アパホテル株式会社 様

メインビジュアルです。目には見えない“空気の質”でおもてなし こだわりの環境を提供するアパホテルの飽くなき挑戦 メインビジュアルです。目には見えない“空気の質”でおもてなし こだわりの環境を提供するアパホテルの飽くなき挑戦

この記事は、日経BPの未来コトハジメ「社会デザイン研究」に掲載したものの転載です。記事の内容はすべて本稿初出時当時のものです(本稿の初出:2020年11月30日)。

この記事を要約すると
・アパホテルでは以前から客室における“きれいな空気”を提供
・空気中の花粉、カビ菌などのウイルスを無効化し、室内の脱臭を実現するパナソニックのナノイーX搭載エアコンを順次採用している
・パナソニックではアパホテルに特化したナノイーX搭載エアコンを開発
・ホテル業界のトップランナーが認めた“空気の質”の高さを探る

非日常な空間を提供するのがホテル業界の使命であるならば、そのこだわりは「見える」内装やサービスだけに留まらない。目には「見えない」が確かにそこにある、「空気の質」(空質)においても価値を提供できるか。アパホテルは、そこに次なる挑戦の場を見いだした。空質の価値を高めるべく、パナソニックとの協力体制を敷いた先に目指す展望を聞いた。

目には見えない“空気の質”でおもてなし
こだわりの環境を提供するアパホテルの飽くなき挑戦

宮田令子氏の画像です。

名古屋大学未来社会創造機構客員教授
元名古屋大学産学官連携推進本部特任教授
元ImPACTプログラム・マネージャー

宮田 令子 氏

1982年入社の東レ株式会社では、一貫して研究開発に従事。事業化・研究マネージメントを経験。日本生物工学会技術賞受賞(2000年)。名大では、異分野融合領域の産学官連携共同研究等マネージメントに従事。2014年~2019年にかけ内閣府 革新的研究開発推進プログラムImPACTにてプログラムマネージャーとして参画。超微量物質多項目同時センシングシステムの実用化に向けたプロジェクトを主導した。

宮田:
空気には、ヒトの目には見えないにおいや微粒子(PM2.5、PM0.1、ウイルス、細菌など)がナノ、マイクロレベルのエアロゾルなどとなって漂っています。これらをヒトにとって安心、安全、快適である環境レベルに保つことが昨今ますます求められています。このためには最先端のセンシングによるナノレベルの識別と、識別したものの無害化の技術が重要です。これからの時代には、こうした空気の質の向上が宿泊者の選択肢のひとつになっていくでしょう。

日本最大のホテルネットワークが“きれいな空気”に注力

全国にホテルネットワークを張り巡らせるアパグループ。中心となるアパホテルは659ホテル/10万1595室(建築・設計中、海外、フランチャイズ、パートナーホテルを含む、2020年10月9日現在)と、国内最大の規模を誇る。駅から近いアクセスの良さ、コストパフォーマンスの高さ、大浴場をはじめとする施設の充実などから、出張先で定宿にしているビジネスパーソンも多いのではないだろうか。

アパホテルプライド〈国会議事堂前〉の外観。

ニューノーマル時代においても、アパホテルは攻めの姿勢を崩さない。2020年3月以降に開業したホテルは10棟を超え、8月には西日本最大客室数となる「アパホテル&リゾート〈大阪梅田駅タワー〉」の起工式を行った。緊急事態宣言下の4〜5月にかけては、4泊5日/1万5000円のテレワーク応援プランを実施し、大きな話題を呼んだ。このように、“らしい”アイデアでピンチを次々とチャンスに変えてきた。

一方、アパホテルでは以前から客室における“きれいな空気”を提供したいと検討していた。パートナーに選ばれたのは、パナソニックのナノイーX搭載エアコン。空気中の花粉、カビ菌などのウイルスを無効化し、室内の脱臭を実現する。すでに一部ホテルでは導入済みだが、2020年5月には今後開業予定のホテルでナノイーX搭載エアコンの導入を明言した。

アパホテルプライド〈国会議事堂前〉に導入されているナノイーX搭載エアコン。

アパホテルに特化したナノイーX搭載エアコンを開発

ナノイーとは、水に包まれた微粒子イオンのこと。臭気成分を溶かす水の性質を空気浄化に応用すべく、パナソニックが1997年から研究を開始した。

ナノイーの仕組みを説明する画像です。

2003年にはナノイーデバイスが完成し、世界初となる空気清浄機を発売。以降、デバイスのアップデートを重ねながら、2008年には次世代技術となるナノイーXの開発に着手。
2016年にはナノイーの約10倍のOHラジカル(高反応成分)を有するナノイーXが誕生し、従来のナノイーと並んでエアコン、洗濯機、冷蔵庫、衣類乾燥除湿機、ヘアードライヤーなどさまざまな製品に搭載されている。

ナノイーとナノイーXの比較画像です。 ナノイーとナノイーXの比較画像です。

ナノイー/ナノイーXは、一般的な空気イオン(マイナスイオン)に比べて、約6倍・およそ600秒の長寿命を持つ。水に溶けにくい酸素や窒素と結合せず、カビ菌やアレル物質(花粉、ダニのフンや死がいなど)を取り囲んで抑制する。加えて、マイナスイオンの約1000倍(体積比)の水分に包まれているために潤いが多く、微細なナノメートルサイズのため繊維の奥まで浸透することが長所として挙げられる。

空気イオンとナノイーの比較です。 空気イオンとナノイーの比較です。

アパグループ常務取締役の梅田浩司氏は「約600秒残存することに惹かれました」とナノイー導入の経緯を語る。CM事業本部東日本統括本部長でもある梅田氏は、常に「お客様にとっていかに快適な製品を導入するか」を念頭に置く立場。CMとはコンストラクションマネージメントのことで、事業者側の立場から設計・施工者の選定、スケジュール管理、品質管理、コスト管理といったマネージメントを一括して行う。つまりナノイーはその厳しい評価基準に合格したことになる。

アパグループ 東京本社 常務取締役 東日本地区統括部長 CM事業本部東日本統括本部長 アパ・コーポレートクラブ事務局長 梅田 浩司 氏

10数年前の導入以降、梅田氏は徹底した“空気の質”へのこだわりをパナソニックに求めてきた。「ナノイーは目に見えないため、お客様にはその良さが伝わりにくい。しかし、脱臭や花粉抑制の効果があることはデータで証明されており、こんなに良いものが広がらない歯がゆさがありました」と梅田氏。そこでギアを1段上げ、パナソニックと共同プロジェクトチームを結成。アパホテルに特化したエアコン室内機の開発をスタートさせた。

ナノイー・ナノイーXでタバコのニオイを抑制するときのグラフです。

約120分でほとんど気にならないレベルまでタバコのニオイを抑えることができる。

※臭気強度が「1」下がるとは、90%の低減に相当。臭気強度「1」は、「やっと感知できる非常に弱いニオイ」のレベルのこと。
※脱臭効果は、周囲環境(温度・湿度)、運転時間、臭気、繊維の種類によって異なります。タバコの有害物質(一酸化炭素など)は除去できません。常時発生し続けるニオイ成分(建材臭・ペット臭など)は、すべて除去できるわけではありません。
※〈タバコ臭〉【試験機関】パナソニック(株)プロダクト解析センター【試験方法】試験室(約6畳)において6段階臭気強度表示法により検証【脱臭の方法】ナノイーを放出【対象】付着したタバコ臭。

「数年前から、パナソニックとお互いに意見を交換しながらエアコンの室内機を作り上げました。まずこちらからは、エアコンの風をお客様に当てないことをリクエストしました。アパホテルの客室はコンパクトなので、場合によってはお客様の体に直接エアコンの風が当たってしまうからです。同様の理由から、限られた空間に効率的に設置できるようスリム化できないかとのオファーも出しました」(梅田氏)

アパホテルのこだわりに応えるため、パナソニックはこの新しいエアコン室内機にナノイーXを搭載してみてはどうかと提案した。

業務用エアコンの営業担当であるパナソニック産機システムズの神野俊夫氏は、「室内機のファンで風を送り出す際、一緒に発生したナノイーを送り出す仕組みで、お客様はエアコンをONにするだけでナノイーXによるきれいな空気を感じることができます。そして室内機そのものは1方向天井カセットスリム形で小型化。また、従来機の1枚ルーバー(羽板)を2枚ルーバーとし、人に直接風を当てないように風向きを制御しています。照度センサーを搭載し、消灯を自動検出して睡眠時にあわせた制御運転に自動で切り替える点も特徴です」(神野氏)

パナソニック産機システムズ株式会社 首都圏支店 空調営業2部 空調営業1課 課長 神野 俊夫 氏
業務用エアコンの仕組みの画像です。
「人に直接風をあてない」天井気流を実現しています。

体に直接エアコンの風が当たってしまわないよう、1枚ルーバー(羽板)を2枚ルーバーとし、風向きを制御している。

さらに梅田氏は、枕元の操作パネルで風速と風向き変更ができないかと依頼した。開発段階では梅田氏自らがパナソニックの群馬工場に足を運び、現場の技術者とディスカッションを重ねたという。

「お客様の利便性、快適性を考えると、どうしても枕元のパネルで制御したかったんです。しかもかっこよくデザインしてほしかった。こうした細かいこだわりをはじめ、数々の要望に対してパナソニックは真摯に対応してくれました。少し時間がかかった部分もありますが、完成した品質の信頼性は抜群。待つ価値は十分にあったと思います」(梅田氏)

枕元のコントロールパネルの画像です。 枕元のコントロールパネルの画像です。
宮田令子氏の画像です。

非日常な空間を提供するホテルでは、空気の質に関して、その操作性含めて真摯な取り組みがなされています。空気の質の向上は、ナノレベル有害物質の捕捉、識別、無害化などを一気通貫でできる最先端の技術を駆使しないと実現しないと考えます。その点、今回の取り組みは先端を走っており、実用にはコストの観点も入るので、快、不快なにおいの識別、有害微生物等の除去、心地よい香り(におい)の実現など空気の質を科学的根拠に基づいて実用的に“見える化”できることをさらに期待しています。

ニューノーマル時代に不可欠な要素

こうして完成したナノイーX搭載エアコンは、2018年12月に開業した「アパホテル〈日本橋 馬喰町駅前〉」に初導入。開業前の試泊でナノイーX搭載エアコンを体感した梅田氏は「まるで森林浴をしているような気分で、起床したときに清々しさを感じました」と振り返る。

以降、ナノイーX搭載エアコンは続々と新規開業のアパホテルで採用されている。取材時に訪れた、2019年3月開業の「アパホテルプライド〈国会議事堂前〉」も採用済みホテルの1つ。

アパホテルプライド〈国会議事堂前〉の内観画像です。
アパホテルプライド〈国会議事堂前〉の内観画像です。

室内に入ると、まずコンパクトなエアコンの外観が目を引く。実際にエアコンを動かしてみると、人に優しい風と空気が流れ出てきて落ち着く印象がある。確かに風の流れが緻密に計算されているようだ。枕元に操作パネルがあることで、リラックスした姿勢で柔軟な制御ができるのもポイント。じっくりと一泊したら、ナノイーXの威力をより感じられるに違いない。

アパホテルプライド〈国会議事堂前〉の客室内のエアコンの画像です。

アパホテルでは現在、「新都市型ホテル」とのコンセプトで、「高品質」「高機能」「環境対応型」を軸に、お客様に安全・安心・安眠を提供するこだわりを推進している。2021年2月に開業する「アパホテル〈品川 戸越駅前〉」には、発生量が現在の2倍となったナノイーX発生装置を搭載したエアコンを導入予定だ。「当社の開発陣が、ぜひアパホテルさんに高濃度なナノイーXを先行して搭載してほしいと。これまでの関係性があってこそだと思います」(神野氏)。

新たな生活様式のもとでは、これまで以上に清潔な空気環境の追求が不可欠なものとなる。アパホテルでは全ホテルに特別衛生検査官を配置し、接触感染、飛沫感染対策を強化した衛生基準を策定することで感染予防に務めている。アパホテルプライド〈国会議事堂前〉ではこの8月、業界初となる非接触型の「アプリチェックイン専用機」を導入。待たない、並ばないことをコンセプトにオムロン ソーシアルソリューションズと協業開発したもので、宿泊客にも好評を博している。

アプリチェックイン専用機の画像です。「マイページ画面のQRコード(会員証)をかざしてからわずか1秒足らずでルームキーが発行される。」 アプリチェックイン専用機の画像です。「マイページ画面のQRコード(会員証)をかざしてからわずか1秒足らずでルームキーが発行される。」

「アパホテルの開発コンセプトは『進化する』です。客室中で触るもの見えるもの使うものを常に進化させ顧客ニーズを捉えるよう開発を進めています。空気をテーマにした開発は奥が深く、そして顧客には届きにくい分野ですが、“ナノイーXがあるから宿泊したい”という付加価値をめざし、今後も我々は貪欲に空気の質の向上に務めていきたいと思います」(梅田氏)

業務用エアコンに新たな可能性を

パナソニック アプライアンス社でナノイーXデバイスの技術開発を担当する山口友宏氏は「ナノイーXでOHラジカルの効果が10倍になったことにより、業務用エアコンでの可能性がぐんと高まりました」と語る。不特定多数の宿泊客が入れ替わるホテルの客室では、家庭用エアコンとは異なるアプローチが必要となるが、パナソニックでは「通常のパターンが変わるときには、必ず一緒に確認させていただく。どういう場所に配置すれば効率的にナノイーXが広がるか、それが1つのポイントになります」(山口氏)との姿勢で臨む。その成果が今回のナノイーX搭載エアコンに反映されているのだ。

パナソニック株式会社 アプライアンス社 ビューティ・パーソナルケア事業部 デバイス商品部 機能デバイス技術開発課 課長 山口 友宏 氏
宮田令子氏の画像です。

ニューノーマル時代においては空気の質の向上、見える化が科学的根拠に基づいてあらゆる社会的シーンで浸透していくことが肝要です。特にナノレベルの有害物質をナノイー技術で無害化し「空気の質」においてその価値を提供していこうとするアパホテルとパナソニックの協業は先進的であり、今後のビジネスモデルとなって更に深化、展開していくことを期待しています。