防災のプロが語る 「もしもの備え」を見直そう

防災のプロが語る 「もしもの備え」を見直そう防災のプロが語る 「もしもの備え」を見直そう

9月1日は「防災の日」と制定されています。
未曾有の大災害である関東大震災が起きた1923(大正12)年9月1日をもとに、1960(昭和35)年に制定されました。

今もしも、同じ規模の災害が起こったとしたら。
防災有識者のみなさんに、いざという時に役立つ防災の知恵について、お話をうかがいました。

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※この記事は2023年8月1日時点での情報です。一部変更及び生産終了の製品が含まれています。

高荷智也 さん

備え・防災アドバイザー
BCP策定アドバイザー

写真:高荷智也 さん
駒木結衣 さん

ウェザーニュース気象キャスター
防災士

写真:駒木結衣 さん
辻直美 さん

国際災害レスキューナース
一般社団法人育母塾代表理事

写真:辻直美 さん

今考えておきたい、突然の停電に対する「もしもの備え」

「ライト(あかり)」「スマホ」「ラジオ」は必須アイテム

駒木さん:地震や台風、大雨や土砂災害など、私たちの住む日本は自然災害が頻発しています。国が発表しているデータによると、全世界で起こったマグニチュード6以上の地震のうち約2割(17.9%)が日本発、全世界の活火山の約1割(7.9)%が日本にあるといいます(※1)。
最近でも2018年に関西を襲った台風や北海道胆振東部地震のブラックアウトでは数百万件規模の停電が起きています。
台風や水害など、停電の発生リスクにつながる自然災害が増加している近年は、停電に対する備えが欠かせません。停電について、今準備できることにはどんなことがありますか?

写真:高荷智也 さん写真:高荷智也 さん

高荷さん:家庭でどのように、停電に備えていくか、物からの視点として、大きく2つの方向性があると思います。
1つは、電気そのものを貯める準備です。もう1つは、電気でなんとかしていた機能を電気レスな手段で代替するための道具の準備です。
電気を貯める準備として最も手軽になるのは、やっぱり乾電池です。電気が回復するまでに対応できる最低限の数の乾電池を備えておくことが重要です。その上で、「ライト(あかり)」「スマホ」「ラジオ」といった、日常生活での必需品を、乾電池で十分動かせるような準備が必要です。
電気を貯めるには、ポータブル電源や、住宅設備としてソーラーパネルなどで大規模に準備をするという選択肢も良いと思いますが、コストや保管場所やメンテナンス面などで、手軽とは言いにくい。そのため、まず最低限として、「ライト」「スマホ」「ラジオ」を“乾電池で動かす”準備だけは、全世帯にやってもらいたいですね。

駒木さん:「ライト」「スマホ」「ラジオ」は停電時でも絶対に使えるようにしておきたいですね。

高荷さん:「ライト」がない真っ暗な状況では、家の中で過ごす場合はもちろん、外へ逃げる必要があっても一歩も前に進めないですし、「スマホ」がないと情報収集や安否確認ができないので、停電時や災害時には必需品です。また、停電と同時に通信障害が発生することもあるので、スマホが使えない場面で、正しい情報を入手するためのラジオも欠かせません。

辻さん:メンタル面に与える影響も意外と大きいです。普段のあかりや音がない状況って、どんどん不安が不安を呼び、冷静な判断ができなくなります。だから、ライトやスマホというのはとても重要なんです。

電気レスでも代替できる道具を揃える

高荷さん:もう一つ大切なのが、電気以外の手段で代替する方法です。例えば、調理家電などの台所の機能がほぼ全滅してしまいますので、「カセットコンロ」は必需品として準備したいですね。
また、マンションにお住まいの方だと、停電によって断水になる可能性が高いので、トイレを代替する機能が必要になります。家族の人数分ぐらいの「非常用トイレ」などを準備しておくと安心でしょう。

駒木さん:停電が断水につながるということを知らない人も多いかもしれませんね。

高荷さん:そうなんです。マンションの場合は電気を使って給水するタイプが多いので、基本的に停電対策は断水対策にもなります。つまり、最低限のライフラインを代替する機能を持つ、「カセットコンロ」「非常用トイレ」「飲用水や生活用水」を備えておく必要があるのです。

駒木さん:今の時期の暑さは、冷房なしでは熱中症になりかねません。

高荷さん:そうですね、夏と冬の気候に対する備えも大切です。夏であれば、熱中症への備えで、冬であれば寒さ対策です。
熱中症対策としては、「スポーツドリンクの粉」「十分な飲料用の水」、また、やはり「トイレ」です。水を飲むということは、必ずトイレが必要になります。
逆に北国では、電気が止まっても寒さをしのぐ対策が必要です。できれば、「反射式の石油ストーブ」があると安心ですが、普段灯油を使ってないという家庭の場合は、「カセットガスストーブ」といった電気レスで対応できる暖房器具があるといいでしょう。

ブラックアウトを体験して気づくこと

駒木さん:いつも電気に頼りきった生活をしているので、いざとなると、本当に困ることが多いですよね。

高荷さん:そうですね。皆さんが想像している以上に電気が止まると何にもできない世界になると思います。

辻さん:2018年の北海道胆振東部で起きた最大震度7の地震では、その後に北海道全域を襲ったブラックアウトで大規模停電のダメージの大きさを認識しましたよね。スマホを充電するのに数時間並ぶというようなニュースもありました。その時に初めて電気が止まるとこんなに困るんだ、と気づいた人も多いと思います。
私も以前に停電のシミュレーションをしたことがあるのですが、不安になった子どもが泣き叫んだり、いつもの生活が送れないことにイライラしたりと、心理面の負担が想像以上に大きいことに気がつきました。
やはり、何事も体験しないと本当に必要なものに気づけないと思うので、まずは電気のない生活をみんなで体験して考えていくってことも大事だと思います。例えば、最初は家の照明を全部切って30分過ごしてみるとか、第3土曜日は電気レスの日にするとか。それだけでも、備えるべき姿が見えてくるはずです。

写真:辻直美 さん写真:辻直美 さん

駒木さん:せっかく道具を揃えていても、普段から使わないと、いざという時にもやっぱり使えない、ということもありますよね。

高荷さん:防災リュックを買ってきても全部新品で未開封という人も少なくないようです。実際に使う時には電池が足りなかったとか、電池を機器に入れる際、蓋を開けるのにドライバーが必要だったとか、いざという時に困るケースも多いので、普段から使いこなせるようにしておくことも大切です。

防災のプロがおすすめする突然の停電に備えておきたい防災グッズ

「置いて使う」「持って使う」などタイプの違うあかりが必要!?

駒木さん:今は防災グッズのラインアップも充実している時代。たくさんありすぎて、停電対策としても何をどのくらい準備しておけばいいのか迷ってしまいますが、「いざというときに本当に役立つ防災グッズ」として、具体的におすすめのものはありますか?

高荷さん:先ほども挙げた、「ライト」「スマホ」「ラジオ」を、乾電池で十分動かせるような準備が肝心です。それぞれの必要なシーンを考えてみましょう。
まずは「ライト」ですが、懐中電灯などが一家に一灯あれば安心と考えている人もいるようですが、家族で生活していると、それでは全く足りません。置いて使うもの、持って使うもの、体に身につけておくものというように、いくつかのパターンを家族全員が複数持っておきたいところです。少なくても一人一灯、一部屋一灯は目安にするといいですね。

辻さん:避難所でも、一家に一灯しかライトがなくて、家族の誰かがトイレに行く時にそれを持って行ってしまったために残された家族は暗い場所で待つしかない、という場面を何度も見ました。被災というただでさえ不安な状況下で、あかりが確保できているのはとても大事なこと。ライトは子どもも含め、各自が持てるように備えておくことが大切ですね。

高荷さん:置いて使うものだと、『でかランタン』がおすすめです。これはとにかく明るくて、室内に置くと10畳くらいの広いスペースでも部屋全体を十分に照らすことが可能です。このランタンにはハンドルがついているので懐中電灯として持ち運びもできます。タッチセンサーで点灯するので暗い場所でもスイッチの場所を探して慌てることもないし、小雨の屋外でも使用可能な防滴構造なので安心感もあります。

辻さん:十分な明るさのライトがあることは、停電時に不安になりがちな子どもやお年寄りの安心にもつながりますね。『でかランタン』は明るさを調整できるので、「食事をする時」「寝る時」「移動する時」というようにシーンに応じて使い分けできることもありがたいです。

高荷さん:『でかランタン』をさらに多機能にした、『多機能でかランタン』もあります。明るさだけでなく、白色・電球色・全灯色の3種類の光色が選べます。USB電源からも使えて、モバイルバッテリーにもなるという、普段から災害時まで役立つ機能が満載のランタンです!

駒木さん:『多機能でかランタン』は停電時、自動点灯する機能もあるので、停電時に不安になりやすい女性や子どもは部屋に置いておきたいですね。部屋に置いておきたい光だと、私は『球ランタン』もおすすめです。あたたかみのある光で、見ているだけでも癒されます。トイレなどでは、置いたり紐で天井から吊るしておいたりするだけでも十分な明るさです。

写真:駒木結衣 さん写真:駒木結衣 さん

辻さん:赤ちゃんのいる家庭だと夜間の授乳やおむつ替えの時にちょうどいい明るさです。「停電時、トイレに行く時に持っていくのに便利だった」という話を聞いたこともあります。ちょっとしたあかりがほしい時にピッタリだということですね。

高荷さん:持って使うものだと、『電池がどれでもライト』も、非常に実用的なライトです。最大の特長は、単1形から単4形の乾電池がどれでも1本であかりがつくという点です。備蓄用の電池の在庫量やサイズに不安があっても大丈夫。

駒木さん:東日本大震災で被災した当時、母親に頼まれて買い物に行きましたが、長い時間をかけて並んだのに、私の家にある懐中電灯に合う電池がガスボンベとともに売り切れてしまっていた、という経験をしたことがあります。単1形から単4形、どのサイズの電池でも使える、というのは非常時にはとても魅力的です。

辻さん:電池が新品ではなくても使えるところも、このライトのすごいところだと思います。たとえば、テレビのリモコンから電池を1本取り出せばすぐにあかりがつくという。万が一、新品の電池の買い置きがなかったとしても、家の中にある何かしらの機器から電池を取り出せばあかりが確保できるのは、とても画期的ではないでしょうか。

写真:(左から)高荷智也 さん、駒木結衣 さん、辻直美 さん写真:(左から)高荷智也 さん、駒木結衣 さん、辻直美 さん

高荷さん:単3形か単4形、どちらかの電池1本あればライトとして使える『電池がどっちかライト』も、「単1形のように日常的にそれほど出番が多くない電池の備蓄はないが、単3形や単4形なら比較的家にある」という場合に便利です。コンパクトなのでお子さんにも持ちやすくて良いですね。

辻さん:体に身につけておくものとして、私のイチオシのライトは、首にかけるタイプの『LEDネックライト®』です。

高荷さん:首からかけるライトは、避難時に両手が自由になるというメリットがありますね。手元が照らされるので、作業をしたり、地図を見たりする時にも重宝します。

辻さん:自分の手が空くことで、子どもと手をつないで避難できるのも安心感が増します。何よりも便利なのは、ライトの裏面にあるスイッチの場所がわかりやすい点です。というのも以前、ヘッドライトを使用したこともあったのですが、頭の上でスイッチを探すのは意外と難しいことに気づいてネックライトにシフトしたという経緯があります。

いざという時のために、スマホは二重三重にも対策を

駒木さん:スマートフォンについては、いかがでしょうか。情報収集だけでなく、家族と連絡を取り合うなど安否確認をする際にも手放せません。

高荷さん:非常時ではなくても、今は多くの人が「スマホがないと生きていけない」と感じているのは確かです。だとしたら、停電などの非常時でも、スマホを使えるように二重三重にも対策をしておくべきでしょう。そのためにも必要なのがスマホのモバイルバッテリーです。私は仕事の時も鞄に入れて常に持ち歩いています。
特に、『乾電池式モバイルバッテリー』は、スマホへの充電機能だけでなく、LEDライト機能もついているので災害時に一台二役で役立ちます。

辻さん:一般的な機器では、違う種類や銘柄の電池を混ぜて使う(※2)ことはできませんが、このモバイルバッテリーなら容量・種類・銘柄の違う乾電池や充電池を混ぜて使用できる点が魅力ですね。さすが電池を長年作り続けてるメーカーが開発したものという感じです。乾電池を備えてなかった場合でも、家中にある使いかけの単3形電池を集めてくればスマホを充電できます。

高荷さん:ポケットに入るくらいコンパクトなサイズなので、防災リュックに入れておいてもまったく負担になりません。
その他にも、容量が大きい充電式のリチウムイオン電池のモバイルバッテリーやポータブル電源といったものを備えておきたいですが、停電が長期化した時などを考えると、乾電池を取り換えればくり返し使用できるタイプは必須です。
 

意外と知らない、緊急時のラジオの利便性

駒木さん:「ラジオ」についてはいかがでしょうか。スマホがあれば情報収集できるので、必要性は少ないと感じている人がいるかもしれません。

高荷さん:実はラジオも停電などの非常時の防災グッズとしては必携アイテムです。先ほども話しましたが、電波障害や混雑などスマホが使えない場面で、正しい情報を入手するためにはラジオが必須。地震の震源地はどこなのか、津波は来ているのか、火災は起きているのかといった情報を正確に把握することで、その後の判断に大きな影響を及ぼします。

辻さん:実際、阪神淡路大震災の時も勤務先の病院ではラジオが大活躍でした。そこにいる人たちみんなで防災情報をリアルタイムで共有できることも重要ですが、私がラジオの価値を再認識したのは「想像以上に癒し効果が高い」という点でした。いつもと変わらない音がそこに流れているだけで、どれほど多くの人の心が救われるかを実感しました。

高荷さん:『手回し充電ラジオ』は電池がなかったとしても、手回しで充電をすることができ、1分間の手回し充電でAM/FMのラジオを約14分間も聞くことができます。

辻さん:子どもに持たせると、簡単にクルクルできるのが楽しいらしく、飽きるまで回し続けてくれるんですよ(笑)。防災ラジオにしては小さめの手のひらサイズなので、持ち運びしやすいですよね。こんなに小さいのにライトやサイレンがついているのがありがたいですね。

駒木さん:停電時はできるだけスマホを温存させたいので、情報収集などの機能はラジオで代替できると安心ですね。

3日間過ごすために乾電池は何本必要?

高荷さん:そして、「ライト」「スマホ」「ラジオ」という必需品3点やさまざまなものを動かすために必要な乾電池も十分な量を持っておきたいところです。

駒木さん:そもそも防災用の乾電池はどのくらいの数を準備しておけば安心できるものなのか気になりますよね。パナソニックではひとつの基準として単3形であれば「一人あたり17本(※3)」を3日間過ごすための備蓄量の目安として伝えています。ライトに3本、モバイルバッテリーに12本、ラジオに2本、という計算です。

写真:(左から)高荷智也 さん、駒木結衣 さん、辻直美 さん写真:(左から)高荷智也 さん、駒木結衣 さん、辻直美 さん

辻さん:それこそひと口に乾電池といっても、市場にはたくさんの種類があって選ぶのに迷うところだと思います。私が購入の基準にしているのは「いかに長もちするか?」です。

高荷さん:それは大事なことですよね。私は防災活動のひとつとして、さまざまな防災グッズを使った実験を独自に行っているのですが、その時に必ず使っているのが『乾電池エボルタNEO』なんです。長もちするのを実感しているので、普段から使用するだけでなく防災用のストックとしても信頼度は高いと思っています。

辻さん:保存条件によっては約10年(※4)という長期間の保存も可能なので、必要な防災グッズと合わせて備えておくと心強いですよね。環境に配慮した紙のエシカルパッケージもラインアップに追加されましたが、水をはじく加工がされていたり、使わない分はそのままパッケージに入れて保管できるなど、避難時にもありがたいですよね。

もしもの備えもしもの備え

災害発生時には「命」と「生活」を守る“2段構えの備え”が大切

一つ目は「命を守るための備え」

駒木さん:これまで停電時の対策について、色々とお話を進めてきましたが、災害時に困るのは停電だけではありません。そのほかには具体的にどのような対策が必要でしょうか。

高荷さん:まず、命を守る段階で必要な道具と、避難生活など被災後の生活に必要な道具は変わるので、大きく「2段構えの備え」が必要です。
防災といえば、「緊急避難袋に詰めるグッズ」や「避難所で必要なグッズ」などが先行しがちですが、まずはその前提となる部分、つまり災害時に命を落とさないための準備というのが、ポイントです。
例えば、地震のような突然発生する災害では、家具が倒れて命を落とすケースも少なくありません。そういう意味でも、まずは家を壊さない、家具を倒さないという準備など、生き延びるための対策が肝心です。
単純に「家を頑丈にする」ということもありますが、日頃から耐震固定器具を使ったり、家具の配置を工夫したりして、地震の揺れから命を守る環境を整えておくということです。

写真:高荷智也 さん

駒木さん:もしそこで命を落とせば、その後の準備をいくらしていてもすべて無駄になってしまいますからね。

辻さん:そうですね。生き延びるための準備としては、水害であれば家族と綿密な避難計画を立てることも重要です。事前にハザードマップで、土砂崩れなどで家が倒れたり、崩れたりしてしまう恐れがある区域に入っていないか、洪水で浸水する深さよりも高いところに部屋があるかなどを確認してください。
自宅が安全だと判断できる場合は、自宅に留まる選択肢もありますし、避難が必要な場合は、安全な避難先へ移動します。
もちろん、緊急時に持ち出す荷物を揃えておくことも大切です。

高荷さん:避難の段階になってから重要となるアイテムは、なんといっても「ライト」です。大地震では家の中がめちゃくちゃになりますし、ともすれば強い揺れが続いているかもしれません。そんな状況であかりがないと何にも見えないし、身動き一つ取れなくなります。
また、その後に津波が来るエリアとか、土砂災害のリスクがある場合、家にとどまることは危険ですが、夜中に停電すると避難ができないので、そのまま波や土砂に飲み込まれるっていう可能性もあります。

駒木さん:日本で発生した震度5以上の地震を調べてみると、昼間(6〜18時)と夜間(18時〜翌6時)では、夜間の発生頻度が高い(※5)ので、夜中の停電を想定して備えておいた方が安心ですね。

二つ目は「被災後の生活を守るための備え」

高荷さん:命を守る段階を越えたら、次は、その後に待っている避難生活を守るための備えが需要です。停電での備えでも話しましたが、「ライト」「スマホ」「ラジオ」の3点は避難生活がスタートしても引き続きマストで持っておきたいものです。
そのうえで、避難生活をする際、これがあるとないとでは毎日の生活の質が大きく変わるというもののひとつが「カセットコンロ」です。調理家電が使えない状況でも「カセットコンロ」があれば温かい食事が食べられますから。

辻さん:「非常用の簡易トイレ」も必携です。私たちは、食事を我慢することはできても、排泄はそうはいきません。順番待ちの長蛇の列や衛生状態といった避難所のトイレ事情を考えると、家族分の「非常用の簡易トイレ」を準備しておくことをおすすめします。

駒木さん:避難生活をする季節や地域によっても備えは変わってきますよね。熱中症対策なのか防寒対策なのか、自分にとってその時に必要なものを準備しておくことも大切ですね。

辻さん:防災グッズの入った非常用リュックを準備していることも多いと思うのですが、それを定期的に見直すことも大事です。駒木さんのおっしゃるように気候などによっても必要なものは変わりますので。

駒木さん:そうですね、こうした最低限の生活の質を維持するためのアイテムは揃えておきたいですね。

避難所には「何もない」と心得る

辻さん:あと、避難所などの現場をまわっていて感じるのは、公助や共助を皆さんが期待し過ぎているということです。
避難所に行っても、すぐに防災グッズの入った袋が配布されるわけはないですから。テレビで放送されるようなダンボールなどで整備された避難所はごく稀です。整然と並ぶテントなどを想像する人もいるかもしれませんが、一体いつ支給されるのか分かりません。
「誰かが用意してくれたであろう居心地のいい避難所」を想像するのではなく、「基本的には屋根と床があるだけの不便な場所」と心得て、自分自身で準備を重ねておくほうが、避難生活で生じる不快事項は少なくてすむと思います。

写真:辻直美 さん

高荷さん:不快と感じることも人によってそれぞれなので、何もない避難所で、どういう生活をしたいのかとイメージすることで、事前に揃えておきたいアイテムがわかってくると思います。今なら、事前準備はいくらでもできます。

辻さん:避難生活での優先順位は人それぞれで違いますからね。例えば、人のいびきが気になるタイプだったら、「耳栓」が必要になりますし、体を清潔に保ちたいタイプの人は、水も3リットルじゃ絶対足りません。
このように、自分がどんな生活したいのか、ほんとに日常生活の中で大事にしていることの“棚卸し”が、ストレスの少ない避難生活を送るための準備につながります。

駒木さん:皆さんは具体的にどれくらいの量を準備していますか。

高荷さん:最低3日、できれば1週間っていうのが、基本の目安になりますが、在宅避難をするのか、それとも避難所に行くのかで変わってきます。
避難所の場合は、3日分の水と食料を準備したら、1人10キロ、家族4人分で40キロにもなります。命の危機が迫る中で、3日分の生活物資を全部背負って避難所に行く、というのは難しいですよね。
なので、命の危機が迫る中では、先ほど話したような、本当に最低限の必要なものだけを持って避難してください。生活するために必要なものに関しては、命の危機が過ぎた後に、余裕があれば持っていけば良いのです。繰り返しになりますが、被災時にはこのような「2段構えの備え」が大切です。

辻さん:防災グッズなどの「もの」を準えておくのと同じくらい重要なのが、防災のための“スキル”の準備です。防災グッズを「買って終わり」にするのではなく、どのタイミングでどんなふうに使ったらいいのかを日ごろからシミュレーションしておくと防災スキルは確実に上がります。
私自身も、食べものや飲みものなどは、「非常用に準備してあるものを日常的に食べて、在庫が少なくなったら新しいものを買い足す」という“ローリングストック”を実践しています。

高荷さん:“ローリングストック”を習慣にすると、定期的に非常用リュックの見直しができるだけでなく「気づいたら非常食用として備蓄しておいた水やカップラーメン、お菓子などの賞味期限・消費期限が切れていた」という事態も防げます。乾電池もローリングストックで備えられますね。

写真:駒木結衣 さん

“フェーズフリー”で使える避難生活安心グッズ

辻さん:ここ数年は、いつもの生活と災害が起きた時を分けて考えるのをやめ、日常で使うものを災害時にも役立てようという“フェーズフリー”の考え方が浸透しはじめています。

高荷さん:辻さんが実践している食料品の“ローリングストック”という備蓄法も“フェーズフリー”ですよね。

駒井さん:私のフェーズフリー防災は「USB入出力付急速充電器」ですね。これは「充電池エネループ」を充電できるだけでなく、モバイルバッテリーとしても使えます。ライトもついて1台3役なんです。
ウェザーニュースライブは24時間365日の生放送なので、マイクの電池の消耗度合いも相当なものです。『充電池エネループ』を充電しておけば乾電池のようにすぐに使え、繰り返し使用できるので経済的かつエコロジーというメリットもあります。

辻さん:防災グッズと聞くと「機能性は高いものの、デザイン面で日常生活のインテリアとマッチしにくい」というイメージを持っている人もいるかもしれません。ですが、『でかランタン』『球ランタン』はシンプルなデザインということもあり、室内に配してあってもまったく違和感がありません。まさに、“フェーズフリー”にうってつけのアイテムです。

防災には思いやりの気持ちが込められている

高荷さん:その意味では、防災ギフトとして大切な人にプレゼントするアイテムにも向いているかもしれません。東日本大震災のあった3月11日は「おくる防災の日」。自分や家族だけでなく、大切な人を守るために防災グッズを贈って思いやりの気持ちを伝える日として制定されました。

辻さん:相手を思いやる防災の形には、いろいろあると私も思っています。これは際立った例えですが、あらかじめ危険な台風や豪雨の予報が出ているにもかかわらず避難することに、家を守らなきゃとか、自分だけ避難するなんてと後ろ向きな親御さんに対して、お子さんが災害の及ばない地域への温泉旅行に誘うのも、思いやりの防災だと思います。
親御さんを安全な地域に気持ちよく移動してもらうための手段が温泉旅行なら、それは贅沢ではなく親孝行。形はどうあれ、できるだけ多くの人を助けていきたいですよね。

高荷さん:そうですね。私も引き続き、防災活動を広めるためにYouTubeを通じてさまざまな防災情報を発信していきたいと思っています。そして、自分たちのための災害への備えができているかどうか、もう一度この機会にイメージしていただけたらうれしいです。

辻さん:私は講演を通じて「防災っておもしろい」を伝えたい。世の中の防災のイメージをガラッと変えたいです。いつ起こるかわからない災害のためではなく、日常が豊かになるために、そして大切な人を守れる自分になるために、防災を極めてもらいたいと思っています。

駒木さん:私は今日、防災のプロのお二人の話をお聞きして、まったく知らないこともたくさんありました。それを自分なりにかみ砕いて、私たちの世代の人たちにも伝えられるように、日々の番組でも自分の言葉でしっかりお伝えしていきたいとあらためて思いました。今日はありがとうございました。

写真:(左から)高荷智也 さん、駒木結衣 さん、辻直美 さん写真:(左から)高荷智也 さん、駒木結衣 さん、辻直美 さん

自然災害は防ぐことはできなくても、今から防災の準備をしておくことはできます。今、私たちにできるのは過去の災害から何を学び、どう生かすことができるのかを考えることではないでしょうか。

自分自身や家族、大切な人たちを守るためにできることを、今日、できることからはじめてみませんか?

高荷智也(たかにともや)

備え・防災アドバイザー、BCP策定アドバイザー、
合同会社ソナエルワークス代表

「備え・防災は日本のライフスタイル」をテーマに、個人に対しては“自分と家族が死なないための防災対策”ノウハウを、企業に対しては“経営改善にもつながる緊急時に役立つBCP”の作成手順を、自身が運営する防災Webサイト、YouTubeなどの各種メディアやセミナーを通じて解説しながら防災情報を発信している。

写真:高荷智也 さん
辻直美(つじなおみ)

国際災害レスキューナース、一般社団法人育母塾代表理事

国境なき医師団の活動で医療支援を実施。帰国後に看護師として活動中に阪神・淡路大震災で実家が全壊。この時の経験から災害医療に目覚め、救命救急災害レスキューナースとして、国内外30ヵ所の被災地で活動をする。現在はフリーランスのナースとして被災地などで活動をしながら、被災地での過酷な経験をもとに、講演や各種メディアを通して、実践的な防災術を啓発している。

写真:辻直美 さん
駒木結衣(こまきゆい)

ウェザーニュース気象キャスター、防災士

中学生の時に東日本大震災を地元である宮城県で経験。被災後の現場から、必死に情報を伝えるアナウンサーの姿に憧れ、自分もいつか言葉を使って人の役に立てる仕事をしたいと、アナウンサーやキャスターを目指すようになる。2018年に株式会社ウェザーニューズへ入社し、現在は『ウェザーニュースLiVE』で気象キャスターとして活躍中。

写真:駒木結衣 さん
もしもの時、どう行動する?災害別アクションガイド

備えるべき「地震」「大雨」「台風」「大雪」、4つの災害別での対策やまず行うべきこと、停電など二次災害への備え、避難のタイミングや注意点などをまとめました。

災害別アクションガイド
防災グッズリスト

本当に必要な「もしもの備え」とは?専門家監修のもと、基本の防災グッズを一覧でご紹介。

防災グッズリスト

※1/出典)国土交通省「世界のマグニチュード 6 以上の震源分布」、同「世界の活火山の分布」
※2/本製品をモバイルバッテリー・LEDライトとしてご使用いただく場合に限り、乾電池や容量・種類・銘柄の違う電池を混ぜて使用できます。他の機器でご使用いただく場合、電池の混合使用はお控えください。電池の残量によっては使用時間が短い、または使用できない場合があります。
※3/【あかり】:1日8時間使用を想定。BF-AL05(乾電池エボルタNEO単3形×3本使用)を使用した場合、強モードで連続約60時間使用可能)。【電池式モバイルバッテリー】:1日0.5回の充電を想定。BQ-CC87(乾電池エボルタNEO単3形×4本使用)を使用した場合、約0.5回の充電が可能(単3形乾電池4本を使用して内蔵電池約2,700mAhのスマートフォンを充電した場合)。【ラジオ】:家族で1台使用と想定。RF-P155(乾電池エボルタ単3形×2本使用)を使用した場合。FM受信時計71時間使用可能(電池寿命は中電流域の連続放電性能を向上させた、使用推奨期限2026年4月以降品〈対象品番:LR6EJ〉)機器使用時間や充電回数は、使用状況や周囲温度によって変化します。
※4/使用推奨期限(JIS準拠)において。保存条件:温度20±2℃、相対湿度55±20%
※5/出典)気象庁「震度データベース検索」(2011年1月〜2020年12月の10年間)