「災害の準備は、できることから始めよう。きちんと知れば、怖くない」レスキューナース辻直美先生が解説!

災害の準備や防災対策についての監修:辻 直美(つじ なおみ)
ライター:UP LIFE編集部
2023年7月31日
防災

※この記事は、2020年9月1日に公開された記事を更新しています。

突然押し寄せる災害に、私たちは何を、どのように準備しておくべきか、レスキューナースの辻直美先生に解説いただきます。すぐに実践できる避難準備や考え方、避難所での過ごし方、役立つ防災グッズなど、生き延びるための防災対策のポイントをお伝えします。

いまだに防災対策をしていない人が多い?

グラフ:防災対策に対する意識調査

出典:NTTドコモプレミアパネル調査 2020年6月22日~2020年6月23日

――大多数の方が防災対策をしていない、という現状について、辻先生はどのようにお感じでしょうか。

辻先生:「防災対策をしていても、していなくても、人は『正常性バイアス』といって、どこかで『自分だけは大丈夫』と思ってしまうんです。そんな人が年々増えていて、私自身危機感をおぼえています。むしろ防災意識が高いと自負している人の方が危険です。
また、被災経験がある方でも、自分が受けた災害が一番ひどかったと記憶してしまいます。災害は夜起きるかもしれないし、周りに家族がいるとも限らない。もっと柔軟な姿勢がないと最善な防災対策はできません。
でも難しく考えなくても大丈夫!敵を知っていれば対策ができる。闘い方を知るためには相手を知ること。つまり、災害を正しく知ることで、自分にとって必要な備えておくべきことが見えてきます。」

まず、何から準備すればいい?

――なるほど。防災対策に関するハードルが少し下がった気がします。では、まずはどのような知識を得てから、今後に備えていけばよいのでしょうか。いざという時の避難についても気になります。

もしもを想定することから。おすすめは選択肢を3つ用意しておくこと。

イメージ写真:街中を歩く様子

辻先生:「まず大切なことは、自分が住んでいる地域がどのような災害に遭う可能性があるかを調べておくことです。
次に、避難所までの経路を実際に歩いてみてください。防災リュックを背負ってみたり、昼夜どちらの時間帯も試してみると、なお良いですね。初めて行く場所は遠く・長く感じますが、一度歩いたことがある道は覚えておけるものです。実際に歩いてみることで、『この道は危ないかも』『この重さのリュックを持って避難するのは大変だ』など、気付くことが色々あるはずです。

そして避難経路は3つ決めておきましょう。仮に1つしか決めていなかった場合、頼りにしていた道が災害の影響で使用できなくなっていたらどうでしょう。人はパニックに陥り、フリーズします。その間にも二次災害は起こります。『水害時にはこの3つ』『地震時にはこの3つ』というように、シミュレーションしておきましょう。」

日常で使っているものを持ち出す、という考えにシフトする

球ランタンの使用イメージ

辻先生:「必ずしも、専門性の高いものや最新の防災グッズを買いそろえる必要はありません。買ったことに満足して、『備えた』気になりがちだからです。防災グッズは、実際に使いこなせないと意味がありません。『防災用をわざわざ用意する』のではなく、『普段から使い慣れているものを持ち出す』という考え方がおすすめです。普段から使うものを防災視点で選びましょう。するとモノを多く持つ必要もなくなり、自然と生活がシンプルになります。
例えば球ランタンのように、いつもはベッドサイドのあかりとして使っているものを、非常時にそのまま持ち出せると理想的ですね。球ランタンは、シーンに合わせて明かりのレベルや色を調節できるので機能的だと思います。食事は電球色、資料を読むときは全灯色など。特に災害時のコントロールが利かない状況下では、自分で明かりを選択できることは、心強いですよ。」

意外と知らない、避難にまつわる正しい知識

辻先生:「水害時と地震時とでは、対策や避難方法は大きく異なります。決して同じように考えてはいけません。
また、避難を促す最終警告である「避難指示」の段階での避難は、場合によっては手遅れになってしまうことも。いざというとき、素早く正しい判断ができるよう、いつでも避難できる準備をしましょう。」

水害と地震は、分けて考える

【水害の場合】
水害は、早めの対策ができる唯一の災害です。水の勢いは思っているよりも速いです。避難を促す「避難勧告」が出た時点では手遅れになる可能性もあります。特に災害弱者がいらっしゃるご家庭などは「警戒レべル2(図1)」の時点で避難準備をしておきましょう。

【地震の場合】
地震は、いつ起きるかが予測できないため、揺れを感じたらすぐに頭を守り、身の安全を確保してください。避難せざるを得ないときは、早めの判断を。どの避難所へ行くのか・どの経路で行くのがいいか等事前にシミュレーションをしておくと、早く行動に移せます。

※災害時の状況によって異なります。最新情報をご確認ください。

避難所での過ごし方は?

イメージ写真:避難所の様子

辻先生:「特に今は、新型コロナウイルスの影響で避難所が危険ではないか、不安の声もあるかと思います。避難所には、うがい・手洗い・咳エチケットなど、感染症対策を踏まえた『災害対策マニュアル※1』があります。ただ、今はウイルス感染対策で三密を避けるために、従来よりも受け入れ人数の制限がかけられています。被災度合いにもよりますが、救援のための人員も同様です。避難所へ行ったからといって必ずしも受け入れてもらえるとは限らない。それらのリスクをふまえて、自分で備えを持って避難することが重要です。最低72時間分の物資を準備をしておきましょう。」

避難用防災グッズを作る際のポイントは、どういう時にどう使うのかを具体的にイメージをすること。防災グッズリストを使って、自宅にあるものや足りないものをチェックしてみよう。

正しい情報取得の仕方を身につける

充電器

辻先生:「被災時は、正しい情報をいかにタイムリーに入手するかが重要です。防災用ラジオを用意している方もいると思います。しかし、普段からラジオを聞き慣れていない方は要注意。自分の欲しい情報がキャッチできず、聞き逃してストレスにつながることもあります。
また、SNSでの情報収集にもコツがあります。被災時は焦っていて、よく内容を確認せず、古い内容や誤った情報を見ているケースもしばしば。災害時に限らずですが、情報源の確認が大切です。ラジオやスマートフォンなど、情報収集のための機器を使い続けるために、停電時でも使える、乾電池式のバッテリーも用意しておきましょう。すぐに電池切れしないよう、より長持ちする電池を選ぶことをおすすめします。」

災害時に必要となる電池の本数や、正しい保存方法をご紹介。

防災はできることから取り組み、楽しんで始めてみることが大切!

辻先生:「まずはとにかく実践し、訓練すること。試しに一日、いえ、半日でもよいので大人ひとり3リットルの水で生活をしてみてください。食器を洗う・洗濯をする・お手洗いをする・身体を流す、これらを一通りやってみてください。きっと水は足りません。どんなペースで使うとなくなるか、どこで節約できるのか、実践して試してみると、いざという時のためにそれが「経験」となり、知識+経験=スキルになります。
新しいものを買いそろえるより、今の生活にあるものでいくらでも代用できます。例えばマスクがなければタオルを使う、着古したTシャツを使う、といったように考えればいいんですよ。あるものを上手に使うことが、命の執着につながり「生き延びる」ことができます。災害は怖い。でも、防災はおもしろがって取り組めます。ぜひ、皆さんも試してみてください。やり始めたらハマると思いますよ!」

辻先生

これから用意を始める方へ、グッズ選びのポイントや災害時の使い方・備え方を紹介しています。

災害の準備や防災対策についての監修

監修:辻直美先生

辻 直美(つじ なおみ)

国際災害レスキューナース
一般社団法人 育母塾 代表理事
阪神・淡路大震災を経験し、災害レスキューナースへ転身。看護師歴28年、災害レスキューナースとして25年活動。
被災地派遣は国内外共に経験を積む一方で、防災に関する講演やコラム掲載など、活躍は多岐にわたる。
著書『レスキューナースが教えるプチプラ防災』(扶桑社)

2023年7月31日 防災

※この記事は、2020年9月1日に公開された記事を更新しています。

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