“釜”に詰め込んだこだわり


ごうごうと音を立ててかまどの中で燃える薪。その大きな火力はしっかりと羽釜に伝わり、米粒の奥に眠る旨みを引き出して、口いっぱいに広がるやさしい甘み・豊かな味わいを叶えてくれます。
しかし家庭用のIHジャー炊飯器で、かまど炊きと同じ火力は叶えられません。そこで開発チームは「釜」に注目。羽釜に負けない熱の伝わりやすさと、かまどのような保温性への実現にも苦労がありました。
かまど炊きの大火力と蓄熱性。「釜」の力で叶えたい


熱の伝わりやすさVS逃がしにくさー「矛盾」を両立するには?
IHを熱源とする炊飯器で、薪と同じような大火力を実現するにはどうすればよいか?
設計チームの龍田は「効率的に熱を発生させ、それをいかに全体に伝えられる釜に仕上げるかがポイントでした。熱に対して反応しやすい“熱伝導率の高さ” が理想ですが、一方で伝わった熱を簡単に逃がしてしまわない蓄熱性も叶える必要がありました。相反する性質をどう両立するか、頭を悩ませました」と話します。

IHの力を最大限に生かすオリジナルの釜を生み出すために、素材、表面加工、塗装と多様な視点で開発に挑戦。試行錯誤を重ねて生まれたのが、「ダイヤモンド竈(かまど)釜」です。
熱しやすさと冷めにくさを両立した「ダイヤモンド竈(かまど)釜」は、高い熱伝導率のおかげで釜全体に素早く熱が伝わり、大火力を実現。さらに高い蓄熱性により、釜に熱をしっかり閉じ込めお米の芯まで熱を伝えておいしさを引き出します。また、表面に施したダイヤモンドフッ素とディンプル(くぼみ)から対流を生み出す泡が発生、一粒一粒にしっかり火が通る構造に仕上がりました。


鉄でも土でもない。釜自体の発熱性を高める素材とは?
「ダイヤモンド竈(かまど)釜」に採用されたのは、発熱性に優れたステンレスと熱伝導率の高いアルミを接合させた“クラッド材”。鉄器や土鍋など幅広い材質を試した結果、たどり着いた独自素材です。
IHによって外側のステンレスに電流が発生、そこから生まれた熱を内側のアルミが釜全体に素早く拡散させる仕組みです。発熱と熱伝導を高いレベルで実現する“クラッド材”は、かまどを超える炊き技を実現するために欠かせない存在だと言えるでしょう。
クラッド材で成形された釜の写真

家庭での使いやすさを考慮し、蓄熱性は「塗装」で克服!
蓄熱性を高めるのに簡単な方法が一つあります。それは「モノ自体を重くする」こと。しかし一般家庭で毎日使う炊飯器の釜が重いのはお客様にとってストレスですし、扱いづらさや怪我のリスクなどにもつながります。そこで開発チームは「塗装」に注目。
中空セラミックスという素材を塗料に混ぜて断熱性を高める方法を試しましたが、何度もの重ね塗りが必要。加工中の液垂れや破損などの課題が浮き彫りになりました。
そこで、塗装工法の試行錯誤を繰り返し、安定して塗装できる方法を開発。あめ色の外側塗装も、断熱性と意匠性を両立するために塗料メーカーと共同開発したオリジナル塗料です。
使用されている塗装素材(写真手前)
釜の下にある金属板はクラッド材の板材

釜の表面にもひと工夫。泡により“対流”を活性化する加工を
釜そのものの温度が上がるだけだと、中心部には熱が伝わりにくく、火の通りにムラが生じてしまいます。ムラを解消するポイントになるのが“対流”。釜内のお米が“対流”すれば、一粒一粒に熱がしっかり伝わるからです。そこで、焦げつきやこびりつきを防止する釜内側のフッ素コートにダイヤモンドの微粒子をプラス。ダイヤモンドの粒が沸騰の中心となり細かい泡を発生させるのです。
また、釜底には凹凸のディンプル(くぼみ)を設け、大きな泡が発生するように。最適な凹凸の個数、直径の深さ、配置などを試験を重ねて確かめ、もっとも対流が活性化する構造となっています。
釜底に設けられたディンプル

毎日使ってもらうモノだから圧力に負けない強さ、にもこだわって
圧力をコントロールして炊き上げる「おどり炊き」では、釜自体に大きな負荷がかかります。もし釜が圧力によって変形して熱源との距離が変化してしまうと、おいしく炊き上げられないばかりか、安全性にも問題が。そのため強度設計にはひときわこだわり、何通りもの釜の形状と厚みを設計ツールを使って緻密に計算を行い、設計しています。
実際の釜の設計図

また、毎日使う人の負担にならないよう釜の軽量化にもこだわっています。素材や形状についても何度も検証を重ね、強さと軽さの絶妙なバランスを実現しているのです。