写真家×開発者トークショー vol.2

LUMIX S1R「カメラグランプリ2019 大賞」の受賞を記念して行われた「LUMIX GINZA TOKYOのトークショーvol.2」。一切の妥協を排して描写性能を追求したLUMIX Sシリーズを象徴するレンズ、「LUMIX S PRO 50mm F1.4」に焦点を当て、クリエイティブディレクター 大貝篤史氏の進行のもと、写真家 河野英喜氏を迎えて、LUMIX開発陣とともにその魅力に迫ります。

※LUMIX GINZA TOKYOは、閉館し、新拠点へ移転リニューアルをしております。

河野英喜 河野英喜
フォトグラファー/河野 英喜氏

島根県浜田市出身。中学から人物写真に興味を持ち写真は独学で習得。その後1992年広告制作会社アドフォーカスに入社、1994同社を退社しフリーとなる。以後広告・ファッション誌を中心に撮影する傍ら、近年では女優や俳優、各界のアーティストなどを主軸に撮影する。またタレント・声優を被写体として各誌表紙・口絵、その他写真集書籍なども多数手掛ける。写真専門誌やメーカー主催の写真教室などで撮影指導、写真審査、執筆など幅広い活動もしている。公益社団法人日本写真家協会(JPS) 会員。

大貝篤史 大貝篤史
クリエイティブディレクター/大貝 篤史氏

大阪府生まれ、横浜育ち。東京学芸大学を卒業後、数々の出版社で編集業務を行うかたわら、写真撮影も行う。2011年からスナップポートレートの作品を撮りはじめる。17年よりポートレート写真家として活動しながら、写真誌「アサヒカメラ」のデスク業務をこなす。15年、個展「安倍萌生写真展」、17年、18年、「育ち盛りの写真家写真展」に参加。19年の6月に「HUMAN COMPLEX」、7月には「育ち盛りの写真家5人展」を実施。

渡邊慎治
LUMIX 商品企画担当/渡邊 慎治
美藤恭一
LUMIX レンズ光学設計担当/美藤 恭一
イベント風景

ボケ味の懐の深さとそのボケ味の良さ

大貝:LUMIXと言えば、10年以上手がけてこられたマイクロフォーサーズのGシリーズのイメージがありますが、今回、遂にフルサイズのSシリーズを展開されました。これからミラーレス化が進んでいくと言われる中で、一番後発でのフルサイズ参入を果たし、その分、期待値もかなり高く、非常に注目を浴びています。河野さん、実際にLUMIX S1Rを手に取られていかがでしたか?

河野:やはり、見た目には大きく見えましたし、程良い重さがありますね。レンズとボディの重量バランスが非常に良く、オートフォーカスはもちろん、マニュアルで合わせる時のピントの合わせやすさも非常にポイントが高いと感じています。

河野英喜 作例1

LUMIX S1 , LUMIX S PRO 50mm F1.4 , F1.4 , 1/1300 秒 , ISO100 ©Hideki Kono

大貝:僕にとって印象的だったのが、やっぱりボケの表現の懐の深さとボケ味の良さですね。ポートレートにおいて、とくにボケ味は大事だと思うのですが、LUMIX S PRO 50mm F1.4の実際のボケの表現や質感は、他のレンズとは違うと感じられましたか?

河野:LUMIX S PRO 50mm F1.4は、ボケがとにかく大きいですね。皆さんが思っておられる通常の50mmのボケに比べるとかなり柔らかく、広がりを持っていると思います。言い換えると中望遠レンズに近い感覚ではないかと…。僕自身がファインダーを覗いた時に、中望遠レンズのようだなという印象を受けました。

大貝:僕も、ボケ味が非常に素直でキレイだという印象があるのですが、そのあたりはどうでしょう?

河野:確かに感じます。今まで標準レンズで撮る時は、被写体と背景との距離をどれだけ取るかで、ボケを感覚的に調整していたんです。でも、今回は、レンズが持っているボケ自体が大きいので、自分が見てバランスが良さそうなところにモデルを配置して、どれだけ絞りでボケをコントロールしていくかをポイントに撮影しました。ボケに加えて、深度も重要ですね。いかにコントロールしていくのかが重要。非常にクリエイティビティが高い撮影が可能になったと思います。

河野英喜 作例2

LUMIX S1R , LUMIX S PRO 50mm F1.4 , F1.4 , 1/640 秒 , ISO800 ©Hideki Kono

大貝:次のこの作品は透明感と抜けの良さ、清潔感を実感する写真だと思います。メーカーの技術の人からすると、「飛んでいるぞ!」と思われるところですが、作品や作家性を考える際に、これも大切な一つの表現ですね。レンズの表現力が高いと河野さん自身の作品のバリエーションを増やしていけることに繋がりますか?

河野:そうですね。白飛びギリギリのところから、黒つぶれギリギリの間の中で、どれだけ色を豊かに表現するかが勝負になってきます。カメラメーカーさんの仕事やカメラ雑誌の撮影の時には、そのあたりを意識して撮っています。実際に皆さんも撮影されたら、実感されると思うのですが、やはり白飛びギリギリのところが立ってこそ、ツヤが出てくるし、潰れてくるところがあるからこそ、深みが出てくると思うんですね。ある意味、飛んだっていい、清涼感や気持ち良さが出れば…という思いで撮影しているわけで、あくまで、僕の自由な感覚で撮っているものなので、メーカーさんの「飛ばさないで!潰さないで!」というところをあえて無視した一枚と思って見てもらえればいいかなと思います。

大貝:作家としての意図を反映して作品を作っていく上で、レンズのボケのコントロールがしやすいとか、抜けがいいとか、レンズのボケ自体の質感が高いということは、撮る楽しみに繋がりますか?

河野:はい。料理と一緒で、言葉で語るより、まず食べてみる、つまりファインダーを覗いてみて欲しいということですね。本当に見てもらえればわかるのですが、シャープなところとちゃんとボケるところ、そのボケた時のボケ方が非常に美しいんです。設計の方にもぜひ伝えたいことですが、本当に気持ちの良い写りをするレンズだということです。

河野・大貝トークシーン

大貝:やはり使って楽しいレンズというのは大事ですね。

河野:はい。とても大事だと思いますよ。撮っていて本当に楽しいですから。

大貝:ポートレートを中心に撮られている河野さんに、実際に使っていただいた感想を伺いました。次に企画段階において、ポートレート撮影の場面でも使われることを想定しているのか?そのコンセプトを含めて企画の渡邊さんにお話いただきます。

渡邊:今回フルサイズのSレンズを設計するにあたって、大きなコンセプトを4つ考えました。一点目が「描写性能」。これは、各メーカーに求められることだと思います。二点目が「ボケと立体感」。これが重要なポイントで、Sレンズの味つけというか、レンズの味というところで特長を出していきたい部分です。三点目は、「機動力」。つまり手ブレ補正やオートフォーカスです。四点目が「堅牢性」。これは防塵・防滴や耐低温設計です。この4つの柱の中で、特にLUMIX S PRO 50mm F1.4は、二点目の「ボケと立体感」に非常に力を入れて作ったレンズといえます。ポートレートについても主要な被写体の中の1つとしてきちんと想定して開発を進めました。

大貝:今ある50mmのレンズの中で最高のものを目指して、取り組んでこられたと思いますが、設計者として、今回のレンズを作っていく上で一番ポイントになったのは、どういうところでしょうか?

美藤:開発設計においても、コンセプトに沿って、企画と技術のメンバーでどういったレンズをつくりたいかを考えながら進めています。特に今回のレンズは、二つ目の「ボケと立体感」にとにかくこだわっています。どのように開発を進めたのかと言いますと、最初にどんな写真を撮りたいかということに狙いを定めました。そのため、すでに発売されていた他社のレンズを10本以上購入して、どんな写真が撮れるのか、どういったボケが良くて、どれがあまり良くないのかなどを分析しました。次にそれがどういう原理で起こっているかを突きつめて、LUMIX S PRO 50mm F1.4をどういう設計をすれば良いのか、というように順次、段階を踏んで開発を進めていきました。

大貝:良いレンズと悪いレンズって、分解したらよくわかると聞きましたが、バラしてみると、ネガティブやポジティブな要素がわかるのでしょうか?

美藤:そうですね、だいたいわかります。再現設計をしてみて、設計データに落とし込むことで、より詳細がわかることもあります。たとえば、この緑の中のポートレートの作品は、設計の時に狙った意図がよく出ている写真だと思います。左下の奥の方の大きなボケ味であったり、上に写っている木の幹や葉のあたりがザワザワしないキレイなボケになっています。それから、ポートレートをターゲットの一つにおいて考えたレンズですので、瞳にピントが合った時に、瞳から耳元にかけての奥行き4~5cmの領域でボケが連続的に滑らかに写る。これを、開発時に「立体感」という言葉で定義しました。そして、その定義にかなうレンズするために、どういった設計にすればいいかをみんなで考えながら進めました。さまざまな撮影条件によって、技術的に発生する課題も原理もそれぞれ違います。それに対してどういった設計をしていくのかも異なるのですが、そのあたりを他社のレンズをベンチマークしながら開発していきました。

美しいボケ味は、写真に立体感をもたらす

大貝:技術の方も河野さんも共通の認識だと思うのですが、美しいボケというのは、写真に立体感をもたらすのではないでしょうか。実際に河野さんはそのあたりをどのように感じられましたか?

河野英喜 作例3

LUMIX S1R , LUMIX S PRO 50mm F1.4 , F1.4 , 1/500 秒 , ISO100 ©Hideki Kono

河野:そうですね。僕らが感覚的に捉えるのは、まず「光と影」という相反するものです。次にピントが合っているところからボケていくところの差。これらの複合的な組み合わせで立体感を表現していくと僕は考えています。そういう意味で言うと、このレンズのバランスは非常にいいですね。

大貝:いいですよね。

河野:立体感をとても表現しやすいレンズだと思います。

大貝:この写真を見ていただくと、ちゃんと瞳の部分にはピントが合っていて、前ボケ・後ボケ共にキレイですね。本当に奥行きがつくりやすいというか、前ボケ・後ボケとで、三枚レイヤーを使い分けているような感じで楽しめると思いました。河野さんは積極的に前ボケをつくりたくなりませんか?

河野:前ボケがあまりキレイではないと感じるレンズは、前ボケとなる対象物をレンズに近づけて、色を溶かすことでフィルター効果のような使い方をすることが多いんです。でもこのレンズは前ボケが非常に良くキレイにボケるので、奥行きのある大きなボケといえばいいんでしょうか、非常に立体感を表現しやすいと思います。

河野英喜 作例4

LUMIX S1 , LUMIX S PRO 50mm F1.4 , F2.0 , 1/2500 秒 , ISO400 ©Hideki Kono

大貝:河野さんが常々言われているのが、ポートレートには立体感を見せていくことが重要ということで、現場でも立体感を出していくために、場所やレンズを選んでおられるのだと思います。次の写真で印象的だなと思ったのですが、一瞬85mmで撮ったのかな?と思ったんですよ。このボケ感を50mmで表現できるのは驚きです。

河野:50mmと言われなかったら、絶対に中望遠レンズで撮っている、たぶん85mmぐらいだろうと想像されると思います。それぐらいボケの出方が大きいんです。

開放値で積極的に使える、驚きの単焦点レンズ

河野英喜 作例5

LUMIX S1 , LUMIX S PRO 50mm F1.4 , F1.4 , 1/80 秒 , ISO1000 ©Hideki Kono

大貝:フルサイズセンサー用のレンズだとついつい開放から使いたくなるものですが、緩くなったり、解像感がいまいちだなと感じることが多々あるのですが、このレンズは開放から積極的に使える単焦点レンズだと感じています。上の写真は、開放で撮影しているのですがピント面から5cm右目に落ちてくる、スーッとボケていく効果があって、こういう表現をしても破綻してないんですね。すごくいい例だと思いますが、河野さんはピントの設定を含めて、どうやって撮られているのですか?

河野:フォーカスは瞳認識AFを使っています。瞳認識プラス、ドライブはAFC(コンティニュアスAF)に設定しています。固定させてシャッターを切るというより、自分がビデオカメラで撮っているような感覚で、半押ししながらフレーミングを合わせていく。そうするとAFがモデルの瞳をずっと追いかけているように動いてくれて、一番バランスの良いところでシャッターを切るんです。マニュアルにして三脚固定でバッチリ撮っているわけでもないし、キメキメに決めて撮っているわけでもない。本当に僕が思うままに、モデルの動きや角度にシンクロしながらフレームをつくって、その都度その都度シャッターを切っている一枚ですね。

大貝:開放で撮ると周辺がザワついたり、解像感も落ちていくレンズが比較的多いと思うのですが、このレンズは開放で撮っても周辺の解像度がとても良くて、そのあたりが非常にしっかり作られているレンズだと実感します。企画段階でのコンセプトとして、開放値からでもしっかり使えるように組み立てていきたいと思われていたのでしょうか?

渡邊:はい、そうです。LUMIX S PRO 50mm F1.4は唯一単焦点レンズとして最初に発売しましたが、Sシリーズ本体を含めたシステムの基準になるレンズという位置付けで開発を進めてきました。性能として出せるものは全て出し切ることをコンセプトとして開発していますので、当然開放から使えること、撮影距離も最至近から無限遠まできちんと四隅まで解像することを重視したコンセプトでつくられています。

大貝:なるほど。それは設計としてはかなり研究を重ねて、究めた上での性能ですよね。

美藤:マイクロフォーサーズの頃からライカレンズを手掛けていましたが、ライカの思想に「開放からきちんと使えること」とあるので、それに基づいた設計ノウハウを蓄積しています。今回のSシリーズ、LUMIX S PRO 50mm F1.4には「Certified by LEICA」という名前もついていて、当然思想として引き継いでいます。技術的にどう具現化するかというと、LUMIX S PRO 50mm F1.4は、実はフォーカスを合わせるためのレンズ群を2つ持っているんです。普通のレンズは一つのレンズ群で動かすことが一般的なのですが、2つの群を持たせて動きを連動させることで、性能を最大限発揮しています。これにより被写体との距離が無限遠でも、至近でも、開放からきちんとした写真が撮れます。

大貝:それにしてもピント面がとてもシャープですよね!

河野:そうなんです。すごくシャープに写っているんですね。それに対して、ボケが非常に大きい。普通なら、矛盾した要素になると思うんですが、結果は素晴らしい融合を実現していると思います。

美藤:設計する時にピント面の解像を高めることとボケ味をキレイにすることは、相反する要素が含まれています。前ボケと後ボケも相反するもので、基本的にはどちらかしか撮れない原理が存在します。

河野・大貝トークシーン

大貝:相反するものが両方入っちゃったレンズということ?

河野:本当にそこがすごいと思います。この技術のおかげで我々も撮っていて非常に気持ちが良いんです。気持ち良くピントが合う感覚を得られること、そして非常に美しくボケてくれる。この二つの要素を自分の目で確かめながら撮れるというのは、この上なくハッピーなことですよ。

美藤:前ボケと後ボケの話で言うと、設計においては後ボケを重視した傾向を持たせています。ただ、前ボケも決して悪い写真にならないよう、バランスを考えた上で少し後ボケ重視にしています。また、ボケだけでなく解像性能に関しても実はすごい設計をしています。解像性能はMTF指標で表すことがありますが、ベンチマークした10本以上のレンズの中から市場評価の高かった一本を選び、そこからさらにMTFを20%上げた設計をしました。普通5%、10%違えば、写真として違いが当然わかる指標ですが、それに対して20%の差をつけています。

大貝:簡単に言うと、絶対目で見たらわかるっていうことですね。20%って、そういう領域だってことですね。

美藤:そうです。違いはわかると思います。

大貝:そんな根拠があったのですね。河野さんは、50mmという焦点距離は、1本で写真集を一冊撮れるぐらいバリエーションをつくれるレンズだと仰っていましたが、ポートレートは安直に考えると85mm、もしくは100mmや105mmなどのイメージがありますよね?実際、50mmの楽しさって、どういったところにあるのでしょうか?

河野:85mmは望遠の中では圧縮効果、つまり後ろの物を引き付ける効果が少なめで素直にボケてくれるいいレンズですね。でもこのレンズで全ての写真を撮っていると飽きてしまうんです。全部がなんとなくボケちゃって、モデルが画面の中にてんこもりに入ってしまうので、相当引かないとダメだったりするんです。パッと使うには使いやすいけど、写真に飽きがきやすいレンズなんですね。それに対して50mmは、広い絵が欲しいと思ってぐっと引くと、背景もしっかり入りながら、モデルをちゃんと引き立てることができる。一方で、ぐっと寄れば望遠のように背景がちゃんとボケていく。広角寄りでも望遠寄りでもない、すごくバランスの良いレンズだと思います。

大貝:もう一枚、僕も気に入った作品がこちらで、奥行き感を感じさせる一枚ですね。

河野:僕もよくこのレンズを使っているのですが、前ボケが汚くないレンズということが使っていてわかりました。あえて前ボケの要素、手前側に写る要素を多めに入れ込んで、さらに奥へつなげていく構図で撮ったワンカットなのですが、うまくいっていると思います。

大貝:これから出るレンズについても、LUMIX S PRO 50mm F1.4の設計思想や技術的なテクノロジーはどんどん受け継がれていくのですか?

渡邊:そうですね。コンセプトとしては、LUMIX S PRO 50mm F1.4がある意味頂点になるレンズと言えます。ここから、それぞれのレンズ毎に主要被写体を考慮してLUMIX S PRO 50mm F1.4のエッセンスを入れてコンセプトを構築しています。

大貝:2020年までには自社ブランドでレンズ11本の開発を公言されておられますが、このあたりのテクノロジーも随時入っていくので、今後登場するレンズについても我々ユーザーはかなり期待していいのでしょうか?

渡邊:はい。ぜひ期待していただきたいです。今年度は大三元の標準、望遠と小三元の広角ズームの3本の発売を予定しています。当然大三元では、こういったボケの思想は引き継いでコンセプトをつくっています。

河野英喜 作例6

LUMIX S1R , LUMIX S PRO 50mm F1.4 , F1.4 , 1/640 秒 , ISO640 ©Hideki Kono

こんなレンズがあってもいい!?

大貝:技術担当の方のお話にもありましたが、たとえばMTF曲線など、良いところを頑張って目指そうとしますよね。光学的にも良いものを各社が頑張ってつくっていく中で、ある程度の良いクオリティのところで推移して均一化していると感じるんです。正直、最近のレンズはつまらないなあと思う部分もあって…。どれも一緒じゃないか、どこのメーカーのレンズを買えばいいんだろう?と思ってる人は少なくないと思うんです。そういった中で、ちょっと遊び心のある、面白いレンズはないかなと思っていますが、そのあたり、河野さんはいかがですか?

河野:そうですね。今のレンズ、カメラはどれも本当に良く写りますね。ただ、機能が良くなったがために、だんだん味もなくなっていく面もあると思うんです。たとえば、ドラマチックに太陽を画面に入れ込んで、そこから広がってくるフレアを入れて撮ろうと思ったのに、ただ太陽が写っているだけになってしまったり…。

大貝:そうですね。

河野:だから僕は、最新のオールドレンズが欲しいと思っているんですけどね。

大貝:オートフォーカスは効くけどノーコーティングみたいな?(笑)。

河野:多少歪んでも許しますよ、みたいなね。そういうレンズがあっても良いかなと…。二重線ボケボケみたいな(笑)。

大貝:今、マウントアダプターをつけてオールドレンズを使うのが流行っているというのも、そういうニーズの表れでしょうか?

河野:おそらくそうだと思います。与えられたもので撮るだけではなく、何かを変えていきたいという欲求の表れだと思います。だったら、その思いをしっかり表現するレンズをぜひつくっていただきたいと、この場を借りてお願いします(笑)

トークシーン

美藤:開発・設計の時に、想定を超えたアウトプットに期待することがあるんです。LUMIX S PRO 50mm F1.4の話に戻りますが、立体感を持たせたいと設計したところは、想定内の仕上がりとなっています。一方でMTFを20%上げた点は、世の中にはない領域にトライしているわけで、そうなるとどんな写真が撮れるかは設計した時点での想定を超えることにも繋がります。その結果として、僕らが予想もしてないような写真が生まれるのではないかと期待もできるわけです。開発側は、実は少しだけ、そういう楽しみを持ちながら設計をしたりするんです。LUMIX S PRO 50mm F1.4もこのレンズでしか撮れない写真を自由に楽しんでいただきたいと思います。

渡邊:企画の観点から言うと、今回Sシリーズレンズは二つのラインをつくっており、S PROレンズというラインと、Sレンズというラインがあります。LUMIX S PRO 50mm F1.4やLUMIX S PRO 70-200mm F4 O.I.S.は、とにかく性能を追い求めたS PROレンズです。そして、Sレンズは、どちらかと言うと遊び心があるというか、性能より写真を撮る楽しみというエッセンスを入れこんでいるラインとなっています。Sレンズでは、これからの写真が変わるような、新しくて撮る楽しみが感じられるようなレンズを考えていけたらいいなと思っています。

大貝:我々としては、楽しいレンズがたくさん出てくれた方が嬉しいですね。今は、人との差別化がつきにくい時代なので、面白そうだなと思うレンズで面白そうな作品を撮ってみたいですね。昔は、すごい性能のカメラってプロカメラマンでないと買えませんでしたが、今はハイクオリティなカメラが手に入りやすい時代になってきたと思います。価格的に、プロもアマも同じような機材が使えるようになってくると、表現の差も出にくくなってきます。そんな中でも河野さんは、我々と全く違うものを撮る感性があるので、頭が上がりません。そして、マイクロフォーサーズについては、僕もG1が世に出た時に初めて買って、それからいろいろと使ってきましたが、今はG9 PROとLEICA DG レンズの組み合わせをよく使っています。そんな僕からすると、Gの存在は今でもとても大きいです。S1とLUMIX S PRO 50mm F1.4を買った今でも、S1とG9 PROの両方を持ってロケに行ったりします。やはりGの存在は、Sレンズを設計していく上で重要なファクターになっているのでしょうか?

渡邊:そうですね。LUMIXが世界で初めてミラーレスシステムカメラを発売して10年になりますが、その間、ライカカメラ社の厳しい光学基準をクリアしたLEICA DG レンズを出しています。これまでに、例えばマイクロフォーサーズで最長の最大800mm(35mm判換算)を実現したLEICA DG VARIO-ELMAR 100-400mm / F4.0-6.3 ASPH. / POWER O.I.S.や、世界初(マイクロフォーサーズ用AF対応交換レンズとして)F1.2を実現したLEICA DG NOCTICRON 42.5mm / F1.2 ASPH. / POWER O.I.S.など、チャレンジングなレンズを世に送り出しています。その歴史を踏まえた上で、今回フルサイズへと展開しています。

美藤:最初にコンセプトを4つ決めてSシリーズを開発したことをお話ししましたが、ボケ味に関しては、確かにフルサイズに重きをおいており、その取り組みをLUMIX S PRO 50mm F1.4に結実させています。他の解像性能、機動力、動画対応などは、マイクロフォーサーズ時代からやってきた内容ですし、当然マイクロフォーサーズでも続けていきます。この8月にはLEICA DG VARIO-SUMMILUX 10-25mm / F1.7 ASPH.という単焦点5本分を包含したズームレンズを出しました。今後もSシリーズ、Gシリーズ、それぞれの特長が最大限に活かせるよう、持てる技術を全て注ぎ込んでいくつもりです。

大貝:河野さんもG9 PROとLEICA DG NOCTICRON 42.5mm / F1.2 ASPH. / POWER O.I.S.の組み合わせは本当に好きだと仰っていますよね。

河野:気がつけば、いつもこれで撮ってしまうんです。本当に良く出来たレンズでとても使いやすいですね。僕はG9 PROの肌色が好きでG9 PROを使い始めたのですが、S1/S1Rがほぼ同じ思想、方向性を持っていると思うんです。ですから僕の中では同じと捉えています。今は、機動力と深度の深さを生かした絵づくりならG9を使って、そこでボケが欲しければS1/S1Rを使う。カメラをどちらか一つにするというよりは、それぞれ魅力ある機種を目的によって使い分けることが非常に大切なポイントになってくると思います。

大貝:Sシリーズ、Gシリーズどちらもそれぞれの良さがありますよね。皆さんそれぞれの撮影スタイルや好みに合ったシリーズをぜひ選んで自分が満足できる写真を撮ってほしいです。

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