シェーバーの新しい常識と文化を創り続けた70年。

写真:西田 泰章さん 曽根 大助 さん 市川 央さん 写真:西田 泰章さん 曽根 大助 さん 市川 央さん

70年間、彦根工場で作り続けてきたもの。それは世界中から愛されるシェーバーだけではない。シェーバーからはじまる新しいライフスタイルや文化なども創り、みなさまのくらしに届けてきました。彦根の地で磨き上げてきた技術で、さまざまなスキルを持った仲間たちと、不屈の精神を持って、シェーバーの革新に挑み続けた3人のプロフェッショナルたちが、ものづくりへの思いやこだわり、そしてこれから目指すものについて語ります。

当たり前ではないことへの挑戦が創った歴史

写真:1955年 MS10電気シェーバー1号機を手に持っている様子 写真:1955年 MS10電気シェーバー1号機を手に持っている様子

シェーバー事業70周年を迎え、今どんなことを感じていますか。

西田:
1955年以来70年間、シェーバーのグローバルでの累計総出荷台数は2.4億台を超えました。世界中のお客さまに大変ご愛顧をいただいていますこと、心から感謝しています。
振り返りますと、とにかく顧客価値の徹底追求、これを繰り返してきた歴史だと思っています。私たちのものづくりの指針として「掘り抜き井戸」という言葉があるのですが、これは「井戸を掘っていって、地下水脈まで到達するに至れば、水は涸れることなくこんこんと湧き出る。これと同じように、事業や仕事や製品のそれぞれ一つひとつを、みなこの『掘り抜き井戸』にしなければならない」という意味です。そして、この言葉に代表される企業文化こそが、顧客価値の徹底追求につながっていると思います。
商品面では、深剃りと肌へのやさしさ、この二律背反することの両立を、刃やリニアモーターといった商品技術の進化でもって成し遂げてきました。マーケティング面では、電動シェーバーの黎明期には、数々のユニークなキャンペーンからはじまり、最近では、お風呂剃りとかスキンケアといった新たなシェービング文化の提案をさせていただきました。

曽根:
シェーバー開発の長い歴史の中で、私たちは常に世界初の技術を追い求めてきました。例えば、防水式のシェーバーの開発やリニアモーターの搭載。それらの実現には、新しい技術の開発や工法の進化が求められましたが、完成までの道のりは正直失敗の連続でした。
技術的な課題をどうクリアするか、要求する品質と製造技術のギャップをどう埋めるか。壁にぶち当たってしまった時、私たちは一人ひとりがありったけの知恵を出し尽くし、技術創造や工法開発の糸口を探り続けることで、困難を乗り越えてきました。その根底にあったのは、原理原則を追求し、解決の手がかりを得るまで突き詰めるという不屈の精神だったと思います。
振り返ってみれば、これらは「掘り抜き井戸」を地道に続けてきたからこそ実現できたことだと思います。私たちのこうした挑戦が、世界のお客さまに愛顧されるものづくりにつながったのかと思うと、感無量ですね。

写真:市川 央さん

市川:
この70年間は、ただ、いいシェーバーとか、よく剃れるシェーバーとか、高性能なシェーバーを作ってきただけではありません。新しいシェービングスタイルやライフスタイルを創り続け、当たり前ではないことにチャレンジし、それを乗り越えて当たり前にしてきた歴史だと思っています。
例えば今では、お風呂剃りはすっかり当たり前になっていますが、当時はお風呂ではT字カミソリというのが常識でした。それを、お風呂でも電動シェーバーを使えるという文化を創ろうと果敢にチャレンジしてきました。
先ほど西田さんがおっしゃったスキンケアシェーバーの時もそうでした。男性の美容意識の高まりに早くから着目し、“ながらシェービング”という新習慣をご提案するなど、この70年は、そういった常識を打ち破り、新しい常識に挑み続けた歴史だと思っています。そうした積み重ねの上にラムダッシュ パームインが生まれ、お客さまに支持されているというのは非常に感慨深いものを感じます。

絶え間なく進化し続ける彦根工場の技術力

リニアの進化 初代リニア1995~1998 第4世代リニア2004~2006 第8世代リニア2011~2019 第9世代リニア2021~ リニアの進化 初代リニア1995~1998 第4世代リニア2004~2006 第8世代リニア2011~2019 第9世代リニア2021~

彦根工場が培ってきた技術力について、お聞かせいただけますか。

西田:
技術力と言うと「商品に搭載される技術」、具体的には刃やリニアモーターといった技術を指されることが多いと思いますが、私は彦根で培ってきた技術力はそれだけではないと思っています。刃やリニアモーターなどを、どうしたら作れるのかを考え、実現する工法開発技術。さらに、それをリーズナブルな形で量産化までつなげる製造技術など、彦根の技術力とはこうした技術全てを指すものと思っています。
そしてそれぞれの技術を、人財を発掘し、挑戦の機会を与え、時に失敗を許容することで、絶え間なく進化させ続けてきました。これは、まさに「掘り抜き井戸」の成果だと思っています。

写真:曽根 大助さん

曽根:
技術面で私たちが目指してきたのは、シェーバーを肌に当て、軽く動かすだけで、肌にやさしく、深剃りかつ早剃りができる「ワンシェーブ・フィニッシュ」です。その実現に重要だったのが、刃と内蔵するリニアモーター、サスペンションの3つでした。
まず刃についてですが、外刃はヒゲを導入するために刃孔を微細形状や3D形状に、内刃はヒゲをスパッと切る鋭利な形状になっています。リニアモーターは、内刃を力強く動かすためのパワーや駆動速度などを、日々進化させ続けてきました。
そのためには刃やリニアモーターだけを考えるのではなく、社内にヒゲや肌を科学する部門を作り、ヒゲの生え方や濃さ、毛流れ、肌質、剃り方などを分析。そこで蓄積したデータをもとに、外刃であればヒゲを効率よく導入できる最適形状の解析・評価を何度も繰り返してきました。
また、達人が日本刀で巻き藁を切る時に「切る直前と切り終わりの刃の速度が速く、速度も落ちない」ことに着眼し、内刃エッジの鋭利化やリニアモーターをフィードバック制御するなど、「ワンシェーブ・フィニッシュ」につながるさまざまな技術進化を実現しました。
これらのオリジナル技術は特許化もしており、現在は数百件を保有しているのですが、それは私たちの技術力が世に認められたことの証であると思っております。

全ての部門が協働するからできるものづくり

写真:西田 泰章さん、市川 央さん 写真:西田 泰章さん、市川 央さん

開発から生産まで、彦根で一気通貫の体制で作り続けていることの意味を教えてください。

西田:
いい商品を作り続けていくためには、いい商品企画、新しい技術や設計、ターゲットユーザーに突き刺さるマーケティング、このいずれが欠けてもダメだと私は思います。
商品企画、デザイン、マーケティング、品質保証や設計技術、調達や製造など、全ての部門が「掘り抜き井戸」で、専門性を高めた上で、協働して取り組んでいく。そうすることで初めて、いい商品を生み出せる集団になれると思っています。
その高い専門を有した仲間がこの彦根に揃っていることが、長きにわたり世界中のお客さまに受け入れていただける商品を作り続けられた理由だと思いますし、それを確実なものとするために、人財投資・育成も絶えず行っています。この体制は、一朝一夕には作れるものではないと思っています。

市川:
日本の主要なシェーバーメーカーの中で、このように垂直統合でものづくりをしていることは非常に希少だと思いますし、日本はもちろん世界のお客さまから、たいへん評価いただいています。社外の方々に工場ラインを見学いただいたり、私たちのものづくりの歴史を紹介しているKIZUNA館をご案内したりしていますが、みなさま非常に感動されていますね。
ここ彦根では、リニアモーターとか、本体の組み立てだけではなく、マーケティング部門や商品企画なども含めた真の一気通貫の体制をつくっています。以前は、開発は開発、商品企画は商品企画といった意識が強く、私たちマーケティング部門も、すでにでき上がった商品をどう宣伝し売っていくのかに特化していました。
しかし今は、商品コンセプトを検討する段階からマーケティングも入れていただき、「この機能は本当に必要なのか?」について技術部門の人と徹底的に話し合うなど、お互いを切磋琢磨しながら商品を作っていますね。

彦根のものづくりは人づくりからはじまる

写真:彦根工場の模型 写真:彦根工場の模型

彦根工場のものづくりにおけるこだわりを教えてください。

西田:
ものづくりへのこだわりを挙げていくと本当にキリがありません。例えばコアデバイスである刃は、金型でプレスして形を作っているのですが、その金型を作るための専用の工具も自分たちで内作しています。この工具がなければ金型が作れませんし、当然刃も作れません。世界で唯一、ここ彦根でしか作れないものを作り続けていることが、私たちのこだわりであり、歴史でもあります。
また一方で、創業者松下幸之助の言葉に「ものをつくる前に人をつくる」というものがあるのですが、この言葉に非常にシンパシーを感じ、実践しています。先ほど申し上げたように、人財の発掘、採用、挑戦の機会を与え続けることで、個人を成長させることは、結果的に事業の成長にもつながります。なにより人づくりを大切にすることも私たちのこだわりだと思います。

曽根:
彦根工場は、シェーバーの組み立てだけではなく、商品を構成する部品の樹脂成形も行っています。さらに樹脂成形をするための金型、そして金型を作るための工具まで作っており、まさにものづくりの上流から下流まで、一気通貫で生産しています。
そして、それぞれの工程の要所要所には「匠」と呼ばれる職人がいます。例えば金型製造であれば、1,000分の1ミリを正確に削り取る微細加工の匠。14,000ストローク/分で駆動するリニアモーターの極薄部品を管理する樹脂成形の匠。1枚あたり1,300個の孔が空いている外刃を毎分100枚チェックすることができる刃の検査の匠。そうしたたくさんの匠がいるからこそ、シェーバーの品質を保つことができているのです。
今後も安定した品質で商品をお届けるために、匠の技を受け継ぐ後継者の育成に力を入れるとともに、近年はAI技術を活用することで刃の検査を自動化するなど、技術の伝承と生産効率化に取り組んでいます。

誰も予想しなかった商品で次の文化を創る

写真:西田 泰章さんが話している様子 写真:西田 泰章さんが話している様子

パナソニックのシェーバー事業が、今後目指す姿についてお聞かせください。

西田:
事業運営をする上で念頭に置いているのが「Going Concern」という言葉です。「事業は継続なり」という意味で私は理解しているのですが、これは事業というものは瞬間的によくてもダメで、継続性が大事だということです。
そのために顧客価値の徹底追求という絶対に「変えないこと」と、顧客のニーズは、時代や地域によって必ず変化することを理解しそれに対応すること、つまり「変えていくこと」、この2つを両立させることこそが事業を成長させ、継続させられると思っています。
この原理原則に従って、シェーバーの本質機能であるリニアモーターや刃、使い勝手などを高めることで、ラムダッシュPRO 6枚刃をリリースすることができました。一方で、時代によって変化するお客さまのニーズを捉えて、ラムダッシュ パームインをリリースして、世の中に新しい価値観と文化を提案いたしました。
このように今後とも「変えないこと」「変えていくこと」をバランスよく保ち、続けていくことで100年、そしてその先へとつなげていける事業体にしたいと思っています。

曽根:
単に機能や品質がいい商品を作るだけではなく、誰もが予想しなかった、アッと驚くような商品を作っていきたいと思っています。そのためには技術や工法の進化はもちろんですが、私たちが研究開発しているものは、本当にお客さまに受け入れられるのかを考え、徹底的に突き詰めることが大切だと思っています。それをマーケティング部門と一緒に考えながら、技術開発を進めていきたいと思っています。
シェーバー事業70周年を迎え、彦根工場にはこれまで蓄積してきた数多くのノウハウ、そしてスキルがあります。そういった先人たちの知恵や教えを継承し、基本を守りつつ、常に新しいことにチャレンジしていくことが大切だと思っています。
これからも日々技術と工法の進化に注力しながら、それがお客さまの価値につながるのかをしっかり見極めることで、世界のみなさまに愛される今までにない商品を創造していきたいと思っています。

市川:
ものづくりを通してお客さまのシェービング体験をデザインし、新しいライフスタイルを創っていきたいと思っています。私が思うシェービング体験は大きく2つあり、1つはより心地いいシェービングです。当社のシェーバーは深剃りと肌へのやさしさを両立させていると自信を持っていますが、それをさらに突き詰めていきたいと思っています。
もう1つは、今までお客さまが考えもしなかったような新しい体験。これまでなかったけれど、将来の当たり前になっているような、そんな体験です。例えばラムダッシュ パームインが生まれたことによって、どこでも5枚刃の心地よいシェービングができるようになったり、使わない時はインテリアのように部屋に置いたりするようになりました。そんな体験がいつか習慣となって、やがて新しい文化になっていく。そういったことを実現できたら嬉しいですね。そのためにも今まで通り、非常識なことに挑戦していきたいと思っています。それはもうシェーバーの枠を超えたものになるのかもしれません。そう考えると、まだまだ挑戦の途中ですね。

プロフィール

写真:西田 泰章(にしだ やすあき)さん

パナソニック パーソナルビジネスユニット長 西田 泰章(にしだ やすあき)

ビューティ・パーソナルケア事業部で、メンズシェーバー、メンズケア商品、オーラルケア商品を主力とするパーソナル事業の責任者として、商品企画・開発・製造・マーケティングを幅広く担当。ユーザーのライフスタイルや価値観の変化に寄り添いながら、新しい価値の創造に取り組んでいる。

写真:曽根 大助(そね だいすけ)さん

パナソニック パーソナル商品部 メンズ商品設計課 曽根 大助(そね だいすけ)

メンズシェーバーやメンズシェーバー用洗浄器などの基幹技術開発・設計に従事。中国協力拠点の赴任(理美容商品の開発)を経て、現在はメンズシェーバー商品群の商品開発責任者を担当。

写真:市川 央(いちかわ なか)さん

パナソニック パーソナルブランドマネジメント部 市川 央(いちかわ なか)

メンズシェーバー、メンズケア商品、オーラルケア商品などのマーケティングに従事。ユーザーに合わせたプロモーションや商品展開を通じて新しいシェービング体験提案に取り組んでいる。現在はパーソナル商品の国内マーケティング責任者。