シェーバー事業70周年記念モデルES-PV70 開発にかける想い。


手のひらに収まるサイズ、品のある佇まいでありながら、5枚刃かつリニアモーターのハイスペック。これまでのシェーバーの常識を覆した「ラムダッシュ パームイン」は、驚きを持って世の中に受け入れられ、多くのユーザーに支持され続けています。
そしてこの度、シェーバー事業70周年記念モデルES-PV70が発売。その開発に携わった商品企画の池田、プロダクトデザイナーの別所、設計開発の村木の3名が、パームインの開発秘話、そして70周年記念モデルに込めた想いや、こだわりについて語ります。
シェーバーの「未来の定番」を目指した


2023年9月にラムダッシュパームインが発売されましたが、シェーバーの概念を変えた商品が生まれた背景を教えてください。
池田:
パナソニックのシェーバー事業は長い歴史の中で「早く、深く、やさしく剃る」という機能価値を積み上げ、一段ずつ、地道に進化を続けてきました。しかし、さらに事業が成長していくためには、機能価値だけでなく、日々のくらしを豊かにする“感性価値”を高め、お客さまに未来の定番を提案していく必要がありました。
では、“感性価値”をいかにして高めるのか。その実現はなかなか困難で、お客さまからいただくアンケートに直接的な答えがあるわけではなく、商品企画の部署内でも試行錯誤が続いていました。そのような中、デザイン部門から生まれたパームインの構想をはじめて見た時、理屈抜きに「これはいい」と感じ、社内の他のメンバーたちも同様に心を動かされていました。

別所:
当時デザイン部門では「未来の定番を作る」というテーマが掲げられ、既存の商品の延長線上ではなく、未来にどんな商品があったら人々のくらしがより豊かになるかをイメージし、そこから逆算してアイデアを考えることで先行開発を進めていました。
そしてもう一点、大切にしていた考え方が、引き算の商品企画です。「刃」と「モーター」という、シェーバーとしてコアな技術だけを残して、引き算する。長年積み上げてきた技術があるからこそ、本当に大事なものだけを研ぎ澄ますことで、これまでにないシェーバーの実現を目指しました。コロナ禍を経て人々の価値観が変わり、“感性価値”がより大切にされる時代だからこそ、多くの人に受け入れられるデザインになりました。

村木:
コンパクトなシェーバーは既に世の中にありましたが、高い剃り性能までを兼ね備えた商品はありませんでした。正直パームインの企画を最初に見た時、デザインは非常に優れていると思いましたが、使いやすさには不安を感じました。そこで、まずは実際に動くモデルを試作してみると、想像以上に使いやすい。ユーザーテストをしても「刃の近くを持てるので剃りやすい」「直感的に力の加減をしやすい」などグリップ式のシェーバーにも負けないくらいの高評価が集まり、これはいけると手応えを感じました。
もともとリニアモーターを小さいヘッドに包含する技術の土台はあったのですが、実際の商品化に向けて設計していくと壁がいくつもあり、部品のレイアウトを工夫したり、通常は1枚の回路を3分割して空間を効率的に利用するなど、試行錯誤しながら、なんとか理想のサイズに収めることができました。
唯一無二の佇まいや質感はどのように生まれたのでしょうか?

別所:
見た目のデザインというよりも、小型でありながら5枚刃かつハイパワーという当社にしかできない技術を、いかに魅力的に「体験」していただくかを突き詰めました。それは、軽い指先の力で操作してもしっかり剃れる操作性であり、それでいて心地よい手触りであり、洗面室に置かれた時に美しい佇まいであること。普段シェーバーを使わない人のことも含め、パームインをとりまく空間全体を考えたデザインです。
そして辿り着いたのが、見た目も手触りも、自然物の石のような存在感でした。指先や手首といった、人間としての機能を活かして剃れることを体験の軸とした時、メカニックなものではなく自然物のように愛着を持てて、どこに置いても馴染むデザインがマッチすると考えました。理想は大理石でしたが耐久性などの観点から使用は難しく、最適な素材を探す中で、樹脂でありながら石のような質感がある三井化学さんの「NAGORI®」という素材と出会い、手に触れた瞬間にこれだと思いました。
村木:
「NAGORI®」ははじめて使用する素材でハードルが高かったのですが、目指す質感を実現するためには不可欠でした。「NAGORI®」自体は真っ白な素材なので、大理石のような石目調の表情を出すために、色の着いたペレットをブレンドしています。理想の色味や表情を出すために、専用の金型を作って何パターンも試作品を作り、半年以上をかけて満足いくデザインを完成させました。
シェーバーに新たな需要を創出


パームインの発売から1年以上が経ちましたが、反響はいかがでしょうか?
池田:
開発段階で社内外から高い評価を得ていたものの、パームインはこれまでにない商品なので、どれだけ世の中に受け入れていただけるのかドキドキしながら発売を迎えました。それが、予想を遥かに越える反響をいただき、年間の目標台数を大きく上回ることができました。
この好調を支えてくださったのは、新しい買い方をしていただいたお客さまです。これまでのシェーバーは、使っている商品が故障したり、古くなったから購入するという、買い替え需要が多くを占めていました。それがパームインは、今のシェーバーもまだ使えるけど、見たら欲しくなったからと指名買いしてくださる方が多く、さらには長年T字カミソリを使い続けて電気シェーバーには興味がなかったという方からも、これなら欲しいと選んでいただけました。やはりデザイン性と機能性を兼ね備えている点を評価いただき、コンパクトな中にパナソニックのハイスペックがしっかり詰まっていることを知ると、買わない理由がなくなると言っていただけます。
まさにシェーバーの「未来の定番」が生まれたということでしょうか?
池田:
はい、その手応えがありますね。「このサイズだったら2台目にも」「USBも使えるならこういう時に便利」など、お客さまが使い方を想像して、買う理由をどんどん自分から出してくださる。新たな需要創出という点では、先ほど別所から、使わない人のことも考えたデザインという話がありましたが「家族に使ってほしい」とか「これだったらプレゼントしたい」と思っていただけることも多く、ギフトの需要も広がっています。
また、さまざまなメディアに記事にしていただくなど、本当にたくさんの方に興味を持っていただくことができ、今までのシェーバーでは得られないような評価や反響がありました。
パームインが持つ“感性価値”をさらに高める


シェーバー事業70周年記念モデルに込めた想いやビジョンをお聞かせください。
池田:
メンズシェーバーの開発を70年間続けてきた中で、パナソニックは一貫して、日本製へのこだわりを強く持っていました。パームインは研ぎ澄まされた商品であり、シェーバーとして普遍的に残さなければならない価値が、凝縮されて詰まっています。またデザインも唯一無二。そこは守りながらも、70周年の特別感をプラスし、これまで培ってきた日本的な価値を盛り込んだのが、70周年のスペシャルエディションになります。
選ぶ楽しさや使用する喜びをさらに感じていただけるよう細部にまでこだわり、パームインが持つ豊かな“感性価値”をさらに磨きました。パームインはグローバル展開をしていますが、70周年記念モデルは今のところ日本のみでの販売を予定しています。日本ならではの、ものづくりの特別感を感じていただけたらと思います。

村木:
パームインを完成させた時に、やり切ったという感覚がありました。長年にわたって剃り性能を追求し、小型化を積み重ねてきた結果として他社にはない商品を実現できたので、ある意味でシェーバー事業の集大成と言えます。だからこそ70周年記念モデルは、何を変え、どう進化させるのか。その点がプロジェクトチームとして最も悩んだところです。パームインのヒットにより社内外からの注目や期待が高まる中で、それに応えられる妥協のない商品づくりを目指しました。
別所:
従来のシェーバーは機械的なデザインで、男性特有の道具というイメージがありましたが、パームインはシェーバーをジェンダーレスな存在へと変えていったモデルでした。それがある程度浸透した中で、次はどうするのか。シェーバーは本来パーソナルな商品であり、使う人が自分らしさを込められるものです。お客さまの中には、黒やシルバーだけでなく、服を選ぶように、本当はこういう色が欲しかったというような、潜在的な想いもあったのではないでしょうか。ジェンダーレスなところからもう一歩ステップアップして、個性を持たせた展開をしていくことで、世の中のシェーバーという概念をさらに一歩飛躍させられるのではないかと考えました。
特別なモデルに相応しい繊細な魅力を生み出す


70周年記念モデルのデザインはどのように生まれたのでしょうか?
別所:
「用の美」という言葉がありますが、日本人の感性には、道具を大事にしながら生活を豊かにするという考え方が備わっていると思います。その中で、日本ならではの季節感と、日常で使う道具という概念を掛け合わせると、新しいストーリーが生まれるのではないかと考えました。
また「NAGORI®」の最大の特徴は、質感の魅力です。デザインで引き算した分、感性的な価値を素材で還元していくことが重要で、「NAGORI®」のポテンシャルをより広げていくような表現を追求していきました。いくつものカラーバリエーションの中から、最も「NAGORI®」の質感にマッチするものはどれかをひとつずつ見極めていきました。

池田:
4つのカラーは「桜」「藍」「金」「紫」と名付けました。春を感じさせる「桜」、青空や水など夏を想起させる「藍」、秋の実りの輝きを感じさせる「金」、冬の草木の色づきを思わせる「紫」と、日本ならではの季節感がモチーフになっていますが、はっきりと四季を表現するのではなく、それぞれの色から何を連想するかは見た方の想像に委ね、インスピレーションが広がるような色味にしています。ご自身の感性に合わせて選ぶ楽しさがあり、所有する特別感を感じていただけるのではないでしょうか。

村木:
色を完成させるまでの道のりは長く、何種類ものペレットを用意して試作品を200種類以上作り、検証を重ねました。プロジェクトメンバーで彦根工場に籠り、時にはブランドマネージャーも参加してアイデアや意見を出し合いながら絞り込んでいき、その集大成として完成したのがこの4色です。また、メタリックな色味をきれいに出すのが難しく、ペレットの量を増やしたり、溶けにくい素材を使ったり、微調整を繰り返しながら納得のいく表情を追求していきました。
ケースや個装箱など、本体以外のこだわりについてお聞かせください。

池田:
パームイン本体と同様に、キャリングケースも質感にこだわり、手に取って撫でていたくなるような、手から愛着が湧いてくる質感を追求しました。素材はスエード調を使用し、本体に合わせた4色を作ると決めたのですが、そこからが大変でした。
村木:
スエードの生地は扱いが難しく、太陽の光が当たると色が変わってしまったり、薬品が付くと色が落ちてしまったり、ものづくり上の課題がいくつも出てきます。そのため何種類もの生地を試して、質感や耐久性を検証していったのですが、私たちが求める基準を唯一クリアしたのが、東レさんの「ウルトラスエード®」という生地でした。高級車の内装やソファーなどにも使用されている生地で、高い耐久性と高級感を兼ね備えています。その分コストもかかるのですが、開発者としてはこれしかないという想いでした。
- ウルトラスエード®は、東レ株式会社の登録商標です。
池田:
もしパームインの成功がなければ、よりコストのかからない素材へ見直すべきだなど、社内でも反対意見が出たかもしれません。でも、パームインがここまで支持を得られている理由が、“感性価値”の高さにあることは社内的にも理解されています。だからこそ妥協するべきではないと「ウルトラスエード®」の採用に至りました。
またケースだけでなく、商品の箱を開ける際の体験価値にもこだわりました。上下に組まれた箱の蓋を持ち上げると、スーッと心地よい重みを感じながら空気が入っていき、最後にスッと抜ける。ワクワク感があり、いいものを買ったという喜びを高めてくれる感覚が生まれるように、数パターンを検証しながらベストなものを作り上げました。ほかにも、本体の内部に「70th ANNIVERSARY EDITION」の刻印を施し、水洗いする際に見えるようにするなど、体験価値を高めるためにできることはやり切りました。
70年積み重ねてきた技術、そして私たちの想いとこだわりが詰まった70周年記念モデルが市場に並び、お客さまに手に取っていただき、どんな反響をいただけるのか、今からとても楽しみです。
- ウルトラスエード®は、東レ株式会社の登録商標です。
プロフィール

パナソニック 商品企画 池田 建太(いけだ けんた)
2002年入社。商品企画として理美容商品の企画に従事。メンズシェーバー、脱毛器や美顔器など女性向け商品を手掛けたのち、2020年より再度メンズシェーバーやグルーミング商品を担当している。

パナソニック デザイナー 別所 潮(べっしょ うしお)
2015年入社。プロダクトデザイナーとしてパーソナルケア商品を中心にデザイン開発に従事。これまでに冷蔵庫、オーラルケア商品、浄水器などを担当し、現在はメンズケア商品を手掛ける。

パナソニック 設計 村木 健一(むらき けんいち)
1999年入社。技術者として、女性用理美容機器を中心に本体設計に従事。脱毛器、光エステなどの開発担当を経て、2018年よりメンズシェーバーの開発を手掛けている。