れる
「右手が重たい…」「両手が重たい…」と心の中でくりかえす様子のイラスト

ポイントは、手足を「重くしよう」とか「早く重たくなれ」と思うのではなく、『重たくなるのを待つ』という感覚を大切にすること。最初は手足に変化を感じなくてもOK。そのままの感覚を受け止め、何度もくりかえしていくうちに上達していきます。

「これらのセルフケアは、行う順番やタイミングは自由にしてかまいません。どれも意識を集中させることが大切ですから、最初は静かな環境ではじめるのがよいでしょう。慣れてきたら電車の中やオフィスでも行えます」と伊藤先生。

自律神経が整うと、生活の質が上がる

写真:ダイニングで4人が食事をしている様子

実際、自律神経が整うことで日々の生活はどのように変わるのでしょうか?

「自律神経のバランスが整えば、たとえば食事の様子なども変わっていきます。緊張が強い状態で食事をすれば、交感神経の影響で胃腸の働きが抑制され、消化液の分泌も少なくなって食後の胃もたれも起こりやすい。しかしゆっくりリラックスした気持ちで食事を楽しめれば、副交感神経の働きが強まって胃腸の動きも良くなり、唾液や消化液も分泌されるので消化が早く食後もすっきりとした感じが得られるでしょう。

さらに、朝食は副交感神経が働いている睡眠状態から1日の活動モードに心身を切り替えるスイッチになります。朝食をしっかりとることで、体内で熱が生まれ体温が上がり、交感神経が活性化していく。忙しい現代人にはぜひ意識していただきたいです」と伊藤先生。

体調が悪く、病院に行っても根本的な原因がわからなかったり、その場しのぎの痛み止めなどにたよっている人もいるかもしれません。もしその原因が自律神経の乱れであれば、セルフケアを続けることで症状が変わっていく可能性があります。

「自律神経が乱れる時は、心身になんらかのストレスがかかっている時です。現代の忙しい生活の中で、ストレスの原因1つ1つに向き合うことは至難の技ですが、症状を何らかのストレスのサインとして捉えればふだんの生活を見直すきっかけになるかもしれません。症状を無視せず、流さず。向き合ってみることで、生活の質もグッと上がっていくはずです」

監修

写真:伊藤 克人さん

伊藤 克人(いとう かつひと)

医師、東急病院心療内科および、東急電鉄株式会社統括産業医。筑波大学医学専門学群卒業後、東京大学医学部附属病院心療内科に入局し研鑽を積み、1986年より東急病院に勤務。心身医学、産業医学、森田療法を専門とし、日々悩みを抱える患者に向き合う。著書に「いちばんわかりやすい過敏性腸症候群」(河出書房新社)、「【心療内科医が贈る】心が救われる言葉 「悩み」の解決に気づく20のヒント」(大和出版)など多数。

2025年10月10日 健康

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