【専門医に聞く】熱中症の予防と対策の新常識!重症化を招く「炎症ドミノ」とは?
監修:藤永 剛
ライター:UP LIFE編集部
2026年5月13日
健康
暑さが厳しくなった現在、熱中症は誰にでも起こりうる身近なリスクです。熱中症は、単なる「暑さによる不調」ではなく、体の中で「炎症」が広がっていく病気であることが最新の研究によってわかってきました。この「熱中症が重症化する仕組みとその対策」について、熱中症の専門家である埼玉慈恵病院副院長の藤永剛先生は言います。「強い暑さや脱水によって細胞が傷つくと、体の中で炎症が始まり、ドミノ倒しのように全身へ広がっていきます。これが熱中症が重症化する本当の理由です」今回は、この「炎症ドミノ」の仕組みと日常生活でおこなえる予防法について解説します。
熱中症は春から秋まで注意が必要?室内や夜間のリスクと最新動向
近年、熱中症は真夏だけの問題ではなくなっています。2025年には救急搬送が10万人を超え、これまで以上に注意が必要な状況です。特に最近は、室内や夜間でも発症したり、だるい、頭が痛いなど風邪のような症状で始まることもあり、気づくのが遅れるケースも増えています。そして季節の二季化により真夏だけでなく、春から秋まで熱中症のリスクが長く続くようになりました。
熱中症の症状が改善しにくい原因となる「炎症ドミノ」とは?
藤永先生によると、熱中症は暑さによる体調不良と言い切れないところがあるそう。
徐々に炎症が広がる!熱中症の怖さ
熱中症は強い暑さや脱水をきっかけに細胞がダメージを受けることで発症しますが、その結果、体内で炎症が立ち上がりドミノ倒しのように全身に広がっていく病態であることが近年明らかになってきました。この炎症反応が続くと臓器への血流低下が起こり、多臓器障害へ進むことも珍しくはありません。
「熱中症の恐ろしさは、一度始まった炎症のドミノ倒しがすぐには止まらないという点にあります。そのため体温が平熱に戻った後でも、数時間~数日間にわたり血管や臓器へのダメージが続くことがあり、結果的に救急搬送後に容体が急変したり、後から臓器障害が進行し後遺症につながることもあります」と藤永先生。
「炎症ドミノ」発生のステップと注意点
では、この炎症のドミノ倒しが起こる背景を整理していきましょう。
青信号:暑熱ストレス期(回復可能な段階)
第一段階は「暑熱ストレス期」。のどの乾きや軽い疲労、さらには軽いめまいを感じる時期で、体温が上昇しつつある身体は発汗で熱を逃がそうとし、汗の量が増えます。この段階であれば休む・冷やす・水分をとることで回復が期待できます。
黄信号:炎症立ち上がり期(危険な転換点)
次に起こるのが「炎症立ち上がり期」。風邪のような強いだるさや頭痛、吐き気、判断力の低下、さらには脈が速いことを実感する時期で、単なる暑さ疲れから体内の炎症がはじまる転換点です。この段階までなら早く冷やし、しっかり水分・塩分を補うことで炎症ドミノを止められる可能性があります。ただし症状が強い、休んでも改善しない、水分が摂取できない場合は、医療機関の受診が必要です。
赤信号:炎症暴走期(重症)
最終段階は「炎症暴走期」で高体温、けいれん、意識障害が発生します。ここまで進むと炎症ドミノが全身に広がり、命に関わる危険な状態です。迷わず救急車を呼びましょう。
このように熱中症は、青 → 黄 → 赤信号と進行していきます。大切なのは黄信号を見逃さないこと!無理をせず涼しい場所へ移動、体を冷やす、水分・塩分の補給をすぐに行いましょう。
炎症のドミノ倒しが後遺症を引き起こす
「炎症のドミノ倒しの怖さは、病院で治療して少し楽になったように見えても体内で炎症が続き、数時間から数日かけて血管や臓器にダメージが広がるところにあります。炎症がおさまらず、熱中症の症状が落ち着いてから腎障害や脳梗塞などの臓器障害が起こることもあるので、単なる熱中症と侮らず普段から対策をしていく必要があります」
では、熱中症の重症化を防ぐためにはどうすればよいのでしょうか?
藤永先生によると、そもそも炎症を立ち上げないことと、炎症に至っても広げないことが大切だといいます。
細胞を強くするための身体作りとは?
「同じ暑さの中にいても、暑さ慣れしているかどうかや、睡眠や栄養、筋肉量の差で熱中症と重症化の起こりやすさやが変わります。また一旦炎症のスイッチが入ると壊れた細胞がさらに炎症を起こし、その炎症が新たな細胞にダメージを与えるという悪循環にもつながります。対応策は、今までも言われてきた水分補給や塩分摂取、身体の冷却は継続しながら、さらに細胞を強くするための身体作りをおすすめします!」
熱中症の予防と「炎症ドミノ」を防ぐ5つの習慣
具体的にはどのような対策が考えられるのでしょうか?
細胞ダメージを起こしにくくするセルフケア・5つのポイント
1. 適切な水分補給と食事
水分は脱水を防ぎながら血流を保ち、食事は体温調節や細胞の防御に必要なエネルギーと栄養を確保する。のどが渇く前からこまめに水分を取り食事は抜かず、規則正しい食生活をすること
2. 暑熱順化
暑熱順化とは、暑さに体が慣れていくことで、体温を上手にコントロールできるようになる変化。皮膚の血管が広がりやすくなり汗もかきやすくなるため、体の中の熱を外に逃がしやすくなる。また、入浴などで増えるヒートショックプロテイン(HSP)は、熱などのストレスから細胞を守り、傷ついた細胞の修復を助ける働きがある。暑さに負けにくい体をつくるためには無理のない範囲で、週に2~3回は湯船につかるのがおすすめ
3. 身体を冷やす工夫
冷やす部位は首・わき・足の付け根。そして手のひらや足裏にあり、毛細血管を介さず動脈と静脈をつなぐAVA 血管(動静脈吻合)を冷やすのが有効。外出前に冷やしたり、出先で冷たいペットボトルなどで冷やすのが手軽。また暑くて湿気の多い場所を避け、体温調整をしやすい服装を選ぼう
4. 腸活
腸はバリア機能を持ち、体の中で炎症を広げないための防火壁の役割をしている。この防火壁を守るために腸内環境を整えよう。納豆やヨーグルトなどで善玉菌を増やし、野菜や海藻・豆類などの食物繊維でそのエサを補う。さらにサバやイワシなどの青魚に含まれるEPA・DHAは炎症を抑え、腸のバリア機能を守る
5. 筋肉を保つための適度な運動
筋肉は体の中に水分を蓄えるタンクの役割があり、筋肉量が少ないと脱水になりやすく、熱中症のリスクが高まる。さらに運動をすると筋肉からマイオカインという物質が分泌され、炎症を抑えたり血管を守るため、スクワットやウォーキングなど軽く汗ばむ程度の運動を取り入れよう
上記5つのポイント以外にも良質な睡眠とストレスのコントロールも炎症の鎮静化に必要です。
日々の生活を整えれば、熱中症予防につながる!
「熱中症の重症化は、従来から言われる水分や塩分の補給に加え、日々の生活習慣を見直すことで予防することができます。すぐにできる工夫や毎日少しずつ取り組める習慣もあるので、暑くなる前から対策するのがおすすめです」
藤永先生は、熱中症予防の根幹は炎症のドミノ倒しの予防にあると話します。
「一度倒れ始めた炎症ドミノを止めることは、簡単ではありません。だからこそ最初のドミノを倒さないこと、すなわち予防が大切です。日頃から炎症を鎮静化できる身体作りを意識すること、それがこれからの時代の熱中症予防だと思います。この記事が、ご自身やご家族の健康と命を守るきっかけになればと思います」
監修
藤永剛(ふじなが つよし)
医師、医学博士。埼玉慈恵病院副院長。東京慈恵会医科大学卒業後、同大学附属病院、虎の門病院を経て、1996年より埼玉県熊谷市の埼玉慈恵病院に勤務。以来約30年にわたり熱中症救急医療に従事し、多くの患者の診療にあたってきた。地域柄、熱中症患者が多いこともあり、熱中症診療は自身のライフワークとなっている。副院長となった現在も、救急搬送される熱中症患者の診療に最前線で対応している。NHKや民放各局のほか、米国CNNなど国内外メディアへの出演も多数。
2026年5月13日 健康
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