「防災に関する意識調査2024」から読み解く
意識ギャップに見出す防災対策術vol.4
<一人暮らしのための防災編>


災害時の備えについての監修:国際災害レスキューナース・辻 直美(つじ なおみ)
ライター:UP LIFE編集部
2025年1月31日
防災
大学生活をスタートさせる人や、新社会人として実家を出て働き出す人、転勤や単身赴任で新天地で生活を始める人など、この春から家族と離れて一人暮らしを始める人も多いでしょう。今回は、「一人暮らしの防災のあり方」について考えてみたいと思います。
一人暮らしは防災対策が万全ではない傾向
家族と暮らす人と一人で暮らす人で、自然災害に対する備えに意識の差があることが今回の調査でわかりました。 一人暮らしの人の防災意識については、81.4 %の人が「自然災害への備えは必要だと思う」と回答。家族と暮らす人の86.3 %よりやや落ちるものの、8割以上の人が自然災害への対策の必要性を感じています。
ただ、実際に防災対策としてアクションしているかどうかはまた別問題のようです。「あなたのご家庭では、どの程度、自然災害への備えをしていますか」という質問に対して、「まったくできていない」と回答した割合が、一人暮らしの人は34.6 %。約3人に1人が自然災害に対して対策できていない状況です。家族と暮らす人で同様の回答をした人の割合が21.3 %であることを考えると、同居家族の有無で対策に差が出ていると言えます。
一人暮らしと家族と暮らす人での自然災害への備えギャップ

防災に関する備蓄に一人暮らしはお金をかけない人が多い
対策の差は、備蓄にかける金額にも直結しています。「備蓄に年間いくらお金をかけましたか?」という質問に対して、「0円」と回答した人の割合は、一人暮らしの人の全世代平均で36.2 %でした。家族と暮らす人の全世代平均20.3 %と比べ、15.9 ptの差が出ています。備蓄にかけたお金が0円というのは、防災グッズの準備などの防災対策をしていないのと同じです。一人暮らしの人が備蓄にお金をかけない理由として様々なことが考えられますが、まずは使えるお金の優先度の違いが考えられます。一人暮らしの人のなかには親から仕送りのある学生もいますが、食事や光熱費などの生活費を自分一人で賄っている人も多く、家族と暮らす人に比べて、防災対策として備蓄にかけるお金の優先順位が低くなりがちなのかもしれません。
なかでも年齢別で見ると、20代の男女が特に費用をかけない傾向が出ています。この傾向に対して国際災害レスキューナースの辻 直美さんは、経済的な理由を加味しつつも、「20代男性は特に、防災を楽観的に捉えている傾向が強いです。『自分は大丈夫だ』という根拠のない正常性バイアスがかかっていることも多いです」と、20代男性の防災意識に対して厳しい目を向けます。

災害時に家族を頼れない一人暮らしの20代がまずすべきこととは
ここからは、一人暮らしの20代の防災意識にフォーカスしていきましょう。
「離れて暮らす家族と、自然災害への備えについて話をしたことはありますか?」という質問では、男女間で大きな差が出ました。「話をした(話題になった)ことがある」の合計数値が、一人暮らしの男性20代では43.2 %、一人暮らしの女性20代では85.7 %となり、20代男性は離れて暮らす家族と災害対策に関してコミュニケーションをあまりとっていないことが明らかになりました。女性の方が男性よりも親とのコミュニケーションを積極的に取る傾向があるとは言え、ここまで大きな差が出ているのは興味深いデータと言えます。
男女間でコミュニケーションの頻度やモチベーションの差はあるものの、一人暮らしをする人にとって「自然災害への対策は自分自身で行わねばならない」という事実は変わりません。自然災害が発生した際、物理的に家族との距離が離れているとすぐに助けに来てもらうこともできず、電話やLINEなどのライフラインが断絶されてしまうと、連絡をとることすらできなくなってしまいます。では、家族を頼れない一人暮らしの20代は、どのような対策をすればいいのでしょうか。辻さんは、「一人暮らしをしている若者は、遠くに暮らす家族を頼るよりも、近くに暮らす他人と関係性をつくることのほうが重要です」と説きます。
一人暮らし20代の防災コミュニケーションにおける男女ギャップ

地域に存在を認知してもらうことが自分を救う
「一人暮らしの人は、地域とまったく人間関係を構築できていないと、被災した際に助けてもらう可能性が下がります。一人で暮らす人が周りの誰からも認識されず、地域とまったく関わりをもっていない状況が最も危険です」と、辻さんは希薄化する現代のコミュニケーションが防災にも影響を与えていることに対して警鐘を鳴らします。
では具体的に、どうやって地域住民と関係性を構築すればいいのでしょうか。辻さんはそのポイントを次のように語ります。「とにかく自分という存在を地域の人たちに認識してもらうことから始めましょう。例えば、いつも買い物に行くコンビニやスーパーのスタッフさんに笑顔で会釈してみる。そうすることでやがて顔を覚えてもらい、少しずつ挨拶できるようになってきます。そうやってコミュニケーションを重ねて関係性が構築されてくると、有事の場合でも『あの子は大丈夫かな?』と心配される対象、助けてもらえる存在として、近隣の人たちから意識してもらえるようになります。災害のためだけではなく、普段から人として基本的なコミュニケーションを大切にし、緩やかでも良いのでコミュニティをつくっていくこと。ゲームと同じような感覚で、楽しみながら顔見知りの人や話せる人を増やしていけばいいのです」。
初心者がいきなりエベレストは登れない。まずはできることから。
辻さんは普段から等身大のスタンスで防災と向き合うことの大切さを、若者に向けメッセージを発信しています。「国際災害レスキューナースとして今まで私が活動してきた経験上、若者は防災に対して完璧を求める傾向があるように思います。自分自身に防災の経験や知識がないにも関わらず、いきなり高いレベルのことを求めてしまうということです。
登山に例えるとわかりやすいですが、初心者でいきなりエベレストを登ろうとする人がいるでしょうか。まずは近場でアクセスできる小さな山を登ることから始めてみればいいのです。まずは、自分の防災に対する力量と知識をリアルに把握すること。例えば、街ぐるみでやっている防災イベントに参加してみる、デートの途中で防災センターなどを覗いてみる。日常のなかに自然と取り入れられる防災のレッスンは、実はたくさん散らばっているのです。」と、普段からの防災体験の重要性を辻さんは語ります。
一人暮らしの20代の防災対策の傾向として、乾電池やカセットコンロなどの備蓄率が低い部分に関しては課題感が残る一方で、ハザードマップの把握率においては高い数値が出ているなど、自分自身の身を守ることには比較的意識が高いという傾向もあります。この「自分の身を守りたい」という気持ちをポジティブにとらえ、行動に変えていくことが重要だと言えます。
一人暮らしと家族と暮らす人での対策ギャップ

まとめ:近隣住民とのコミュニケーションが防災のベース
「災害が起きてから対策する」のではなく、普段からの地域でのコミュニケーションこそが大切です。 一人で暮らしているからと言って、防災に対して一人で向き合う必要などありません。 一人で暮らすからこそ、周りの人たちと関係性を築き、お互いに見守り合い、助け合う関係性をつくる。コミュニケーションが防災のベースになるのです。一方で、家族と暮らす人のなかにも、防災対策を親まかせにする若者や、母親や妻まかせにしてきた年配男性が依然として多いのもまた事実です。すべての人にとって重要な防災対策とは、災害が起きてから何かをすることではなく、普段の生活の中から「いかに自分を守るための関係性をつくるか」ということ。 その積み重ねが、大切な自分の命を守ることに繋がるかもしれないのです。

災害時の備えについての監修

辻 直美(つじ なおみ)
国際災害レスキューナース
⼀般社団法⼈ 育⺟塾 代表理事
阪神・淡路⼤震災を経験し、災害レスキューナースへ転⾝。
看護師歴33年、災害レスキューナースとして29年活動。
国内外30ヶ所以上の被災地派遣で経験を積む⼀⽅で、防災に関する講演やコラム掲載など、活躍は多岐にわたる。
著書『レスキューナースが教えるプチプラ防災』(発売:扶桑社)、『地震・台風時に動けるガイド - 大事な人を護る災害対策』(発売:Gakken)
- 辻の「しんにょう」は「⼆点しんにょう」です。
2025年1月31日 防災
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