株式会社TOSEI 様
この記事は、日経BPの未来コトハジメ「社会デザイン研究」に掲載したものの転載です。記事の内容はすべて本稿初出時当時のものです(本稿の初出:2021年6月30日)。
この記事を要約すると
・現在、全国に約2万2000店舗あると言われるコインランドリーが進化を続けている
・明るく開放的な空間に生まれかわり、カフェやコンビニ、ドラッグストア併設型も増え、快適に過ごせるのが特徴
・業務用クリーニング機器開発・製造・販売大手のTOSEIは、自社製品の付加価値としてパナソニックのナノイーを搭載。オーナーや一般客から好評を得ている
・ランドリー業界に初参戦となったナノイーがもたらした効果を、関係者とオーナーの言葉から明らかにする
ライフスタイルの多様化が進み、コインランドリー需要が増加している。現在の主流は明るく清潔な空間で、カフェの併設やキャッシュレス対応を備えた“次世代型コインランドリー”だ。一方で利用範囲が多岐にわたるからこそ、不特定多数にいかに安心安全を提供できるかが鍵を握る。業務用クリーニング機器開発・製造・販売大手のTOSEIでは自社製品にパナソニックのナノイーを搭載。新たな付加価値とともに差別化の訴求ポイントとして好評を博している。
進化するコインランドリーにふさわしい
高性能な洗濯設備の「隠し味」
令和のコインランドリーは“明るく清潔”が基本
現在、日本国内にコインランドリーは約2万2000店舗あると推計されている。さすがにコンビニやドラッグストアにはかなわないものの、店舗数で見ればおよそ3分の1の規模に匹敵する。最近、自宅付近にコインランドリーが新設された、あるいは改装して非常に明るくきれいになったという経験がある人も多いことだろう。
広々とした店内には待合用のテーブルと椅子が置かれ、無料Wi-Fiやドリンクコーナーを設けていることも珍しくない。カフェやコンビニ、コインパーキング、ガソリンスタンドなどを併設した複合店舗も目立つ。かつてのジメジメと暗いイメージはなく、令和におけるコインランドリー像は“楽しみながら洗濯と乾燥をする場所”になりつつある。
背景には、社会の高度化に伴うライフスタイルの変化が挙げられる。以前は単身者御用達の印象が強かったが、共働き世帯が増えたことにより、家事の時短を求めるファミリー層が積極的に利用している。週に1〜2度まとめて洗濯と乾燥を済ませられれば、日々の空いた時間を有効活用できる。家庭用と違い、強力なガス乾燥機で短時間にパリッと乾くのも魅力的だ。
また、布団や毛布、枕などの寝具類が手軽に洗えるようになったのも大きい。素材によっては適さないものもあるが、自宅では洗って乾かすことが難しかった布団をわずか2時間ほどで丸洗いから乾燥までしてくれる便利さは何物にも代えがたい。駐車場付きのコインランドリーでは、週末に自動車で寝具類を洗いに来る家族の姿も数多く見受けられる。
こうした次世代型コインランドリービジネスを後押ししているのが、業務用クリーニング機器開発・製造・販売大手のTOSEIである。ランドリー空間を清潔に保ち、快適に過ごせるように工夫して“待つだけの時間”を“有益な時間”に転換させた。併設店舗があれば自ずと待ち時間に人が行き来し、売上の相乗効果が生まれている。同社がうたう「コインランドリーは暮らしのハブになる」とのキャッチコピーは、まさに時代のニーズを表したものだ。
TOSEIでは2018年から、新たな付加価値としてパナソニックのナノイー搭載モデルの出荷を開始した。利用客をはじめ、コインランドリーオーナーからの評判も上々で、現在はすべての機器に標準搭載している。TOSEIがナノイーに着目した理由とは何だったのか。そこには、コインランドリー業界が抱える切実な課題があった。
ナノイーには差別化と脱臭、双方の効果が見込める
「コインランドリー市場は2014年後半から右肩上がり。当社の出荷台数で比較すれば、2020年度は2014年度の約2.2倍になっています」。そう語るのは、TOSEI 執行役員 営業統括責任者(CMO)の塚本広二氏。営業・企画の立場から、長年にわたりTOSEIのコインランドリー事業を牽引してきた人物だ。
塚本氏は「マスコミの露出が増えたこと、金融緩和政策により融資が受けやすくなったこと、無人かつ在庫を抱えないビジネスモデルが新規事業進出のハードルを下げたこと。この3点が大きな要因です」と分析する。2016年に初開催となった「国際コインランドリーEXPO」には大手のスーパー、コンビニ、飲食チェーン、ドラッグストアなどが大挙して押し寄せた。「様々な業界の方々が、母店の空いたスペースにコインランドリーを誘致すれば相乗効果が見込めると気づき始めました。その頃から風向きが変わったと思います」と塚本氏は話す。
逆の見方をすれば、これは競争の激化を物語る。全国各地にコインランドリーが乱立する中で、機器メーカーとしてはオーナーに購入してもらうために差別化の訴求が急務とされていた。そこで自社の洗濯乾燥機、乾燥機に付着するニオイを脱臭できればアピールポイントになるのではないかと着想した。
「コインランドリーの課題として挙げられていたのが機器のニオイです。水をふんだんに利用するために多湿な状況になってしまい、どうしてもニオイが付いてしまいます。当社の洗濯乾燥機は特殊な弁によって防いでいますが、それでも少なからず発生してしまうのが悩みでした。
乾燥機単体なら問題ないと思われるかもしれませんが、ドラム内の四隅にホコリが溜まってしまい、そのホコリから独特なニオイが出てきます。これを解消するには、当社に持ち込んでパネルを分解しての清掃が必要となり、多額のコストがかかります。この課題を解決すれば、お客様にとってもオーナーにとってもより付加価値を感じていただけると考えました」(塚本氏)
チャレンジングな姿勢はTOSEIのDNAに組み込まれたものだ。TOSEIのコインランドリー業界への参入は2001年と遅く、後発組として出発した。それゆえ、世界初となる業務用洗濯乾燥機の開発・製造・販売を手がけて“ワンストップで完了する”スタイルを武器に独自の道を切り開いてきた。機器の回転率が売上に直結するコインランドリービジネスでは洗濯機、乾燥機が別々であることが常識で、一体化によって回転率が下がる洗濯乾燥機は発売当初、「売れるわけがない」と言われたそうだ。今では洗濯乾燥機がスタンダードになったことを鑑みると、先見の明があったと言えよう。
折よくパナソニック代理店からナノイーの売り込みがあり、塚本氏は静岡県伊豆の国市にある静岡工場と連携してナノイー搭載の検討を開始した。製造現場でもマイナーチェンジを予定しており、アップデート時の目玉機能としてナノイーに対する関心は高かった。
業務用洗濯乾燥機/乾燥機でのナノイー搭載はこれが初めてのケースになる。TOSEI 静岡事業所 商品企画・開発本部 開発技術部 部長 深瀬利隆氏は「最初はナノイーに対する漠然とした知識しかなかったため、パナソニックの担当者に足を運んでもらい、TOSEIの機器に対してどのような効果が見込めるのかを説明していただきました」と語る。
同じく開発技術部で副部長を務める日吉政宏氏は、20年前に洗濯乾燥機の開発を担当。逆境を乗り越えて成長を支えてきただけに、「初めての挑戦でしたが、ブランド力が高いナノイーをぜひ当社の機器に搭載したいと思いました」と意欲的に臨んだ。そして工場に併設している直営ランドリーで、1カ月ほどナノイー搭載モデルと非搭載モデルによるフィールドテストを実施。この結果が、塚本氏の背中を押した。
「ニオイを嗅いで比較したところ、搭載モデルでは明らかに独特なニオイがありませんでした。『中を掃除したのか?』と聞いたら『もちろんしていません』と。これは間違いないと確信し、採用のゴーサインを出しました」(塚本氏)
工場で働くスタッフも同様の意見だったが、感覚的な評価だけではエビデンスとはならないため、TOSEIは大阪・門真市にある「パナソニック株式会社 プロダクト解析センター」に調査を依頼。数値化したエビデンスを作成した。
「プロダクト解析センターでは臭気判定士がニオイを定量的に捉えて可視化してくれました。ナノイーを放出する・しないの比較表を報告していただき、それにあわせて当社の機器で最大限効果が出るように制御することができました」(日吉氏)
初めての業界だからこそ、開発は慎重に
改めてナノイーについて説明しよう。ナノイーとは水で包まれた微粒子イオンのことである。最大の特徴は多様な物質に反応しやすいOHラジカル(高反応成分)を潤沢に含む点で、このOHラジカルがニオイや菌に付着して、脱臭・除菌や花粉などのアレル物質対策の効果をもたらす。
パナソニックではナノイーデバイス(発生装置)を開発し、自社製品はもとより、他業界へのデバイス提供を行なっている。代表的なものに自動車業界があり、数多くの主要メーカーに採用実績がある。公共交通では鉄道が強くそのほかホテル、飲食店、病院、学校、介護施設でも高い評価を得ている。
現在のペルチェ式デバイスの第1世代が誕生したのが2005年。その後も世代を重ね、2016年にはOHラジカル量が10倍、4兆8000億個/秒を生成するナノイーXが発売された。TOSEIの機器も2021年5月からは順次ナノイーXに切り替わって出荷されている。
黎明期からナノイーのビジネスに携わってきたパナソニック アプライアンス社の山田剛久氏は、「いろんな業界と協業してきた中でもコインランドリーは初めてのケース。不特定多数のお客様がご利用になられ、いろいろなものを洗われますので、検討段階に入ってからもお互いの機器の条件、業界独自の慣習のすり合わせを繰り返し、ベストの地点に着地できるよう議論しました」と話す。
パナソニック アプライアンス社でナノイーデバイスの開発を担当する平井康一氏は「ナノイーは目に見えるものではないため、パナソニック以外のお客様に本当に価値を感じていただけるのかを模索しながらスタートしました」と、協業の難しさについて触れる。外部に提供するデバイスはファン一体型で決まった形状だが、機器内への配置はもちろんのこと、部品の配線などもそれぞれ異なるからだ。
「車載に比べればシンプルでしたのでその点は助かりました。制御部分に関しても蓄積してきたノウハウを応用して、コインランドリー機器の設計を確認した段階である程度の手応えをつかみました。今回に限った話ではありませんが、技術者同士で打ち合わせをすると早く進むことが多いと感じています」(平井氏)
一方のTOSEI側はどうか。深瀬氏はナノイーデバイスの設置場所と、デバイスを接続するホースの長さや素材にかなり気を配ったという。「最適な脱臭効果を出すためには我々もパナソニックもかなり苦労しました。パナソニックでは、洗濯槽の穴をくぐり抜けて対象とする部分までナノイーがきちんと届くのかに頭を悩ませたと聞いています。お互いに分からないことばかりでしたので、コツコツと積み上げて完成させました」(深瀬氏)。
TOSEIの機器では、夜間のアイドルタイムにナノイーを8時間放出して脱臭する。これは「お客様が少ない時間帯で活用するのはどうか」との山田氏の提案を受け、効果が出る時間と、機器やナノイーの寿命のバランスを取った上で決定したものだ。日吉氏は「コインランドリーの機器は長く使うほどニオイが溜まっていきますが、ナノイーも使えば使うほど顕著に効果が出ると教えていただきました。毎晩のアイドルタイムに放出することが、安定した効果につながると双方で一致したのです」と言う。
ナノイーブランドの威力は大きく、発売後にはオーナーからの問い合わせが殺到。空気清浄機やドライヤーで馴染みがあることから女性への訴求力が高く、「ナノイーがコインランドリーに搭載されたことで衛生的に安心と思っていただけるようです。ランドリーには女性客も多いので、ナノイーが搭載されていればそのランドリーに行く動機にもつながります」と日吉氏は自信をのぞかせる。
山田氏は「深瀬さん、日吉さんともに社内で奮闘していただきました。当初の企画段階ではオプション機能として想定していましたが、標準搭載まで格上げになったのは喜ばしい限りです。私の自宅近くのコインランドリーにもナノイー搭載モデルが導入されていて、ここまで広がっているのだと感慨深くなりました」と感想を述べた。今回の事例は、コインランドリー業界のニーズとパナソニックの技術力が高い次元でマッチした好例となった。
実際の利用客からも高評価、次なる機能追加にも期待
2021年4月、小田急不動産は同社初のコインランドリー事業となる「Odakyu Laundry」を東京都世田谷区経堂(きょうどう)にオープンした。閑静な住宅街にありながら6台分のコインパーキングを併設した、都市型コインランドリーである。本ランドリーにはTOSEIのナノイー搭載モデルがずらりと並ぶ。
小田急不動産 仲介事業本部 ソリューション営業部の日野将也氏は「コインランドリー事業に初進出ということもあり、本業であるパーキング事業との連動性を重視しました。市場調査を行ったところ、TOSEIさんはランドリーのリーディングカンパニーであると共に、パーキングとランドリーとの精算方法において、非常にフレキシブルに対応いただけたことが最大の決め手です。実際、開業して感じるのは、ランドリー機器と設備がしっかりしており故障やトラブルがないことです。また、懸念点であったランドリーをご利用いただいたお客様にはパーキング料金をサービスするシステムも問題なく稼働し、新規参入組へのアフターフォローが万全であることに感謝しています」と話す。
「洗濯乾燥機、乾燥機ともに洗濯物を出し入れする目立つ場所にナノイーマークの表示があるので、お客様も“ナノイーが入っているから安心ですね”とおっしゃってくれます。とくに昨今は衛生面を気にされる方も多いので、感謝の言葉をいただくことが多いですね」と日野氏。マークを見ただけでどのような効果があるのかが伝わりやすく、そのブランド力の高さが集客の一助になっていることを実感しているという。
このように、オーナーのみならず利用客への直接的なアピールにつながったTOSEI×ナノイーの取り組み。深瀬氏は「次は衣類そのものの脱臭・除菌ができる機能を追加してほしい」とパナソニックに期待を寄せる。実は、業務用クリーニング機器に次ぐTOSEIの主力製品である食品用のパック加工もできる真空包装機にもナノイーXが搭載されている。平井氏は「これは、機器に限らずニオイの元を取りたいとの要望に応えたもの。それらの経験を生かしてTOSEI様と一緒にお客様の困りごとを解決していきたいと考えています」と話してくれた。
「おかげさまで、ナノイーは安心安全とのイメージが定着してきました。我々は、街なかの至る場所でナノイーマークを目にするところまで広げていくのが理想です」と山田氏は今後の展望を語った。2021年6月にはタクシー車内にナノイーXが搭載されるなど、着々と生活空間に浸透し始めている。まずはTOSEIの機器が導入されたコインランドリーで効果を体感してみてはいかがだろうか。