Digital FUN!Technics×「レコードの日」折坂悠太インタビュー

Technics×「レコードの日」折坂悠太が語る 音楽をアナログレコードで聴く味わい Technics×「レコードの日」折坂悠太が語る 音楽をアナログレコードで聴く味わい

アナログレコードの魅力を伝えることを目的として、毎年11月3日に開催されるアナログレコードの祭典「レコードの日」。アナログレコードプレスメーカーの東洋化成が主催、Technicsが協賛するこの企画では、全国各地のレコード店でさまざまなアーティストの作品のアナログ盤が販売されます。

そんな「レコードの日」、今年のイメージキャラクターを務めているのが折坂悠太さん。今回は折坂さんがセレクトしたお気に入りのアナログレコード3枚および昨年アナログ化された折坂さんのアルバム「平成」をご本人と聴く企画を実施し、アナログレコードの魅力を語ってもらいました。

──今回3枚のアナログレコードをお持ちいただきましたが、まず1枚目がキース・ジャレットの「The Melody At Night, With You」(1999年リリース)。これは今年に入ってアナログ化されたものですね。このレコードを選んだ理由は?

これはこの間、韓国に行ったときに買いました。もともとCDで持っていて、以前肺の手術をしたとき手術中にかけてもらったんですよ。おそらく音圧をほとんど上げていないと思うんですけど、その分すごく音が詰まっているんですよね。いい意味で装飾がなくて、意図していないであろう音が入っている。そういう録音そのものも好きなアルバムです。楽器が鳴っている部屋の大きさが如実にわかるんじゃないかと思って今日持ってきました。

──今回はB面の「Shenandoah」を聴いていただきましたが、いかがでした?

誰かに聴かせようという明確な意思を持つ音じゃないんですよね。部屋の奥の方でピアニストが練習しているところを覗いちゃった感じというか。その感覚って、やっぱり音が出ている楽器とリスナーの距離感だと思うんですよ。こうやってレコードで聴いてみると、録音時に意図していただろう奥行きがCD以上に表現されますよね。それと、すごく柔らかい感じがする。デジタルの明瞭さというより、楽器そのもの、モノが鳴ってるという感覚。(音に耳を傾けながら)……ああ、違う曲みたいに聞こえますね。

──2枚目がヴァン・モリソンの「Live At The Grand Opera House Belfast」(1984年リリース)です。かけていただいたのは「Into The Mystic (Instrumental) / Inarticulate Speech Of The Heart」です。

中間の音や、実音と残響がちゃんと分かれて聞こえる感じがしましたね。ドラムのアタック音や反響が空間で鳴ってる感じがちゃんとわかるというか。これも最近手に入れたレコードなんですけど、ヴァン・モリソンは昔から大好きで、特にライブ盤をよく聴いています。このアルバムは1984年録音ということもあって、リバーブの使い方も80年代っぽいんですよね。そういう残響の処理やライブハウスの空間性がよりはっきり伝わってきました。あと、楽器の自然な鳴りが手に取るようにわかる。

──さっきのキース・ジャレットとはだいぶ違いますよね。あちらは楽器はピアノ1台だけで、音の隙間の気配まで伝わってくるような作品でしたけど、こちらは観客の歓声も入っていて、情報量がすごく多い。

そうですね。あとどちらも生楽器特有の鳴りがありました。楽器の音が空気に触れ、レコードに刻み込まれている感じがする。その点ではキース・ジャレットのレコードと同じ感覚があって、生楽器1台か生楽器の集合体か、その違いでしかないという。あと、バンドの音は時代性もあるし、録音の流行りもあるけど、ヴァン・モリソンはどういうバンドで歌ってもヴァン・モリソン。声が聞こえた瞬間にそのことを実感します。

──3枚目はトム・ウェイツの「Closing Time」(1973年リリース)です。これも昔からの愛聴盤ですか?

もともとCDで持ってたんですけど、鳥取の母の実家にレコードがあって、それをもらってきました。これはいま聴いてみて、ちょっと意外な感じがしました。

──意外?

「Closing Time」ってこうやって挙げるのも恥ずかしいぐらいの名盤中の名盤じゃないですか。バーに行ったらだいたい飾ってあるような(笑)。だから、再生したらどんな場所でもこのジャケットのバーのような空間になるんじゃないかと思ってたんですよ。バーの片隅でトム・ウェイツが歌っているイメージというか。でも、聴いてみたら案外ちゃんとした録音物でした。ちゃんとしたプレイヤーがちゃんとした場所で録っているというか。これはCDで聴いていたときにはわからなかった感覚ですね。

──今まで耳がいかなかったところに耳がいったからこそ得られた感覚?

そうですね。音の距離感、空間性が把握できたからこそわかった感覚なんでしょうね。

──折坂さんのレコードも聴いてみましょうか。「平成」に収録された「坂道」と「さびしさ」の2曲を再生してみましょう。

(音を聴きながら)「Closing Time」のあとに聴くと、まだまだ足りないところが見えてきちゃいますね。

──そうですか? 例えば?

「Closing Time」は実際に耳に入るまでの距離感の中に音楽がある感じがするんですよ。自分のレコードの場合、クリアはクリアなんだけど、「Closing Time」に比べると距離がわかりにくい。それはもしかしたら現代の録音の仕方、現代のミックスの仕方が関係していて、僕のレコードに限ったことじゃないかもしれないけど、「Closing Time」のほうが音の密度が濃い感じがしますね。レコードに刻み込まれた空気が手で触れそうなぐらい。「Closing Time」やヴァン・モリソンの作品に関わった人たちは全員レコードで育った世代なわけで、そこも関係しているのかもしれないけど。

──音を耳や身体で受け止めるときの基本的な感覚が僕らとは違うんでしょうね。

そうでしょうね。もちろんデジタル世代はデジタル世代ならではの実感があると思いますけど、そうした感覚は当然時代によって変わってきますよね。

──折坂さんは世代的にはまさにCD世代ですよね。

そうですね。物心付いたときからCDでした。アナログレコードを聴き出したのは本当に最近。自分でアナログレコードを出すようになって、それを聴くために再生環境を整えたんです。とはいえ、かなり簡単な環境しかないんですけど。実家には父が新調したオーディオコーナーがあって、実家に帰ったときにはそこでこっそり聴いています。

──ご実家にはかなりレコードがあるんですか?

鳥取の母の実家のほうにはかなりあるみたいです。田舎なので、がんばって取り寄せていたみたいで。ウチの母の兄弟は音楽好きが多くて、叔母はQueenを追いかけてたみたいだし、叔父はニューウェイブやスカ、レゲエが好きだったらしくて。The StranglersやTelevisionは叔父から教えてもらい、ジャムやThe Style CouncilはQueen好きの叔母に教えてもらいました。自分が主体的に音楽を聴くようになったとき、教えてもらったのがそうした作品だったので、そのあたりの作品にはかなり影響を受けてます。自分にとって音楽の原体験だったと思います。

──ご自分の作品をアナログレコードというフォーマットで出すようになった理由はなんなのでしょうか。

僕は以前映写技師をやっていて、フィルムを扱ってたんですよ。僕らが35mmフィルムを扱う最後の世代で、以降はデジタルに変わっちゃったんですけど、僕はアナログからデジタルに変わる時期にまさに映画館にいたんですね。そのころ、ある映画のフィルム素材の一部が映写室に残っていたことがあったんですよ。なんらかの理由で事故って、ダメになっちゃったフィルムだったんですけど、見てみると海辺のすごくいいシーンで。その中に音も絵も全部の情報が入っている。自分の中では今も「手の中に情報がある」というそのときの感覚がずっと残ってるんですね。アナログレコードを初めて触ったときも同じ感覚があって、「いつか自分でもレコードを出してみたい」と思っていたんです。自分の作品を手で触れるものとして残しておきたい、という。

──今年の「レコードの日」では、フジテレビ系のドラマ「監察医 朝顔」の主題歌ともなった「朝顔」を7inchシングルとしてリリースされるわけですが、アナログレコードとしてリリースしようと考えた理由は何だったのでしょうか?

「朝顔」は先に配信でリリースされていて、フィジカルに関しては、CDで出すかアナログで出すか最初は決めてなかったんですよ。音自体手触りのあるものになったと思うし、手に取れる形で残すのであれば、2曲入りのCDよりもアナログのほうがいいかなと。廣川毅さんのアートワークも7inchサイズで見てみたかったですしね。

──「朝顔」は「平成」にも参加していた波多野敦子さんがストリングスをアレンジされていますが、あの音がアナログでどう聞こえるか楽しみです。

そうですね。波多野さんって時によってはギターアンプを使ったり、すごく質感にこだわってるんです。そういう意味でもアナログでどう鳴るか自分も聴いてみたくて。あと、「朝顔」はドラマバージョンを作ったんですよ。配信したものは曲の最後がアップテンポになって終わるんですけど、ドラマバージョンはその代わりに波多野さんと作ったアウトロが入ってて。そのバージョンはドラマでは1回しか流れてなくて、7inchにはそれも入れようと思ってます。そちらを聴いてもらえば、波多野さんがどれだけ質感にこだわる方かわかると思います。ただキレイなだけじゃなくて、密度のある空気感がようやく表現できたんじゃないかと。

──そうした意味でも「朝顔」は“次の折坂悠太”の世界が始まったという感覚があります。

曲、音、質感が全部ひとまとまりになったものをようやく作れたという手応えはあります。エンジニアの中村(公輔)さんが「トラック数が足りない!」というぐらいかなり音を重ねてるんですけど、印象としてはすごくシンプル。その手応えが、今後作っていくものに大きく影響していく予感はあります。今回の「朝顔」もレコードだからこそ見えてくるものがあると思いますね。

折坂悠太(オリサカユウタ)​

平成元年、鳥取県生まれのシンガーソングライター。幼少期をロシアやイランで過ごし、帰国後は千葉県に移る。2013年にギターの弾き語りでライブ活動を開始。2014年に自主製作のミニアルバム「あけぼの」を発表する。2015年に「のろしレコード」の立ち上げに参加。2016年には1stアルバム「たむけ」をリリースする。2018年1月、初のスタジオ作EP「ざわめき」を発表。2018年2月より半年かけて、全国23か所で弾き語り投げ銭ツアーを敢行し話題を集め、「FUJI ROCK FESTIVAL」「RISING SUN ROCK FESTIVAL」「New Acoustic Camp」をはじめ夏フェスにも多数出演、10月には2ndアルバム「平成」をリリースし、CDショップ大賞を受賞するなど各所で高い評価を得る。2019年3月に、最新シングル「抱擁」を発表。2019年7月クールのフジテレビ系ドラマ「監察医 朝顔」主題歌に書き下ろした楽曲「朝顔」が使用された。

ダイレクトドライブターンテーブルシステム SL-1000R

アナログレコード再生の楽しみを音楽ファンに届けることをコンセプトにした、Technicsのダイレクトドライブターンテーブルシステム。ダブルコイル構成のコアレスダイレクトドライブ・モーターを搭載し、3層構造の重量級プラッターなどにより、正確で滑らかな回転を追求している。SP-10Rシリーズの性能を引き出すハイエンドターンテーブルシステムで、最新の技術で磨き上げられたダイレクトドライブ方式の新たな音を堪能できる。

レコードの日

レコードの日

毎年11月3日に開催されるアナログレコードの祭典。アナログレコードの魅力を伝えることを目的として、アナログレコードプレスメーカーの東洋化成が主催、Technicsが協賛している。イベント当日は全国各地のレコード店でさまざまなイベントが行われるほか、この日のために用意された豊富なラインナップのアナログ作品が販売される。

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