漫画家・常喜寝太郎さんが語る 動物保護活動とは…。作品『全部救ってやる』を通して強く伝えたい思い


ライター:UP LIFE編集部
2025年4月3日
ペット
熱い思いを持って、ひたすら動物保護を続ける主人公と、救われていく動物たち。その周囲をとりまく動物保護活動者や、そこに携わる人々との関係を綴った小学館マンガワンの人気連載漫画『全部救ってやる』。その作者で、自らも保護猫と暮らしている常喜寝太郎さんに、動物保護についてのお話をうかがいました。
生き物すべてをリスペクトする動物保護活動者たち。その行動力に惹きつけられ、漫画制作のきっかけに

― 動物保護を題材にした漫画を描こうと思ったきっかけについて教えていただけますか。
常喜寝太郎さん(以下、常喜):高校生のときに、保護猫を飼うようになったことがきっかけです。当時通っていた画塾の先生が保護活動をしたり、動物園のお手伝いをしてる人で、先生にお願いされて保護猫を飼うことになりました。
それ以降、先生が動物愛護センターや保健所に行くときに「一緒に行こうや」と声をかけてくれるようになりました。ただ、動物を処分する現場に行くのは怖くて、なかなか一歩踏み出せないでいたんです。動物たちが辛い思いをする状況は見れない、見たくないという気持ちもあったと思います。
それが、ずいぶん時を経て地元に帰ってきたある日、偶然にも先生と動物保護活動をされている方が一緒にいるところに再会し、お茶することになりました。すると突然、活動者さんが立ち上がり、お店から出て、ガラス窓にとまっていたカマキリをそっと掴んで道路を渡った先にある林に逃がしたんです。驚きました。
またあるとき、先生から骨董屋に行こうと誘われたことがありました。そこで骨董品に混じってスッポンが 5,000 円で売られていたのですが、店主から「今日売れへんかったら、食うねん」と聞いた先生が「今日連れて帰る」と、スッポンを購入して保護していました。
『全部救ってやる』の1話でも、運転中にカエルを助けるシーンがありますが、あれは先生と僕の高校時代の実話なんです。土砂降りの田んぼ道で、先生が急ブレーキをかけたんですね。何かと思ったら、たくさんのカエルが道路に出ていて…。それを踏まずに僕が手でどかしながら、車で 5 分のところを 30 分かけてゆっくり走りました。
こうした動物を保護する人たちのエピソードを編集部で話したところ、ものすごく興味を持ってもらえて、僕も同時に「過酷な実態を知るべきだと思うけど、一歩踏み出せなかった過去の自分」がフラッシュバックし、僕がその現場を見て漫画にすれば、そういう世界を知りたい人たちにも届けることができるんじゃないか、と考えました。
それが、『全部救ってやる』を制作するきっかけです。
鳴り止まない電話。命の選択を常に迫られ続ける動物保護活動をする人たちの葛藤

― 常喜さんが動物保護に初めて触れたときのエピソードを教えてください。
常喜:『全部救ってやる』は、保護活動者の焼田容子さんに協力していただきながら、執筆しています。
初めて焼田さんの活動に同行した日、朝から焼田さんの電話は鳴りっぱなしでした。車のスピーカーを通して聞こえた電話の内容は、「可哀相な猫を保護したいが去勢代がない。払ってほしい」と、猫は助けたいが後は丸投げという内容で、焼田さんは、「私も今保護してる子も仕事のお給料でなんとかやりくりしてるし、限界がある。でも、できることはサポートする。」と応えていました。
保護活動は、日々こうした理不尽に直面するけど、それでも目の前の命は待ってくれない。
人との関わりは不可避なのに、人の嫌な部分もたくさん見えてくる……、人のことが信頼できなくなる人も実際いると聞いて、その葛藤に胸が苦しくなりました。
動物愛護センターの取材を通して感じた、見えなかった人々の思い
そして、取材して認識が違ったことに“動物愛護センター”があります。
僕も取材するまでは、「部屋に閉じ込めてガスで殺処分する」というイメージを持っていました。ただ、僕が取材させていただいた滋賀県動物保護管理センターさんや京都動物愛護センターさんでは、なるべく動物を生かす方針で、そのために働いてるということを話を伺う中で知りました。
ただ、中にはどうしても殺さざるを得ない場合もあるそうです。例えば、凄まじい噛み癖のある犬がいて、その子が万が一放たれて、人間の赤ちゃんを噛み殺してしまうような事件が起きたら、大変なことになりますよね。そういった理由から、仕方がなく処分を選ぶという場合もあり得ます。でも、保護活動者の中には、「動物の命を人間の都合で奪うなんて許されない」という考えを持つ人もいるので、衝突してしまう。動物愛護センターと活動者の距離感が密接になるほど、こういう問題が起こりやすくなるそうです。
ただ、動物を救いたい者同士、本当は協力したい気持ちがあることを取材した両者からも感じたので、せめてマンガの中だけでもと、協力体制が取れるようになるエピソードとして、作品に落とし込みました。同じ“理想”を抱いていると、思ったので。
知れば知るほど、広い意味で保護活動の見識を深められることがうれしい

― 実際に取材をして印象に残ったエピソードはありますか?
常喜:今後登場するお話で、現在も取材中なのですが、「水族館」の保護活動です。
水族館の存在理由について、「ただ魚たちを見てもらう為にあるのか…?」と、それ以上深く考えたこともなかったのですが、水族館の取材をして違うとわかったんです。そのエピソードが印象的で……。
例えばメダカのお話。
昔、小学校で学年末にクラスで飼っていたメダカを川へ放流するという話を聞いたことがありました。ところが、同じ種類のメダカ同士でも川で育ったものと、学校で育ったものでは遺伝子は全然違うそうなんです。それらが川で純血種のメダカと交配していくと、純血種が減っていくことになります。
絶滅危惧種がいなくなったら何がまずいかって、「何が起きるかわからない」ってことらしいんです。生態系に影響が出て、自然界が取り返しのつかないことになる。
そうならないように、種の保存をしているのが水族館なんです。まるでノアの方舟にように。
これも保護活動なんですよね。
自分もまだまだ知らないことが多い。それに生き物が好きなので知れて楽しいんです。もっと大切にしたい、こうしてあげたら良かったんだ、という気持ちになります。
今回の水族館の取材でお聞きしたことを、僕がマンガで描いて、読者の方に読んでもらうことで、本来水族館が目指してる「来場者の方の環境保全の意識を高める」ことのお手伝いが少しでもできればいいなと思っています。

儚さと情熱が入り混じる思いを表現した『全部救ってやる』

― 『全部救ってやる』のタイトルに込めた思いを聞かせてください。
常喜:最初に「全部保護する」というようなあおり文を僕が考えて、編集さんと一緒に主人公の久我が言いそうな言葉ってなんだろうと考えるうちに、『全部救ってやる』が生まれました。
このタイトルを見た人に「全部救えるわけねぇだろ」「タイトルが偽善」と言われることがあります。全部救うことが、現実問題難しいことは知っています。100%なんてないんですから。それでも僕が出会った活動者さんはみんな、考える前に目の前の命のために体が動いてる人ばかりでした。「全部救ってやる」とう気迫を感じて、その熱い思いを込めたこのタイトルは、すごく気に入ってます。
漫画にも登場する、愛してやまない2頭の愛猫

― ―緒に暮らす猫たちとはどんな出会いだったのか教えてえてください。
常喜:家には猫が2頭います。
1頭はトラねこのトラくん。画塾の先生がきっかけで、近所のコンビニに住み着いてたところを保護しました。年齢は現在 18 才。今も元気です。
もう1頭は、顔が真っ黒でどこに目があるのかたまにわからなくなるパウちゃん。
ネットで偶然見かけて可愛いなって思ってたところ、1年経っても掲載されていて、そこでブリーダーさんからの販売だと知りました。年齢は4歳半。子宮摘出手術を受け、繁殖ネコを引退した子で、他の子よりも安く出ていたのに問い合わせがないと聞いて、思わず引き取ることにしました。
ふたりと一緒にいると日々癒されます。
2頭、距離があるものの、お互いの場所や時間を尊重し合ってうまく生活してます。
僕にとって大切な家族だし、ふたりからもらったもの、注いだ愛情を漫画に入れたいと思っています。
人が変わらないと保護活動も変わらない。だから人を変えていきたい

― 常喜さんの考える動物保護活動の未来について、どうあってほしいと思われますか。
常喜:取材していく中で、近い将来「動物保護ブーム」が来るのでは?という話を伺いました。保護活動がどこかに起用され広まるのは良いことだと思いますが、なんでも保護と名付けて、ビジネス利用する企業が出てくるのでは?という心配の声もあります。
そうなると、本当に泥まみれになって地方や見えないところで保護活動してる人たちのことが埋もれてしまうのでは?というものです。
個人的には献身的に活動されている方が報われるような未来であってほしいと思っています。
それと、動物の命の基準値が人間の命に少しでも近づいてほしいと思っています。
保護活動者の人口が増えることも良いとは思いますが、動物を迎えた人たちの意識が変わらないと、傷ついた動物を保護する活動は延々と続くのではないかと。
他にも取材先の方から、「ペットショップは、お客さん側に飼う権利が100%あるのではなく、売る側にも適正な飼い主が相談してその動物に合った飼い主か選ぶ権利もあって良いと思う」という意見や、「トリマーさんやペットシッターさんなど、動物に接する職業の人がアドバイザーになるような、動物のことをもっと気軽に相談できる場所が増えていくと良いよね」という意見も聞きました。
それでも、虐待や捨てる人が出てくるのであれば、動物を飼う場合は免許制にする選択肢もあると思います。むしろ、何も知らないまま動物を迎えて困った時に初めて焦る方が大変だと思います。
僕も動物に接する意識や動物福祉を全体的に上げていくというのは賛成です。
僕自身も、もっと勉強が必要だと思っています。
「パナソニック保護犬猫譲渡会」を通じて、保護活動する人たちの思いを伝えたい

― 最後に、今回、常喜さんが講演する予定の「パナソニック 保護犬猫譲渡会2025」が開催されます。
― こうしたイベントについてどう思われますか。参加される方やこの記事を読まれる方へのメッセージもいただけますか。
常喜:今回、僕とパナソニックさんの間で「困っている動物の先には必ず人間がいる。その人の意識を変えてくことが、動物との共生につながる」という考えが一致していたため、このイベントに参加させていただくこととなりました。
正しい知識を得られ、学べる機会ができることは、問題が起きることを未然に防げる活動だと思うんです。僕もまた、このイベントでご来場される皆様から勉強させていただき、動物との関わり方を作品に落とし込みたいと思ってますし、イベントを通して、動物をより大切に思っていただける人が増える足掛かりに少しでもなればと思っています。
また、パナソニックさんは「犬も猫も家族」という考え方を掲げていますよね。
僕は 10 代のまだ子供のころ、書類に家族の人数を記入する欄があれば、当たり前のように猫も数に加えていました。今思えば何やってるんだと思いますが、僕は動物も当たり前のように家族だと思っています。少しでも生き物との共生環境がより良いものになればいいなと思い、これからも制作や発信に取り組んでいきます。
パナソニック保護犬猫譲渡会について詳しくはこちらをご覧ください。
プロフィール

常喜寝太郎
漫画家。滋賀県出身。動物保護を題材にした作品『全部救ってやる』を小学館マンガワンにて連載中。過去作:『着たい服がある』(文化庁メディア芸術祭選出)『不良がネコに助けられてく話』『踊れ獅子堂賢』
2025年4月3日 ペット
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