なぜビエラは地震に強い?
ユーザーの声から生まれた「倒れにくい大画面テレビ」の開発ストーリー

海外ドラマや映画が動画配信で手軽に楽しめるようになったいま、家庭のテレビの大画面化はどんどん進んでいます。JEITAによれば、国内出荷された薄型テレビのうち、50V型以上のモデルが占める割合は約41%となっています。実際に50V型を超える大型テレビをお使いのご家庭も多いのではないでしょうか。

でも、その大画面化には不安の声も聞かれます。その声とは、「これだけ大きなテレビがもし倒れたら」という、転倒への不安です。それは決して大げさではなく、実はいま地震や子どものいたずらによってテレビが倒れる事例が増えているのです。
このように「テレビが倒れて危ない目にあった」というケースで、多くの原因となるのが「転倒防止対策をしていなかった」ということ。一般的な転倒防止対策といえばテレビ付属のベルトですが、これはテレビ台や壁に穴をあける必要があったりして、実施している人が決して多くはないのです。この状況を改善して、もっとユーザーに転倒防止対策をしてもらうことはできないか。そこで当社が開発したのが、「転倒防止スタンド」です。
これは、テレビスタンドの底面に特殊な吸盤を備えつけた新機軸のスタンド。テレビ台にテレビをそのまま固定することができる、この新発想の転倒防止スタンドは、地震に強く、倒れにくい、まさに「誰でも簡単にできて効果的な転倒防止対策」なのです。 

転倒防止スタンドの構造

ここでは、当社がどのようにして、画期的な転倒防止スタンドの開発を進めていったのかを紐解くべく転倒防止スタンドの開発チームに取材を敢行。この機能の開発背景を伺いました。

左からパナソニック エンターテインメント&コミュニケーション株式会社 ビジュアル・サウンドビジネスユニット 商品企画部 野村 美穂/技術センター 機構設計部 本多 和也/技術センター 機構設計部(当時) 河崎 敬/技術センター 機構設計部 川副 嘉郎 

テレビの転倒不安を解消するための新しい挑戦

今では50V型以上のテレビが主流となり、スリム化も進みました。画面サイズは大きくなり、それに対してテレビスタンドはコンパクトになっていることで、どうしても転倒しやすい状況が高まっているのです。実際、テレビの大型・薄型化が進むにつれ、当社にも「地震や子どものいたずらで倒れるのが心配」という声が寄せられるようになりました。
独自に実施したユーザーアンケートでは、約3割の方が「転倒への不安を持っている」と回答されました。しかしその一方で、同じくアンケートによると、「なにも転倒対策をしていない」という回答が約4割もあったのです。

なぜ転倒防止対策は行われないのでしょうか。その理由について野村は「『テレビ台を傷つけたくない』『取り付けがめんどうだ』という声が多かったのです」と教えてくれました。また、テレビの下に敷く市販の耐震ジェルなどについては、「はがす時にテレビ台を傷つける」「はがしにくい」といった意見があったそうです。

野村をはじめ開発チームとしても、転倒防止対策はしてほしいけれど、ユーザーの気持ちもわかる――。テレビ台や壁に負担をかける方法しか提案できていないことに、悔しさを感じていました。
商品企画で大切にしているこだわりは、「暮らしに安心を持ってほしい」というもの。めんどうくささが原因で「対策をしない」なんてことがあってはいけない。その想いを胸に、「簡単に実施できる」転倒防止対策の開発に取り組むことになったのです。

開発当初から商品企画を担当する野村

他に類を見ない独自の転倒対策が生まれるまでの道のり

ユーザーニーズである「傷や跡を残さない効果的な転倒防止対策」の実現を目指し、開発チームは色々な方法を試してきました。例えば、ベルトやワイヤーを改良してテレビ台や壁に傷をつけずに固定することはできないか。スタンドと床やテレビ台を直接固定する方法はどうか、など。しかし、従来のやり方を改善するという方法には、どうしても限界がありました。そこで、これまでにない新しい発想が必要だと感じた開発チームは、考え方をゼロに戻し、そこから試行錯誤を繰り返しました。そんななか、テレビスタンドの中に転倒を防ぐ吸盤の機構を内蔵するアイディアが生まれたのです。
開発に携わった本多は「転倒防止スタンドは、社内はもちろん業界でも初めての機能。そのため、どのレベルまでの揺れを想定し、耐えられればよいのかという基準自体が存在しませんでした」と当時を振り返ります。

歴代の転倒防止スタンドについて解説する本多

また、転倒防止スタンドは「絶対倒れない」とまでは言い切ることはできません。そのなかで、このスタンドの価値をどうユーザーに伝えるかについても多くの議論がありました。
その結果、目指す基準は「阪神淡路大震災レベルの揺れに耐えられることを実証すること」に設定。品質部門、法務部門、営業など、多くの部門と議論を重ね、この基準を目指して設計を進めることとしました。さらに転倒防止スタンドには、ただ「テレビの転倒を防止する」だけではなく、スタンドとしてのデザインも損なわないことが求められます。
これらの難題をクリアするには、計算だけでは不十分。転倒防止スタンドが、定めた基準をクリアするまでに、いくつもの検証と試験を繰り返す、そんな“泥臭い開発”を続けていきました。

震度6の試験にも耐える「転倒防止スタンド」の仕組みと効果

本多は初代の転倒防止スタンドから開発に携わる

その結果完成した転倒防止スタンド、具体的にどんな仕組みになっているんでしょうか。本多に教えてもらいましょう。

「最大のポイントは、スタンドの底面に配置した円形の樹脂パッド。これが吸盤の役割を果たし、テレビをテレビ台にしっかり固定することで転倒を防止します。また、この樹脂パッドは常時テレビ台に吸着しているわけではありません。倒れようとする力がかかった時にはじめて吸着するという構造になっているところが大きな特徴です。この構造で、2018年に特許申請をし、2021年に取得しています(特許第6827185号)」

ネジ止めなどをする必要がなく固定できるということですね。さらに、吸着のオン/オフはスタンドについているスイッチひとつで操作できます。

平常時
倒れようとする力(外力)がかかった時

このスタンド底面の樹脂パッドは、様々な評価を行い長期信頼性を有した素材を採用。形状や硬さ、厚みなどについても、繰り返し試験を行い、一番安全なかたちを実現しているそうです。
では、実際にどれくらい「倒れにくい」のでしょうか。当社では、阪神淡路大震災や東日本大震災の揺れを再現した試験を第三者機関で実施しています。その実験の様子が下記の動画なのですが、なんと「震度6程度の地震でも倒れない」という結果が得られました。

この地震試験について、当時担当の川副は「大げさに言えば、映画などで見るロケットの打ち上げ現場のような緊張感があります。開発担当者にとって、『絶対に負けられない戦い』という感じですね」と語ります。
実は一度、緊張しすぎて吸着スイッチを入れ忘れ、テレビが倒れてしまったことがあったそう。本多も「テレビが倒れるというのはショッキングなことだと、開発者一同が身を持って体験した事件でした」と衝撃の瞬間を振り返ります。もちろん、それは試験する側のミス。吸着スイッチをちゃんとオンにして試験を実施した際は、テレビは転倒することなくクリアできました。
このように、いくつもの検証と試験を繰り返し、ついに2018年に転倒防止スタンドの初号機が誕生しました。そしてその後も、ユーザーの声に耳を傾けながら改良を重ね、現在は第3世代が登場しています。

転倒防止スタンドのデザイン面について、河崎は「初号機、2号機の発売以降、ご販売店様やお客様から、機能はいいがスイッチが前にあるデザインを好まない方が多いというお声をいただきました。そこで、3号機となる2020年モデルではデザインを一新。基本的な原理は同じですが、より薄型の一本足デザインにし、スイッチを後ろに配置するために構造を見直したんです。もちろん、お客様の利便性を考えてスタンド前面に小さな穴を開け、そこから棒などで押すことでもスイッチをオフにできる構造にしています。オンにしたいときは、スイッチの爪を引き出すことで吸着させることもできます」と説明してくれました。

初代<前面配置>
3代目<背面配置>

ユーザーの意見を取り入れ、3代目の転倒防止スタンドでは吸着状態をオン/オフできるスイッチを背面に移動

また川副によると、「大画面テレビにこそ転倒防止スタンド機能を搭載してほしい」という声があったそうです。それを受け、ビエラの2022年以降モデルでは、最大77V型のモデルにも薄型スクエア型のスタンドが搭載。テレビがどんどん大きくなるのにあわせて、転倒防止スタンドも進化を続けています。

当時、有機ELテレビを担当していた河崎

75V型以上の大型テレビの転倒防止スタンドを説明する川副

家族の安心を考えて。キッズデザイン賞を受賞した理由

テレビの転倒原因は地震だけではありません。子どもがテレビを倒してしまう事例も多くあります。そこで本商品の価値を広く伝えるべく、「子どもや子育てに配慮したすべての製品・サービス・空間・活動・研究」を対象とした「キッズデザイン賞」に、転倒防止スタンドをエントリーしました。
子どもがテレビを倒してケガをするという現状を東京都が報告書としてまとめていて、その中に1歳から2歳の子どもによるテレビを引っ張る力が記載されています。そこで、子どもが力をかけても倒れることがないことを押したり、引っ張ったりして確認する、通称「キッズ試験」を東京都の報告書を参考にしながら確立して実施。吸着をオンにした時に必要な力は1歳から2歳の子どもが持つ力を大きく上回っていることを確認しました。このことが評価され、転倒防止スタンドは、2019年にキッズデザイン賞の審査委員長特別賞を受賞しました。

本多は「子どもがテレビを引っ張ったり、テレビにぶつかったりするケースも、転倒防止スタンドの開発のなかでは意識していました」と言います。「転倒防止スタンドは絶対倒れないものではありません。ただ、もしも子どもがテレビを倒しそうになったとき、ある程度の負荷であれば転倒を防止したり、また倒れるにしても、すぐには倒れないようにしたいのです」。この想いを胸に、開発チームは徹底的な検証を続けています。ちなみに大地震を再現した試験も、子どもが力をかけても倒れることがないことを確認する通称「キッズ試験」も、新しいモデルが出るたびに必ず実施しています。

「安心して使ってほしい」という想い

ビエラに転倒防止スタンドが導入されてから、累計出荷台数は約230万台を突破しました(※2024年10月30日時点)。
実際、店頭での購買の決め手を調査したところ、以前はビエラの購入理由として画質や音質が上位に挙げられていましたが、最近では「転倒防止スタンドが決め手になった」という声がトップ3に入っています。(※2024年当社調べ)
とある販売員の方から、「大地震が発生したときに、店頭に展示していた転倒防止スタンド付きのテレビが倒れなかったことが印象的だった」という声が開発チームに届いたこともあるそう。本多も開発者として、「転倒防止スタンドの効果は凄いね、と皆さんから言っていただいて、設計に間違いはなかったと再確認できました」と語ります。
当社には「レイアウトフリーテレビ」や「ウォールフィットテレビ」といった新しいスタイルのテレビもあります。

レイアウトフリーテレビ「LF1/LF1L」

ウォールフィットテレビ「LW1/LW1L」

これらのシリーズは、構造上転倒防止スタンドを採用できません。しかし、その代わりに設計上の基準をより厳しく設定して、地震試験などの検証を行っています。
例えば土台ごと移動できるレイアウトフリーテレビは、設置場所も様々なので、転倒防止スタンドのように吸盤でひとつの場所に固定することも難しいです。そこで取られた対策は、低重心化を図った「スタンド設計」。スタンド自体を重くすることで、「起き上がりこぼし」のように倒れにくい設計としたのです。

また、石膏ボードの壁にもかんたんに設置できるウォールフィットテレビも安全対策への工夫があります。あえて劣化させた壁に取り付けて強度を検証したり、取り付けに使うピンの数をわざと少なくした状態で加振試験を行ったりと、ひときわ厳しい試験をこなしています。

石こうボードを使用した振動試験の様子

開発チームがここまでこだわる理由について、野村は「私たちが転倒防止対策に全力を尽くすのは、テレビに対して不安を持ってほしくないからです。こうした想いのもと開発された転倒防止スタンドは、本当に素晴らしい機能です。ぜひもっと多くの方に知っていただいて、安心してテレビを楽しんでいただきたいですね」と語ってくれました。
転倒防止スタンドをはじめ、安心への想いが詰まったテレビで、おうちエンタメを思いっきり楽しんでください。

※転倒防止スタンドは、いかなる条件においても転倒・落下しないことを保証するものではありません。また、当社は、災害等によるテレビの転倒・落下に伴う損害については補償いたしかねます。使用上の注意を十分ご確認のうえ、ご使用ください。
※凹凸のない平らな面に設置してください。凹凸のある設置面では、吸着効果を発揮しません。また、設置面の素材、使用場所や使用環境により吸着効果が弱まる場合があります。
※レイアウトフリーテレビは、いかなる条件(畳やじゅうたん、衝撃を吸収するフローリングなど柔らかい床等)においても転倒・落下しないことを保証するものではありません。また、当社はテレビの転倒に伴う損害については補償いたしかねます。使用上の注意を十分ご確認のうえでご使用ください。

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転倒防止スタンド搭載機種

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